落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

三遊亭円楽『流されて円楽に 流れつくか圓生に』

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こんにちはアマチュア落語家の太助です。今回は六代目・三遊亭円楽の自伝『流されて円楽に 流れつくか圓生に』を読む機会があったので、ご紹介します。六代目・円楽といえばテレビ番組「笑点」のレギュラー出演者として、全国的な知名度があります。画面に向かって右から二人目、紫の着物の落語家といえば、お分かりの方も多いはず。笑点では「腹黒い落語家」というポジションで、時おり回答に政治への批判など入れたりもします。本書は、六代目・円楽の口述形式の自伝です。

 

望んで入門したわけではない落語家への道

 

ご存知かもしれませんが、六代目・円楽は青山学院大学落研(おちけん:落語研究会)の出身です。このため、いいとこのお坊ちゃん育ちというイメージがあるのですが、幼少時代は極貧の生活を送っていたそうです。トタン屋根の長屋暮らし。遠足の費用も出してもらえないような生活の中でも、知恵を働かせながら、たくましく生き抜いていきます。

 

大学進学後は、学費を稼ぐためにさまざまなアルバイトを掛け持ちします。その中の1つがテレビの人気者、5代目・三遊亭圓楽のカバン持ちでした。ある日、タクシーに同乗していると、圓楽から落語家として弟子入りを勧められます。

 

「……(五代目の口調)どうだい? 落語やってみねぇかい? めんどくせいから、弟子になっちまぇよ」

と云うことはスカウトでしょ? だから一門五十何人居る中で、スタートは私だけが違うんですよ。

 

 

しかし、声をかけられてから正式に弟子入りが認められるまでには紆余曲折があります。というのも当時、落語協会の会長を務めていたのは、5代目圓楽の師匠である三遊亭圓生古典落語の名人・圓生は落語家の質の低下を憂い、弟子入りと真打昇進に厳しい制限をかけたのです。

 

その後、会長が圓生から柳家小さんに変わり、協会の方針が変更されたことで、ようやく弟子入りが認められ、楽太郎という高座名で落語界入りを果たします。しかし、前座から二つ目に昇進した二年後に新たな事件が起こります。それが落語協会分裂騒動です。

 

圓生体制下で真打昇進をほとんど認めなかったため、落語協会では二つ目の落語家が大量に増えるという状態になっていました。寄席の減少や落語人気の低迷もあり、協会は二つ目の増加に対応できなくなり、小さん体制になってから大量真打制度を導入します。これは、一度に10人程度の真打を承認してしまおうというものです。真打を落語家の最高位と考える圓生は、真打の大量生産に真っ向から反対し、新協会の設立を目論みます。

 

しかし、このクーデターは寄席の席亭の反対であえなく失敗し、三遊亭圓生の一門のみ落語協会を脱退することになります。(このいきさつは、三遊亭円丈(著)『師匠、御乱心!』に詳しいので、興味がある方はそちらをご一読ください)。

 

転がり込んできた笑点レギュラーと円楽の看板

 

落語家の常設の仕事場である寄席に出られなくなったことで、三遊亭圓生一門は地方の公民館やホールに活動の場を求め、全国を落語巡業します。

 

こうして地方のどさ回りが続く中、楽太郎に思わぬチャンスが転がり込んできます。「笑点」のレギュラー回答者であった5代目・圓楽が、出演を無断ですっぽかしてしまうのです。付き人として居合わせた楽太郎が急きょ出演することになり、これをきっかけに5代目・圓楽の代わりに笑点のレギュラーの座を手に入れるのです。

 

名人・圓生の没後、何人かの弟子達は落語協会に戻りますが、5代目・圓楽は協会に戻らず、新団体を設立し(現在の円楽一門会)地方巡業を続けると共に、自力で寄席「若竹」も開業します。こうした中、楽太郎は昭和56年には真打昇進を果たします。また5代目・圓楽より「圓楽の名を継がせる」と早くから明言されていて、平成22年には6代目円楽を襲名します。この襲名に関しては乗り気でなかったようで、5代目圓楽の没後に行われました。

 

タイトルの「流されて円楽に」はここから来ています。自分で望んだわけではなく、円楽の看板が転がり込んできたのです。落語家の弟子入り、笑点のレギュラー、円楽の看板と、自分が望んだわけではないのに手に入れていくのですから、非常に運の強い方なのでしょう。

 

落語家よりもビジネスマンに向いているのでは?

 

本書ははっきり言って、6代目・円楽の自慢話のオンパレードです。師匠である圓楽はもとより、偉大なる先輩落語家、桂歌丸立川談志師匠に自分がいかに可愛いがられたかが延々と語られます。このように可愛がられたのも、小さい頃からの貧乏暮らしで培った「上への取り入り方」を身に付けていたからだそうです。

 

本書を読んでいて、「この人は落語家ではなくサラリーマンになったほうが良かったのでは」という感想を何回も抱きました。年長者・実力者への取り入り方の上手さ、プロジェクトを遂行する能力(「博多・天神落語まつり」のようなイベント実行力)、会話のうまさと自分を売り込む才能。スマートな風貌も相まって、落語家より会社のマネジメント職に向いている気がします。社内不倫をしても、笑いを交えてうまくごまかせるでしょうし(笑)。

 

ただし上記のような才能は、落語の世界とは正反対のものです。年長者への取り入り方がうまく、プロジェクトをビシビシとこなすような登場人物は、落語の世界には一人もいません。その真逆のドジな人間たちばかりです。才能のあることは悪いことではありませんが、それを鼻にかけるようになると人間性として、落語に滲み出してくるようになってしまいます。この人の落語が今ひとつ評価が高くないのは、このようなところに要因があるのかもしれません。

 

三遊亭圓生の看板への執着

 

近年、6代目・円楽は、三遊亭圓生の名を継ぎたいと公言するようになりました。現在、圓生名跡は「止め名(誰にも継がせない名跡)」の状態になっており、使われることのない大名跡になっています。この圓生名跡の継承に関しては、過去に5代目・圓楽が自分の弟子・鳳楽に継がせようとしてひと騒動が起きています。本書のタイトルは「~流れつくか圓生に」です。6代目・円楽はなぜこの大名跡を熱望しているのでしょう?

 

本書でも紹介されている優れた後続の落語家たち、志の輔喬太郎、三三などは、今さら大名跡を欲しがるでしょうか。落語家としてすでに芸風を確立し、落語で多数のファンを抱えている彼らには、いまさら名前を変える必要もメリットもないでしょう。昨今、大名跡を継ぎたがったり、協会での地位を欲しがる落語家は、芸風を確立できていない方が多いように思います。

 

本書で語られている5代目圓楽の晩年は、感慨深いものがあります。

 

(前略)これは、俺も(6代目・円楽)同じで、若くしてテレビ・ラジオで売れっ子になった噺家全員が感じる疑問だった。

(俺は、テレビ番組(こんなこと)ばかりやっていて、落語を修行しなくていいのだろうか)

 このことに早めに気がついた立川談志師匠や、柳家小三治師匠は、落語家の本分を取り戻すかのように活動の主軸を高座に移し、芸を磨きあげて齢を重ねて行った。勿論、本人の才能や環境の違いもあるが、高座に専念した落語家人生を送った方が、落語家としての世間の評価が高まるのは当たり前で、何よりも芸に対する本人の充実感が全く違ったものになる。高座に専念することが若いときから許されていたなら、落語家の人生に迷いが無い。その点で、ウチの師匠の落語家としての最晩年は、迷いに迷っていた。

 

 

6代目・円楽は最近、2つの大病を患いました。この経験が、晩節を考えることにつながったのでしょう。自分は何を伝え、残すべきかを。

 

本書はこんな言葉で締めくくられます。

 

俺の最期にそれこそ、「もうダメだ」ってときに、圓生を継いじゃおうかな……。“三月(みつき)の圓生”と呼ばれてもいいかもね。(中略)俺のこの身体で皆さんが認めてくれたら、そして俺が古稀過ぎてまでまだ出来そうだったらば、もう一度圓生を世に出すために一役買いたいというのも、噺家として、三遊亭一門の一人としての夢だと言ってサゲようか?

 

私は、落語家が残すべきは名前ではなく、高座姿だと思います。6代目・円楽は大名跡を獲得するために、残された時間と力を使うのではなく、最後にどのような高座を演じるかに残り全ての時間を費やすべきではないでしょうか。そんな思いが去来しました。

 

落語家の晩節について考えさせられる興味深い一冊でした。

 

『流されて円楽に 流れつくか圓生に』

六代目三遊亭円楽(著)

竹書房

 

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太助セレクト落語 2019年11月、12月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。そろそろ年末が近づいてきました。流派を超えた落語界もいろいろ開催されるのがこの季節。ぜひ視野を広げて、さまざまな落語家と出合ってください!

 

にぎわい座 名作落語の夕べ「唄う噺特集」

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日時:11月2日(土)

開演:18:00

料金:3,100円

出演

春風亭一花「千早ふる」

桂夏丸「小言幸兵衛」

春風亭一朝「植木のお化け」

入船亭扇辰「紫檀楼古木」

立川龍志「片棒」

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

http://nigiwaiza.yafjp.org/

⇒一朝、扇辰、龍志、古典落語の練達が繰り広げる落語界。春風亭一朝の演目は、はめずらしい「植木のお化け」。枯れてしまった植木がお化けとなって色々な歌をうたうという噺です。

 

 

ベイサイド・ポケット寄席「よこすか特撰会」

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日時:11月4日(月・祝)

開演:14:00

料金:3,600円 他

出演柳亭市馬桂宮治春風亭柳橋、立川吉笑、立花家橋之助(浮世節)

場所:ヨコスカ・ベイサイド・ポケット

問い合せ:046-823-9999

⇒流派を超えての顔ぶれが楽しいベイサイド・ポケット寄席。桂宮治、立川吉笑など笑いのとれる若手とベテランのぶつかり合いが期待大です。

 

桂宮治独演会 半蔵門・春夏秋冬シリーズⅠ「秋」

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日時:11月12日(火)

開演:19:00

料金:2,600円

出演桂宮治

場所国立演芸場半蔵門

問い合せ:03-3243-8343

⇒真打昇進が近い落語芸術協会桂宮治さん。パワフルな爆笑落語だけでなく、最近は人情噺などにも手を広げています。

 

立川談志追善特別公演 談志まつり2019

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日時:11月21日(木)2回公演

開演:1回目 12:00、2回目 17:00

料金:4,500円

出演

1回目 立川小談志立川談笑立川キウイ立川志の輔立川談之助米粒写経立川龍志

2回目 立川平林、立川談慶立川雲水立川談春、立川生志、米粒写経土橋亭里う馬

場所:有楽町よみうりホール

問い合せ:03-5785-0380

⇒恒例の立川談志・追善興行。11月20日(水)にも開催されます。開演は17:00。出演は立川談吉立川談修立川志遊立川志らく立川ぜん馬テツandトモ立川談四楼

 

立川獅子丸真打昇進披露落語会

日時:12月1日(日)

開演:14:00

料金:3,000円

出演立川志らく、立川志獅丸、立川志ら乃立川こしら、立川志ら玉、立川らく次立川志らべ

場所:くにたち市民芸術小ホール

問い合せ:042-574-1515

立川流では抜群の明るさを備えた獅子丸の昇進披露落語界。昇進直前に師匠・志らくの不興を買って(志らく主催の劇団の手伝いをしなかった)前座に落され、そのまま昇進したという落語界初の前座から真打昇進を果たしました(笑)。その明るい芸風はまさに本物です。ごひいきに!

柳家さん喬、柳家喬太郎が語る「師弟」とは

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は書籍『なぜ柳家さん喬柳家喬太郎の師匠なのか?』を紹介します。

 

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師匠は弟子にとって唯一無二の存在

 

落語業界は、師弟制度の残る極めて特殊な世界です。落語界に入るためには、必ず落語家に弟子入りしなければなりません。弟子入りが認められなければ、落語家になることはできないのです。また、師匠の意向にそぐわないことをしたり、失敗をして師匠から破門されると、弟子は落語界から即座に追放処分となります。

 

弟子入りすると、師匠のお手伝いや寄席の下働きなどをしながら、師匠から落語を教わっていきます。以前は内弟子といって師匠の家に住み込んで修行する形態もありましたが、住宅事情の変化などに伴い、現在では内弟子を置く落語家はほとんどいません。

 

落語は基本的に、師匠の噺(はなし)を聞いて覚えます。どのような落語を、どういう順番で習得すべきかなど弟子の育成方法は師匠にゆだねられています。例えば三遊亭歌之介(現・四代目圓歌)は、新作落語を志向したのですが、師匠が認めなかったため独自の漫談落語を開拓していきました。弟子が師匠の許可を得ずにCDで落語を覚え、高座にかけることなどご法度です。覚えたい落語を師匠が持っていない場合は、師匠を通して他の落語家に教えを請います。

 

師匠は弟子の生殺与奪の権利を持っているといわれるのは、このような事情からです。しかし、弟子をとることでの師匠側のメリットは、まったくと言っていいほどありません。相撲界では弟子をとると給金が支給されますが、落語界では弟子に対する補助はありません。弟子がどれだけ人気者になっても、師匠に金銭的な返礼をすることもありません。つまり師匠は無償で噺を教え、ときに小遣いもやり、弟子を育てているのです。それも全て、「師から弟子へ」というかたちで落語を継承していくという使命感ゆえなのです。

 

このような特殊な師弟制度が現存する落語の世界において、人気落語家である柳家さん喬喬太郎師弟が、「師について」「弟子について」を語り下ろしたのが本書です。

 

20年に1人の天才を弟子として抱えること

 

柳家さん喬は、人間国宝である五代目・柳家小さんに入門。古典落語の名手として知られ、2017年には紫綬褒章も受章しています。端正で本寸法な落語は評価が高く、人情噺や女性の登場する噺を語らせたら右に出る者はいないとまで言われています。

 

さん喬の一番弟子にあたる柳家喬太郎は、いまや落語界のトップランナーといってよいほどの人気者です。新作落語古典落語を縦横に演じ高い評価を受けているだけでなく、ドラマやテレビのコマーシャルへの出演も多く、全国区の知名度を誇ります。

 

本書は4章で構成されています。第1章ではさん喬×喬太郎の対談で、喬太郎が弟子入りするまでと、師匠になったさん喬の戸惑いなどが語られます。第2章では、さん喬が師匠の小さんについて語り、第3章では喬太郎が師匠について語り、第4章ではさん喬×喬太郎で「芸を継ぐ」というテーマについて話しています。

 

中でも特筆すべきは第1章で、さん喬が「師匠としての葛藤」を赤裸々に語っていることです。学生落語でいくつもの賞を獲り、「20年に一人の逸材」といわれる喬太郎を弟子に持つことの戸惑いや不安、その才能に対する嫉妬さえも、さん喬は包み隠さずに述べています。

 

さん喬 俺がもし彼をつぶしてしまったら、落語の歴史に残る逸材を、俺が殺したことになるのかと思う。一方で、同じ噺家として情けない思いも抱えていた。極端なことを言ったら嫉妬です。こいつを生かして、なんで俺が死んでいかなきゃいけないんだって、そういう嫉妬はありますよね。だけどこいつをつぶしたら、俺はこの落語界からはじかれてしまうような人間になるんだなと思う。

(中略)

 葛藤しましたよ、一時期は。こいつが一角(ひとかど)になって、誰からも「さん喬師匠の総領弟子の喬太郎はいいですね」と言われるたびに、総領弟子の喬太郎はいいんだ、俺がいいわけじゃないんだって、そういうひがみ根性を抱いたりもします。(p.52)

 

 

年齢も15歳しか違わない喬太郎に対して、柳家さん喬はどのように育てていくか悩み続けます。しかし、喬太郎の噺を聴いて「ここは嫌いだな」という部分があっても、師匠として簡単に指摘はできません。師匠がやめろと言えば、弟子は二度とやれなくなるからです。

 

芸を継承するということ

 

芸に対しては安易に指図をしないさん喬ですが、弟子の危機に際しては気を付けています。喬太郎は考え込む性格なので、ごひいきから「さん喬の弟子なのに、どうして古典落語をやらないのか」といわれ落ち込んでしまうことがあったそうです。その際は、ごひいきに引きずられないように、と忠告をしました。それは自身の苦い経験を踏まえての諫言なのです。

 

「ニーズに応えすぎると自分のやりたいものができなくなる」とさん喬は語ります。「さん喬は人情噺がいい」「女を表現させたら一番だろう」というニーズに応えすぎたがために、自分の好きな落とし噺ができなくなってしまったという体験があるからです。

 

また芸の継承というテーマについて、さん喬は師匠・小さんの芸を継ぐことをこのように語っています。

 

さん喬 聴いてわかっても、それは上っ面のわかり方ですよね。(中略)古今亭の噺を教えていただいて覚えたときに、「小さんはこういうふうにやるな」と考える。そこで初めて小さんの芸が継承できるんです。どんな噺をしても小さんがそこに介在することが、小さんの芸を継いでいくことになると思います。(p.240)

 

本書は落語界の師弟について、また芸の継承について深く考えさせられるものでした。各章末の補足説明も資料性の高く、楽しいものです。落語ファンにはお勧めの一冊です。

 

 

『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』

柳家さん喬 柳家喬太郎(著)

徳間書店

 

鈴々舎馬るこが輝く!第136回 江戸川落語会

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年3月2日、江戸川落語会に足を運びました。今回は会場である江戸川総合文化センターの開館35周年を記念して、昼夜2本立ての興行です。昼は古典落語、夜は新作落語という構成。通し券も発売されていましたが、私は新作の会を観にいきました。

 

落語会のサブタイトルは「若手競演! 春の落語まつり:夜の部 飛翔!新作落語・改作落語」です。新作落語は大正以降に作られた創作落語を指します。古典落語は従来からある噺を、師匠などから教わり、継承していくものなので、長い歴史の中でストーリーは練り込まれており、所作(動き)も型ができあがっています。新作落語は落語家がストーリーを作り(作者が別の場合もありますが)、所作も新たに作るものなので、創作能力が必要になります。このため新作落語を得意とする落語家さんは限られています。中には、柳家喬太郎立川志の輔師匠のように新作と古典、両方を手掛ける噺家さんもいます。

 

改作落語は、古典落語のストーリーの骨格や設定だけ生かして、時代設定や登場人物など変えてしまうものです。例えば立川談笑師匠の「シャブ浜」は古典落語の名作「芝浜」の改作で、時代は現代に置き換えられ、大金を拾う設定がシャブ(覚せい剤)を拾うというものに変えられています。

 

江戸川落語会の客層は高齢の方も多いため、新作・改作落語がどこまで受けるのか興味津々(きょうみしんしん)です。

 

鉄道の駒治、アウトドアの彦いち

 

トップバッターは、2018年に真打昇進した古今亭駒治師匠です。駒治師匠は、古今亭にはめずらしい新作派。鉄道マニアであり、鉄道をテーマにした新作を数多く作っています。今回のネタも鉄道オタクの世界を題材にした「十時打ち」。豪華トレインの指定席発売日の午前10時。東京駅のみどりの窓口には、多くの鉄道マニアが、指定券を手に入れるために列をなしている。ここには、マルス(指定券予約端末)操作の達人、駅員の谷口さんがいるのだ。しかし謎の連中が現れ、谷口さんの邪魔をしていく……。駒治師匠の鉄道愛があふれ出す一席。独特のオタクワードが飛び出し、早いテンポの噺ながら、客席は大いに沸いていました。ただ、キーワードである「十時打ち」が、聞き取りづらかったのが少し残念。私は知らなかったのですが、「十時打ち」って実際にあるのですね。

 

 

2番目の演者は、落語界きってのアウトドア派である林家彦いち師匠。ヒマラヤに行って、実際に5000メートル辺りまで登ってきたというから驚きです。その体験談をマクラに場内を盛り上げてから、新作「遥かなるたぬきうどん」に入ります。ヒマラヤの高峰に、うどん屋が出前を届けにいくという奇想天外な設定の噺。冒頭のシーンは、うどん屋が両手でアイスピッケル氷壁に打ちこみながら登っていくというシーンから始まります。彼は出前のうどんを届けるため、命がけで氷の壁をよじのぼっているのです。実際のヒマラヤ登山体験が随所に生きた噺で、大いに楽しめました。

 

古典を楽しく改作して輝いた鈴々舎馬るこ

 

中入り(休憩)が入って、鈴々舎馬るこ(れいれいしゃ・まるこ)師匠の登場です。馬るこ師匠のネタは、古典をベースにした改作「糖質制限初天神」。「初天神」は多くの落語家が手がける古典落語。「何も買わない」という約束をして初天神に連れてきてもらった子供が、色々と知恵を働かせて父親にものをねだり、結局、買わせてしまうという噺です。

 

馬るこ版の初天神は、主人公が糖質制限されているお父さん。甘いものを買い食いしないようにお小遣いまで制限されている。初天神に行くにも買い食いをしないようにと、娘がお目付け役で付いてくる。露店の大福が食べたくて仕方ない父親は、参詣人たちに自らの悲惨さを切々と訴え、ついには娘を根負けさせ大福を手に入れる……。とても良くできた噺で、この日一番の大受けでした。古典の骨格を上手に生かして、子供と大人を逆転させる設定は、実に見事でした。鈴々舎馬るこ師は、古典落語に現代的な言葉のギャグを放り込んでくるタイプの噺が多く、ときにそのギャグが「子供っぽく」感じることがありました。しかし、今回は糖質制限されている中年の悲哀が、おもしろ切なく描かれていて、誰にでも楽しめる高座になっていました。

 

本日のトリは、春風亭昇太師匠。笑点の司会で全国区の人気者になりましたが、昇太師といえば新作の闘将。「愛犬チャッピー」「ストレスの海」などの名作といえる新作を作り出している噺家さんです。本日のネタは「伊与吉幽霊」。これは昇太師の自作ではなく、近年作られた新作落語です。船が難破して死んだ男が、友達の助けを借りて母親にひと目会いにいくという噺。笑わせるというより、ホロリとさせる落語です。前3人の演者が場内を大いに沸かせていたので、急きょこのネタに変えたのかなとも感じました。やはりここは、笑いを取る落語で真っ向勝負してほしかったところです。

 

演者それぞれの熱気が会場に伝わり、楽しく盛り上がる空間が作られた2時間でした。伝統ある落語会の盛り上がりを堪能した落語会でした。

 

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太助セレクト落語 2019年3月、4月のお勧め落語会

暖かくなり、気持ちもゆるんでくるこの時期は、春の落語をいろいろ楽しみたいものです。大の月(31日のある月)の31日は、各寄席では特別興行が行われます。寄席でおめにかかることのできない出演者や特別企画など行われますから、落語ファンは必見ですよ!

 

池袋演芸場・昼席「新作台本まつり」

日時:下席 3月21日~30日 

開演:14:00~17:15

料金:2,000円

出演:主任は日替わり。各日の主任を表記

21日 林家彦いち、22日 柳家はん治、23日 柳家小ゑん、24日 三遊亭円丈、25日 林家時蔵、26日 林家正雀、27日 柳家喬太郎、28日 金原亭世之助、29日 夢月亭清麿、30日 桂才賀

場所:池袋演芸場

問い合せ:03-3971-4545

⇒新作台本の落語を楽しめる興行が、池袋演芸場で開催されます。寄席でトリを務める落語家を主任といいます。通常、主任は10日間の興行で1名ですが、今回はなんと日替わり。珍しい演目に出合えるチャンスですよ!

 

落語研究会(第609回)

日時:3月29日(金) 開演:18:30

料金:A席 3,800円、B席 3,300円

出演

柳家あお馬「恋根問」

三笑亭夢丸「身投げや」

桃月庵白酒明烏

桂やまと「阿武松

柳家喬太郎指物師名人長二より 仏壇叩き」

場所:国立小劇場

問い合せ:03-3476-6666

⇒TBS主催による落語会。まさに油の乗った演者たちによる本格落語の競演です。じっくりと古典落語を楽しめそうです!

 

末廣亭余一会・夜の部「左談次一周忌追善興行」

日時:3月31日(日) 開演:17:00~20:15

料金:3,500円

出演:談幸、正楽、一笑、談笑、竹丸、龍志、才賀、勢朝、左談次、ほか

場所:新宿末廣亭

問い合せ:03-3351-2974

⇒昨年、他界された立川左談次の追善興行。これだけの演者が集まるのも左談次師匠の人柄でしょう。

 

深川落語倶楽部

日時:4月9日(火) 開演:18:45

料金:3,000円

出演:

柳家寿伴「近日息子」

春風亭ぴっかり「マスク」

林家三平お血脈

柳家三三「意地くらべ」

林家時蔵「ぜんざい公社」

柳家喬太郎花筏」 

場所:深川江戸資料館

問い合せ:03-3633-7961

深川江戸資料館で定期的に開催されている「深川落語倶楽部」。平日夜の開催ですが、毎回、出演者は豪華です。時間があれば資料館で、実物大の長屋も見学してください。

 

Y.Tatekawa Blood ~江戸の新風

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日時:4月9日(火) 開演:19:00

料金:2,800円

出演立川こしら立川談吉、立川吉笑、立川寸志

場所東京芸術劇場 シアターウエス

問い合せ:03-5785-0380

立川談志の孫弟子世代の落語会。Y.Tatekawa は、ヤング・立川。談志が晩年に到達しようとした「江戸の風」を感じさせる落語を、新世代の立川流落語家はどのように作り上げていくのか。興味がつきません。 

http://yume-kukan.net/ShowDetails?ShowMasterId=763

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

 

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落語の登場人物:子供~父親を手玉にとるちゃっかり者

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供、商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の女郎や幇間。今回は、長屋噺での主要人物、子供について話します。

 

落語に登場する子供は、長屋暮らしの男の子です。名前は「金坊」「亀吉」。父親は職人で学がない。機転が利いて、弁舌たくみな子供が、父親からうまく小遣いをせしめたり、やりこめたりします。

 

元気な子供が登場する噺(はなし)なので、老若男女を問わず楽しめます。このため、寄席では必ずといってよいほど聞くことのできる落語です。短い噺のため、前座や二つ目さんが話すことが多いのですが、名人クラスの真打さんも寄席で高座にかけることがあります。

 

子供の登場する落語をいくつか紹介します。

 

真田小僧

 

父親に小遣いをせびる息子。どうしても貰えないと、母親から貰うからいいと言い出した。「俺がダメなものは、母ちゃんもダメだ」と言うと、「お父っつぁんのいないときに、いつも来るよそのおじさんのことを喋るって言うと、母ちゃんは絶対に小遣いくれる」と返す息子。父親は内心おだやかではない。聞き出そうとすると「話しを聞きたかったら小遣いをおくれ」と足元を見られて、次から次へと小遣いを巻き上げられてしまう……。

 

三遊亭金馬真田小僧

www.youtube.com

 

初天神

 

新調した羽織を着て、初天神に出かけようとする熊さん。そこへ息子の金坊が帰ってきて、連れて行ってくれとせがむ。金坊は口が達者で「あれを買ってくれ、これを買ってくれ」とうるさいので、連れていくのをしぶる熊さん。「あれこれ買いたい」と言わない約束をして出かけたが、境内の屋台が見えてくると、何だかんだとせがみだす金坊。結局、熊さんは、根負けして色々買ってしまうのだが……。

 

柳家小三治初天神

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藪入り(やぶいり)

 

明治、大正の頃は、10歳くらいから商家に住み込み、小僧として奉公した。休みは年に2度の藪入りのときだけ。週休2日制が一般的になった現在とは大違い。しかも奉公を始めた3年は藪入りでも、実家に戻ることができなかったという。

 

明日は藪入りで、金坊が帰ってくる。父親はうれしくて、「帰ってきたらあれを食べさせてやろう、どこへ連れて行ってやろう」と興奮して眠れない。3年ぶりに帰って来た息子は、とてもしっかりしていて、両親は大喜び。しかし、分不相応な金を持っていたことで、「店の金に手を付けたのでは」と、父親は怒り出す……。

 

三遊亭円楽「藪入り」

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雛つば(ひなつば)

 

植木屋さんが武家屋敷で仕事をしていると、庭に幼い若様が出てきた。若様、庭に落ちていた穴のあいている四文銭を拾うと、付き人の三太夫に「これは何か?」と尋ねる。三太夫が「何だと思われますか?」と返すと、「お雛様の刀のつばではないか」と答える。不浄なものでございますから、お取り捨て願います」と言われると、若さまはポーンとほおり捨てて、行ってしまった。これを見た植木屋は、いつでも「銭をくれ」と言っている自分の息子とは、大きな違いだと感心し、うちへ帰って女房に話しをする。これを息子が聞いていて……。

 

古今亭志ん朝「雛つば」

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今回紹介した落語以外でも、「桃太郎」や名作「子別れ」など、子供が活躍する噺はいろいろあります。ぜひ、やんちゃな子供たちの落語を楽しんでみてください。

 

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太助セレクト落語 2019年2月、3月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年2月~3月のお勧めの落語会をピックアップしました。2019年には、神田松之丞、柳亭小痴楽の人気者二人が真打昇進することが決定しました。落語芸術協会は勢いのある二つ目が多いので、世代交代が楽しみです!

 

両国寄席

日時:2月12日(火) 開演:18:00

料金:1,500円

出演三遊亭兼好、王楽、喜八楽、全楽、萬窓、鳳笑、他

場所お江戸両国亭

問い合せ:03-3635-7619

円楽一門会は、毎月1~15日にお江戸両国亭で寄席を開催しています。これだけのメンバーの落語をたっぷり楽しめて、お値段は1,500円。両国駅から徒歩7、8分のお江戸両国亭にフラッと立ち寄ってみてください。

 

BXホール落語会「祝 真打昇進!古今亭駒治独演会」

日時:2月14日(木) 開演:18:30

料金:2,800円

出演:古今亭駒治

場所:文化シャッターBXホール

問い合せ:050-3497-5500

⇒真打昇進を果たした、駒次改め古今亭駒治の独演会。お得意の鉄道落語を含む三席をみっちり聴かせてくれます。駒治師匠の新作落語は、少しSF風であったり、懐かしい光景が浮かんできたりと多彩です。振舞い酒も付きますよ!

 

あつぎ寄席「特選!よったり落語会」

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日時:2月17日(日) 開演:14:00

料金:3,000円

出演柳亭市馬桂雀々、三遊亭遊雀柳家三三

場所:厚木文化会館 小ホール(本厚木)

問い合せ:046-224-9999

⇒協会の枠を超えた実力派が勢ぞろい。このメンバー4人が揃う落語会には、なかなか出会えませんよ。お近くの方はぜひ!

 

三三・左龍の会

日時:3月10日(日) 開演:19:00

料金:2,800円

出演柳家三三柳亭左龍

場所:内幸町ホール

問い合せ:0422-53-0817

柳家三三柳亭左龍。現在の落語界で、古典落語だったらこの二人は間違いなくトップクラス。練達の二人が腕を競う人気の落語会です。チケットはお早めに! 昨年、台風で中止になり残念だったので、今年は足を運びます。

 

深川亭砥寄席「扇辰、菊之丞二人会」

日時:3月19日(火) 開演:19:00

料金:3,000円

出演:入船亭扇辰、古今亭菊之丞

場所:深川江戸資料館

問い合せ:03-5332-6396

⇒深川江戸資料館は、江戸時代の長屋や船宿、茶屋などが忠実に再現されています。実際の長屋を眺めてから落語を聴くと、より臨場感も増します。しっとりした噺も得意な扇辰、菊之丞師匠。どんな高座を展開してくれるのか楽しみです。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

 

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糸井重里『すいません、ほぼ日の経営。』:「おもしろいことないかなぁ」が口ぐせのあなたに

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。あなたの身の回りにいませんか? 「何かおもしろいことないかなぁ」が口ぐせの人。もしかしたら、あなたもそうだったりして……。

 

このフレーズをよく口にする人は、自分にとっての「おもしろいこと」が何か、はっきりしていないことが多いようです。

 

自分にとっておもしろいことを挙げて、なぜ好きなのか考える

 

私は登山が好きです。しかし山登りの経験がない人を、「おもしろい」からと言って、山に誘うことはしません。なぜなら、ある程度の体力や技術、知識を持っていないと、山登りはつらいばかりで、おもしろくもなんともないからです。また山は過酷ですから、体力や装備が伴っていないと危険が生じます。

 

体力を使い、へとへとになって、それでも高みを目指すことにおもしろさを感じる人もいますし、「ばかばかしい」と感じる人もいます。何をおもしろいと思うかは、人それぞれです。自分にとっておもしろいことがはっきりと分からない方は、「自分は、どんなことにおもしろさを感じるのか」を考えてみてください。いくつか挙げていくと、自分のおもしろいと感じるものの傾向がつかめるはずです。そして「なぜ、おもしろいと感じるのか」も考えてみるとよいでしょう。そこから、自分の気質が見えてくるはずです。

 

私は山登りや落語を話すことが好きです。なぜ好きなのかを考えてみると、努力して上達していく過程が好きなのだ、ということに気づきました。頑張っても上達しない趣味は長続きしません。また上達が止まってしまったら、興味がなくなってしまいます。こういうことは全て、自分の気質にかかわっているのだと思います。

 

おもしろさを追求する会社・ほぼ日の独自性

 

おもしろさを徹底的に考え、追求している会社があります。それが、糸井重里さんが社長を務める株式会社ほぼ日です。糸井重里氏のインタビューをまとめた『すいません、ほぼ日の経営。』は、この会社のユニークな事業コンセプトや人材戦略などの一端がうかがえる一冊です。

 

ほぼ日では、おもしろいアイデアを生み出すことが事業の出発点になります。おもしろいかどうかを、どのように判断するかというと

 

―― おもしろいかどうかは、なにがものさしになるんですか。

糸井 とりたててありません。「おもしろい」は主観ですから。「あれは客観的におもしろかった」ということはありませんね。

 ただ、おもしろいと思ったからなんでもいいわけではなくて、じぶんがおもしろいと考えた要素はなんなのかを深く考えたり、探ったりしておくことは大切ですね。(p.20)

 

 

ほぼ日では、おもしろいアイデアを商品化していくのですが、マーケティングリサーチに頼らず、社員の「好き」「嫌い」を徹底的につきつめていきます。

 

「どうして好きなのか」「どこが好きなのか」を、じぶんと仲間に問い続ける。(p.27)

 

商品開発においては消費者調査を重ね、そのニーズを探ったうえで企画・開発していくマーケットインの手法が採られることが多いのですが、この手法で生まれた商品は似たようなものになりがちです。しかし、ほぼ日の手法は、社員の発想力が鍛えられ、向上していくので、独自性を確保していく手段としては有用だと思います。

 

人材確保、育成もユニークです。採用基準は「いい人」です。

 

糸井 一緒に働いていて「いい人とったね」「いい人に来てもらったね」とも言います。(中略)これから仲間になる人と、これから仲間を迎え入れようとしている人たちとの両方にとって、「心で一致するいい人物像があるんじゃないかと思うんです。(p.111)

 

 

しかし、「いい人」は定義したくないと言います。定義すると、それに合わせた人がやってきてしまうから、だそうです。

 

では、どんな人がほしいか、もう少し具体的に言うと

 

糸井 「どこか旅行に行こう、遊びに行こう」というときに、「あいつも呼ぼうよ」と呼ばれる人がいますよね。その「あいつ」が、うちがほしい人です。(p.155)

 

呼びたくなる「あいつ」。なるほど、おもしろい基準ですね。

 

本書では、その他にも組織、上場、社長業などについて、ほぼ日らしいとてもわかりやすい言葉で語られています。ほぼ日の上場も、なんとなく軽い気持ちで株式公開したような印象がありましたが、実は10年以上も考え続けていたと知り、驚きました。

 

会社としての理念や方向性を伝えるためのコピーの分かりやすさは、「さすが」と思わせるものがあります。また、事業や開発、組織の方向性をあえて大企業の対極に置くという差別化も、したたかなものを感じさせます。

 

おもしろさを追求するほぼ日という会社、しばらく目が離せそうにありません。

 

「何かおもしろいことないかなぁ」が口ぐせのあなた。こんな会社に注目してみるも、おもしろいかもしれませんよ!?

 

『すいません、ほぼ日の経営。』

聞き手:川島蓉子

語り手:糸井重里

日経BP

 

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落語の名作「子別れ(下)」:子は夫婦の鎹(かすがい)ですね

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は落語の名作と呼ばれる「子別れ」を紹介します。この落語は、夫の浮気で別れた夫婦が、幼い息子が縁結びとなってよりを戻す人情噺です。上、中、下の三話に分かれる大作で、通しで語ると1時間近くになります。一般的に、「子別れ」というと「下」の『子は鎹(かすがい)』をさします。

 

あらすじ

 

上:腕はいいのに大酒飲みで遊び人の熊さん。ご隠居の葬式の手伝いに来たのだが、大酒飲んでいい気持ちになり、吉原に繰り出そうということになる。仕事の前金を貰ったので、気が大きくなっているのだ。「銭がないから」としぶる紙屑屋さんを無理やり連れ出し、吉原で居続けのどんちゃん騒ぎを繰り広げる。別題『強飯の女郎買い(こわめしのじょろうかい)』

 

中:この店で昔なじみの女郎に会った熊さんは、いい気になって4日間も居続けて、ようやく帰宅する。家ではしっかり者の女房と息子の亀吉が待っている。熊さんは、何日も家をあけた後ろめたさで素直に詫びることができない。あれこれ言い訳をしているうちに、女郎ののろけ話を始めてしまう。夫婦喧嘩のあげく、女房は離別を申し出て、息子を連れて出て行ってしまう。熊さんは、なじみの女郎を後添えにしたが、これが何もしない、だらしのない女。その女もやがて姿をくらましてしまう。別題『子別れ』

 

下:自分の行いを深く反省した熊さんは、酒を絶って仕事に励み、いまでは立派な棟梁になっている。ある日、道で息子の亀吉に出会う。いろいろと話しを聞いてみると、母親はどこにも再婚せずに、手間賃仕事をして質素に亀吉を育てているという。男親がいないため、時には情けない思いをするという話しを聞いて、「みんな自分の飲んだくれから出たこと」と、思わず涙する熊さん。亀吉に小遣いを渡し、翌日に鰻をご馳走する約束をして別れるが、「おとっつぁんに会ったことは内緒だ」と言い添える。

 

しかし、家に帰った亀吉は、母親に小遣いを見つけられ、問い詰められる。人様のものに手をかけたと考えた母親は、「どうしても言わないなら、おとっつぁんの玄翁(げんのう:大型の金づち)で叩くよ」と玄翁を振りあげる。亀吉は、父親に貰ったこと、鰻を明日、ご馳走になることを白状してしまう。

 

翌日、母親は、亀吉にこざっぱりとした着物を着せて送り出すが、気になってしかたない。鰻屋の前で行ったり来たりしていると、亀吉が座敷に招き入れた。久しぶりに再会した元夫婦。堅くなっている二人だが、子供の手引きで、めでたく親子三人出直そうということになる。母親が「夫婦がこうして元のようになれるのも、この子があればこそ。本当に子供は夫婦の鎹(かすがい)ですね」と言うと、亀吉が「あたいは鎹かい。どうりで昨日、玄翁で頭をぶつと言った」。

別題『子は鎹』

 

名作人情噺の必須の三要素とは

 

初代・春風亭柳枝の作といわれ柳派系統の屈指の人情噺といわれます。名人・上手が手がける大作で、現在、上中下を通しで語る落語家はほとんどいません。過去には、古今亭志ん生三遊亭円生三笑亭可楽古今亭志ん朝などの名人が手がけました。近年では、柳家小三治柳家さん喬柳家権太郎、柳亭市馬などが手がけています。

 

飲んだくれの職人が、心を入れ替え働くようになり、親子三人が新たに出直すことになるというハッピーエンドの人情噺です。「芝浜」もそうですが、駄目な人間の再生、夫婦愛や親子愛、ハッピーエンドなどの要素は、名作人情噺には必須の要素ですね。

 

再会した夫婦が堅くなってぎごちなく会話しているのを、息子の亀吉が引っ張っていき、結びつけるラストが聴きどころ。時間のあるときに、ゆっくりと楽しんでいただきたい名作落語です。

 

古今亭志ん朝「子別れ」

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みなと毎月落語会「白鳥、彦いち、白酒三人会」:白鳥よ、より高みへ!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年12月11日、赤坂区民ホールで開催されたみなと毎月落語会に行ってきました。出演は三遊亭白鳥林家彦いち桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ)。人気落語家の三人会なので、期待が高まります。

 

みぞれ交じりの雨が降る平日の夜、会場の赤坂区民ホールには、たくさんの人が集まってきます。仕事帰りの方や、1人で来ている方も多く、この落語会の人気の高さがうかがえます。区民ホールは、客席にかなりの傾斜がつけられた見やすい会場です。開演時間の7時には満席となりました。

 

トップバッターは、林家彦いち師匠。落語家のダブルブッキング、レベルの低い高校での落語公演など、マクラでたっぷり笑わせます。

 

彦いち師匠の本編は、新作落語つばさ」。舞台は、誰もがつばさを持っている世界。主人公の彦いち師匠も、自分の翼で寄席から寄席へと移動している。しかし、この世界の隣りには普通の世界も存在していて、なにかの拍子に移動してしまうことがある。翼を持った彦いち師匠が、浅草の言問橋の欄干で羽休め(ひと休み)していると、突然、普通の世界に移動してしまい大慌てするというお話し。

 

彦いち師匠の創作落語には、タイムトラベルやパラレルワールドなどが登場するSF的な作品がいくつかあります。「つばさ」もそのひとつ。白鳥師匠のSF的な新作落語と違い、主人公が等身大なのが彦いちワールドの特徴です。異世界でも、セコいことや、ささいなことを悩んだりする主人公が笑えます。

 

白鳥師匠よ、より高みへ!

 

仲入り後に登場したのは、三遊亭白鳥師匠。彦いち師のマクラを受けて、自身のダブルブッキング体験を話し始めます。地震で新潟に来られなくなった柳家小三治師匠の代演を急きょやることになって、「詐欺!」と言われたという体験で、場内を沸かせます。

 

三遊亭白鳥師匠といえば、いまや新作落語界の巨人と言っても過言ではありません。SF的な作品から任侠もの、女性落語家向け、古典の大胆な改作など、尽きることのない発想力と構想力。「落語中興の祖・三遊亭円朝の名を継ぐのは白鳥」とまで言われる存在です。

 

この日のネタは、「シンデレラ伝説」。20年前に作ったという落語で、父親が息子に色々な名作童話を適当につなげて話していくという内容。この後に登場した白酒師匠も「ある意味、滅多にお目にかかれないものに出会えた」と言っていましたが、残念ながら、この日は首をかしげたくなる出来栄えでした。

 

北斗の拳」など、20年前の流行や風俗で作ったギャグは、いま聴くと、非常に古びたものに思えます。これは新作落語の宿命であり、白鳥師匠だけの問題ではありません。その時代の流行や風俗を取り入れたギャグは、しばらくすると古典落語以上に古びたものになってしまいます。新作落語ではストーリーの着想と骨格は残し、ギャグは年月と共に修正していく作業が必要ではないかと思います。

 

またこの日、もう1つ残念だったのは、噺の途中で「このギャグを浅草ホールでやったんだぞ、半分くらいの客はポカーンとしてたんだ」など傍白を多用していたことです。最近の白鳥師匠は、噺の途中での傍白が多いのですが、やはり残念。傍白はストーリーを断ち切ります。その類まれなる発想力から生み出されたストーリーを、私たち観客は、しっかりと聴き、その世界を脳裏に繰り広げたいのです。

 

白鳥師匠は、稀代のストーリーテーラーであり、円朝の大名跡を継ぐ方と私は信じています。ギャグをリバイスして、ストーリーをしっかりと聴かせ、将来に残る名作を生み出していただきたいと思います。

 

トリは桃月庵白酒師匠。彦いち、白鳥が場内をドカン、ドカンと笑わせてからの登場で、演目は古典落語の「禁酒番屋」。風貌に似合わない美声の持ち主・白酒師匠の落語が始まると、場内にホッとした空気が流れます。巧みな酔っ払い芸で、存分に楽しませてくれました。

 

この夜のお客さんは、目当ての演者がいて、笑おうと思って集まっている方ばかり。大声で楽しそうに笑う方も多く、盛り上がった落語会でした。業界トップクラスの人気を持つ三人。共通しているのは、マクラが抜群に面白く、また話し方、笑顔や体形になんともいえない愛嬌があります。人気の秘密を垣間見たような気がしました。

 

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太助セレクト落語 2019年2月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年2月のお勧めの落語会をピックアップしました。年始興行も一段落した2月は、じっくりと落語を楽しめる季節です。二つ目さんの落語を聴きに行って、未来の名人を探すのも楽しいものですよ!

 

雲助・一朝・小里ん「立春 雲一里」

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日時:2月4日(月) 開演:19:00

料金:3,500円

出演

五街道雲助「居残り佐平治」

春風亭一朝「火事息子」

柳家小里ん「猫の災難」

場所日本橋劇場(水天宮前)

問い合せ:03-5809-0550

⇒達者な師匠が3人そろい踏み。高座名の頭文字を取って「雲一里」。江戸の風情を感じさせてくれる公演会になること間違いなし。雲助師匠の「居残り佐平治」を聴けるなんて嬉しいです!

 

深川落語倶楽部

日時:2月6日(水) 開演:18:45

料金:3,000円

出演柳家喬太郎古今亭志ん輔春風亭一之輔林家時蔵春風亭ぴっかり

場所:深川江戸資料館

問い合せ:03-3633-7961

⇒深川江戸資料館のホールで開催される落語会。落語の前にぜひ館内も見学してください。リアルな江戸の町を体験できますよ。

 

鎌倉はなし会「柳家三三独演会」

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日時:2月11日(月) 開演:15:00

料金:3,600円

出演柳家三三、悠玄亭玉八、桂宮治

場所鎌倉芸術館

問い合せ:0467-23-0992

⇒古典だけでなく新作もこなす柳家三三師匠。故・柳家喜多八師匠から直伝の「二番煎じ」を掛けてくれます。幇間の悠玄亭玉八師匠も登場。陽気な桂宮司さんも加わって、楽しい高座が繰り広げられそうです。

 

白鳥トリビュート「こみち・こはる二人会」

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日時:2月14日(木) 開演:19:30

料金:2,000円

出演

柳亭こみち「鉄火のお千代」、他古典一席

立川こはる「女泥棒」、他古典一席

場所:Koenji HACO(高円寺)

問い合せ:090-4249-0852

⇒鬼才・三遊亭白鳥創作落語を女性落語家が手掛けます。キレのいいセリフまわしが特徴のこみち、こはるの二人会。

 

長講激突! ぜん馬・扇遊二人会

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日時:2月17日(日) 開演:13:00

料金:3,000円

出演:入船亭扇遊、立川ぜん馬

場所お江戸日本橋亭三越前

問い合せ:046-876-9227

⇒なかなか聴くことのできない長尺の落語をたっぷりと聴かせてくれる落語会。入船亭扇遊師匠は「付き馬」、立川ぜん馬師匠は「ちきり伊勢屋」を掛けてくれますよ。

 

 *情報内容-は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

 

太助セレクト落語 2019年1月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年1月のお勧めの落語会をピックアップしました。年末年始は、観客も増え、落語がいちばん活気づく季節です。正月気分で、のんびりと聴く落語は最高。ただし、年末年始の寄席はとても混むので、入場はお早めに!

 

特撰落語名人会「さん喬、菊之丞、白酒」

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日時:1月6日(日) 開演:13:00

料金:3,600円

出演柳家さん喬古今亭菊之丞桃月庵白酒

場所江東区文化センター

問い合せ:03-6240-1052

https://www.eifuru.com/ticket/534

⇒年明け最初の日曜日は、古典落語の練達による三人会。年初の落語会として、間違いのないメンバーです。華やかで、しっかりとした高座を楽しみましょう。

 

大古今亭まつり

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日時:1月14日(月)~18日(金)

開演:14日 13:00、15~18日 18:30

料金:3,800円(1階席)、3,500円(2階席)

出演古今亭菊之丞(14日主任)、金原亭馬生(15日主任)、桃月庵白酒(16日主任)、五街道雲助(17日主任)、古今亭菊之丞(18日主任)

場所日本橋劇場(水天宮前)

問い合せ:050-3497-5500

http://www.nihonbasikokaido.com/event/5296.html

⇒サブタイトルが「志ん生のDNAを受け継ぐ者たち」。古今亭のいまを伝える演者が勢ぞろい。日替わりゲストも、柳家喬太郎柳家権太楼、柳家さん喬師匠など豪華メンバーが登場。本寸法の古今亭の芸を堪能できる5日間です。

 

朝日名人会

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日時:1月19日(土) 開演:14:00

料金:4,300円

出演:入船亭扇遊「鼠穴」

古今亭文菊「七段目」

柳家喬太郎「偽甚五郎」

三遊亭萬橘「堪忍袋」

柳家喬の字「千早ふる」

場所有楽町朝日ホール

問い合せ:03-3267-9990(朝日ホール・チケットセンター)

https://www.asahi-hall.jp/yurakucho/concert/#02

⇒第186回を数える朝日名人会。年明けに扇遊師匠の「鼠穴」が聴けるなんて最高です。喬太郎師匠は、珍しい噺「偽甚五郎」をかけてくれます。

 

笑福亭たま深川独演会ファイナル

日時:1月25日(金) 開演:19:00

料金:2,500円

出演:笑福亭たま、(ゲスト)三遊亭萬橘、春風亭昇也

場所:深川江戸資料館

問い合せ:080-8515-1810

⇒古典だけでなく、新作落語、ショート落語も手掛ける笑福亭たま。笑いに引き込む腕力はとにかくすごいものがあります。2019年、東京でもブレイクなるか!?

 

広小路亭立川流夜席

日時:1月11日(金)~15日(火) 開演:18:45

料金:1,500円(前売)、2,000円(当日)

出演

11日(金)立川志の太郎、立川志奄、立川雲水立川談吉立川談修

12日(土)立川志ら乃立川ぜん馬土橋亭里う馬立川談四楼立川志らべ

13日(日)立川志ら門、らく兵、立川小談志、立川三四楼、立川左平次

14日(月・祝)立川只四楼、立川らく人、立川談之助、立川志ら玉、立川キウイ

15日(火)立川寸志、立川こはる立川龍志立川談慶立川志らら

場所:お江戸上野広小路亭

問い合せ:rakugotatekawaryu@gmail.com

落語立川流の定期落語会です。立川流は、出演者がきちんと落語を聴かせてくれるのが特徴。このお値段で、しっかりと落語が聴けるのは本当にお得です。お江戸日本橋亭や日暮里でも定期的に落語会を開催していますので、要チェックです。

 

落語立川流一門会情報http://tatekawa.info/2019-01/

 

*情報内容-は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

落語の登場人物:おかみさん~亭主を支えるしっかり者

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供(金ぼう、亀という名が多い)、商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の女郎や幇間。今回は、名バイプレーヤーというべきおかみさんを取り上げます。

 

落語には夫婦をテーマにしたものがいろいろあります。夫はボンヤリしていたり、なまけ者だったりですが、それを支えているのが、しっかり者のおかみさんです。

 

落語の貧乏夫婦ものの傑作は、なんと言っても「火焔太鼓」でしょう。道具屋の甚平さんは、ボ~としていて商売が下手。つまらないガラクタを高値で仕入れてきたり、自分のうちで使っている火鉢を売ってしまったりと、へまばかりしています。女房はしっかり者で、口が達者。甚平さんに「お前さんは、世の中ついでに生きているような人」「馬鹿がこんがらがっちゃったね」など、言いたい放題。しかし、甚平さんが商売下手でも暮らしていけるのは、しっかり者のおかみさんが居ればこそ。

 

「火焔太鼓」を聴くなら、何といっても古今亭志ん生です。自身も貧乏生活が長く、借金から逃れるために18回も改名をした志ん生。しっかり者のりん夫人に支えられ、50代でようやく花開いた遅咲きの名人です。まるで志ん生と夫人が投影されているようなこの噺は、志ん生のベストともいわれる一席です。

 

「火焔太鼓」古今亭志ん生

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女房のかわいらしさ、いじらしさが描かれる落語が「厩火事」。腕のいい髪結いのお崎が、仲人のところに相談にやってくる。お崎の夫は、7歳年下で遊び人。結婚して8年になるが、夫の本心がいまひとつ分からない。そこで仲人はお崎に2つのエピソードを話し、夫の心を試してみることを勧める……。亭主の悪口をさんざんまくし立てるのに、仲人に亭主の悪口を言われるとむきになって反論するお崎が、なんともかわいらしく、いじらしい噺です。

 

厩火事桂文楽

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落語に登場するおかみさんは、いい人ばかりではなく、ちょっと危ないタイプも登場します。

 

紙入れ」の出てくるおかみさんは、亭主の留守に小間物屋の新吉を引っ張りこんでいる。亭主は泊まりだからと、ご馳走を用意してゆっくり楽しもうとしているところへ、亭主が突然、帰ってきたから大慌て。間一髪のところで裏口から逃がすのだが、新吉は紙入れを忘れていってしまう。この中には、おかみさんからの呼び出し状が入っている。紙入れを置き忘れたことに気付いた新吉は、翌朝、恐る恐る様子を見に行くのだが……。腹の座ったおかみさんの登場する不倫噺。同じジャンルとして「風呂敷」「包丁」という噺もあります。

 

「紙入れ」桂歌丸

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しっかり者のおかみさんが登場する噺で傑作と呼ばれるのが、ご存知「芝浜」です。

 

魚屋の勝五郎は酒におぼれて、しばらく仕事をさぼっている。女房に尻を叩かれ、魚を仕入れに芝の河岸(かし)に来てみると、まだ早すぎて開いていない。仕方がないので芝の浜で一服していると、流れ着いた財布を見つける。開けてみると、なんと五十両もの大金が入っていた。勝五郎は長屋に戻り、仲間を集めて、大酒を飲み、ご馳走をふるまって、その日は寝てしまう。翌朝、「酒代はどうするのか」と尋ねる女房に、勝五郎は昨日の大金の入った財布の話しをする。ところが女房は「大金って何の話しだい? 夢でも見たんじゃないか」という。どこを探しても財布は見つからない。「あれは夢だったのか」とあきらめ、それ以来、心を入れ替え、酒を断ち、仕事に打ち込むようになる勝五郎。しかし、これは女房がとっさに機転をきかせて、夢物語に仕立て上げたのであった……。

 

年末の寒い時期に高座にかけられることが多い人情噺「芝浜」を、ぜひご堪能ください。

 

「芝浜」古今亭志ん朝

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深川江戸資料館:落語の風景を実感したいなら、ぜひ訪れたい!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語を聴いていると、長屋や宿屋、廓など、いろいろな場所が登場します。しかし自分の想像力だけでは、リアルに情景が浮かばないこともあります。そこでお勧めしたいのが「深川江戸資料館」です。

 

都営大江戸線清澄白河駅より、歩いて5分。江東区深川江戸資料館の魅力は、何といっても江戸時代末(天保年間)の深川の町並みを実物大で再現していることです。

 

地下1階から地上2階までの空間に作られた町並みには、表通りには大店(肥料問屋)や白壁の土蔵、船宿が並んでいます。通りに沿って猪牙舟の浮かぶ掘割も作られています。

 

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深川の大店といえば、木場材木問屋、米問屋、そして干鰯・魚〆粕(しめかす)・魚油を扱う問屋でした。佐賀町は隅田川河口にあって大船の出入りに便が良く、小名木川の水運もありこうした大店と倉庫が並ぶ町でした。

(深川江戸資料館ホームページより)

 

 船宿は、もとは船で遊びに行く客を送り迎えするところで、落語「船徳」などにも登場しますね。通りには八百屋やつき米屋も並んでいます。

 

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 船宿の帳場。大福帳やそろばんも触ることが可能

 

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表通りを抜けて火の見櫓のある広場に出ると、よしず張りの水茶屋や天麩羅の床店、二八そばの屋台などがあります。「時そば」などの落語が頭に浮かびます。八百屋とつき米屋の間の長屋木戸をくぐると、路地をはさんで長屋が軒を連ねています。

 

この資料館の魅力は何と言っても、店や長屋に実際に上がって生活用具などに触れられることです。長屋や船宿にあがってみると、その狭さや天井の低さに驚きます。長屋は本当に必要最低限の生活空間だったのだな、と実感できます。

 

展示は、そこに住む人々の家族構成や職業、年齢まで細かく設定され、それぞれの暮らしぶりにあった生活用品が展示されているそうです。例えば長屋の1つは、木場の木挽職人の家という設定。木場で働く職人なので大鋸や鳶口、大工道具が置かれてて、箱膳や女房の化粧道具も置かれています。水瓶(みずがめ)やかまどなどの大きさもリアルに知ることができます。

 

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木挽職人の家。正面にかけられた大鋸が目を引く

 

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また、一日の移り変わりが音響・照明などで情景演出されるのも面白い趣向です。時刻によって変わる町の風景を楽しむことができます。

 

深川江戸資料館には、この江戸の町を再現した常設展示に加え、小劇場とレクレーションホールも備わっていて、落語を含め様々な催し物を定期的に開催しています。

 

落語好きの方は、ぜひ一度、足を運んでみてください。落語の世界の想像力が広がるはずです。清澄庭園と組み合わせれば、のんびりとした散歩も楽しめますよ。

 

江東区深川江戸資料館

住所江東区白河1-3-28 アクセス

TEL:03-3630-8625

展示室観覧料:400円(大人)

開館時間 展示室 9:30~17:00(入館は16:30まで)

小劇場・レクホール 9:00~22:00

休館日:第2・4月曜日(ただし祝日の場合は開館)

https://www.kcf.or.jp/fukagawa/

太助セレクト落語 2018年12月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年12月のお勧めの落語会をピックアップしました。年末は恒例の落語会などが目白押し。冬にピッタリの落語を聴いて、一年を締めくくりましょう。

 

 

文京らくご会「扇遊・兼好二人会」

日時:12月8日(土) 開演:14:15

料金:3,500円

出演:入船亭扇遊、三遊亭兼好

場所:文京シビック・小ホール(春日)

問い合せ:03-6304-8545

⇒江戸の粋を感じさせてくれる扇遊師匠と、いつも元気いっぱい兼好師匠。二人のコラボレーションが、どんな世界を生み出してくれるのか、期待大です!

 

COREDO落語会

日時:12月9日(日) 開演:17:00

料金:5,000円

出演柳家さん喬三遊亭小遊三柳家喬太郎、神田松之丞

場所日本橋三井ホール

問い合せ:03-6263-0663

⇒さん喬、小遊三喬太郎、松之丞と華のある演者が、豪華なホールに勢ぞろい。日本橋で賑やかな高座を見せてくれそうです。このメンバーを日本橋で見るなら、料金が高いのも仕方ないか……。(入場時にドリンク代金が別途必要です)

 

みなと毎月落語会「白鳥、彦いち、白酒三人会」

日時:12月11日(火) 開演:19:00

料金:3,500円

出演三遊亭白鳥林家彦いち桃月庵白酒

場所赤坂区民センター

問い合せ:03-6452-5901

⇒落語初心者にもお勧めしたい落語会。白鳥、彦いち、白酒の三人だったら間違いなく大笑いできますよ。新作落語を聴いたことのない方も、これを機会にぜひ楽しんでみてください。

 

年忘れ市馬落語集

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日時:12月27日(木) 開演:18:30

料金:S席6,000円、A席5,500円

出演柳亭市馬柳家三三三遊亭兼好春風亭一之輔林家たけ平桂夏丸林家つる子、春風亭一花、林家なな子

場所大井町きゅりあん(大ホール)

問い合せ:03-6277-7403

⇒いまや年末は第九ではなく、市馬の落語集と呼ばれるまでになった(?)年末の恒例イベント。国民的行事となる日も近い!? オーケストラも入って、お祭りのような賑やかさ。ぜひ、楽しみに出かけましょう!

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。