落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語の名作「子別れ(下)」:子は夫婦の鎹(かすがい)ですね

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は落語の名作と呼ばれる「子別れ」を紹介します。この落語は、夫の浮気で別れた夫婦が、幼い息子が縁結びとなってよりを戻す人情噺です。上、中、下の三話に分かれる大作で、通しで語ると1時間近くになります。一般的に、「子別れ」というと「下」の『子は鎹(かすがい)』をさします。

 

あらすじ

 

上:腕はいいのに大酒飲みで遊び人の熊さん。ご隠居の葬式の手伝いに来たのだが、大酒飲んでいい気持ちになり、吉原に繰り出そうということになる。仕事の前金を貰ったので、気が大きくなっているのだ。「銭がないから」としぶる紙屑屋さんを無理やり連れ出し、吉原で居続けのどんちゃん騒ぎを繰り広げる。別題『強飯の女郎買い(こわめしのじょろうかい)』

 

中:この店で昔なじみの女郎に会った熊さんは、いい気になって4日間も居続けて、ようやく帰宅する。家ではしっかり者の女房と息子の亀吉が待っている。熊さんは、何日も家をあけた後ろめたさで素直に詫びることができない。あれこれ言い訳をしているうちに、女郎ののろけ話を始めてしまう。夫婦喧嘩のあげく、女房は離別を申し出て、息子を連れて出て行ってしまう。熊さんは、なじみの女郎を後添えにしたが、これが何もしない、だらしのない女。その女もやがて姿をくらましてしまう。別題『子別れ』

 

下:自分の行いを深く反省した熊さんは、酒を絶って仕事に励み、いまでは立派な棟梁になっている。ある日、道で息子の亀吉に出会う。いろいろと話しを聞いてみると、母親はどこにも再婚せずに、手間賃仕事をして質素に亀吉を育てているという。男親がいないため、時には情けない思いをするという話しを聞いて、「みんな自分の飲んだくれから出たこと」と、思わず涙する熊さん。亀吉に小遣いを渡し、翌日に鰻をご馳走する約束をして別れるが、「おとっつぁんに会ったことは内緒だ」と言い添える。

 

しかし、家に帰った亀吉は、母親に小遣いを見つけられ、問い詰められる。人様のものに手をかけたと考えた母親は、「どうしても言わないなら、おとっつぁんの玄翁(げんのう:大型の金づち)で叩くよ」と玄翁を振りあげる。亀吉は、父親に貰ったこと、鰻を明日、ご馳走になることを白状してしまう。

 

翌日、母親は、亀吉にこざっぱりとした着物を着せて送り出すが、気になってしかたない。鰻屋の前で行ったり来たりしていると、亀吉が座敷に招き入れた。久しぶりに再会した元夫婦。堅くなっている二人だが、子供の手引きで、めでたく親子三人出直そうということになる。母親が「夫婦がこうして元のようになれるのも、この子があればこそ。本当に子供は夫婦の鎹(かすがい)ですね」と言うと、亀吉が「あたいは鎹かい。どうりで昨日、玄翁で頭をぶつと言った」。

別題『子は鎹』

 

名作人情噺の必須の三要素とは

 

初代・春風亭柳枝の作といわれ柳派系統の屈指の人情噺といわれます。名人・上手が手がける大作で、現在、上中下を通しで語る落語家はほとんどいません。過去には、古今亭志ん生三遊亭円生三笑亭可楽古今亭志ん朝などの名人が手がけました。近年では、柳家小三治柳家さん喬柳家権太郎、柳亭市馬などが手がけています。

 

飲んだくれの職人が、心を入れ替え働くようになり、親子三人が新たに出直すことになるというハッピーエンドの人情噺です。「芝浜」もそうですが、駄目な人間の再生、夫婦愛や親子愛、ハッピーエンドなどの要素は、名作人情噺には必須の要素ですね。

 

再会した夫婦が堅くなってぎごちなく会話しているのを、息子の亀吉が引っ張っていき、結びつけるラストが聴きどころ。時間のあるときに、ゆっくりと楽しんでいただきたい名作落語です。

 

古今亭志ん朝「子別れ」

www.youtube.com

 

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みなと毎月落語会「白鳥、彦いち、白酒三人会」:白鳥よ、より高みへ!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年12月11日、赤坂区民ホールで開催されたみなと毎月落語会に行ってきました。出演は三遊亭白鳥林家彦いち桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ)。人気落語家の三人会なので、期待が高まります。

 

みぞれ交じりの雨が降る平日の夜、会場の赤坂区民ホールには、たくさんの人が集まってきます。仕事帰りの方や、1人で来ている方も多く、この落語会の人気の高さがうかがえます。区民ホールは、客席にかなりの傾斜がつけられた見やすい会場です。開演時間の7時には満席となりました。

 

トップバッターは、林家彦いち師匠。落語家のダブルブッキング、レベルの低い高校での落語公演など、マクラでたっぷり笑わせます。

 

彦いち師匠の本編は、新作落語つばさ」。舞台は、誰もがつばさを持っている世界。主人公の彦いち師匠も、自分の翼で寄席から寄席へと移動している。しかし、この世界の隣りには普通の世界も存在していて、なにかの拍子に移動してしまうことがある。翼を持った彦いち師匠が、浅草の言問橋の欄干で羽休め(ひと休み)していると、突然、普通の世界に移動してしまい大慌てするというお話し。

 

彦いち師匠の創作落語には、タイムトラベルやパラレルワールドなどが登場するSF的な作品がいくつかあります。「つばさ」もそのひとつ。白鳥師匠のSF的な新作落語と違い、主人公が等身大なのが彦いちワールドの特徴です。異世界でも、セコいことや、ささいなことを悩んだりする主人公が笑えます。

 

白鳥師匠よ、より高みへ!

 

仲入り後に登場したのは、三遊亭白鳥師匠。彦いち師のマクラを受けて、自身のダブルブッキング体験を話し始めます。地震で新潟に来られなくなった柳家小三治師匠の代演を急きょやることになって、「詐欺!」と言われたという体験で、場内を沸かせます。

 

三遊亭白鳥師匠といえば、いまや新作落語界の巨人と言っても過言ではありません。SF的な作品から任侠もの、女性落語家向け、古典の大胆な改作など、尽きることのない発想力と構想力。「落語中興の祖・三遊亭円朝の名を継ぐのは白鳥」とまで言われる存在です。

 

この日のネタは、「シンデレラ伝説」。20年前に作ったという落語で、父親が息子に色々な名作童話を適当につなげて話していくという内容。この後に登場した白酒師匠も「ある意味、滅多にお目にかかれないものに出会えた」と言っていましたが、残念ながら、この日は首をかしげたくなる出来栄えでした。

 

北斗の拳」など、20年前の流行や風俗で作ったギャグは、いま聴くと、非常に古びたものに思えます。これは新作落語の宿命であり、白鳥師匠だけの問題ではありません。その時代の流行や風俗を取り入れたギャグは、しばらくすると古典落語以上に古びたものになってしまいます。新作落語ではストーリーの着想と骨格は残し、ギャグは年月と共に修正していく作業が必要ではないかと思います。

 

またこの日、もう1つ残念だったのは、噺の途中で「このギャグを浅草ホールでやったんだぞ、半分くらいの客はポカーンとしてたんだ」など傍白を多用していたことです。最近の白鳥師匠は、噺の途中での傍白が多いのですが、やはり残念。傍白はストーリーを断ち切ります。その類まれなる発想力から生み出されたストーリーを、私たち観客は、しっかりと聴き、その世界を脳裏に繰り広げたいのです。

 

白鳥師匠は、稀代のストーリーテーラーであり、円朝の大名跡を継ぐ方と私は信じています。ギャグをリバイスして、ストーリーをしっかりと聴かせ、将来に残る名作を生み出していただきたいと思います。

 

トリは桃月庵白酒師匠。彦いち、白鳥が場内をドカン、ドカンと笑わせてからの登場で、演目は古典落語の「禁酒番屋」。風貌に似合わない美声の持ち主・白酒師匠の落語が始まると、場内にホッとした空気が流れます。巧みな酔っ払い芸で、存分に楽しませてくれました。

 

この夜のお客さんは、目当ての演者がいて、笑おうと思って集まっている方ばかり。大声で楽しそうに笑う方も多く、盛り上がった落語会でした。業界トップクラスの人気を持つ三人。共通しているのは、マクラが抜群に面白く、また話し方、笑顔や体形になんともいえない愛嬌があります。人気の秘密を垣間見たような気がしました。

 

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太助セレクト落語 2019年2月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年2月のお勧めの落語会をピックアップしました。年始興行も一段落した2月は、じっくりと落語を楽しめる季節です。二つ目さんの落語を聴きに行って、未来の名人を探すのも楽しいものですよ!

 

雲助・一朝・小里ん「立春 雲一里」

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日時:2月4日(月) 開演:19:00

料金:3,500円

出演

五街道雲助「居残り佐平治」

春風亭一朝「火事息子」

柳家小里ん「猫の災難」

場所日本橋劇場(水天宮前)

問い合せ:03-5809-0550

⇒達者な師匠が3人そろい踏み。高座名の頭文字を取って「雲一里」。江戸の風情を感じさせてくれる公演会になること間違いなし。雲助師匠の「居残り佐平治」を聴けるなんて嬉しいです!

 

深川落語倶楽部

日時:2月6日(水) 開演:18:45

料金:3,000円

出演柳家喬太郎古今亭志ん輔春風亭一之輔林家時蔵春風亭ぴっかり

場所:深川江戸資料館

問い合せ:03-3633-7961

⇒深川江戸資料館のホールで開催される落語会。落語の前にぜひ館内も見学してください。リアルな江戸の町を体験できますよ。

 

鎌倉はなし会「柳家三三独演会」

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日時:2月11日(月) 開演:15:00

料金:3,600円

出演柳家三三、悠玄亭玉八、桂宮治

場所鎌倉芸術館

問い合せ:0467-23-0992

⇒古典だけでなく新作もこなす柳家三三師匠。故・柳家喜多八師匠から直伝の「二番煎じ」を掛けてくれます。幇間の悠玄亭玉八師匠も登場。陽気な桂宮司さんも加わって、楽しい高座が繰り広げられそうです。

 

白鳥トリビュート「こみち・こはる二人会」

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日時:2月14日(木) 開演:19:30

料金:2,000円

出演

柳亭こみち「鉄火のお千代」、他古典一席

立川こはる「女泥棒」、他古典一席

場所:Koenji HACO(高円寺)

問い合せ:090-4249-0852

⇒鬼才・三遊亭白鳥創作落語を女性落語家が手掛けます。キレのいいセリフまわしが特徴のこみち、こはるの二人会。

 

長講激突! ぜん馬・扇遊二人会

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日時:2月17日(日) 開演:13:00

料金:3,000円

出演:入船亭扇遊、立川ぜん馬

場所お江戸日本橋亭三越前

問い合せ:046-876-9227

⇒なかなか聴くことのできない長尺の落語をたっぷりと聴かせてくれる落語会。入船亭扇遊師匠は「付き馬」、立川ぜん馬師匠は「ちきり伊勢屋」を掛けてくれますよ。

 

 *情報内容-は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

 

太助セレクト落語 2019年1月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2019年1月のお勧めの落語会をピックアップしました。年末年始は、観客も増え、落語がいちばん活気づく季節です。正月気分で、のんびりと聴く落語は最高。ただし、年末年始の寄席はとても混むので、入場はお早めに!

 

特撰落語名人会「さん喬、菊之丞、白酒」

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日時:1月6日(日) 開演:13:00

料金:3,600円

出演柳家さん喬古今亭菊之丞桃月庵白酒

場所江東区文化センター

問い合せ:03-6240-1052

https://www.eifuru.com/ticket/534

⇒年明け最初の日曜日は、古典落語の練達による三人会。年初の落語会として、間違いのないメンバーです。華やかで、しっかりとした高座を楽しみましょう。

 

大古今亭まつり

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日時:1月14日(月)~18日(金)

開演:14日 13:00、15~18日 18:30

料金:3,800円(1階席)、3,500円(2階席)

出演古今亭菊之丞(14日主任)、金原亭馬生(15日主任)、桃月庵白酒(16日主任)、五街道雲助(17日主任)、古今亭菊之丞(18日主任)

場所日本橋劇場(水天宮前)

問い合せ:050-3497-5500

http://www.nihonbasikokaido.com/event/5296.html

⇒サブタイトルが「志ん生のDNAを受け継ぐ者たち」。古今亭のいまを伝える演者が勢ぞろい。日替わりゲストも、柳家喬太郎柳家権太楼、柳家さん喬師匠など豪華メンバーが登場。本寸法の古今亭の芸を堪能できる5日間です。

 

朝日名人会

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日時:1月19日(土) 開演:14:00

料金:4,300円

出演:入船亭扇遊「鼠穴」

古今亭文菊「七段目」

柳家喬太郎「偽甚五郎」

三遊亭萬橘「堪忍袋」

柳家喬の字「千早ふる」

場所有楽町朝日ホール

問い合せ:03-3267-9990(朝日ホール・チケットセンター)

https://www.asahi-hall.jp/yurakucho/concert/#02

⇒第186回を数える朝日名人会。年明けに扇遊師匠の「鼠穴」が聴けるなんて最高です。喬太郎師匠は、珍しい噺「偽甚五郎」をかけてくれます。

 

笑福亭たま深川独演会ファイナル

日時:1月25日(金) 開演:19:00

料金:2,500円

出演:笑福亭たま、(ゲスト)三遊亭萬橘、春風亭昇也

場所:深川江戸資料館

問い合せ:080-8515-1810

⇒古典だけでなく、新作落語、ショート落語も手掛ける笑福亭たま。笑いに引き込む腕力はとにかくすごいものがあります。2019年、東京でもブレイクなるか!?

 

広小路亭立川流夜席

日時:1月11日(金)~15日(火) 開演:18:45

料金:1,500円(前売)、2,000円(当日)

出演

11日(金)立川志の太郎、立川志奄、立川雲水立川談吉立川談修

12日(土)立川志ら乃立川ぜん馬土橋亭里う馬立川談四楼立川志らべ

13日(日)立川志ら門、らく兵、立川小談志、立川三四楼、立川左平次

14日(月・祝)立川只四楼、立川らく人、立川談之助、立川志ら玉、立川キウイ

15日(火)立川寸志、立川こはる立川龍志立川談慶立川志らら

場所:お江戸上野広小路亭

問い合せ:rakugotatekawaryu@gmail.com

落語立川流の定期落語会です。立川流は、出演者がきちんと落語を聴かせてくれるのが特徴。このお値段で、しっかりと落語が聴けるのは本当にお得です。お江戸日本橋亭や日暮里でも定期的に落語会を開催していますので、要チェックです。

 

落語立川流一門会情報http://tatekawa.info/2019-01/

 

*情報内容-は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

落語の登場人物:おかみさん~亭主を支えるしっかり者

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供(金ぼう、亀という名が多い)、商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の女郎や幇間。今回は、名バイプレーヤーというべきおかみさんを取り上げます。

 

落語には夫婦をテーマにしたものがいろいろあります。夫はボンヤリしていたり、なまけ者だったりですが、それを支えているのが、しっかり者のおかみさんです。

 

落語の貧乏夫婦ものの傑作は、なんと言っても「火焔太鼓」でしょう。道具屋の甚平さんは、ボ~としていて商売が下手。つまらないガラクタを高値で仕入れてきたり、自分のうちで使っている火鉢を売ってしまったりと、へまばかりしています。女房はしっかり者で、口が達者。甚平さんに「お前さんは、世の中ついでに生きているような人」「馬鹿がこんがらがっちゃったね」など、言いたい放題。しかし、甚平さんが商売下手でも暮らしていけるのは、しっかり者のおかみさんが居ればこそ。

 

「火焔太鼓」を聴くなら、何といっても古今亭志ん生です。自身も貧乏生活が長く、借金から逃れるために18回も改名をした志ん生。しっかり者のりん夫人に支えられ、50代でようやく花開いた遅咲きの名人です。まるで志ん生と夫人が投影されているようなこの噺は、志ん生のベストともいわれる一席です。

 

「火焔太鼓」古今亭志ん生

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女房のかわいらしさ、いじらしさが描かれる落語が「厩火事」。腕のいい髪結いのお崎が、仲人のところに相談にやってくる。お崎の夫は、7歳年下で遊び人。結婚して8年になるが、夫の本心がいまひとつ分からない。そこで仲人はお崎に2つのエピソードを話し、夫の心を試してみることを勧める……。亭主の悪口をさんざんまくし立てるのに、仲人に亭主の悪口を言われるとむきになって反論するお崎が、なんともかわいらしく、いじらしい噺です。

 

厩火事桂文楽

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落語に登場するおかみさんは、いい人ばかりではなく、ちょっと危ないタイプも登場します。

 

紙入れ」の出てくるおかみさんは、亭主の留守に小間物屋の新吉を引っ張りこんでいる。亭主は泊まりだからと、ご馳走を用意してゆっくり楽しもうとしているところへ、亭主が突然、帰ってきたから大慌て。間一髪のところで裏口から逃がすのだが、新吉は紙入れを忘れていってしまう。この中には、おかみさんからの呼び出し状が入っている。紙入れを置き忘れたことに気付いた新吉は、翌朝、恐る恐る様子を見に行くのだが……。腹の座ったおかみさんの登場する不倫噺。同じジャンルとして「風呂敷」「包丁」という噺もあります。

 

「紙入れ」桂歌丸

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しっかり者のおかみさんが登場する噺で傑作と呼ばれるのが、ご存知「芝浜」です。

 

魚屋の勝五郎は酒におぼれて、しばらく仕事をさぼっている。女房に尻を叩かれ、魚を仕入れに芝の河岸(かし)に来てみると、まだ早すぎて開いていない。仕方がないので芝の浜で一服していると、流れ着いた財布を見つける。開けてみると、なんと五十両もの大金が入っていた。勝五郎は長屋に戻り、仲間を集めて、大酒を飲み、ご馳走をふるまって、その日は寝てしまう。翌朝、「酒代はどうするのか」と尋ねる女房に、勝五郎は昨日の大金の入った財布の話しをする。ところが女房は「大金って何の話しだい? 夢でも見たんじゃないか」という。どこを探しても財布は見つからない。「あれは夢だったのか」とあきらめ、それ以来、心を入れ替え、酒を断ち、仕事に打ち込むようになる勝五郎。しかし、これは女房がとっさに機転をきかせて、夢物語に仕立て上げたのであった……。

 

年末の寒い時期に高座にかけられることが多い人情噺「芝浜」を、ぜひご堪能ください。

 

「芝浜」古今亭志ん朝

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深川江戸資料館:落語の風景を実感したいなら、ぜひ訪れたい!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語を聴いていると、長屋や宿屋、廓など、いろいろな場所が登場します。しかし自分の想像力だけでは、リアルに情景が浮かばないこともあります。そこでお勧めしたいのが「深川江戸資料館」です。

 

都営大江戸線清澄白河駅より、歩いて5分。江東区深川江戸資料館の魅力は、何といっても江戸時代末(天保年間)の深川の町並みを実物大で再現していることです。

 

地下1階から地上2階までの空間に作られた町並みには、表通りには大店(肥料問屋)や白壁の土蔵、船宿が並んでいます。通りに沿って猪牙舟の浮かぶ掘割も作られています。

 

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深川の大店といえば、木場材木問屋、米問屋、そして干鰯・魚〆粕(しめかす)・魚油を扱う問屋でした。佐賀町は隅田川河口にあって大船の出入りに便が良く、小名木川の水運もありこうした大店と倉庫が並ぶ町でした。

(深川江戸資料館ホームページより)

 

 船宿は、もとは船で遊びに行く客を送り迎えするところで、落語「船徳」などにも登場しますね。通りには八百屋やつき米屋も並んでいます。

 

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 船宿の帳場。大福帳やそろばんも触ることが可能

 

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表通りを抜けて火の見櫓のある広場に出ると、よしず張りの水茶屋や天麩羅の床店、二八そばの屋台などがあります。「時そば」などの落語が頭に浮かびます。八百屋とつき米屋の間の長屋木戸をくぐると、路地をはさんで長屋が軒を連ねています。

 

この資料館の魅力は何と言っても、店や長屋に実際に上がって生活用具などに触れられることです。長屋や船宿にあがってみると、その狭さや天井の低さに驚きます。長屋は本当に必要最低限の生活空間だったのだな、と実感できます。

 

展示は、そこに住む人々の家族構成や職業、年齢まで細かく設定され、それぞれの暮らしぶりにあった生活用品が展示されているそうです。例えば長屋の1つは、木場の木挽職人の家という設定。木場で働く職人なので大鋸や鳶口、大工道具が置かれてて、箱膳や女房の化粧道具も置かれています。水瓶(みずがめ)やかまどなどの大きさもリアルに知ることができます。

 

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木挽職人の家。正面にかけられた大鋸が目を引く

 

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また、一日の移り変わりが音響・照明などで情景演出されるのも面白い趣向です。時刻によって変わる町の風景を楽しむことができます。

 

深川江戸資料館には、この江戸の町を再現した常設展示に加え、小劇場とレクレーションホールも備わっていて、落語を含め様々な催し物を定期的に開催しています。

 

落語好きの方は、ぜひ一度、足を運んでみてください。落語の世界の想像力が広がるはずです。清澄庭園と組み合わせれば、のんびりとした散歩も楽しめますよ。

 

江東区深川江戸資料館

住所江東区白河1-3-28 アクセス

TEL:03-3630-8625

展示室観覧料:400円(大人)

開館時間 展示室 9:30~17:00(入館は16:30まで)

小劇場・レクホール 9:00~22:00

休館日:第2・4月曜日(ただし祝日の場合は開館)

https://www.kcf.or.jp/fukagawa/

太助セレクト落語 2018年12月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年12月のお勧めの落語会をピックアップしました。年末は恒例の落語会などが目白押し。冬にピッタリの落語を聴いて、一年を締めくくりましょう。

 

 

文京らくご会「扇遊・兼好二人会」

日時:12月8日(土) 開演:14:15

料金:3,500円

出演:入船亭扇遊、三遊亭兼好

場所:文京シビック・小ホール(春日)

問い合せ:03-6304-8545

⇒江戸の粋を感じさせてくれる扇遊師匠と、いつも元気いっぱい兼好師匠。二人のコラボレーションが、どんな世界を生み出してくれるのか、期待大です!

 

COREDO落語会

日時:12月9日(日) 開演:17:00

料金:5,000円

出演柳家さん喬三遊亭小遊三柳家喬太郎、神田松之丞

場所日本橋三井ホール

問い合せ:03-6263-0663

⇒さん喬、小遊三喬太郎、松之丞と華のある演者が、豪華なホールに勢ぞろい。日本橋で賑やかな高座を見せてくれそうです。このメンバーを日本橋で見るなら、料金が高いのも仕方ないか……。(入場時にドリンク代金が別途必要です)

 

みなと毎月落語会「白鳥、彦いち、白酒三人会」

日時:12月11日(火) 開演:19:00

料金:3,500円

出演三遊亭白鳥林家彦いち桃月庵白酒

場所赤坂区民センター

問い合せ:03-6452-5901

⇒落語初心者にもお勧めしたい落語会。白鳥、彦いち、白酒の三人だったら間違いなく大笑いできますよ。新作落語を聴いたことのない方も、これを機会にぜひ楽しんでみてください。

 

年忘れ市馬落語集

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日時:12月27日(木) 開演:18:30

料金:S席6,000円、A席5,500円

出演柳亭市馬柳家三三三遊亭兼好春風亭一之輔林家たけ平桂夏丸林家つる子、春風亭一花、林家なな子

場所大井町きゅりあん(大ホール)

問い合せ:03-6277-7403

⇒いまや年末は第九ではなく、市馬の落語集と呼ばれるまでになった(?)年末の恒例イベント。国民的行事となる日も近い!? オーケストラも入って、お祭りのような賑やかさ。ぜひ、楽しみに出かけましょう!

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

落語『棒鱈』:芋侍を笑い飛ばす江戸っ子の心意気

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。いま『棒鱈(ぼうだら)』という噺を稽古しています。

 

料理屋の二階で江戸っ子が二人で飲んでいる。一人は酒癖が悪く、すでに酩酊状態。芸者を呼んで待っていると、隣の座敷に芸者が大勢入って、大騒ぎしているのが聞こえてくる。隣ではしゃいでいるのは薩摩侍。マグロの刺身を「赤べろべろの醤油漬け」と呼んでみたり、野暮ったい歌ばかりうたうので、酔った江戸っ子は腹が立って仕方ない。相方が止めるのも聞かず、隣の侍の顔を覗きに行くのだが、酔っているのでふすまごと座敷に転がり込んでしまう……。

 

この田舎侍が噺の中で、国元の歌(?)をいろいろと歌います。

 

もずの口ばし

♪もずの口ばし 三郎兵衛のなぎなた 差せやから傘 ワッキリ チャッキリ~

 

十二か月

♪1月 1がち~は 松飾り、2月 2月はひなまちゅり、3月 3月はテンテコテン~

 

琉球

琉球へおじゃるなら わらじ履いてや おじゃれ~

 

江戸っ子が粋な都々逸(どどいつ)で対抗しようとしてもお構いなし。嬉しそうに田舎侍は歌い続けます。

 

将軍のお膝元に暮らすことを誇りとした江戸っ子の心意気

 

この落語は、田舎侍の野暮ったさを、とことん強調して笑い飛ばす噺です。落語は基本的に町人が主人公であり、侍は威張りくさったイヤな奴という役どころです。これは江戸っ子の気分を表しているのでしょう。中でも馬鹿にしていたのが、地方から江戸に来ている各藩の侍です。江戸屋敷に住む彼らを「田舎侍」と呼び、その野暮ったさを笑い飛ばしていました。

 

しかし、ご存じのように慶応3年(1867)に大政奉還、翌4年には徳川家は新政府に江戸城を明け渡します。明治政府の中心メンバーである薩摩藩長州藩藩士たちが、わがもの顔で江戸に乗り込んできたのです。

 

徳川家は駿河遠江国など70万石に移封となります。800万石といわれた所領が10分の1以下になってしまったわけです。

 

『大奥の女たちの明治維新』という本によれば、この時期の幕臣の数は3万人強。70万石の大名として召し抱えられる藩士の数は5千人程度。2万人以上の幕臣には、徳川家の籍を離れてもらう必要がありました。このとき徳川家は、幕臣に3つの選択肢を提示したそうです。

 

①新政府に帰順して朝臣となる。つまり政府に出仕する。

②徳川家にお暇願いを出して、新たに農業や商売を始める。

③無禄覚悟で新領地の静岡に移住する。

 

新政府に仕えるか。武士を捨てて商売か農業を始めるか。それとも、藩主と共に無給を覚悟で静岡に移住するか。徳川家としては身上が10分の1以下になってしまうため、①の「新政府に仕える」を選んでもらいたかったはずです。しかし、新政府に仕えることを潔しとせず、静岡移住を選んだ幕臣は1万人以上になったそうです。

 

政府に仕えることを良しとしない空気は、幕臣の間で非常に強かった。朝臣となった幕臣を裏切り者扱いし、白眼視した。

 こうした空気は、魚屋や八百屋も共有していた。政府に身を売った幕臣の家には、魚も野菜も売らなかったという。将軍のお膝元に暮らすことを誇りとした江戸っ子の心意気といったところだ。(p.61)

 

 

政府への出仕を決めた幕臣にも後ろめたい気持ちがあり、人とはなるべく会わないように暮らしたそうです。しかし、結果として彼らの選択は賢明でした。農業や商売を始めた者は、「士族の商法」という言葉があるように大半が失敗。また武士の意地を貫き、静岡に無禄覚悟で移住したものは、ひどい生活難になり、ときには草まで食べるというような困窮生活を送ることになります。

 

ともあれ江戸っ子には、田舎侍、ましてや薩摩侍に対する強い侮蔑の感情があったようです。落語「棒鱈」は、そのような江戸っ子の心意気がうかがえる興味深い落語です。ぜひ、聴いてみてください!

 

参考文献

『大奥の女たちの明治維新

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安藤優一郎(著)

朝日新聞出版社

 

柳家さん喬「棒鱈」

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落語ディーパー:東出昌大の落語への熱愛ぶりが微笑ましい落語番組

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http://www4.nhk.or.jp/P4544/

 

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。NHK不定期に放映されている『落語ディーパー』をご存知でしょうか。サブタイトルには、「東出・一之輔の噺(はなし)のはなし」と銘打たれています。

 

NHKのホームページには、このように番組紹介されています。

 

落語に魅せられた東出昌大が、「若い世代が落語を知らないなんてもったいない」と立ち上がり、毎回ひとつの演目をとりあげ、春風亭一之輔柳家わさび、柳亭小痴楽、立川吉笑、雨宮萌果アナウンサーと深―く語り合います。

 

落語を深く掘り下げて、解説していく番組

 

この番組では、毎回、落語1話を取り上げ、ストーリーを紹介し、噺の聴きどころを解説していきます。また、過去の名人のお宝映像も数多く放映されます。例えば、「居残り佐平治」を紹介した回では、主人公の佐平治が客をヨイショする場面での、古今亭志ん朝立川談志五代目・三遊亭円楽それぞれの高座を流してくれました。各回の噺は、出演の落語家が演じてくれ、番組内では見ることができませんが、ネットで視聴することが可能です(放映後、1週間程度の期間限定)。

 

2017年に放映された第1弾では、「目黒のさんま」「あたま山」「お菊の皿」「大工調べ」。2018年に放映された第2弾では、「地獄八景亡者戯」「明烏」「鼠穴」「粗忽長屋」「居残り佐平次」が取り上げられました。

 

NHKの落語関連の番組では「超入門!落語THE MOVIE」を、以前、紹介したことがあります。「超入門!落語THE MOVIE」は、落語の演目を映像化しているのですが、この番組の特徴は、落語家の喋りに合わせて、俳優がいわゆる「口パク」で登場人物を演じていることです。俳優は、自分のスピードでセリフを言えないので、何回も撮り直しをするそうです。その制作エピソードを聞いたとき、「どれだけ贅沢な番組なんだ!?」と驚きました。

 

民放と違い、視聴率や広告クライアントの意向などに振り回されることの少ないNHKならではの贅沢な番組作りです。この落語ディーパーも、「よくぞここまでマニアックに作り込んだ」といえる番組です。通常、夜11時から30分の番組ですが、視聴率を考えると、ここまで凝った番組作りは民放では難しいでしょう。「目黒のさんま」って、30分語るほどの深い噺でもない気がするし……。

 

この番組で、各演目に対する落語家さん、それぞれの捉え方の違いを聞いていると、落語は解釈によって随分と変わるものだということを実感します。

 

名人・上手の落語家が作り上げる独自の人物像

 

古典落語の場合、台本は存在します(通常、口伝というかたちをとりますが)。それを落語家は自分なりに解釈して演じます。つまり演出家と役者を兼ねているようなものです。基本的な噺の骨格と登場人物は設定されていますが、その登場人物の性格や各場面での感情のあり方などは落語家の手にゆだねられています。解釈しだいでは、独自の性格を作り上げることもできます。

 

前述した「居残り佐平治」は、主人公の佐平治が金もないのに遊郭で仲間と豪遊し、金を返すためにその店に居残る噺です。仕事にそつがなくて愛嬌のある佐平治は、客からも大変に可愛がられるようになります。仕事や祝儀を奪われた店の連中は、店の主人に佐平治を追い出すように頼み込みます……。実はこの佐平治、居残りを稼業とする悪い奴。この主人公を、談志や円楽は「調子のいい人間」として描き、志ん朝は「愛想のよい憎めない」という人物像に仕上げました。落語ディーパーで春風亭一之輔は、かなりの悪漢にして演じていました。

 

名人・上手と呼ばれる落語家は、噺を師匠から教わったとおりに演じるだけでなく、必ず自分なりの人物像にまで練り上げていきます。この辺りが凡庸な落語家との大きな差なのです。

 

この番組のもう1つの魅力といえば、何といっても進行役の東出昌大の落語への熱愛ぶりでしょう。落語にはまると、いっとき高座に足しげく通い、落語のCDやDVDを視聴しまくり、自分のお気に入りの噺や落語家を見つけていきます。彼もいまそのような狂熱の季節にいるのでしょうか。番組の中で落語への熱い思いがストレートに伝わってきます。その純粋さは、とても気持ちの良いものです。

 

NHKならではの贅沢番組、「超入門!落語THE MOVIE」と「落語ディーパー」は、落語に興味がある方、落語への理解を深めたい方にお勧めの放送です。どちらも不定期放送なのでお見逃しなく!

 

NHKホームページ

www4.nhk.or.jp

 

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『マリア・シャラポワ自伝』トップの座に就き、トップであり続けるための条件

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。最近、「プロとアマチュアの差とは何だろう?」と考え続けています。そこへ飛び込んできたのが、テニスの大阪なおみ全米オープン制覇です。日本人初の快挙ということで、大きなニュースとなりました。テニス好きの太助はこのニュースを聞いて、17歳で全英オープンを制したマリア・シャラポワについて思い出しました。

 

プロになるまでの波乱万丈の人生

 

190cm近い身長とブロンドの髪を持つ端麗な容姿のテニスプレーヤー、マリア・シャラポワをご存じの方も多いと思います。17歳にして全英オープンを制覇し、その後、世界ランキング1位を獲得、生涯グランドスラム(4大大会をすべて制覇)も達成した、まさにテニス界のトッププレーヤーです。

 

試合中のシャラポワは、1球打つたびに大きなうなり声をあげ、獣のような眼光で相手をにらみつけてコートを走り回ります。容姿が端麗なだけに、プレースタイルとのギャップが際立ちます。優雅とはほど遠い、そのプレースタイルを嫌う人もいます。

 

彼女は、なぜ獣のように戦い続けるのか? その秘密はマリア・シャラポワ自伝』の中で解き明かされます。そこに描かれているのは、想像を絶するようなシャラポワの生い立ちです。

 

1986年ロシア・チェルノブイリ原発事故が発生。近隣に住んでいた両親はシベリア移住を決断し、その翌年、シャラポワが生まれます。テニス好きの父の影響により、4歳でテニスをスタート。6歳のとき、伝説的なテニス選手であるナブラチロワに見いだされ、アメリカに行き、テニス技術を磨くように勧められます。ここでシャラポワの父・ユーリは、仕事を辞め、娘を世界一のテニスプレーヤーにすることを決意します。

 

ビザを取ることさえ困難な時代に、父・ユーリは全財産と借金でこしらえた700ドルを持ち、6歳の娘とアメリカへ旅立ちます。しかし到着した空港には、迎えに来るはずのコーチは現れません。英語をひと言もしゃべれない親子は、たまたま知り合ったポーランド人夫婦の助けを借り、自分たちを受け入れてくれるテニスアカデミーを探し歩きます。

 

なんとか著名なアカデミーに入校でき、おんぼろアパートの一室を借り、親子のアメリカ生活はスタートします。セレブの娘たちが世界中から集まるアカデミーで、ロシアから来た貧しい6歳の娘は、戦う世界の掟を含め、いろいろなことに気付きます。

 

少女たちは世界中からこのアカデミーに来ていた。まあまあ上手な子もいた。かなり上手な子も。優秀な子もいた。でも大半はさほど上手ではなかった。こうしたプレーヤーたち、アカデミーに真の意味での利益をもたらしている生徒がいたのは、彼らの親が現実に向き合うことができなかったからだ。

 

この世界では、とても上手というものと、優秀というものの間にはグランド・キャニオン並みに大きな差があった。(p.51)

 

 

移民として生き残ろうとする父と娘には、苦難が次々に襲いかかります。なんとか入校したアカデミーも他のテニスママのいじめにより追い出され、別のアカデミーへ。しかし、ここでは英語が理解できないのにつけこまれ、ひどい条件の奴隷契約を結ばされそうになります。さらに父親は過酷な労働により体を痛め、家賃が払えなくなり、アパートを追い出されそうにもなります。

 

しかし、不運のあとには幸運が訪れます。たまたまテニストーナメントで知り合った人間に苦境を訴えたところ、契約書に詳しい知人を紹介してくれ、さらに自宅に住まわせてくれたのです。

 

戦場で友人を作ることに、わたしは関心がない

 

こうした苦境の中で、シャラポワはテニスの腕を上げるとともに、強固な性質を作り上げていきます。

 

ボールを打つとき、わたしは小さくうなった。子供のころでさえ、わたしはまわりから自分を切り離そうとしていた。感情を持たない。恐怖を感じない。氷のようになる。ほかの女の子と友達にならなかった。そんなことをすれば、わたしはさらに優しくなり、さらに負けやすくなるから。まわりの少女は世の中で最高に親切な子たちだったかもしれないが、わたしはそんなこと知ろうともしなかった。知らないでいようと決めたのだ。(中略)自分の最大の強みはそういう性質なのだ。だったら、それを捨てるべきではない。

 

戦場で友人を作ることにわたしは関心がない。友達になったら、武器を捨てることになる。(p.59)

 

 

こうしてテニストーナメントを戦い続ける中で、シャラポワは頭角を現し、スポーツエージェンシーにも見い出されて、スポンサーがつくようになります。

 

それにしてもテニスの世界は過酷です。

 

(父親と)ふたりだけでトーナメントからトーナメントへ、街から街へ、ホテルからホテルへと旅をした。北米からアジアやヨーロッパへ行き、また北米へ戻ってくるというように。強行軍だった。いつ終わるともわからないツアー。世界中を旅しながらも、何ひとつ見ることはない。(中略)いつも同じ顔ぶれ、同じライバル、同じ争い。毎日が同じ日。繰り返し、繰り返し。(p.154)

 

6歳からプロテニスプレーヤーの道を歩み始めたシャラポワは、16歳でツアー初優勝。17歳でテニスの聖地ウィンブルドンで、2004年の全英オープン優勝を成し遂げます。そして2005年には世界ランキング1位まで駆け上がります。

 

トップの座に就き、トップであり続けるための条件とは

 

2008年までに4大大会で3回の優勝を重ね、トッププレーヤーの座に就いたシャラポワ。しかし、彼女の波乱のキャリアはまだ続きます。この年、長年の蓄積疲労もあり、肩の手術に踏み切ることになり、長期の休養を余儀なくされます。手術後のリハビリを経て復活し、2012年には全仏オープンを制覇し、生涯グランドスラムを達成。その年のロンドンオリンピックでは、ロシアの旗手を務めます。

 

しかし、2016年に国際テニス連盟からドーピング疑惑の指摘を受けてしまいます。心臓疾患のため永年服用していたサプリメントが、2016年に禁止薬物に指定されたことに気付かず、使用を続けていたからです。シャラポワは、この疑惑を受けていることを自ら公表し、国際テニス連盟と争いますが、15か月の出場停止となってしまいます。彼女のスポンサークライアントは、この騒動ですべて離れていきます。

 

15か月に渡る出場停止期間を経て、2017年、シャラポワは再び、テニスプレーヤーとしてカムバックし、歩み始めます。

 

それにしても、なんという凄まじい人生でしょう。中高年世代は、マンガ「巨人の星」を思い出すかもしれません。貧しい家庭に生まれた星 飛雄馬(ほし・ひゅうま)が、父のスパルタ指導のもとプロ野球のエースピッチャーになり、ライバル達と戦い続けるというマンガです。現在、小説やマンガで、「巨人の星」のようなストーリーを展開したら、荒唐無稽と言われかねません。

 

巨人の星」は1960年代のマンガです。60年代の日本には、貧困が目に見えるかたちで、あちこちに数多く存在していました。貧困から抜け出すための1つの手段としてスポーツや芸能があり、漫画化もされていたのです。現代の日本においても、貧困はなくなったわけではありません。しかし、そこから抜け出すことをテーマにしたストーリーには、リアリティがなくなってしまいました。いまは、貧困など重たいものを背負わない、軽やかな天才がもてはやされる時代となりました。

 

しかし、この父娘を見ると、まだまだ世界には、何かを背負いながら戦い続けているアスリートがいることを実感します。

 

世界中を巡り、独りで戦い続けるプロテニスプレーヤーは、本当に過酷な職業です。20代中盤を過ぎると体はボロボロになり、20代後半には引退を考え始めます。世界中の天才たちと戦いを繰り広げ、トップの座に就いても、すぐに新たな天才が現れてきます。世界No.1の座に就き、生涯グランドスラムを達成し、目的を失いかけたシャラポワは、このドーピングによる出場停止により、新たな闘志を燃やし始めます。

 

この本の最後で、彼女はこのように結んでいます。

 

今はテニスをすることだけ考えている。できるだけ長く。できるだけ激しく。ネットが取り払われるまで。ラケットが焼き尽くされるまで。わたしが止められてしまう日まで。止められるものなら、やってみるがいい。

 

天才たちが集まるプロ集団の中で、トップの座に就き、トップであり続けるための条件。それを垣間見ることができる貴重な1冊でした。

 

マリア・シャラポワ自伝』

マリア・シャラポワ(著)

文藝春秋

 

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太助セレクト落語 2018年11月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年11月のお勧めの落語会をピックアップしました。暑さがやわらいできたと思ったら、早くも年末の情報をお届けする季節になってしまいました。11月はめずらしい組み合わせの落語会も登場します。チケット予約はお早めに!

 

道楽亭出張寄席

立川こはる春風亭百栄師の胸を借りる」

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日時:11月4日(日) 開演:18:00

料金:2,500円

出演立川こはる春風亭百栄

場所お江戸日本橋亭三越前

問い合せ:03-6457-8366

⇒旬の若手噺家が,尊敬する師匠の胸を借りるシリーズ。今回は立川こはるが、古典・新作両刀遣いの爆笑王春風亭百栄師匠の胸を借ります。いつも元気いっぱいの立川こはるが、何かを得るのか? それとも叩きのめされるのか!

「道楽亭出張寄席」専用予約フォーム

http://dourakutei.com/schedule/reservation_a/

 

二人三客の会

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日時:11月9日(金) 開演:19:00

料金:3,100円

出演:入船亭扇遊、瀧川鯉昇、ゲスト・三笑亭夢丸、江戸家小猫

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

⇒先日の三越落語会でも、扇遊、鯉昇師匠の組み合わせのおもしろさを堪能しました。粋な古典落語の世界を楽しみたいのなら、ぜひこの落語会に足を運んでください。ゲストの夢丸師匠もいち押しです!

横浜にぎわい座チケット購入

http://nigiwaiza.yafjp.org/ticket/

 

新風落語会「めざせ! 芸能ホール独演会」

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日時:11月13日(火) 開演:19:00

料金:3,100円

出演:三遊亭わん丈、立川こはる桂宮治、ゲスト・三遊亭兼好

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

⇒のげシャーレで独演会を行っている若手精鋭が、芸能ホールでの独演会を目指して競います。ゲストは、のげシャーレから見事、芸能ホールでの独演会へとステップアップを果たした三遊亭兼好師匠です。

横浜にぎわい座チケット購入

http://nigiwaiza.yafjp.org/ticket/

 

談志まつり2018「立川談志追善 特別公演」

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日時:11月20日(火)17:00、21日(水)12:00、21日(水)17:00

料金:各4,500円

出演

20日(火)立川談四楼立川談笑立川ぜん馬立川キウイ立川談慶、立川平林

21日(水)12:00 立川龍志立川談之助立川志らく立川雲水立川談修立川談吉

21日(水)17:00 土橋亭里う馬立川談春、立川生志、立川志の輔立川志遊立川小談志

場所:よみうりホール(有楽町)

問い合せ:03-5785-0380

⇒今年も立川談志の命日に合わせて「談志まつり2018」が開催されます。談志直弟子全員による追善落語会に加えて、さまざまなゲストも登場。今回のゲストは、Mr.マリック/超魔術(20日夜)、ピコ太郎/歌(21日昼)が出演します。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

三越落語会(第605回):さん喬、鯉昇、左龍、扇遊、夢丸 古典の名手が一堂に!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年9月19日、三越落語会に足を運びました。長い歴史のある落語会で、今回でなんと605回。出演は、三笑亭夢丸(さんしょうてい・ゆめまる)、柳亭左龍(りゅうてい・さりゅう)、入船亭扇遊(いりふねてい・せんゆう)、瀧川鯉昇(たきがわ・りしょう)、柳家さん喬(やなぎや・さんきょう)。

 

なんとまあ豪華な! 古典落語の名手が勢ぞろいです。太助のいち推しの落語家、夢丸、左龍、扇遊、鯉昇を一度に観られるなんて、滅多にないこと。期待に胸をふくらませて、日本橋三越本店6階の三越劇場に足を運びました。

 

三越劇場は、世界でも珍しい百貨店内にある劇場です。1927年(昭和2年)に作られたホールは、ステンドグラスをはめ込んだ天井や、大理石と石膏彫刻で作られた周壁などが、開場当時のままの姿で保たれています。良く言えば重厚、悪く言えば古くさいホールです。昔ながらの劇場なので客席に傾斜がなく、座席の各列がずらしてあるなどの配慮もないため、自分の前に大きな人が座ってしまうとかなり見づらくなります。

 

古典落語5人の名手による夢のような競演

 

18:00の開演で、トップバッターは三笑亭夢丸師匠。愛くるしい童顔と小気味のよい活舌で語るは「富士詣り(ふじまいり)」。長屋の連中が「六根清浄、お山は晴天」と唱えながら、ヨタヨタと富士山を登っている。すると急に雲行きがあやしくなり、暗くなってきた。五戒を犯した者がいると、山の神様の怒りに触れ、山が荒れるのだ。懺悔して許しを乞わないと、天狗に股を裂かれると先達さんは言う。一行は、それぞれ自分の罪を懺悔し始めるのだが……。夢丸師匠が登場すると、とにかく場がパッと明るくなります。30代半ばで、名手揃いの今回のメンバーに選出されていることをみても、その評価の高さがうかがえます。時間の関係か、終盤、駆け足での語りになってしまったことは残念ですが、夢丸師匠らしい明るい高座を楽しめました。

 

二席目は、太助お勧めの柳亭左龍師匠まんまるな顔とクリクリした目のユニークな顔立ち。風貌に似合わぬ、よく通る声と切れのいい口調。本日の演目は「壺算(つぼざん)」。友達に頼まれて、水がめを買いに来た熊さん。二人が買いたいのは二荷(にか)の大きな水がめ。ところが熊さん、最初に一荷(いっか)の水がめを値切り倒して3円で購入。辺りをぐるり一周してから店に戻り、「買う壺を間違えたから、この一荷のかめを下取りしてもらい、二荷のつぼを買いたい」と店主に告げる。頭が混乱した主人は、熊さんに言いくるめられていく……。左龍師は、メリハリの効いた口調で、場を大いに盛り上げていました。

 

三席目の入船亭扇遊師匠は「藁人形(わらにんぎょう)」。女郎のお熊に隠し金をだまし取られた願人坊主(がんにんぼうず)の西念。あまりの悔しさに呪いの藁人形で、恨みを晴らそうとする……。なかなか聴く機会のない珍しい噺で、「黄金餅(こがねもち)」などにも通じるドロドロとしたダークな落語です。夢丸、左龍師匠が温めた客席が、扇遊師のキリっとした口調で引き締まった空気に一変します。ハラハラさせながらも過度に暗くならず、終盤では少し笑いの要素も入れての興味深い高座でした。

 

江戸の世界にとっぷりと浸かることができる至福の時間

 

三越落語会は、弁当付き団体客のために仲入り(途中休憩)が25分もあり、ビールなども劇場内で売られます。慣れた方は、お弁当を用意しての鑑賞です。

 

仲入り後の登場は、瀧川鯉昇師匠。「桂 米丸師匠は幼少時に黒船を見たと言われている」など、おなじみのマクラで大きな笑いを取ります。本日の演目は「武助馬(ぶすけうま)」。旦那のところにかつての奉公人・武助が久しぶりに訪れる。いろいろな職業を経て、いまは役者になったという。しかし話しを聞いてみると、動物の役ばかり。当地に興行に訪れたのだが、役は馬の後ろ足。旦那は知人を引き連れて、武助の芝居見物に行ってやるのだが……。この噺もなかなか聴く機会のない珍しい落語です。武助やオンボロ一座のダメっぷりが、鯉昇師のほんわりとした口調で、ほのぼのと楽しく描き出されます。この日、もっとも笑いをとっていた一席でした。

 

トリは柳家さん喬師匠で「寝床」。義太夫好きの旦那が、自分の店で独演会を開こうとしている。いつも貸している長屋の連中を招待しているのだが、旦那の義太夫がひどすぎるため、みんないろいろな理由をつけては欠席しようとする。怒った旦那は「貸している家から、すぐに出ていけ!」と大変なご立腹。番頭がとりなして、義太夫の会が始まるが……。さん喬バージョンの「寝床」は、旦那の下手な義太夫を観客にたっぷり聴かせます。旦那が「オエッ、オエッ」と吐きそうな声を出して練習するシーンでは、観客を大いに笑わせていました。さん喬版「寝床」をたっぷりと堪能しました。

 

出演者全員が古典落語の名手揃い。スマートフォンやAKBが登場するようなカタカナギャグを入れる演者は一人もいません。落語の名手は、客を無理やり笑わせようとするのではなく、噺を聴かせようとするのですね。勉強になります。

 

それぞれの世界、スタイルが確立していて、まさに甲乙つけがたい高座ばかり。江戸の世界にとっぷりと浸かることができる至福の時間。豪華な一夜を過ごさせていただきました。三越落語会に感謝、感謝です。

 

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瀧川鯉昇「武助馬」

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落語の登場人物:八っつぁん、熊さんのエネルギーが「笑い」を巻き起こす!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁(おいらん)や幇間(ほうかん)。おなじみのメンバーですが、あなたの周りにも、きっと似たような人がいるはずです。ぜひ、探してみてください。今回紹介する登場人物は、八っつぁん八五郎)、熊さん熊五郎)です。

 

落語には長屋を舞台にした噺が多いのですが、この長屋の住人の代表格が八っつぁん、熊さんです。八っつぁん、熊さんという具体名が出てくる噺もあれば、ハッキリと名前は出てこないものもあります。

 

落語になくてはならない登場人物、八っつぁん、熊さんの特徴を列記してみましょう。

 

1)職人である

 

大工、左官、植木屋、魚屋など、職業はいろいろですが、長屋に住んでいる腕のいい職人です。

 

2)学がなく、礼儀作法などの知識がない

 

職人としての腕はいいのですが、学がなく、礼儀作法などの知識がありません。文字も漢字が混ざったりしていると、あまり読めません。

 

3)おっちょこちょいである

 

性格は、基本的におっちょこちょいで、直情径行(ちょくじょうけいこう)型です。相手や周りの状況を気にすることなく、自分の感情のおもむくままに行動します。

 

ただし、分からないことはご隠居さんに聞きに行き、「なるほど」と思うことには素直に感心します。しかし、よく理解しないまま、かたちばかり真似ようとして失敗することが多々あります。

 

4)言葉遣いが乱暴

 

江戸っ子の職人なので、いわゆる下町の江戸言葉「べんらんめえ口調」で話します。これは巻き舌の早口で、とても乱暴に聞こえる口調です。怒った時の啖呵などは、まさに「立て板に水」というやつで、べらんめえ口調で一気にまくし立てます。また、長屋の住人は基本的に口が悪く、人の悪口もずけずけと言います。

 

落語をやっていて困るのは、この「べらんめえ口調」が無意識に口をついてしまうことです。日常生活で「てやんでえ、この野郎」とか「うるせえ、このクソ婆あ」などの言葉が出てしまうことがあり、周りからギョッとされることがあります(汗)。悪気はないのです、八っつぁんも、熊さんも、私も。

 

5)道楽に夢中になっている

 

必ずしも、そうではないのですが、いわゆる「飲む(酒)、打つ(博打)、買う(女)」の道楽にはまっているケースも多くあります。

 

八っつぁん、熊さんの登場する噺は、小噺が多いような印象がありますが、長編のネタも結構あります。「妾馬(めかうま)」という噺では、八っつぁんは妹のおかげで出世して、ついには武士にまでなってしまいます(妾馬の別タイトルは「八五郎出世」)。熊さんが主役の噺では、長編人情噺の「子別れ」、シュールな味わいの「粗忽長屋(そこつながや)」、その他「大山詣り」「崇徳院(すとくいん)」などがあります。

 

八っつぁん、熊さんの過剰なエネルギーが、笑いを引き起こす

 

八っつぁん、熊さん噺の中でも傑作なのは「崇徳院」です。

 

ある大店の若旦那が、原因不明の病で寝込んでしまい、生死をさまよっている。医者が診ても原因が分からないのだが、若旦那は「熊さんになら打ち明ける」という。やってきた熊さんが聞き出すと、「恋わずらい」だという。若旦那が一目惚れした相手は、どこかのお嬢さんで名前も分からない。そのお嬢さんは、桜の枝に短冊をかけて去っていった。短冊には、百人一首でおなじみの崇徳院の「瀬を早み 岩にせかるる滝川の」と書かれている。下の句は「われても末に 逢はむとぞ思う」。手掛かりはこれだけ。

 

息子の身を案じる大旦那は、熊さんにそのお嬢さんを探してくれるように頼む。見つけることができたら、褒美として、いま住んでいる三軒長屋を熊さんにあげると言う。このとてつもない褒美に、熊さんは大発奮。「瀬を早み~」と大声を出しながら、湯屋や髪床を探し回るのだが……。

 

今回、八っつぁん、熊さんのキャラクターについて列記していると、突然、漫才のやすしきよし横山やすしが脳裏に浮かびました。直情径行(ちょくじょうけいこう)型で、相手や周りの状況を気にすることなく、自分の感情のおもむくままに行動し、道楽(ボートレース)に夢中。言葉遣いは乱暴だけど、根は素直。おっちょこちょいで失敗することも多いけれども、職人(漫才師)としての腕は最高。「横山やすしという人は、実に落語の世界を地でいくような芸人だったのだなぁ」と感慨にふけりました。

 

八っつぁん、熊さんは、ときに過剰すぎるほど過剰なエネルギーで、落語の世界の中を走り回ります。そのエネルギーが、落語に大きな笑いを引き起こします。落語「崇徳院」をお楽しみください。

 

古今亭志ん朝崇徳院

 

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『一発屋芸人列伝』:ブームが去っても、戦い続ける芸人たちへの応援歌

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。「プロとアマチュアの違いって何だろう」というテーマで、以前、こんなことを書きました。

 

将棋や囲碁のように、はっきりと勝敗のつく分野は容赦のない厳しい世界ですが、勝てないことで逆にあきらめがつくのかもしれません。落語家や役者は、勝ち負けのはっきりしない世界です。人気という漠然としたものが、才能のバロメーターになります。それは観客という他者の手にゆだねられているのです。

 

芸人の世界では、誰もが一度は人気者になることを夢見るでしょう。しかし、人気者になれる芸人は、ほんのひと握りであり、大半は名前も知られぬままの存在で終わります。

 

中には、学校や居酒屋、ネット上で彼らのギャグが飛び交い、フレーズが流行語になるような大ブレークを果たす者も現れます。しかしほとんどの場合、その流行は長くは続かず、テレビなどのメディアで、その姿を見かけることはなくなります。そのような芸人は、一発屋と呼ばれます。

 

一発屋と呼ばれる芸人たちの栄光と現在

 

一発屋芸人列伝』は、一度は世間に流行を巻き起こしたものの、表舞台から消えていった一発屋たちのその後をたどったノンフィクションです。筆者は、髭男爵というコンビで一世を風靡した山田ルイ53世。貴族のようなファッションに身を包み、ワイングラス片手に「ルネッサ~ンス」「○○やないか~~い」というフレーズで人気者となった髭男爵を、ご存じの方も多いと思います。現在、髭男爵をテレビで見かけるのは、一発屋芸人特集のみといってよいでしょう。つまりこの本は、書き手も一発屋なのです。

 

本書で取り上げられている芸人は、レイザーラモンHGコウメ太夫テツandトモジョイマンムーディ勝山天津・木村波田陽区ハローケイスケとにかく明るい安村キンタロー。髭男爵。一世を風靡した一発屋とそこまではいってない0.5発屋たちの、ブレークまでとブレーク後、そして現在をインタビュー形式で追っています。

 

本書を読んでいると、いくつか気付かされることがあります。

 

一発屋芸人と呼ばれる人達は“キャラ芸人”が多い。(p.18)

 

 

レイザーラモンHGはサングラスにレザーファッションのハードゲイ髭男爵はシルクハットにワイングラスの貴族、コウメ太夫大衆演劇の白塗りの女形波田陽区はギターを抱えた侍。確かに、一度見たら忘れられないようなビジュアルとそのキャラの吐く印象的なフレーズによって、全国区になった芸人ばかりです。

 

しかし、その印象的なキャラは、偶然に生まれたものではありません。例えば、髭男爵の「貴族」というキャラクターも、正統派の漫才では結果を出せず、10年にわたり鳴かず飛ばずの日々を送った末の、やむにやまれぬ決断から生まれたものだそうです。

 

本書に登場する芸人達は、「客にまったく受けない」「際立った特徴が何もない」などの致命的な欠点を克服するために悪戦苦闘し、その過程で客席のささやかな反応などを手掛かりにキャラを作り、ふくらませていきます。

 

こうして必死の思いで作り上げたキャラやフレーズが、何かのきっかけで注目され、ブレークを果たすわけですが、情報量がある臨界点に達すると、視聴者には「飽き」が生まれます。特にネットの発達した現在、一度注目されるようになると、その情報は驚異的なスピードで拡散します。しかし、その分、飽きられるスピードも早くなっています。

 

いまだに芸人として、もがき、戦い続ける者たち

 

本書は、「消えた」「死んだ」と揶揄される一発屋芸人たちが、いまだに芸人として戦い、もがき続けている姿を克明に描き出しています。

 

テレビでときどき放映される「一発屋芸人特集」は、売れっ子当時の収入と現在の収入を告白させて、そのギャップを笑うというような、冷笑的な視点で作られています。

 

日本人は、人が上昇していく姿に拍手を送るよりも、上昇した人間が落ちる姿を喜ぶ傾向があります。かつて人気を集めていたアイドルや芸人の現在の落ちぶれた姿を見て、「ざまあみろ」的な、意地悪な喜びを感じるようです。

 

これに比べ、本人も一発屋と呼ばれている著者・山田ルイ53世のまなざしは、冷静かつ客観的であり、根底にとても温かいものがあります。芸人達への「頑張れ」というエールが全編に感じられます。山田氏も、自分自身に同じ言葉をかけ続けているのでしょう。また、文中の芸人に対する記述も的確であり、独特のユーモアに包まれています。

 

本書に登場するのは、「毎日心がポキポキ折れる音が聞こえる」(ハローケイスケ p.154)ような日々を送りながらも、それでも芸人であることを捨てず、もがき続ける人たちです。

 

以前、私はプロの定義をこのように書きました。

 

生活のすべてを将棋や落語だけに捧げ、自分の才能と真剣に向き合い続け、それを長きに渡り継続することでしか、プロになる日は訪れない。そこだけは分野を問わず、変わらないものだという想いが去来しました。

 

一発屋と呼ばれる方たちの、芸人としての人生はまだ続いています。彼ら、彼女らは、いまだに自分の才能と向き合い続け、戦い続けています。その姿は間違いなく、プロフェッショナルと呼ぶに値するものだと思います。

 

一発屋芸人列伝』

山田ルイ53世(著)

新潮社

 

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江戸への旅路:落語『火事息子』~憧れの職業は町火消し

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉があります。江戸は大火事が多くて火消しの働きぶりがはなばなしかったことと、江戸っ子は気が早いため派手な喧嘩が多かったことをいった言葉です。

 

とにかく江戸時代は火事が多かったようで、市街を焼き尽くした大火災も10回あります。なかでも有名なのが明暦3年(1657)の明暦の大火、いわゆる振袖火事(ふりそでかじ)です。振袖火事は、江戸時代最大の火災で、江戸城本丸御殿と天守閣が全焼したほか、大名・旗本屋敷1200以上、寺社350余が消失、町の被害はさらにひどく、死者は総計10万人以上にのぼりました。

 

この火事を契機に都市計画が見直され、江戸城周辺に集まっていた大名屋敷や寺社は郊外に移され、上野広小路など各所に火除地(ひよけち:延焼を防ぐための空き地)が設けられました。また、隅田川に両国橋を架けて、本所や深川に造成した埋立地を町方の避難所としました。

 

江戸っ子の憧れの職業は「町火消し

 

振袖火事の翌年には火消しが組織化されます。その後、享保3年(1718)、町奉行大岡忠相(おおおか・ただすけ)は町火消しを作り、同5年には、いろは四十八組を編成し、本格的な町火消制度を発足させました。いろは組とは、隅田川を境とした西側の区域に組織されたもので、隅田川東側の本所・深川には16組の火消組を置きました。同時に各組ごとに目印となる纏(まとい)と幟(のぼり)を定めました。ちなみに町火消しに要する費用は、すべて町の負担です。

 

当時の消防は現在と違い、燃えている家を潰したり、風下の家を引き倒して延焼を防ぐ破壊消防が主流で、町火消しの主力は鳶人足(とびにんそく)になっていきます。鳶人足は各組ごとに、頭(かしら)、纏持ち(まといもち)、梯子持ち(はしごもち)、平人足と階層化されていきます。

 

町火消しの数は最盛期には、1万人にものぼり、江戸消防の中心的役割を担ったそうです。

 

火消しになりたくて勘当される若旦那が登場する『火事息子』

 

「芝で生まれて 神田で育ち 今じゃ火消の纏持ち」。粋でいなせな町火消しの花形、纏持ちは江戸っ子のアイドル、憧れの職業だったそうです。

 

落語「火事息子」は、火消しになりたくて、とうとう勘当されてしまった若旦那が登場する噺。

 

神田の大きな質屋の近くで火事が起きた。ところが預かり物をしまっている蔵に、火よけの目塗りがしていない。大騒ぎで目塗りを始めるが、素人ばかりで仕事がはかどらない。そこへ屋根から屋根へ軽やかに飛び移りながら、一人の火消人足(通称、臥煙・がえん)が駆けつけてくる。体中に彫り物を入れたその人足こそ、火消しになりたいと家を飛び出し、勘当されて行方不明だった息子の徳三郎であった……。

 

八代目・林家正蔵古今亭志ん生古今亭志ん朝立川談志など多くの名人が手掛けていますが、今回は三遊亭圓生バージョンをご紹介します。志ん朝や談志のカラリとした高座に比べ、圓生は濃密で湿り気が多いのですが、それも味わい。ご堪能ください。

 

三遊亭圓生「火事息子」

www.youtube.com

 

 

参考資料

東京消防庁:へらひん組がなかった「いろは四十八組」

東京消防庁<消防マメ知識><消防雑学事典>

 

『江戸の暮らし』山本博文(著)

日本文芸社

 

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