落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

鈴々舎馬るこが輝く!第136回 江戸川落語会

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年3月2日、江戸川落語会に足を運びました。今回は会場である江戸川総合文化センターの開館35周年を記念して、昼夜2本立ての興行です。昼は古典落語、夜は新作落語という構成。通し券も発売されていましたが、私は新作の会を観にいきました。

 

落語会のサブタイトルは「若手競演! 春の落語まつり:夜の部 飛翔!新作落語・改作落語」です。新作落語は大正以降に作られた創作落語を指します。古典落語は従来からある噺を、師匠などから教わり、継承していくものなので、長い歴史の中でストーリーは練り込まれており、所作(動き)も型ができあがっています。新作落語は落語家がストーリーを作り(作者が別の場合もありますが)、所作も新たに作るものなので、創作能力が必要になります。このため新作落語を得意とする落語家さんは限られています。中には、柳家喬太郎立川志の輔師匠のように新作と古典、両方を手掛ける噺家さんもいます。

 

改作落語は、古典落語のストーリーの骨格や設定だけ生かして、時代設定や登場人物など変えてしまうものです。例えば立川談笑師匠の「シャブ浜」は古典落語の名作「芝浜」の改作で、時代は現代に置き換えられ、大金を拾う設定がシャブ(覚せい剤)を拾うというものに変えられています。

 

江戸川落語会の客層は高齢の方も多いため、新作・改作落語がどこまで受けるのか興味津々(きょうみしんしん)です。

 

鉄道の駒治、アウトドアの彦いち

 

トップバッターは、2018年に真打昇進した古今亭駒治師匠です。駒治師匠は、古今亭にはめずらしい新作派。鉄道マニアであり、鉄道をテーマにした新作を数多く作っています。今回のネタも鉄道オタクの世界を題材にした「十時打ち」。豪華トレインの指定席発売日の午前10時。東京駅のみどりの窓口には、多くの鉄道マニアが、指定券を手に入れるために列をなしている。ここには、マルス(指定券予約端末)操作の達人、駅員の谷口さんがいるのだ。しかし謎の連中が現れ、谷口さんの邪魔をしていく……。駒治師匠の鉄道愛があふれ出す一席。独特のオタクワードが飛び出し、早いテンポの噺ながら、客席は大いに沸いていました。ただ、キーワードである「十時打ち」が、聞き取りづらかったのが少し残念。私は知らなかったのですが、「十時打ち」って実際にあるのですね。

 

 

2番目の演者は、落語界きってのアウトドア派である林家彦いち師匠。ヒマラヤに行って、実際に5000メートル辺りまで登ってきたというから驚きです。その体験談をマクラに場内を盛り上げてから、新作「遥かなるたぬきうどん」に入ります。ヒマラヤの高峰に、うどん屋が出前を届けにいくという奇想天外な設定の噺。冒頭のシーンは、うどん屋が両手でアイスピッケル氷壁に打ちこみながら登っていくというシーンから始まります。彼は出前のうどんを届けるため、命がけで氷の壁をよじのぼっているのです。実際のヒマラヤ登山体験が随所に生きた噺で、大いに楽しめました。

 

古典を楽しく改作して輝いた鈴々舎馬るこ

 

中入り(休憩)が入って、鈴々舎馬るこ(れいれいしゃ・まるこ)師匠の登場です。馬るこ師匠のネタは、古典をベースにした改作「糖質制限初天神」。「初天神」は多くの落語家が手がける古典落語。「何も買わない」という約束をして初天神に連れてきてもらった子供が、色々と知恵を働かせて父親にものをねだり、結局、買わせてしまうという噺です。

 

馬るこ版の初天神は、主人公が糖質制限されているお父さん。甘いものを買い食いしないようにお小遣いまで制限されている。初天神に行くにも買い食いをしないようにと、娘がお目付け役で付いてくる。露店の大福が食べたくて仕方ない父親は、参詣人たちに自らの悲惨さを切々と訴え、ついには娘を根負けさせ大福を手に入れる……。とても良くできた噺で、この日一番の大受けでした。古典の骨格を上手に生かして、子供と大人を逆転させる設定は、実に見事でした。鈴々舎馬るこ師は、古典落語に現代的な言葉のギャグを放り込んでくるタイプの噺が多く、ときにそのギャグが「子供っぽく」感じることがありました。しかし、今回は糖質制限されている中年の悲哀が、おもしろ切なく描かれていて、誰にでも楽しめる高座になっていました。

 

本日のトリは、春風亭昇太師匠。笑点の司会で全国区の人気者になりましたが、昇太師といえば新作の闘将。「愛犬チャッピー」「ストレスの海」などの名作といえる新作を作り出している噺家さんです。本日のネタは「伊与吉幽霊」。これは昇太師の自作ではなく、近年作られた新作落語です。船が難破して死んだ男が、友達の助けを借りて母親にひと目会いにいくという噺。笑わせるというより、ホロリとさせる落語です。前3人の演者が場内を大いに沸かせていたので、急きょこのネタに変えたのかなとも感じました。やはりここは、笑いを取る落語で真っ向勝負してほしかったところです。

 

演者それぞれの熱気が会場に伝わり、楽しく盛り上がる空間が作られた2時間でした。伝統ある落語会の盛り上がりを堪能した落語会でした。

 

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