落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

お勧めの落語家:柳亭左龍(2)~ふくよかな古典の名手。人形町での独演会

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2017年11月29日、人形町で開催された「第2回 柳亭左龍 独演会」に行ってきました。

 

会場は、人形町駅から徒歩5分くらいの日本橋社会教育会館のホール。いかめしい名前のホールですが、ここの席は、列ごとに段差が付いているので、とても見やすいのです。客席数は250程度。広さ、見やすさ、音の響きなど、いろいろな面ですばらしい会場です。

 

まんまるな顔と体から繰り出す、多彩な表現

 

柳亭左龍師匠といえば、まんまるな顔と体に、つぶらな瞳。漫画「おぼっちゃまくん」のような風貌ながら、深く響く美声の持ち主。

 

この日の演目は、

・長短

・片棒

・お見立て

 

「長短」は、おそろしく気の長い長七と、とても短気な短七の噺(はなし)。まったく正反対の性格の2人だが、小さい時分から仲がいい。しかしこの二人、会話や動作のテンポがまったく噛み合わない。長七の饅頭の食べ方や煙草の吸い方、すべてが短七には気にくわない。五代目の柳家小さんが得意とした落語です。

 

落語は音楽と同じようにリズムとメロディーが大切です。この落語の面白さと難しさは、長七と短七で異なるリズムとメロディーを奏でなければならないところ。左龍師は、この緩急のリズムの使い分けが実に見事です。長七の「のんびりした口調」には、聞いている私たちもイライラして、突っ込みを入れたくなります。

 

「片棒」は、倹約を重ねて一代を築いたケチ兵衛さんが、3人の息子の誰かに財産を譲ろうと考え、自分の葬式の提案をさせる噺。父親そっくりの人形を作り山車に載せるとか、骨壺を神輿に入れて練り歩くとか、息子たちの提案する葬式は支離滅裂。

 

この噺で改めて感じたのは、左龍師匠の声量の豊かさ。通常は7割程度の声量で話し、「ここぞ」というときには、驚くほど大きな声が出るのです。また、顔芸ともいえる愉快な表情も魅力的です。山車の人形の表情には、場内から大きな笑いが起こっていました。

 

「お見立て」に出てくる吉原の花魁・喜瀬川は、客で田舎者の杢兵衛(もくべえ)大尽が嫌でたまらない。杢兵衛に会いたくないので、若い衆に「病気だから会えない」「入院したので、ここにはいない」など、いい加減なことを言って応対させるのだが……。

 

この杢兵衛のような人物は、左龍師の得意技。大きな目をギョロリとさせ、大声でなまって話すと、本当に無粋な田舎者が現れます。この杢兵衛、ガサツな雰囲気にもかかわらず、妙に頭の回転が速いところが楽しめました。

 

落語の持っている本来の面白さを味わえる

 

第1回の独演会でも感じましたが、左龍師匠の声の高さや大きさのメリハリ、顔芸ともいえる愉快な表情など、その引出しの豊かさには、本当に驚きます。落語の中に現代的なギャグなど入れず、古典落語が本来持っている面白さだけでしっかりと楽しませてくれる、まさに「本寸法」の魅力です。

 

平日の水曜ということもあり、会場は満席とはいきませんでしたが、集まっているお客さんは、「笑いたいために集まっている」というより、古典落語を楽しみたい方が集まっているという温かい雰囲気でした。

 

前回の独演会もそうでしたが、3席とも左龍師匠のお得意な噺が並べられていました。1つだけ希望を言いますと、せっかくの独演会ですから、普段の高座では聴けないような噺、手掛ける人の少ない長編噺なども、ぜひ聴いてみたい気がします。練達の落語家であることは分かっていますので、さらに新たな一面を見てみたいのです!

 

ともあれ、柳亭左龍、お勧めの落語家さんです!

 

 

柳亭 左龍(りゅうてい さりゅう)

2009(平成21)年 第14回林家彦六賞受賞

2010(平成22)年 花形演芸大賞銀賞受賞

2011(平成23)年 花形演芸大賞金賞受賞

2012(平成24)年 花形演芸大賞金賞受賞

 

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新潮文庫 解説目録をチェックする静かな喜び

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。先日、ある書店に入ったところ、「ご自由にお持ちください」と書かれた『新潮文庫【解説目録】』が平積みされていました。黄色い表紙で、680ページ以上ある大冊です。

 

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1冊いただいて持ち帰り、久しぶりに熟読しました。解説目録は、著者別に作品が並べられ、60字程度の内容紹介が書かれています。作品紹介だけで485ページもあるのですが、色々な発見があり、ページをめくる手が止まりません。

 

解説目録を読んでいると、自分が読んでない本や知らない分野が、まだまだたくさんあることに気付かされます。新たに登場している作家が、どのような作品を書いているのか傾向をつかむこともできます。また、以前は読んでいたけれど、追いかけるのをやめてしまった作家が、その後どのような作品群を発表したのかを知ることも可能です。

 

世界には、自分の知らない英知が山ほど眠っている

 

思えば、太助は小学生の頃から読書好きで、新潮文庫の解説目録を読むことが好きでした。新潮文庫の特徴は、古典と現代文学が程よいバランスで収録されていることです。その解説目録は、児童書から大人の本を読むようになった時期のまさに「道しるべ」でした。日本だけでなく世界中には、大作家と呼ばれる人がいて、不朽の名作と呼ばれる作品群があることを、この本で知りました。

 

自分のまだ知らない英知が、世の中にはたくさんあることを知り、とても興奮したことを覚えています。目録をめくっては、次に読む本を決め、丸印をつけていきました。

 

ドストエフスキーカフカディケンズトルストイパスカル亀井勝一郎夏目漱石太宰治……、手当たりしだいに読んでいきました。小学生なので分からないこともたくさんあるのですが、気にせず乱読していました。

 

そして、ほとんどの方がそうだと思いますが、学生から社会人になり、年を重ねていくごとに文学や哲学からは遠ざかっていきます。「時間がないから」「仕事で忙しいから」「お金がないから」「役に立たないから」、いろいろな理由をつけて、人は本を読まなくなります。

 

50歳を過ぎてからは、現役作家の執筆年齢を超えてしまったためか、作者の考え方や描写が幼く思えてしまい、ますます文学からは遠ざかってしまいました。

 

しかし、最近、つくづく思うことがあります。不朽の名作文学や哲学は、中高年世代こそ読むべきなのです。ドストエフスキー夏目漱石が描こうとしたテーマは、大人が長い人生経験を経たうえで、読み、考えるものではないでしょうか。学生時代に読んでも、頭では理解できても、実感としては分からないのです。

 

高齢化社会になり、中高年になってから、また次の長い人生が始まります。これまでの人生をリセットして、次の一歩を踏み出すにあたり、名作文学を開いてみるのも大切なことではないでしょうか。

 

分厚い新潮文庫の解説目録をめくりながら、そんなことをツラツラと考えていました。

 

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そして現代の有難いところは、目録で注目した作家をネットで調べると、すぐに全作品の情報が分かり、Amazonで即日買えることです。しかも、廉価な中古本で買うことも可能です……。

 

今回、読みたい本や、読み忘れていた本がたくさん見つかりました。さっそく、いろいろと購入して読み進めています。目録で見つけた大崎善生(著)「赦す人―団鬼六伝」は、久しぶりに巡り合えた良書でした。また、機会があればお話ししますね!

太助セレクト落語 1月初旬のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。12月下旬から2018年1月上旬の、太助お勧めの落語会をピックアップしました。年明けは、新春興行で落語会が最も活気づく時期です。年の初めを「笑い」で始めようという皆さん、ぜひ落語会に足を運びましょう!

 

年忘れ市馬落語集

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日時:12月27日(水) 開演:18:30

料金:S 6,000円、A 5,000円

出演柳亭市馬桃月庵白酒柳家三三春風亭一之輔、ほか

場所きゅりあん大ホール(大井町

問い合せ:03-6277-7403

⇒第1部:落語競演、第2部:年忘れ昭和歌謡大全集。市馬師匠が昭和歌謡を歌いまくる恒例の年末興行。楽しいですよ~。

 

末広亭恒例年忘れ余一会(昼の部)

扇遊・正朝二人会

日時:12月29日(金) 開演:13:00

料金:3,500円

出演

入船亭扇遊「文七元結」「夢の酒」

春風亭正朝「火焔太鼓」「悋気の虫」

場所末広亭

問い合せ:03-3351-2974

⇒寄席の余一会はお勧めです。いぶし銀の扇遊、正朝師匠。冬にピッタリの噺をじっくり楽しめます。

 

末広亭恒例年忘れ余一会(夜の部)

さん喬・権太楼の会

日時:12月29日(金) 開演:17:00

料金:3,500円

出演

柳家さん喬「掛取万歳」他一席

柳家権太楼「不動坊」他一席

場所末広亭

問い合せ:03-3351-2974

⇒年末恒例の二人会。やっぱり年末には、さん喬師匠の「掛取万歳」を聞かなくちゃ。

 

恒例 トンデモ落語の会

日時:12月30日(土) 開演:18:00

料金:2,500円 予約2,200円

出演快楽亭ブラック立川談之助三遊亭白鳥、瀧川鯉朝、鈴々舎馬るこ

場所:浅草木馬亭

問い合せ:090-8287-8119

⇒「落語っていうのは何でもアリなんだ!」ということを再確認させてくれる恒例のトンデモ落語会。その名の通り、あやしいネタ、あぶないネタ満載の落語会です。

 

特撰落語名人会

日時:1月4日(木) 開演:14:00

料金:4,000円

出演柳家さん喬三遊亭白鳥古今亭菊之丞桃月庵白酒

場所北とぴあホール(王子)

問い合せ:03-6240-1052

⇒新春を飾るにふさわしいメンバーですね。同じメンバーで、5日(金)には江東区文化センターで特撰落語名人会が開催されます。お近くのホールでご覧ください。

 

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

 

立川志らくは、テレビで和服を着るべきなのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。平日、昼の情報番組『ひるおび!』で、立川志らく師匠がコメンテーターを務めています。そのコメントや話し方には、賛否両論、いろいろな意見があるようです。

 

なぜ落語家は、テレビであまり見かけないのか?

 

太助は、「落語家さんは、どんどんテレビに出るべき」と思っています。理由は2つあります。1つは、テレビは最も影響力の強いメディアだからです。テレビに出演する芸能人は、知名度が上がるだけでなく、別格の存在になります。先日、ある漫才ライブで、テレビでよく見かけるコンビが出演していました。そのコンビが登場したとき、集まっている人たちの興奮が、明らかに変わるのが分かりました。テレビに出ている人を直接見られるということは、やはり大きな興奮を誘うのです。

 

また、テレビ局に行ったことがある方は知っていると思いますが、テレビスタジオの照明の光量はすごいものがあります。まさに眩い(まばゆい)ばかりの世界です。あの明るさに対峙して、何かを演じたり、語ったりするためには、並はずれた能力が必要となります。結果、テレビに出演し続けている芸能人は、独自のオーラをまとうようになります。

 

テレビに出ることによって、知名度は全国レベルになり、落語会への集客も格段に増え、1ランク上のオーラを身につけられるのですから、落語家さんは、どんどんテレビに出るべきなのです。

 

しかし現在、娯楽系番組の大半は、ジャニーズと漫才師で占められています。漫才師に需要があるのは、漫才やコントにニーズがあるからではなく、面白いことを言って番組を盛り上げてくれたり、番組をスムーズに進行させてくれるからです。

 

面白いことを話すことが職業の落語家が、漫才師に代われないはずはありません。

 

テレビの空間における着物の違和感

 

しかし、笑点などの「落語枠」以外で、テレビ出演している落語家さんはほとんどいません。これはなぜでしょうか? 昼の番組でコメンテーターを務める志らく師を見たときに、その理由が分かりました。

 

着物なのです。志らく師匠の着ている和服は高価なものだと思いますが、テレビの空間の中では明らかに異質です。残念ながら、地味で、暗く、沈んで見えます。

 

和服は、その名の通り、木や紙で作られた「和」の空間にマッチするものです。障子やふすま、畳、床の間、あるいは座布団など「和」の空間の彩りや佇まいに合うのです。寄席は、まさに木と紙を基調とした空間ですから、落語家が最も調和のとれる場といえます。

 

テレビのセットは、明るすぎるモダンな空間ですから、和服が浮き上がってしまうのは仕方がないのです。

 

ちなみに落語家さんは、日常的に和服で生活しているわけではありません。着物はあくまで舞台衣装です。普段は私たちと同じく、カジュアルな服装で過ごされています。

 

ここで1つ言いたいのは、普段着の落語家さんは、ほとんどの方がおしゃれではありません。太助も人のことは言えないのですが、ハッキリ言って「ダサい」のです。

 

落語会で、落語のあとにトークショーが行われることがあります。高座を終えた落語家さんが私服で出て来たりしますが、これが本当に「センスがない」というか、「うーん」という感じなのです。

 

テレビにレギュラーで登場する春風亭昇太師匠や立川志の輔師匠は、カジュアルな服装も非常におしゃれです。若い漫才師でもレギュラー番組を多く持っている人たちは、やはり「センスが良いな」と感じます。ファッションセンスは、本人が意識的になり、かつ人の目を意識することで、より磨かれるものだからでしょう。

 

落語家が今後、テレビにどんどん進出していくためには、和服を脱ぎ、ファッションセンスを磨いてくことが必要なのではないでしょうか。

 

というわけで、立川志らく師匠には先頭に立って、センスのよいファッションで登場してもらいたいな、と思っているのです。

 

臨機応変トークができ、オシャレ感のある落語家さんが、たくさん現れて、テレビ界でもっともっと暴れてくれることを願っています。

 

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太助セレクト落語 12月のお勧め落語会(3)

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2017年12月下旬の、太助お勧めの落語会をピックアップしました。年末最後のこの時期、大物の公演も目白押しです。チケットを取るのが難しい落語家さんは、お早めに!

 

雲助・白酒 縁づくしの会

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日時:12月12日(火) 開演:19:30

料金:3,500円

出演五街道雲助桃月庵白酒

場所:座 高円寺2

問い合せ:03-5474-1929

⇒師弟とは思えないほど、いまや芸風の異なる二人。年末のこの時期、どんなネタをかけてくれるのか楽しみです。

 

志の輔らくご

日時:12月14日(木)~19日(火)*17日は休演 開演:18:30

料金:6,000円

出演立川志の輔

場所:EXシアター六本木

問い合せ:03-3477-5858

⇒日本で一番チケットが取れない落語家・立川志の輔師匠の年末恒例の落語会です。毎年、いろいろな仕掛けも繰り出す、大掛かりな高座をお楽しみに。チケットは11月18日から発売です!

 

朝日名人会

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日時:12月16 日(土) 開演:14:00

料金:4,300円

出演

春風亭一朝「七段目」

柳亭市馬文七元結

柳家喬太郎「同棲したい」

三遊亭歌武蔵「禁酒番屋

桂宮治「壺算」

場所:朝日ホール(有楽町)

問い合せ:03-3267-9990

⇒年末のオールスターそろい踏み。楽しくて明るい落語がタップリと聞けそうです。市馬師匠の文七元結も聴けますよ。

 

復活円丈 文七元結を聴く会

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日時:12月23日(土) 開演:13:00

料金:3,100円

出演三遊亭円丈柳家小ゑん三遊亭白鳥林家彦いち、三遊亭百栄 ほか

場所国立演芸場

問い合せ:0570-07-9900

⇒新作の闘将・三遊亭円丈師匠の公演。円丈師のDNAを継ぐメンバーが集結!

 

 

らくご長屋「鯉昇爆笑飄々独演会」

日時:12月25日(月) 開演:19:00

料金:2,700円

出演瀧川鯉昇

場所なかの芸能小劇場

問い合せ:03-6304-8545

⇒クリスマスの夜、鯉昇師匠のほんわかした高座を聴くのも、いいんじゃな~い♪ 

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

落語の登場人物:ご隠居は、なぜウンチクを語るのが好きなのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁や幇間。おなじみのメンバーですが、今回は「ご隠居さん」を紹介します。

 

落語におけるご隠居さんは、いろいろなことを知っている「物知り」という役回りです。その名の通り、現役を引退して、のんびりと暮らしています。八っつぁんや熊さんなど長屋の連中は、何か分からないことがあると、ご隠居に聞きにいきます。あるいは暇つぶしにご隠居の家に来て、いろいろなことを教わります。

 

落語にちょくちょく顔を出すご隠居ですが、2通りのタイプがいます。藤子不二雄になぞらえてAとBで説明しましょう。タイプAのご隠居は、本当に知識や人生経験が豊かで、訪ねてきた連中に、きちんとした見聞やアドバイスを与えます。問題なのはタイプBのご隠居で、この人は知識がないのに「知ったかぶり」をするのです。そして苦しまぎれに、滅茶苦茶なことを言い出します。

 

あれこれと質問してくる相手に、無茶苦茶な回答をする落語を、「根問(ねとい)もの」と呼ぶこともあります。ご隠居の「いい加減さ」や「アバウトさ」も、落語の大きな楽しみの1つです。ご隠居の登場する落語をいくつか紹介しましょう。

 

無茶苦茶なこじつけを連発するご隠居たち

 

千早振るちはやふる

 

八五郎の娘が友達と百人一首を楽しんでいて、その中の1枚の意味を尋ねてきた。それは『千早振る 神代(かみよ)もきかず 龍田川(たつたがわ) からくれないに 水くぐるとは』という在原業平の歌であった。さっぱり分からない八五郎は、ご隠居に尋ねに来るのだが、ご隠居も実は全く意味を知らない。龍田川という相撲取りが、千早という花魁に一目惚れをしたという、苦し紛れの解釈を話し始める……。

 

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茶の湯

 

息子に店を譲り、悠々自適の身になったご隠居。根岸に家を見つけ、小僧の定吉と暮らし始めたのだが、暇を持て余している。茶道具一式があったので茶道を始めることにしたのだが、実はこのご隠居、茶道のことはさっぱり分からない。お茶の「緑の粉」がどこで売っているのかも分からず、青黄粉(あおぎなこ)を使ったり、泡立たないので椋(むく)の皮を入れたりと、滅茶苦茶な茶の湯を始める。

 

つる

 

仕事が早く終わった八五郎が、ご隠居のところに来て、鳥の「つる」の名前の由来を尋ねる。由来など知らないご隠居が、オスが「ツ~」と飛んできて松の枝に止まり、その後、メスが「ル~」と飛んできて同じ松の枝に止まったから「つる」となったといい加減な回答をする。それを真に受けた八五郎が、友達にこの知識をひけらかしに行くのだが……。

 

バールのようなもの

 

立川志の輔師匠の創作落語です。新聞記事に『宝石店に泥棒が入った。犯人はシャッターをバールのようなもので、こじ開けて入った』と書かれていた。八五郎がご隠居に「このバールのようなものとは、バールなのか、それ以外のものなのか」と執拗に尋ねる噺。根問ものの傑作です。

 

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このような根問もの以外にも、ご隠居が登場する噺として「短命」「浮世根問」「やかん」「雑俳(ざっぱい)」「道灌(どうかん)」などがあります。

 

人はなぜウンチクを語るのが好きなのか?

 

ウンチクとは、「蓄えた深い学問や知識」をいいます。ご隠居は、自分のウンチクを無学な八五郎に聞かせられることが、とてもうれしいのです。

 

私たちの周りにも必ずいますよね、ウンチクを語ることが大好きな人が。特に男性に多いようです。歴史について、外国について、政治について、ワインについて、町の地形について、サッカー選手について……。語り始めると、熱くなって、止まりません。

 

あれは何なんでしょうか? 「いかに自分が博識か、自慢がしたいのだ」という人もいます。「女性の前でカッコつけたいのだ」という意見もあります。しかし太助は、ちょっと違うと思っています。

 

TBSで「マツコの知らない世界」という番組が放映されています。この番組には、毎日アイスを食べている人や日本中の駅弁を食べている人など、何かにはまっている人たちが登場します。このマニアたちが、「駅弁ベスト3」や「アイスベスト3」などを選んで、マツコ・デラックスに食べてもらったりします。

 

お勧めの品を食べるマツコを見つめるマニアたちの表情が、とても面白いのです。「私が選んだのだから間違いがないはず。しかし、選んだ品が評価されなかったら、どうしよう」という不安と期待が混ざった、実に複雑な表情を浮かべるのです。

 

そしてマツコが「これ本当に、すっごくおいしい!」と言ったときの、マニアたちのうれしそうなこと!

 

ウンチクを語るのは、「自分がこだわっている世界の楽しさ、素晴らしさを、何とか知ってもらいたい」という気持ちの表れでもあると思います(ただし、ほとんどの場合、聞くほうにとっては「ウザイ」だけなのですが)。

 

ご隠居たちのいろいろなウンチクを、ぜひ楽しんでみてください!

 

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お勧めの落語家:立川談修~端正な語り口で聴かせる新時代の名手

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。秋の気配も深まり、冬の寒さも感じられるようになってきた11月6日、人形町で開催された立川談修・独演会「談修インザダーク Vol.5」に足を運びました。

 

端正な語り口から繰り出される、少しダークな噺の数々

 

立川談修師匠は、とても端正な語り口ときれいな所作が特徴です。顔立ちは、育ちのよい若旦那という感じでしょうか。どのような噺を演じても、実に上品に仕上げます。悪ガキの代表である長屋の子供(金坊)や口の悪いおかみさんでも、談修師が演じると、品が良く、とても可愛らしくなってしまうから不思議です。

 

ただし、談修師は「お上品な落語」を志向しているわけではありません。すでに5回目の開催となる、この「談修インザダーク」は、以下のようなコンセプトで開催されています。

 

〝明るく面白いだけが落語の魅力ではない〟をモットーに、

陰惨な内容の噺や地味で演じ手の少ない〝かげりのある噺〟ばかりを選び、

落語の持つディープでダークな部分を楽しんでいただこう、という企画です。

(立川談修ホームページより)

 

 

この日の演目は、

身投げ屋

応挙の幽霊

妲己のお百(だっきのおひゃく)

 

「身投げ屋」は、爆笑王・柳家金語楼が創作した落語。橋から身投げするふりをして、通りかかりの人たちから金を貰う「身投げ屋」を始めた男。うまい具合に儲かったのだが、みすぼらしい父子がやってきて「死んで、お母さんのところへ行こう」などと話し始める。男は同情して、手に入れた金を全部与えてしまう。ところが、この父子も身投げ屋だった、という噺。談修師が演じると、子供が実に可愛らしく、お金を与えたくなる気持ちが伝わってきます。

 

「応挙の幽霊」は、江戸時代の絵師・円山応挙(まるやまおうきょ)が描いたという幽霊画の掛け軸を巡るコメディ。絵の中の美人幽霊が出てきて、道具屋と酒を飲み始め、酔っぱらってしまいます。この幽霊の愛らしいこと!

 

妲己のお百」は、談修師の師匠である立川談志が得意としていた怪談噺。悪女の代名詞のような妲己のお百が主人公。目を患って門付けしている元芸者・峰吉親子を引き取ったお百は、峰吉を目の療治に行かせている間に、娘を吉原に売り飛ばしてしまう。戻って来た峰吉も邪魔になり、自分の旦那の子分に殺させてしまうのだが……。

 

今回公演の目玉というべき、この怪談噺では、途中から照明が落とされ、山場では鳴り物も入り、実に迫力がありました。悪女・お百と、やつれ果てていく峯吉のやり取りが、太助的には一番、ゾッとしました。

 

怪談、幽霊噺、身投げで金儲けする噺と、確かにディープで陰りある落語ばかり。しかし、談修師匠の品の良い語り口だからこそ、必要以上に陰湿にならず、ときに笑い、ときにゾクッとしながら3席を楽しむことができた気がします。

 

柳家三三師匠もそうですが、談修師も過度なギャグや客いじりを入れないので、本当にじっくり落語を聴きたいという方には、ピッタリの落語家さんです。

 

帰り道、昔々、プロの歌手から聞いた言葉を、ふと思い出しました。「トップになる歌手は、歌がうまいだけでなく、歌に粘りけぬめりがある」と、その方は言っていました。井上陽水やB'zの稲葉浩志などがそうですが、確かに歌に納豆のような、糸を引くベトッとした粘りけがあります。

 

そういえば、名人と呼ばれた三遊亭圓生(えんしょう)の怪談には、ベタっ~とした、体にまとわりつくようなものがありました。いやな感じが残るというか……。

 

立川談修師匠や柳家三三師匠など、現代の「上手」な落語家さんには、そのような粘りけやぬめりは、あまり感じません。いまの若い世代は、「納豆の粘りけが嫌い」という人が多いそうですから、「トップの落語家像は変わっていくのかもしれないな」などと考えつつ帰途につきました。

 

今回の公演は、第72回 文化庁芸術祭参加公演。月曜日の夜にもかかわらず会場はかなりの入りで、最後の一席「妲己のお百」が終わった後は、惜しみのない拍手が響いていました。

 

小噺から今回のような少しダークな噺まで、気持ちよく聴かせ、引き込ませる落語家・立川談修師。間違いなくお勧めの落語家さんです!

 

 

立川談修(たてかわ・だんしゅう)

1995年 立川談志に入門

2013年 真打昇進

 

ホームページ

http://tatekawa-dansyu.com/

 

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お勧めの新作落語家ベスト5~志の輔、白鳥、彦いち、喬太郎、昇太

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は、お勧めの新作落語家を紹介します。

 

昔から伝わる噺(はなし)を語り継ぐ古典落語に対して、新作落語は、落語家自身が創作する落語です(創作時期が新しいものを新作と呼ぶ場合もあります。また本人以外が作る場合もあります)。

 

落語家さんは、1)古典落語のみを演じる落語家、2)古典落語新作落語を演じる落語家、3)新作落語のみを演じる落語家、の3タイプに分類することもできます。

 

新作落語はストーリーを創造する才能が必要なため、誰にでもできるものではありません。また、古典落語は、長い歴史の中で多くの落語家に語り継がれ、練り上げられていきますが、新作落語は創作者自身が高座にかけ、一人で完成させていく必要があります。

 

落語というと、江戸時代が舞台の古典落語を想像しがちですが、新作落語でも才能豊かな落語家さんが登場しています。ぜひ、一度、聴いてみてください。その面白さに病みつきになるかもしれませんよ。

 

現代を舞台にした新作落語の楽しさ

 

古典落語は、江戸時代など昔の風習や人物で作られた噺です。これに対して新作落語は、現代を舞台にした噺が大半です。私たちが暮らしいている生活や風俗をもとに作られた噺なので、場所や人物がリアルに映像として浮かびます。

 

また、ストーリーを作る落語家さんの鋭い感性に触れられるのも楽しみの1つです。現代社会のこんなところに着眼し、こんな風に面白く切り取れるんだ」と感心することが多々あります。

 

初めて新作落語を聞く方に、お勧めの落語家さんを紹介します!

 

立川志の輔

 

志の輔師匠は、古典落語新作落語の両方を演じる落語家です。日本で最高の観客動員数を誇る落語家さんだけあって、古典も新作も実に素晴らしいものがあります。新作においては、日常生活の何でもない1シーンを切り取り、ちょっとした感情の揺れ(イラっときた等)や「ずれ」を増幅させ、1つの物語を作り上げていきます。「志の輔ワールド」とも呼ばれる独自の世界を確立しています。

 

三遊亭白鳥

 

白鳥師は、新作落語と古典を改作して演じる落語家さんです。新作落語の鬼才と言ってよいでしょう。その作り出す世界は、時代も主人公も実に多種多彩です。砂漠で江戸っ子の営む食堂に出合ったり、UFOを呼ぶことのできる女教師が出て来たり、動物園の動物たちがパンダの大名跡を争ったりと、奇想天外なSF小説のような世界が繰り広げられます。しかし、単なる荒唐無稽な噺ではなく、周到に伏線が張られた上質なストーリーも数多くあります。創作の「天賦の才」を与えられた落語家さんです。一度、高座で聴いてみてください。

 

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林家彦いち

 

柔道、空手の経験者である彦いち師は、古典落語新作落語を演じる落語家さんです。マクラも新作も格闘系、体育会系の噺が多いのですが、アウトドア愛好家でもあるので、話しのフィールドが非常に広いという印象があります。日常生活での観察眼も鋭く、小さな発見を1つのストーリーにまとめあげられる、優れた力量の持ち主です。

 

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柳家喬太郎

 

古典、新作ともに独自の世界を確立している人気・実力ともにトップクラスの落語家さんです。喬太郎師については、すでに紹介していますので、ぜひこちらをお読みください!

 

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春風亭昇太

 

笑点」の司会者となって、日本中で知らない人はいないほどの知名度を獲得しました。登場するだけで、高座全体がパァ~と明るくなる存在感は、やはり素晴らしいものがあります。昇太師の新作落語は、その風貌と相まって、登場人物がどこか可愛らしいのが特徴です。明るく、大笑いして、元気になれる昇太落語は、子供から大人まで、本当に誰でも楽しめる世界です。

 

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落語業界は、真打が64%のすさまじい逆ピラミッドの世界!!

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語家は、師匠に弟子入りを許されると、前座見習い前座二つ目真打(しんうち)と序列を上げていきます。この真打になるためには、団体によって違いはありますが、12年から15年かかるといわれます。前座での修行を経て、たくさんの噺を覚え、晴れて最高位である真打に到達するのですね。

 

しかし、落語の世界は「定年がなく、真打ばかりが大量にいて、前座が極端に少ない逆ピラミッドの業界だ」とも言われます。

 

今回は、落語業界の階級分布に焦点を当てて、その特異な構造を考えてみたいと思います。

 

なんと真打が64%を占める、すさまじい逆ピラミッドの業界!

 

今回、落語家さんの階級分布を調べてみました。東京の落語家さんの総数を調べてみると総数551名(2017年10月現在)。真打、二つ目、前座の人数を調べると、以下のようになりました。

 

真打   352名

二つ目 120名

前座    79名

 

グラフにすると、こんな感じになります。

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パーセンテージでは

真打   64%

二つ目 22%

前座   14%

となります。

 

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見事な逆ピラミッドができあがりますね。なぜ、このような逆ピラミッドができるかというと、落語家には定年がないからです。廃業しない限り、いつまででも現役の落語家です。桂米丸師匠は大正14年生まれの92歳、いまだに現役です。

 

増え続ける真打に対して、落語業界に入門して前座になる若者は、それほど多くはありません。

 

1年間、ほとんど休みのない、きびしい前座修行

 

前座修行という言葉がありますが、落語業界に入ると、数年は修行の毎日です。

 

落語家になるためには、まず入門したい師匠に弟子入りを願い、許可されると前座見習いとなります。前座見習いの仕事は、師匠のかばん持ち、師匠の家の雑用などです。そして、この期間に前座になるための修業を積むのです。落語の稽古、着物の着方やたたみ方、鳴り物(出囃子の太鼓)の稽古などです。師匠から許可が出て初めて、寄席の楽屋入りができるようになり、前座となります。

 

前座の仕事は、前座見習いの用事に加えて、寄席の仕事が加わります。楽屋の掃除など開演の準備から、寄席が始まると高座返しをしたり、出囃子の太鼓を叩いたりします。また、楽屋では、先輩方にお茶を出したり、師匠方の着替えの手伝い、ネタ帳をつけたりと働きます。プログラムが終了すると、楽屋の後片付け。こうした日々の仕事の合間に、噺の稽古をつけてもらったり、他のお稽古事などをします。

 

前座は毎日寄席に通うので、お休みは余一(大の月の31日)のみ。毎日この繰り返しをして、約4年で二ツ目になるそうです。

 

給料は、寄席の出演料(5,000~1万円程度)と師匠からいただく給金で、けっして高くはありません。高校や大学を出たばかりの遊びたい盛りの年齢で、休みがほとんどなく、給料も高くないわけですから、職業として選ぶ若者は多くはないでしょう。

 

今後、高齢化が進み、ますます真打が増えていくと、本当に前座が足りなくなる可能性があります。三遊亭白鳥師匠が新作落語「老人前座じじ太郎」で話していたように、中高年を使わなければ人手が足りなくなる日が来るかもしれません。

 

太助を含め、落語を演じたいという中高年は多く、リタイア世代は金銭第一ではありませんから、生涯前座として雇うのは良いかもしれません(笑)。使えない、使いづらいは覚悟のうえで、検討してみてはいかがでしょうか?

 

参考記事

 

落語家の階級(落語芸術協会ホームページより)

落語家の階級 - 落語ってなに? - 落語はじめの一歩|落語芸術協会

 

 

三遊亭白鳥「老人前座じじ太郎」

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太助セレクト落語 12月のお勧め落語会(2)

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2017年12月中旬の、太助お勧めの落語会をピックアップしました。年末のこの時期、団体を超えた珍しい組み合わせの落語会も色々と行われます。落語家さんも刺激になるようで、熱の入った高座が見られますよ!

 

鯉昇・喬太郎・桃太郎三人会

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日時:12月6日(水) 開演:18:45

料金:3,600円

出演瀧川鯉昇柳家喬太郎昔昔亭桃太郎

場所日本橋公会堂(水天宮前)

問い合せ:03-3270-4689

⇒まったく噺のタイプが違う3人の落語家さんが共演する落語会。どんな雰囲気の会になるか、今からワクワクです!

 

特撰落語会「さん喬、白鳥、菊之丞三人会」

日時:12月8日(金) 開演:18:30

料金:3,600円

出演柳家さん喬三遊亭白鳥古今亭菊之丞

場所:日暮里サニーホール

問い合せ:03-6240-1052

⇒古典の名手・柳家さん喬新作落語の鬼才・三遊亭白鳥、古今亭の人気頭・古今亭菊之丞師匠の競演。これも珍しい組み合わせ。どんな落語会になるか本当に楽しみです!

 

柳家喬太郎欧州公演・ただいまー会

日時:12月8日(金) 開演:19:10

料金:3,800円

出演柳家喬太郎、春風亭正太郎

場所:成城ホール

問い合せ:03-3482-1313

⇒欧州公演を無事に終えた柳家喬太郎による落語会。スライドを使っての欧州公演報告もあるそうですよ。

 

雲助・一朝・小里ん 師走「雲一里」

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日時:12月11日(月) 開演:19:00

料金:3,500円

出演五街道雲助春風亭一朝柳家小里ん、春風亭一蔵

五街道雲助「芝浜」

春風亭一朝「三井の大黒」

柳家小里ん「言訳座頭」

場所日本橋公会堂(水天宮前)

問い合せ:03-5809-0550

⇒江戸を感じさせてくれるベテラン落語家、雲助・一朝・小里ん師匠。雲助師は「芝浜」を演じます。この季節に聞きたい噺です。

 

師走 宮治本舗「桂宮治独演会」

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日時:12月12日(火) 開演:19:00

料金:2,500円

出演桂宮治

場所国立演芸場半蔵門

問い合せ:03-5216-9235

⇒いま、ノリに乗っている桂宮治さん。国立演芸場で独演会です。とにかく明るくて、元気いっぱい。元気がもらえる落語家さんです。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

柳家喬太郎:新作、古典、マクラの3拍子揃ったオールラウンドプレーヤー

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回のお勧めの落語家は、柳家喬太郎師匠です。私がいまさら紹介するまでもなく、人気・実力ともに落語界の最高ランクに位置する噺家さんです。

 

新しい時代の名人像を感じさせてくれる落語家

 

喬太郎師匠は、新作落語古典落語を高い水準で演じることができ、マクラの面白さも抜群という、まさに3拍子揃ったオールラウンドプレーヤーです。

 

古典落語が過去から引き継がれた演目であるのに対し、新作落語は落語家自身が創作する落語です(作られた時期で古典、新作と区分する場合もあります。新作は、本人以外が作る場合もあります)。古典落語が役者と演出を一人でこなすものとすれば、新作落語は作・演出・役者を兼ねるようなものです。

 

芝居の世界で、役者さんに台本を書けといっても、ほとんどの方はおそらく書けないでしょう。落語の世界でも同様です。こればかりは得手・不得手、持って生まれたものがあると思います。

 

新作落語古典落語を高い水準で演じることができ、マクラの面白さも抜群というマルチプレーヤーは、喬太郎師の他には、立川志の輔師匠が挙げられます。

 

桂文楽古今亭志ん朝など、これまで名人と呼ばれた落語家は、古典落語の演目を磨き上げることで、高い評価を得ていました。野球でいえば、高打率でホームランもたくさん打つスラッガータイプ。どっしりとしていますが、盗塁するような軽やかさはありません。

 

これに比べて、喬太郎師や志の輔師は、攻・走・守が揃ったイチロータイプのプレーヤーという感じです。

 

この2人を観ていると、新しい時代の名人像を感じさせてくれます。

 

優れた短編小説を読んでいるような新作、幅広いバリエーションの古典

 

喬太郎師の新作落語は、現代社会の生活の一部を上手に切り取り、登場人物たちの心理の揺れなどを丁寧に、面白おかしく描きます。特に、今どきの女の子っぽい口調が上手なので、表現する世界に幅があります。

 

サラリーマンのいやらしいオヤジが出てくるかと思えば(夜の慣用句)、男女の少しせつない別離が描かれたり(ハンバーグができるまで)、笑わせまくって最後にホロリとさせる名作(ハワイの雪)など、その世界は多彩です。ウルトラマンのマニアであることも有名で、ウルトラマンネタも人気があります。

 

古典落語も新作と同比率で演じています。ストーリーに手を加えず、じっくりと聞かせる場合もあれば、色々なギャグを入れて改作してしまう場合もあります。後者の例でいえば、「井戸の茶碗」という古典落語に、昭和の歌謡曲をたくさん入れ、歌いながらストーリー展開する「歌う井戸の茶碗」という作品に仕立てたりします。

 

あまり演じられることのない「擬宝珠」のような珍しい噺を手掛けると思えば、「死神」など少し陰気な噺も演じます。

 

また、喬太郎師のマクラの面白さも特筆に値します。普段よく目にしているのに見過ごしている「そばの上に乗っているコロッケ」などを題材に、爆笑のマクラを展開します。聴衆は、喬太郎師が高座に上がったときには、新作が始まるのか、古典を演じるのか分かりません。「どちらを演るのだろう」と推理する楽しみもあります(マクラの途中で、「このマクラだったら古典はないですよね」などと笑わせたりしますが)。

 

新作から古典まで、本当に幅広く演じ、時には歌い(「東京ホテトル音頭」というCDも出しています)、映画の主演もこなす現代の名手。チケットを取るのは大変ですが、一度は、ぜひ生の高座をご覧ください。

 

少し気になるのは、最近、太り過ぎな気がするのと、喉の調子が悪いのか高座で咳が多いこと。ぜひ、お身体にはお気を付けください。あと、……やっぱり弟子は取らないのかなぁ。喬太郎師の芸は一代限りなのかしら。

 

1998(平成10)年 NHK新人演芸大賞落語部門大賞

2001(平成13)年 彩の国落語大賞

2005(平成17)年 平成16年度 国立演芸場花形演芸会大賞

2006(平成18)年 平成17年度 国立演芸場花形演芸会大賞

2006(平成18)年 平成17年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞【大衆芸能部門】

2007(平成19)年 平成18年度 国立演芸場花形演芸会大賞

 

柳家喬太郎 寄席根多独演会 バイオレンスチワワ/反対俥/紙入れ [DVD]

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日本コロムビア

 

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落語を覚えて、記憶力の減退に挑む!(1)『落語家はなぜ噺を忘れないのか』

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語を話してみようと思ったときの、最初の関門は、噺を暗記しなければならないことです。

 

指導いただく師匠からは、「噺を覚えていなければ指導はできません」と言われます。また、うろ覚えでセリフを適当に言うことも厳禁です。まずは一言一句、お手本となる噺の通りに、覚えなければなりません。

 

「落語が話せるなんて、記憶力が良くて、頭がいいんですね」と言われることもあります。確かに、落語を覚えるのは簡単ではありません。太助も新しい噺を覚えるたびに、悪戦苦闘しています。また、年齢と共に記憶力が減退している気もします。

 

しかし、落語を覚えることは大変ですが、一生懸命に暗記して、人前で話すことは、記憶力を鍛えることにもなるのではないでしょうか?

 

という訳で、「落語を覚えて、忘れないようにするにはどうすればいいのか」というテーマについて、何回かに分けて考えてみたいと思います。

 

プロの落語家さんで真打クラスの方は、百席以上の噺を覚えていると言われます。もちろん長年修行して一席ずつ増やしたのでしょうが、噺を覚えたり、忘れないようにするためのコツがあるような気がします。

 

落語家が、噺を忘れない秘訣はあるのか?

 

何か、うまい秘訣はないかと探してみたところ、柳家花緑師匠の『落語家はなぜ噺を忘れないのか』という本を見つけました。

 

柳家花緑師は、五代目・柳家小さんの孫であり、15歳で落語界に入門し、22歳には戦後最年少での真打昇進を果たします。芸歴20年以上で、持ちネタが145本あるそうです。

 

本書で花緑師は、自分の持ちネタを整理して、3つのグループに分けています。

 

①いつでも高座にかけられるネタ:24本

②2~5回さらえば高座にかけられるネタ:72本

③高座にかけたことはあるが作り直す必要があるネタ:49本

 

①の「いつでも高座にかけられるネタ」の選定のポイントは、「自分の中で噺がしっかり固まっていること」だそうです。噺の筋が頭に入っているだけではなく、

 

どのような情景の中で物語が進み、登場人物はどんなキャラクターで、どういう気持ちで台詞をはいているか。それらがお客さんに最も伝わるにはどういった演出がベストか。そこまで構築できてはじめて、「いつでも」高座で披露できると言えるのです。

(中略)この二四本には共通点として、「お客さんにウケた」という実感があります。(p.16)

 

自分で納得できているので高座にかける回数も増え、数をこなすことで磨き上げられるそうです。このグループには、「天狗裁き」「長短」「明烏」「片棒」などを選んでいます。

 

確かに、落語は聞き手だけでなく、演者にも情景が脳裏に浮かんでいるものです。また、演じる際は、「このご隠居、本当に迷惑に思っているんだろうな」など、登場人物の気持ちも考えたりします。

 

また、花緑師が選んだこれらのネタには、場面が映像になって脳裏に浮かぶだけでなく、ネタの中の一行、一語に刻み込んだ情報があると言います。

 

噺の中のひとつひとつの台詞が、太い記憶となって立体的に刻まれているからこそ、噺をしているときに瞬時に思い出されるわけです。

噺を忘れずにいられるのは、そんなところに理由があるのです。(p.43)

 

 落語の暗記は大変ですが、歴史の年表や英単語を暗記するような無味乾燥なものではなく、情景が浮かんだり、登場人物の気持ちを考えながら覚えるので、楽しさがあるのです。文字で覚えるのではなく、映像で覚えるような感覚です。

 

いま稽古している「夢の酒」という噺は15分くらいですが、文字数にして6,200字ありました。400字詰め原稿用紙で15枚半程度。多いといえば、多いでしょう。

 

しかし、情景を思い浮かべ、登場人物の気持ちになったりして覚えると、思いのほか頭にすんなりと入ってくるのです。

 

中高年で記憶力を鍛えたいと思っている方。落語をやってみるのは、お勧めですよ!

 

『落語家はなぜ噺を忘れないのか』

柳家花緑(著)

角川SSC新書

太助セレクト落語:12月のお勧め落語会(1) 柳家三三・春風亭一之輔の二人会など必見!

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2017年12月上旬の、太助お勧めの落語会をピックアップしました。いよいよ年末が近づいてきました。年末は人気の落語家の共演が増える時期です。気になっていたけど、まだ観ていない落語家さんがいたら、この時期は狙い目です!

 

湯島de落語「白酒・文菊ふたり会」

日時:12月4日(月) 開演:18:45

料金:3,300円

出演桃月庵白酒古今亭文菊

場所湯島天神参集殿

問い合せ:090-5785-3369

チケット予約

https://www.aikogiyaman.com/reservation.html

⇒いま上昇気流の白酒、文菊の二人会。新しい古典落語の創造力に期待しています!

 

噺小屋一天四海「龍志・扇遊・鯉昇・正蔵の会」

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日時:12月5日(火) 開演:18:30

料金:3,600円

出演:立川龍志、入船亭扇遊、瀧川鯉昇林家正蔵

場所国立演芸場半蔵門

問い合せ:03-6909-4101

⇒抜群の安定感ある立川龍志、入船亭扇遊、瀧川鯉昇師匠。前回の公演もこのメンバーで、バランスが良く、力を抜いて楽しめました!

 

文蔵・白鳥 文七元結ではない文七元結の会

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日時:12月5日(火) 開演:19:30

料金:3,000円

出演橘家文蔵三遊亭白鳥

場所座・高円寺2

問い合せ:19:30

⇒落語の名作といわれる「文七元結(ぶんしちもっとい)」。新作落語の鬼才・白鳥と文蔵師が、まったく別の文七元結ワールドを作り上げます。

 

極「柳家三三春風亭一之輔二人会」

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日時:12月6日(水) 開演:18:30

料金:3,900円

出演柳家三三春風亭一之輔 ほか

場所:よみうりホール(有楽町)

問い合せ:03-5785-0380

⇒人気・実力ともに落語会のトップを走る柳家三三春風亭一之輔の二人会。落語初心者の方は、この二人を観ておけば間違いありません。

 

立川生志落語会「ひとりブタじゃん」

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日時:12月6日(水) 開演:19:00

料金:3,100円

出演:立川生志

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

⇒真打昇進まで20年かかったという苦労人・立川生志師匠。しかし、苦労した分、その芸は磨かれていて確かです。まくらも楽しい生志ワールドに触れてみてください。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

立川談志:素人が近づくこともできない高き独立峰

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。立川談志追悼興行の情報を調べていたら、恐れ多くも、談志について書きたくなりました。

 

これまで、立川談志ほど、さまざまに評論された落語家はいないでしょう。評論家やお弟子さんによる書籍は、数多く刊行されています。談志自身も、落語論を何冊も書き上げています。

 

また、賛否や好き嫌いが、これほど分かれる落語家も珍しいと思います。「天才」と呼ばれながらも「傲慢」と評され、落語をこよなく愛しながらも「異端」「非常識」と言われました。

 

今回、太助は、「アマチュア落語家が立川談志を、お手本にまねができるか」という観点から考えてみたいと思います。

 

私たちは、落語の稽古をするとき、プロの落語家さんの音源を探してきて、それをまねして噺を覚えます。口調も最初は、できる限り似せるように指導されます。こうすることで、プロの持っているリズムの勉強になるからです。

 

落語を勉強するお手本として人気があるのは、何と言っても名人・古今亭志ん朝です。テンポが良くて、聞きやすく、明るく、楽しい。まさに落語の教科書、お手本としてはピッタリ。「あんな調子で、一度でいいから話せたらなあ」と誰もが憧れます(実際にやってみると、まったくできないのですが)。

 

しかし、同じ名人でも立川談志の名を挙げる人はいません。なぜでしょう? 

 

それは、素人には、ちょっと真似ができないからなのです。

 

談志のテンポやリズムにある「心地よくない」部分

 

素人に真似ができない理由として、以下のようなことが考えられます。

 

マクラやギャグに談志個人をネタにしたものが多い

談志は、自分にしかできない独自の落語を追及していく過程で、マクラやギャグに談志個人の体験、考え方を大量に入れるようになります。噺の途中で、自分の落語論を語り始めることさえあります。

 

落語のストーリーや落ち、人物像を独自に変えてしまっている

落語のストーリーや落ちが、現代では分かりづらい部分は変えてしまいます。また、登場人物の言動も独自の解釈で、大胆に変えてしまうことがあります。

 

同じ噺でも、談志の年齢によって演じ方が異なる

談志が演じた年代によって、同じ噺でも、内容から話し方まで、大きく異なる場合があります。年齢を重ねたり、演じ続ける過程で、解釈や考え方が変わるのでしょう。以前の自分の型を壊して、全く違うものを作っていきます。

 

噺のリズムが、きわめて個性的

柳家小三治師匠が、談志を天才と認めつつも「(二つ目の)小ゑんの頃が良かった」と語っています。30代前半までの談志はテンポが良くて、聞きやすい、いわゆる古典落語の名手でした。しかし談志は、その後、いわゆる「聞きやすさ」を放棄します。スタンダードなジャズから、フリージャズに移行したような感じでしょうか。

 

後年の談志のテンポやリズムには、ある意味、「心地よくない」部分が存在します。噺の途中で、突然、リズムを切って「自分語り」や「落語論」を始めるなどもそうです。気持ちよく聞いているリズムを、意図的に変えたりもします。

 

演劇には「異化効果」という手法があります。演劇の空間に、意図的に違和感のあるものを差し込み、異なる強い印象を与える手法です。日本では蜷川幸雄が、この異化効果をよく用いていました。時代劇のような衣装やセットで作られている空間に、渋谷の繁華街の光景をサッと入れたりします。

 

写真の世界でもそうです。美しい写真を撮ることのできるアマチュアは大勢います。しかし、美しいだけの写真というのは、さほど印象に残らないものです。プロのカメラマンは、美しい風景に、あえて汚れたものを入れ込んだりします。整然とした高層ビル群の光景に、あえて踏みつぶされたビール缶を混ぜ込んだりするのです。

 

談志の噺で「心地よくない」部分に出合うと、この異化効果を思い出します。

 

創り、壊し、再構築し、また壊す

 

落語家さんは、師匠に噺を学び、その型を踏襲し、自分のスタイルを作り上げ、作り上げたスタイルを長年かけて磨き上げていきます。

 

しかし、談志は、このようなかたちでの進化を拒否しました。例えば、得意な噺も、師匠である柳家小さんと「内容が同じ」であることに嫌気がさして演じなくなったものもあるそうです。

 

立川談志という人は、自分の落語のスタイルを創りあげ、それを壊して再構築し、また壊す、という苦闘を続けた落語家です。結果として、誰にも真似のできない『立川談志』を創りあげたのでしょう。

 

その姿勢は、ピカソにも通じるものがあると太助は思います。ピカソも、昨日の自分を今日には否定するかのように、自分のスタイルを変革し続けました。

 

だから、素人がまねをしようとしても、到底、無理なのです。それは、素人が足を踏み入れることもできない高い、高い独立峰なのですから。

 

ぜひ一度、立川談志をしっかりと聞いてみてください。

 

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落語で、男が「いい女」を演じることの難しさ

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こんにちは、太助です。いま太助は「夢の酒」という落語の稽古に励んでいます。

 

「夢の酒」は、うたた寝をしている若旦那を、妻のお花が起こすシーンから始まります。

 

「もう少しだったのに」と、起こされて機嫌が悪い若旦那。その理由を尋ねると、夢を見ていたのだという。夢の中で若旦那は、突然の雨に降られて、軒の深く出ている家で雨宿りをしている。すると、その家の女中さんが若旦那を知っていて、奥さんに声をかける。「あなたがいつも噂をしている、大黒屋の若旦那がいらっしゃいましたよ~」。出てきたのは、飛び切りの美人。嬉しそうに夢の話しをする若旦那と対照的に、妻のお花は、どんどん不機嫌になっていく……。

 

落語の世界で、「いい女」を追いかける男たちの情熱と行動力は、本当にすごいものがあります。想像や夢の中で、いい女に出会う噺としては、この「夢の酒」や「湯屋番」などがあります。

 

果たして、おじさんが「いい女」を演じられるのか?

 

さて問題は、この「いい女」を太助が演じなければならない、ということです。夢の酒で、この奥さんは、年の頃は25~26歳、中肉中背、色白で、目元に愛嬌のある美人と描かれます。こんな若旦那のセリフも出てきます。「ああいうのが、本当の美人っていうんだろうね」。……本当の美人ですよ。この夢の女以外にも、妻のお花、女中さんと3人も女性が登場します。

 

このような落語を演ずるのは、上品で清潔感があり、ほっそりしていて、少し色気のある「いい男」が最適でしょう。所作(しょさ:振る舞いやしぐさ)も、女性のように繊細な振る舞いができる落語家さん。加えて、声も高音が出せないと、女性3人の演じ分けが難しい噺です。

 

現役の落語家さんでは、柳家三三入船亭扇辰立川談修古今亭菊之丞、(やせていた頃の)春風亭小朝師匠などがピッタリきます。私の好きな入船亭扇遊師匠も手掛けています。

 

意識的に動作するからこそ、美しい所作が生まれる

 

男が女性を演じる芸能は、落語以外にも歌舞伎や大衆演劇などがあります。テレビでおなじみの梅沢富美男さんは、女役をとても魅力的に演じることで有名です。

 

男性が女性を演じるメリットの1つは、「意識的に動作しなければならない」ことでしょう。女性が無意識にしている動作や話し方を、観察し、細かく真似る必要があります。意識的に動作するからこそ、上手な方は、指先や背筋にまで神経が行き届き、美しい所作が生まれるのだと思います。

 

では、女性の落語家さんが、この噺をやれば良いかというと、そうでもありません。女性では逆に、色っぽさが生々しくなってしまうのです。

 

品のある男性が醸し出す(かもしだす)色気が、自然に感じられる程度がちょうど良いと思います。この色気が変に強調されると、「下品なオネエ」のようになってしまいますし、実に難しいところです。

 

では「なぜ、太っていて、色気もないお前が、この噺をやるのか?」と突っ込まれそうです。「夢の酒」の後半には、若旦那の父親が登場します。この親父さん、三度の食事よりも酒が好きという呑兵衛。お酒大好きの太助は、この親父さんがつぶやく「落ち」を、ぜひ一度、演じてみたいのです。「いい女」の部分は勘弁してやってください……。

 

こちらは「夢の酒」を練り上げて、完成させた名人、八代目・桂文楽の高座です。晩年の高座ですが、妻のお花の可愛らしいこと。本物をお楽しみください。

 

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