落語を覚えて、記憶力の減退に挑む!(1)『落語家はなぜ噺を忘れないのか』
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語を話してみようと思ったときの、最初の関門は、噺を暗記しなければならないことです。
指導いただく師匠からは、「噺を覚えていなければ指導はできません」と言われます。また、うろ覚えでセリフを適当に言うことも厳禁です。まずは一言一句、お手本となる噺の通りに、覚えなければなりません。
「落語が話せるなんて、記憶力が良くて、頭がいいんですね」と言われることもあります。確かに、落語を覚えるのは簡単ではありません。太助も新しい噺を覚えるたびに、悪戦苦闘しています。また、年齢と共に記憶力が減退している気もします。
しかし、落語を覚えることは大変ですが、一生懸命に暗記して、人前で話すことは、記憶力を鍛えることにもなるのではないでしょうか?
という訳で、「落語を覚えて、忘れないようにするにはどうすればいいのか」というテーマについて、何回かに分けて考えてみたいと思います。
プロの落語家さんで真打クラスの方は、百席以上の噺を覚えていると言われます。もちろん長年修行して一席ずつ増やしたのでしょうが、噺を覚えたり、忘れないようにするためのコツがあるような気がします。
落語家が、噺を忘れない秘訣はあるのか?
何か、うまい秘訣はないかと探してみたところ、柳家花緑師匠の『落語家はなぜ噺を忘れないのか』という本を見つけました。
柳家花緑師は、五代目・柳家小さんの孫であり、15歳で落語界に入門し、22歳には戦後最年少での真打昇進を果たします。芸歴20年以上で、持ちネタが145本あるそうです。
本書で花緑師は、自分の持ちネタを整理して、3つのグループに分けています。
①いつでも高座にかけられるネタ:24本
②2~5回さらえば高座にかけられるネタ:72本
③高座にかけたことはあるが作り直す必要があるネタ:49本
①の「いつでも高座にかけられるネタ」の選定のポイントは、「自分の中で噺がしっかり固まっていること」だそうです。噺の筋が頭に入っているだけではなく、
どのような情景の中で物語が進み、登場人物はどんなキャラクターで、どういう気持ちで台詞をはいているか。それらがお客さんに最も伝わるにはどういった演出がベストか。そこまで構築できてはじめて、「いつでも」高座で披露できると言えるのです。
(中略)この二四本には共通点として、「お客さんにウケた」という実感があります。(p.16)
自分で納得できているので高座にかける回数も増え、数をこなすことで磨き上げられるそうです。このグループには、「天狗裁き」「長短」「明烏」「片棒」などを選んでいます。
確かに、落語は聞き手だけでなく、演者にも情景が脳裏に浮かんでいるものです。また、演じる際は、「このご隠居、本当に迷惑に思っているんだろうな」など、登場人物の気持ちも考えたりします。
また、花緑師が選んだこれらのネタには、場面が映像になって脳裏に浮かぶだけでなく、ネタの中の一行、一語に刻み込んだ情報があると言います。
噺の中のひとつひとつの台詞が、太い記憶となって立体的に刻まれているからこそ、噺をしているときに瞬時に思い出されるわけです。
噺を忘れずにいられるのは、そんなところに理由があるのです。(p.43)
落語の暗記は大変ですが、歴史の年表や英単語を暗記するような無味乾燥なものではなく、情景が浮かんだり、登場人物の気持ちを考えながら覚えるので、楽しさがあるのです。文字で覚えるのではなく、映像で覚えるような感覚です。
いま稽古している「夢の酒」という噺は15分くらいですが、文字数にして6,200字ありました。400字詰め原稿用紙で15枚半程度。多いといえば、多いでしょう。
しかし、情景を思い浮かべ、登場人物の気持ちになったりして覚えると、思いのほか頭にすんなりと入ってくるのです。
中高年で記憶力を鍛えたいと思っている方。落語をやってみるのは、お勧めですよ!
『落語家はなぜ噺を忘れないのか』
柳家花緑(著)