落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語の登場人物:与太郎はどこに消えたのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供(金ぼう、亀という名が多い)、商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁や幇間。その中でも代表格は、何といっても与太郎でしょう。

 

落語には、長屋噺、人情噺、酒呑(さけのみ)噺などいろいろなジャンルがありますが、与太郎という分類があるほど、その数は多いのです(今回、調べて分かったのですが、人のよい甚兵衛さんが出てくる噺も、与太郎噺に分類されるようです)。

 

落語に登場する与太郎は、こんな人

 

1)与太郎は、少々頭のめぐりが悪いので、何をしても失敗ばかりしています。いつもボンヤリしていて、いろいろなことに焦らず、世渡りもうまくできません。

 

2)親や親戚のおじさん、長屋の連中など周囲の人間は、与太郎のあまりの呑気さや愚かさに、あきれたり、いら立ったりしています。

 

3)しかし与太郎には、子供がそのまま大人になったような純真さがあります。

 

4)また、頭は弱いのですが、職人としての腕は良かったり、ひとつのことに熱中するという部分では人を凌いだりすることもあります。

 

5)このため、「馬鹿だ」「愚図だ」と言われながらも、誰かが与太郎の世話を焼いたり、面倒をみたりします。例えば、しっかり者の女房や世話好きの親戚のおじさんが、あれこれと叱りつけたり、仕事の世話をします。

 

結局のところ、与太郎は長屋の連中など周囲の人間から、とても愛され、温かく見守られているのです。

 

与太郎の登場する代表的な落語

 

与太郎噺は数多くありますが、代表的なものをいくつか紹介しましょう。

 

かぼちゃ屋

 

二十歳になってもブラブラしている与太郎。八百屋の叔父さんの世話でカボチャの行商を始めることになった。元値を教えてもらい、天秤棒で担いで売り始めたのだが、どんな売り声を出せばよいのか、どこで売ればいいのか、さっぱり分からない。路地裏の長屋に入ってきて、おかしなことを言いながら売り歩いていると、気のいい江戸っ子の職人が面白がって、残らずカボチャを売ってくれる。上手にカボチャを売る職人と、そばでボンヤリしている与太郎の対比が面白い!

 

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道具屋

 

頭が弱く、定職を持たない与太郎に、伯父さんが副業の道具屋をやらしてみようと思い立つ。道端に雑貨を広げて売る、露天の道具屋だ。ただし、商うものは、火事場で拾ってきた錆びたノコギリや首の抜けるお雛さま、すぐに破けてしまう「もも引き」など、ガラクタばかり。与太郎と客のとんちんかんなやり取りが楽しい、与太郎噺の定番。

 

孝行糖(こうこうとう)

 

ボンヤリしているが親孝行な与太郎に、奉行所から報奨金が出た。長屋の連中も大喜び。しかし、与太郎が無駄遣いをしてはいけないので、みんなで金の有効な使い道をあれこれと考える。その結果、親孝行の「孝行糖」という飴を売らせることに決定。派手な衣装で鐘、太鼓を持った与太郎が、面白い口上で売り始めると、この飴が大人気に!

 

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錦の袈裟(にしきのけさ)

 

町内の男たちが、趣向を凝らして吉原に繰り込もうとアレコレ相談している。隣町の連中が吉原で、揃いの長襦袢でかっぽれを踊って大受けし、「こんな派手な真似はできねえだろう」と、自分たちを馬鹿にしたのだ。見返してやろうと、いろいろ案を出し合って、揃いの錦の褌(ふんどし)で繰り出そうということになった。与太郎は女房に泣きついて相談し、寺の和尚から錦の袈裟を借りて、褌代わりにし、一緒に繰り込むのだが……。与太郎にかみさんがいて、吉原で、もててしまうという珍しい噺。

 

愚図で、ボンヤリしていて、しかし、みんなから愛されている与太郎は、落語の重要な登場人物です。映画『男はつらいよ』は、登場人物やストーリーが落語の影響を受けていることは、よく知られています。主人公の寅さんは、おっちょこちょいで、惚れやすく、騒動を引き起こしてばかりいます。しかし、周囲から愛され、温かく見守られています。

 

自分の周囲で、「与太郎のような、ボンヤリしているけれど、みんなから愛されるキャラはいるかな?」と考えてみたのですが、ちょっと思い当りませんでした。

 

与太郎や寅さんのような「愛すべき馬鹿」は、どこへ行ってしまったのでしょうか? それとも、馬鹿を愛する人たちや社会が、なくなってしまったのでしょうか?

 

落語を聞くと覚える、ある種の懐かしさは、この辺りにあるのかもしれません。

 

与太郎噺をいろいろ聞いてみて、落語をお楽しみください!

 

参考文献:『落語ハンドブック』第3版 (三省堂

 

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