落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・おさむ家太助が、落語の魅力を考えます。

大崎善生『将棋の子』:プロとアマチュアの境界線とは何だろう?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。「プロとアマチュアの違いって何だろう」と考えることがあります。アマチュア落語家でも、プロ顔負けの上手な方がいらっしゃいます。しかし、どんなにうまくても、素人はプロの落語家にはなれません。

 

プロである条件ってなんでしょうか? それを本業として、食べていけることでしょうか? しかし落語家に限らず、役者や漫才師でも、それだけでは食べていけない人がたくさんいます。

 

落語家になるには、落語家に弟子入りを認められ、2~3年の前座修行を積まなければなりません。弟子入りして前座になることで、師匠の入っている落語団体に所属することになります。そして、前座から二つ目、真打と昇格していきます。真打になるには、入門から12~15年程度の歳月がかかります。このように師匠のもとで一定の年数修行を積むことが、プロの条件なのでしょうか? 

 

芸が下手で、落語家として食べていけなくても、果たしてプロと呼べるのでしょうか? そんなことを考えていたところ、大崎善生(著)『将棋の子』を読み返してみたくなりました。

 

『将棋の子』は、プロの棋士(きし)を目指しながら、夢破れて去っていく若者たちのノンフィクションです。

 

天才集団の中で勝ち抜いてプロを目指す過酷な世界

 

将棋界でプロとして認められるのは、四段からです。三段までは奨励会に所属します。奨励会とは日本将棋連盟の組織の一つで、棋士になるための修行の場であり、同時に淘汰の場です。

 

全国から集まったプロを志す将棋の天才少年たちは奨励会に入会して、そこで初めて自分が天才でも何でもなく、将棋棋士を目指すごく普通の人間の一人であることを知る。地方にいたころは大人にさえほとんど負けることがなかった少年も、自分よりも年下の子供に手もなくひねられるという現実が待ち受けている。一度、天才の集団に入ってしまえば、どんなに優れていたとしてもごく平凡な存在になってしまうのだ。(p.45)

 

ここで少年たちはプロを目指すのですが、そのための関門が2つあります。まず21歳までに初段を取らねばならず、その後、奨励会三段リーグでわずか2人の昇段枠を勝ち抜いて、初めてプロになれるのです。この三段リーグも26歳という年齢制限があります(年齢規定は本書執筆時)。三段リーグは26歳になっても勝ち越していれば、最高29歳まで在籍可能と規定変更されたそうですが、それでも20代で自分の夢に決着をつけなければならないのです。

 

著者の大崎善生は大学在学中に将棋にのめり込み、将棋道場に通いつめてアマ4段を獲得。この道場の縁で、日本将棋連盟で働くことになり、多くの若い奨励会員たちと知り合いになります。

 

本書は、著者の同郷の奨励会員・成田英二が夢に破れていく過程と、その後が描かれています。また、その同時代を生きた多くの若き奨励会員たちも登場します。勝ち抜くことでしか夢をつかめない彼らの日々は、過酷です。そして、勝負は能力だけで決まるわけではありません。

 

棋士たちの極限の戦いは、定跡や知識や読みや感性や、そんな人間の持つ武器のあらゆるものを超える崇高な瞬間を迎えることがある。

 偶然。

 技術を極めた人と人が戦うとき、あるいは同じくらいの技量の人間同士が戦うとき、その説明できないものが結果を左右することの何と多いことか。(p.79)

 

 

将棋に勝つことでしか自分の人生や存在理由を証明することができない奨励会員たち。しかし、偶然や運・不運としか呼べないようなもので、人生を左右されてしまう若者も数多くいます。例えば、羽生善治を中心とする天才少年軍団の登場の時期に、たまたまぶつかってしまい、翻弄され、蹴散らされた世代などもそうでしょう。

 

北海道出身の天才少年・成田英二の運命も過酷です。成田が上京して奨励会に入ると、成田を助けるために両親も追って上京。しかし24歳で夢破れると、その挫折に合わせるかのように両親が他界。将棋しかやってこなかった青年は、一人社会に放り出され、借金まみれになり転落していきます。

 

生活のすべてを将棋や落語だけに捧げ、自分の才能と向き合い続けること

 

棋士だけでなく、落語家や漫才師、役者、スポーツ選手など、自分の能力だけを頼りに生きていく職業では、否応なく自分の才能に向き合わねばなりません。私は10代後半から20代のすべてを演劇の世界で過ごしてきたので、よく分かるのですが、「自分はこの世界で生きていけるほどの才能があるのだろうか?」という自問自答を繰り返す毎日なのです。しかも20代では自分に才能があるのか、ないのか、ぼんやりとしか見極めがつきません。

 

将棋や囲碁のように、はっきりと勝敗のつく分野は容赦のない厳しい世界ですが、勝てないことで逆にあきらめがつくのかもしれません。落語家や役者は、勝ち負けのはっきりしない世界です。人気という漠然としたものが、才能のバロメーターになります。それは観客という他者の手にゆだねられているのです。

 

『将棋の子』のラストでは、成田英二が将棋の世界にいたことを誇りに思っていることが描かれます。少年の日に天才と呼ばれたこと。幼い羽生善治に歯が立たなかったこと。すべてが彼の中では、遠い日のメダルのようにキラキラと輝いています。それは読者である私たちにとっても救いとなります。

 

生活のすべてを将棋や落語だけに捧げ、自分の才能と真剣に向き合い続け、それを長きに渡り継続することでしか、プロになる日は訪れない。そこだけは分野を問わず、変わらないものだという想いが去来しました。

 

プロとアマチュアの違いってなんでしょうか? もうしばらく考えてみたいと思います。

 

『将棋の子』

大崎善生(著)

講談社文庫

 

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太助セレクト落語 2018年8月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年8月のお勧めの落語会をピックアップしました。暑さの厳しい8月ですが、夏休み期間でもあるので、落語会は結構活発に開催されています。落語を聴いて猛暑を乗り切ろう!(笑)

 

桃月庵白酒 志ん生に挑む

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日時:8月10日(金) 開演:19:00

料金:3,500円

出演桃月庵白酒高田漣(ゲスト)

場所:大和田伝承ホール(渋谷)

問い合せ:055-262-2071

桃月庵白酒師匠が、昭和の名人・古今亭志ん生に挑みます。志ん生といえばフリージャズのような変幻自在な芸風で爆笑を巻き起こした名人。その域に白酒師匠がどこまで迫れるか!?

 

雷門小助六&三笑亭夢丸 リレー落語会

ベートーベン篇

日時:8月11日(土) 開演:13:30

料金:2,000円

出演:雷門小助六、三笑亭夢丸

場所:日暮里サニーホール

問い合せ:090-7726-8202

⇒小助六&夢丸師匠の人気の二人会。悶絶篇、一生涯篇など、さまざまなテーマに挑んできた二人。今回のテーマはベートーベン篇。どんな落語が登場するか楽しみです!

 

立川談修 大久保プラザ寄席

特別寄席「宵の夏」

日時:8月18日(土) 開演:19:00

料金:800円

出演立川談修

場所:大久保スポーツプラザ3階

問い合せ:03-3232-7701

古典落語の名手・立川談修師匠が、夏の夜にピッタリの噺を存分に聞かせてくれます。しかも、この入場料! 本当は教えたくないお得な落語会なんです。

 

瀧川鯉昇柳家喬太郎 二人会「古典こもり」

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日時:8月21日(火) 開演:19:00

料金:3,700円

出演瀧川鯉昇柳家喬太郎

場所東京芸術劇場プレイハウス(池袋)

問い合せ:03-5785-0380

古典落語に新しい観点を取り入れる瀧川鯉昇、古典を縦横無尽に変化させていく柳家喬太郎、人気の落語家による二人会です。

 

夢一夜「一之輔・夢丸二人会」

日時:9月7日(金) 開演:19:00

料金:3,000円

出演春風亭一之輔、三笑亭夢丸

場所日本橋社会教育会館ホール(人形町)

問い合せ:03-6277-7403

⇒すでに人気の二人会になった一之輔・夢丸師匠のコラボ企画。古典落語の将来を占ううえでも注目したい落語会です!

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

 

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お勧めの落語家:三笑亭夢丸 愛らしい童顔から繰り出す練達の芸

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年6月19日、三笑亭夢丸師匠の独演会に足を運びました。

 

蕎麦屋さんで開催され、蕎麦も楽しめる落語会

 

場所は、日本橋蕎麦屋藪伊豆総本店」。この老舗の蕎麦屋さんは、3階の大広間で定期的に落語会を開催しています。このお店の嬉しいところは、落語のあとに、「おアトもよろしくセット」という、つまみとお蕎麦のセットが楽しめることです。

 

三笑亭夢丸師匠は、平成14年に三笑亭夢丸(初代)に入門、平成27年に真打昇進して二代目・三笑亭夢丸を襲名。落語芸術協会(以下、芸協)に所属する30代半ばの落語家さんです。80代の落語家がいまだに現役として君臨する芸協では、若手に位置する夢丸師匠。しかし、その芸は達者であり、人気の春風亭一之輔と二人会を開催するなどで、注目が高まっています。

 

藪伊豆の会場は畳敷きで、40人程度のキャパです。開演までに満員となりました。ここでの独演会は12回目になるそうです。

 

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「本日は夏の三席というテーマなんですが、とても涼しい日でして。私だけでも熱くやらせていただきます」という語り出しで始まったのが「ちりとてちん」。ある旦那が、会を催したが、中止となり、食事がたくさん余ってしまった。知り合いの熊さんに食べてもらうことに。普段、食べたことのないウナギのかば焼きや鯛の刺身、灘の酒に舌鼓を打つ熊さん。旦那が、酒に合う珍味を探して、女中に数日前の豆腐を持ってこさせると、これが夏の暑さでカビだらけの、ひどい状態。これを見た旦那、近所に住むひねくれ者の虎さんにいたずらしてやろうと思い立つ。空き瓶にこの豆腐を移し、大量のトウガラシを加えて、すさまじい珍味の出来上がり。虎さんを呼び出し、台湾の珍味だと言って食べさせると……。

 

この噺の見せ場は、虎さんが腐った豆腐を口に入れて、目を白黒させるところです。あまりにえげつなく演じると、観客に不快感を与えてしまうため、加減が難しいところです。夢丸師匠は、熱演ながら汚らしくならず、とてもよいバランスでした。また、先にご馳走になる熊さんを、なんでも大げさに褒める、たいこ持ちのようなキャラ設定にしてあるのも楽しい演出でした。熊さんと虎さんの対比が鮮明になり、大きな笑いをとっていました。

 

駄々をこねる「船徳」の若旦那に大笑い

 

二席目は夏にぴったりの「船徳」。実家を勘当されて、船宿に転がりこんでいる若旦那の徳さん。この若旦那、箸より重いものを持ち上げたこともないのに、「自分も船頭になりたい」と言い出して、周囲をあわてさせる。今日は浅草観音様の四万六千日(しまんろくせんにち:この日に参詣すると、4万6000日参詣したのと同じ功徳があるといわれた日。7月9,10日)。あまりに暑いので、船で行こうと考えた二人連れの客が、船宿にやってくる。あいにく船頭は出払っていて、残っているのは若旦那、一人。船宿のおかみの制止を振り切って、徳さんは、客を乗せて船を出すことに。しかし、同じところをまわったり、石垣にぶつかったりと、大変な船旅となる……。

 

思うように船が進まず、焦り、混乱する若旦那と、どんどん不安がつのっていく客。このシーンが、船徳のクライマックスです。船がクルクルと回る光景を、夢丸師匠は、二人の客を使い描写していました。これはとても臨場感があり、楽しい演出です。また、若旦那が途中から、「なんで汗だくになって、叱られなきゃならないんだ。もう、ヤダ!」と、ガキのようにダダをこねます。夢丸師の子供のような顔立ちと相まって、本当に楽しく、大笑いしました。

 

休憩をはさんで、三席目は上方落語の「次の御用日」。小僧の常吉は、主人に「娘のお糸が、縫い物の稽古に行くから供をしてくれ」と頼まれる。稽古場への道筋は日中でも人通りが少なく気味が悪いので、二人は急いで通り過ぎようとする。そこへ、向こうから法被(はっぴ)を頭の上にかざした大男が歩いてくる。常吉は、お糸を天水桶の陰に隠れさせ、その上に覆いかぶさり、男をやり過ごそうとする。

 

大男は、火消し人足の藤吉。顔見知りである家主の娘と丁稚に気づき、さらに自分の格好を怖がっていることに気づいた藤吉は面白がって、ふたりに近づくと、法被を覆い被せて「エヒャ!!」と奇声を浴びせかける。お糸はショックのあまり、その場で気を失って倒れてしまう。その後、店に連れ戻されたお糸は、目を覚ましたが、健忘にかかってしまう。怒り狂った主人は、奉行所へ訴えを出す。奉行は、被告・藤吉に対し、「お糸の上にてエヒャ!!(奇声)と申したであろう」などと尋問していくが、この奇声を連発しすぎて、奉行はとうとう普段の声が出せなくなってしまい、ひと言。

「一同、次の御用日を待て」。

 

この噺は、まさに奇声を連発するというおかしさだけで聴かせる上方らしい落語です。めずらしい噺を楽しめました。

 

愛らしい童顔から繰り出す練達の芸

 

三笑亭夢丸師匠の魅力は、何と言っても、声の良さと活舌(かつぜつ)のなめらかさでしょう。目のクリクリとした小僧さんのような風貌ながら、旦那やご隠居、娘などを見事に演じ分けます。体を大きく使う所作も、とてもキレイです。また特筆すべきは、三席・1時間半の高座で、セリフをかむことが一度もありませんでした。全身を使った熱演は、もっと大きな会場でも、そのまま通用するレベルの高さ。贅沢な時間を過ごさせていただきました。

 

落語のあと、「おアトもよろしくセット」を味わっていると、夢丸師匠も合流。一杯やりながら、色々とお話しできました。山形との県境に近い新潟県のご出身。江戸言葉の流暢さを褒めると、「第二外国語のように覚えろ」と師匠から教わったというエピソードを、面白おかしく話してくれました。

 

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日常的に和服で過ごし、趣味は銭湯巡り。パソコンは全く使えないと語る夢丸師匠。まさに落語の時代からタイムスリップしてきたような落語家さん。現在、35歳ながら、その芸は見事です。今後、間違いなく芸協の大看板になっていく逸材だと思います。

 

落語初心者にも、間違いなくお勧めできる噺家さんです!

 

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古今亭の次世代を担う落語家は?「古今亭ねくすと」VOL.4

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年6月7日、古今亭の二つ目落語家による落語会「古今亭ねくすと VOL.4」に足を運びました。場所はお江戸日本橋亭日本橋三越のすぐ近くにある、とても便の良いホールです。

 

落語家は亭号(ていごう)というものを使います。名前の苗字にあたるもので、三遊亭、柳家、古今亭(ここんてい)、林家、立川、春風亭、桂などがあります。プロの落語家の場合、弟子入りというかたちで落語界に入ります。同じ師匠の流れをくむ人たちを一門といい、基本的に同系の亭号を名乗ります。落語は師匠から弟子へ受け継がれる芸なので、各一門には独自の芸風があり、得意とする噺(お家芸)があります。

 

古今亭は由緒ある一門で、昭和の名人と呼ばれる古今亭志ん生、その実子である金原亭馬生(きんげんてい・ばしょう)、古今亭志ん朝によって、盛名を確立しました。現在、亭号は古今亭、金原亭が使われています。

 

しかし、近年、古今亭一門は、往年の勢いを失っているようにもみえます。この日、出演した志ん松さんも、「長い間、新人が入らない、落語会の絶滅危惧種と呼ばれています」とマクラで笑わせていました。はたして、古今亭の次世代の担い手は誰なのか!?  期待を持って、観に行きました。

 

笑いを巻き起こす古今亭駒次の力技

 

この日の出演は、金原亭馬久、古今亭志ん吉、古今亭志ん松、古今亭駒次さん。

 

トップバッターは金原亭馬久(ばきゅう)さん。演目は「強情灸」。声に張りがあり、とても聞き取りやすい落語家さんです。

 

2席目は、古今亭志ん吉さん。早稲田大学文学部の出身で、役者を目指してテアトル・エコーの研修生に。レッスンの中に落語があり、講師として来ていたのが古今亭志ん橋師匠。志ん橋師匠の「キミ、たいしたもんだ」というヨイショを真に受けて、落語家に転身したという異色の経歴の持ち主です(本人HPより)。2017年のNHK新人落語大賞のファイナリストとして高座が全国放送されたので、顔を覚えている方も多いと思います。

 

今回のネタは、古今亭のお家芸ともいえる「火炎太鼓(かえんだいこ)」。道具屋の甚平さんは、売れないものばかり仕入れてくるので、カミさんからドヤされてばかりいる。今日も汚い、埃だらけの太鼓を仕入れてきたので、カミさんはおかんむり。この太鼓、小僧がはたきをかけていると、フチを叩いているのに音が鳴る。その音を聞きつけて、通行中の大名が、屋敷に持参せよと申しつける。甚平さんは太鼓が売れたと喜ぶが、おカミさんは信じない。「太鼓があまりに汚いから、お殿様はお怒りになって、百叩きにされるよ」と脅かす始末……。

 

「火焔太鼓」は、あまり魅力のない噺だったものを、志ん生志ん朝が磨き上げて絶品にしたといわれる落語です。この作品は、おカミさんが旦那のダメさ加減を、威勢よくあげつらうシーンから始まります。志ん吉さんは細面でスリムなので、おカミさんも若奥さんという感じ。若夫婦のような火焔太鼓でしたが、それはそれで楽しく聴くことができました。

 

休憩をはさんで、3席目は古今亭志ん松さん。ネタは「巌流島」。隅田川渡し船で、威張りくさった武士がキセルの雁首を水中に落としてしまう。屑屋が、キセルの残り部分を売ってくれと頼んだことで、立腹する武士。無礼打ちにすると息巻く。見かねて老侍が仲裁に入るのだが……。志ん松さんの気弱そうな顔つきと口調が、この噺とアンバランスで妙に笑えます。

 

古今亭の落語家さんは、落語の途中におかしなギャグをあまり入れないので(江戸時代なのにスマホが出てくるような)、安心して古典落語の世界に浸ることができます。ただ、3席聴いて、あまりに皆さん、生真面目すぎて、少し爆発力に欠けるような物足りなさを感じ始めてもいました。

 

本日のトリは、古今亭駒次さん。登場しただけで、場をサッと明るくする華やかさがあります。駒次さんは鉄道オタクで知られていて、鉄道ネタの新作落語を数多く作っています。

 

今回のネタは、鉄道とは関係ない新作落語すももの思い出」。リストラにあい、離婚も経験した運のない四十男が、故郷に帰ってきます。子供の頃に通った駄菓子屋が、いまだにあることに感激し、中に入ってみると、店のおばさんも健在。並んでいる駄菓子を眺めていると、いじめっ子に、すももの赤いジュースを無理やり飲まされた苦い思い出がよみがえってきます。そこへ、子供の頃、憧れだった女性が子連れで入ってきます。主人公は、その女性の家に招かれ、訪問することに。ところが出てきた旦那は、自分をいじめたガキ大将……。

 

聴衆に、駄菓子屋のなつかしさを思い出させてくれる新作落語です。ストーリーは二転三転し、最後のオチもひねりがきいて、最後まで大笑いしながら楽しめました。平日の夜のため、客数は少なかったのですが、全員が一斉に笑うので、ホットな空間が作り出されていました。

 

そういえば、柳家喬太郎師匠はウルトラマン林家彦いち師匠はアウトドア、春風亭昇太師匠の城巡りのように、おもしろい新作を作る落語家は、何かこだわるものを持っているな、と思い当たりました。

 

現代の若者は、欲望が淡泊になったと言われます。お金に対しても淡泊で、落語に出てくるような「飲む・打つ・買う」にはまってしまう人も、あまりいません。しかし、何か1つのことに対しては、徹底的にこだわり、突き詰めていく人が多いという印象があります。

 

そのような「こだわり方」を、観客と共鳴できたとき、新しい次世代の落語が生まれていくのかもしれない。ふと、そんな感想が頭に浮かびました。古今亭ネクストというより、落語ネクストを考えさせてくれた楽しい落語会でした。

 

古今亭駒次「公園のひかり号」

 

www.youtube.com

落語入門:江戸時代のお金(1) 千両って、どのくらい高価なの?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語を演じていると、江戸時代の風俗、習慣、制度などを、きちんと知る必要があります。

 

いま「宿屋の富」という落語を稽古しています。この噺では、江戸時代の富くじ(今の宝くじ)が登場します。富くじ1枚が一分(いちぶ)で、1等の賞金は千両です。噺の中に「富くじを買うために借金をした」という会話が出てきますが、一分とは、どの程度の価値なのか理解していなければ、きちんと楽しむことができません。

 

そこで今回は、落語に登場する江戸時代のお金について、調べてみたいと思います。

 

落語の中には、お金がいろいろ出てきます。「宿屋の富」や「富久」などの富くじが登場する噺では、前述したように富くじ1枚が一分で、当たると千両という設定です。「文七元結(ぶんしちもっとい)」という落語では、博打狂いの左官屋が溜めた借金が五十両。見かねた娘が吉原に身を売って、この五十両を用立てようとします。あるいは「時そば」という落語では、そば1杯が十六文(もん)で、一文ごまかす男が登場します。

 

お金は、今も昔も人間の重大な関心事。お金にまつわる悲喜劇は、落語の重要な題材です。しかし、江戸時代のお金は、現代と制度が違うため、わかりづらい部分も多々あります。

 

1.三貨制度


江戸時代のお金は、金、銀、銭の三種類の貨幣を使っています。「金」は武士の給料や高額な支払いなど、「銀」は商売の取引に使われ、庶民の使うお金は「銭」でした。階層によって使うお金が違っていたのです。また、商人の取引でも、江戸では主に金、上方で銀が使われていました。

 

金、銀、銭のそれぞれに単位があり、場所や階層によって違います。また、金や銭は計数貨幣といって枚数で計るお金ですが、銀は秤量貨幣(ひょうりょうかへい)といって重さで計るものです(のちに計数銀貨も登場します)。

 

2.4進法

江戸時代のお金は、いまと違い4進法が採用されています。

 

3.明治になって貨幣単位が変わる

明治政府になって、貨幣単位が、「両・分・朱」から10進法の「円・銭・厘(えん・せん・りん)」に変わります。落語には江戸時代に作られたものと、明治以降に作られたものがあります。このため、両や文が出てくる噺と、円や銭が使われる噺が混在しています。

 

今回は、江戸時代の落語を楽しむための最低限のお金の知識について知っておきましょう。江戸を舞台とした落語に銀はあまり出てきませんので、金と銭を理解しておきましょう。

 

金貨は(りょう)・(ぶ)・(しゅ)

 

1両= 4分 = 16朱

 

1朱金が16枚、1分金が4枚で、1両です。

 

庶民の使うお金は銭で、単位は(もん)です。

 

1両 = 4000文~

 

なんと1両は、4000文以上と定められているのです。お金の価値は現在と同じく、日々変動しますが、大変な価値があったわけです(1840年代では、1両が6500文程度)

 

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ちなみに江戸時代の主な物価は、

 

蕎麦1杯           16

長屋の家賃(ひと月) 300文~500文

酒(1升)                    250文

米一石(150キロ)       2両

 

だったそうなので、1両というのは大金だったわけです。

 

     参考文献『読んで味わう古典落語の傑作101噺と見て愉しむ江戸の暮らし』

 

富くじで千両当たるというのは、現在の「宝くじ1等・数億円」以上のインパクトがあったのですね。富くじ1枚が1分というのも、かなりの高額だったことが分かります。富くじは1朱~1分程度でしたが、高額なため、何人かで金を出し合って買うことも多かったようです。また、富くじを利用して私設で富を販売する「陰富(かげとみ)」なども生まれて人気が出ましたが、これは犯罪でした。

 

吉原で女郎と一晩過ごすのは、1両以上かかったそうです。吉原の店にあがることは、大変な散財だったわけです。落語では、𠮷原にひやかしに行くという場面がよく登場します。しかし、これはお金がなくて、ひやかしてまわるしかできない、というのが実情のようですね。

 

江戸時代のお金の価値が分かると、落語の登場人物たちの喜怒哀楽が、よりリアルに感じられるようになりますよ。ちょっと頭に入れておいてください。

 

参考文献・資料

日本銀行金融研究所 貨幣博物館

日本貨幣史

http://www.imes.boj.or.jp/cm/history/

 

『読んで味わう古典落語の傑作101噺と見て愉しむ江戸の暮らし』

赤坂治績(著)

集英社新書

 

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太助セレクト落語 2018年7月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年7月のお勧めの落語会をピックアップしました。暑さの厳しい7月は、クーラーの効いた寄席で時間をつぶすのもいいですよ。7月は親子会(師匠と弟子の落語会)もいくつか開催されます。

 

実験落語neo「シブヤ炎上まつり」

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日時:7月5日(木) 開演:19:00

料金:3,800円

出演三遊亭円丈柳家喬太郎立川談笑玉川太福、笑福亭羽光

場所:CBGKシブゲキ!!

問い合せ:03-6415-3363

⇒渋谷ジァンジァンで開催されていた三遊亭円丈主催の新作落語の会「実験落語」を復活させた「実験落語neo」。今回は、出演者全員が円丈作のネタを高座にかけるという趣向です。

http://www.cbgk.jp/schedule/index.html#jkrg11

 

この人を聞きたい「雲助・馬石親子会」

日時:7月7日(土) 開演:18:00

料金:3,000円

出演五街道雲助隅田川馬石

場所中村学園フェニックスホール(清澄白河

問い合せ:090-2761-9769

⇒雲助、馬石の師弟は、古典落語を誠実に磨いているという印象があります。親子会は、師弟の愛情がそこはかとなく感じられて、楽しめますよ。

 

一朝・一之輔親子会

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日時:7月9日(月) 開演:19:00

料金:3,100円

出演春風亭一朝春風亭一之輔

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

http://nigiwaiza.yafjp.org/perform/archives/15824

⇒こちらも親子会。いまや人気者の春風亭一之輔。この親子会はいつも大人気です。一朝師匠もうれしいでしょうね。

 

深川砥寄席「鯉昇、白酒二人会」

日時:7月19日(木) 開演:19:00

料金:3,000円

出演瀧川鯉昇桃月庵白酒

場所:深川江戸資料館

問い合せ:03-5332-6396

⇒太助おすすめの落語家・瀧川鯉昇師匠。どんな相手と共演しても、フワフワと包み込むような芸風で相手の良さを引き出します。無理やり笑わせるのではない、ホッとする落語を聴けますよ。

 

龍志、志ん輔二人会

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日時:7月29日(日) 開演: 13:00

料金:3,000円

出演立川龍志古今亭志ん輔

場所国立演芸場半蔵門

問い合せ:070-3108-7878

古典落語のうまさでは、立川流でもトップクラスの龍志師匠。いまや古今亭の大黒柱となりつつある志ん輔師匠。二人のコラボで、新しいプラスアルファを見せていただきたいです。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

書籍『師匠、御乱心!』:円生一門の協会脱退の悲しき顛末

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は、三遊亭円丈(著)『師匠、御乱心!』を紹介します。昭和の名人・三遊亭円生が、落語協会の方針に反対し、協会を脱退した騒動の顛末を、一門の円丈が内側から描いた作品です。

 

本書は1986年に『御乱心』として刊行されたものですが、文庫版として再販されたので、改めて読み返してみました。

 

事件が起きたのは昭和53年(1978年)5月。落語協会の副会長だった三遊亭円生が、古今亭志ん朝三遊亭円楽立川談志など協会の若手幹部を引き連れて、新協会「三遊協会」設立を図ります。事の発端は、落語協会で始まった大量真打です。

 

落語家には、前座、二つ目、真打(しんうち)という序列があり、最高位である真打は師匠および所属協会に認められる必要があります。15 年程度の修行を経て、晴れて真打に昇進すると、真打昇進のお披露目興行なども行われます。

 

しかし、寄席の減少や落語人気の低迷もあり、落語協会は、二つ目の増加に対応できなくなり、大量真打制度を導入します。これは、一度に10人程度の真打を承認してしまおうというものです。真打を落語家の最高位と考える昭和の名人・円生は、真打の大量生産に真っ向から反対し、新協会の設立を目論むのです。

 

30年振りに本書を読み返しましたが、これが実におもしろいのです。著者の円丈が、33歳で真打昇進を果たし、その披露興行は終わった翌日から始まる協会脱退騒動。古今亭志ん朝三遊亭円楽立川談志月の家円鏡ら、人気の落語家が新協会参加の名乗りをあげたことで、協会設立は成功するかにみえます。しかし結果は、寄席の席亭の反対により、目論みはとん挫。協会復帰を勧める席亭の仲介を拒んだ円生一門のみが脱退し、新協会を旗揚げすることになります。

 

この過程で、円生の弟子たちは振り回され、バラバラになっていきます。円生を焚き付けていた一番弟子の円楽は、当初の計画がうまくいかないのを知り、円生から距離をとり始めます。その他、一門を離れて落語協会に行く者、廃業する者。円丈など師匠に付いていった落語家は、寄席に出ることができないため地方のホールをまわる日々が続きます……。

 

トップに振り回される部下たちの悲劇

 

本書のおもしろさは、人間の権力に対する欲望や、トップに振り回される部下たちの悲哀が見事に描き出されていることです。

 

大量真打という協会の方針に、どうしても納得できない円生。落語業界で権力や地位が欲しい円楽、談志。特に本書での五代目・円楽のあくどさは際立っています。おもしろい小説や映画の条件は、圧倒的な悪役が登場することですが、円楽の存在感はずば抜けています。

 

また、真打となり、ようやく次のステップを歩き始めた円丈の焦り、師匠からの仕打ちに対する幻滅はせつないものがあります。

 

俺は円生を許しはしなかった。今もまだ許していない。ただ、あの心の拷問で、俺の円生を思う心が死んでしまったのだ。(p.170)

 

脱退後、頭を下げて協会に戻ることを拒んだ円生は、騒動の翌年に他界。著者の円丈は、落語協会に頭を下げて復帰し、その後、創作落語に活路を見出していきます。五代目・円楽は協会に戻らず、新団体を設立(現在の円楽一門会)。立川談志は一度、落語協会に復帰するも、その後、協会を飛び出して落語立川流という独立団体を設立します。

 

6歳から寄席に立ち、『寄席育ち』という書籍さえ刊行している昭和の名人・円生が、人生の最後で寄席に立てなかったのは、おろかしくも、切ないものがあります。最後まで、自身の面子にこだわったからでしょう。御乱心の殿さまは、結局、自分のホームグランドに帰ることができなかったのです。

 

本書で繰り広げられるドタバタは、会社の中でもよく見られる、おろかしくも、せつない悲喜劇です。自分の会社の上司や社長の顔が、脳裏に浮かぶ人もいるかと思います。人間の普遍的な欲望を描いた本書は、円生や笑点の司会をしていた円楽を知らない人でも楽しめる一冊です。お勧めします。

 

『師匠、御乱心!』

三遊亭円丈(著)

小学館文庫

 

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三遊亭円生「百年目」

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落語の登場人物:泥棒 落語に出てくる泥棒は、ちょっとマヌケで憎めない

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供(金ぼう、亀という名が多い)、商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の女郎や幇間。今回は、泥棒を取り上げます。

 

泥棒噺というジャンルが存在するほど、泥棒の登場する落語はたくさんあります。これは「お客の懐(ふところ)を取り込もう」という願いが込められているそうで、泥棒噺は縁起のいい噺とされています。

 

落語に出てくる泥棒はマヌケで、ドジをふんでばかりいます。しかし、どこか愛嬌があり、憎めない連中ばかり。代表的な泥棒噺を紹介しましょう。

 

締め込み

 

戸締りのしていない家に忍び込んだ泥棒。衣類などを風呂敷に包んで逃げ出そうとしたところで、表に足音がする。裏から逃げようと考えたが、家の裏は行き止まり。仕方がないので、台所の揚げ板を上げて、縁の下に逃げ込んだ。戻ってきたのは、その家の亭主。大きな風呂敷包みに気づき、中を見ると自分や女房の衣類が。亭主は、女房がほかの男と駆け落ちするつもりだと考える。そこへ女房が銭湯から帰ってきて、二人は大げんかになる。見るに見かねた泥棒が、縁の下から飛び出して、仲裁に入るのだが……。泥棒と夫婦のやり取りがおもしろい泥棒噺の傑作。

 

三代目・古今亭志ん朝

 

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夏どろ

 

夏の蒸し暑い日。戸締りがしていない長屋の一軒に忍び込んだ泥棒。土間から座敷上がるが、畳がない。畳がないだけでなく、なんと床板さえ何枚かなくなっている。真っ暗な家の中をキョロキョロしている泥棒に、「おい!」と声がかかる。この家の住人が、裸でうずくまっていたのだ。泥棒が小刀を抜いて脅すが、男はまったく動じない。男は、自分は腕のいい職人だが、博打ですって、道具箱から衣類まで質に入れてしまい働けないという。「いっそのこと殺してくれ!」と大声を出す男。慌てた泥棒は、質から道具箱を出すための金を男に渡す。しかし、男は何も食べてないし、着物もないから、道具箱を質から出しても働けないという。仕方なく、泥棒は自分の金をそっくり男にくれてやるはめに……。

 

碁どろ

 

碁が大好きな二人の旦那。毎晩、ヘボな碁を夢中になって打っている。碁を打ちだすと夢中になってしまい、二人とも周囲にはまったく目がいかなくなる。そこへ忍び込んできたのが、碁が大好きな泥棒。ひと仕事済ませて出ていこうとするが、碁石を打つ音を聞いて我慢ができなくなり、観戦を始める。そのうちに観戦では物足りなくなり、あれこれと口を出したり、感想を述べ始める……。三代目・柳家小さんが得意としたネタで、碁が好きでたまらない人たちの様子を見事に演じました。

 

三代目・柳家小さん

 

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だくだく

 

金のない男が長屋に引っ越してくる。しかし家財道具が何ひとつないので、知り合いの先生に頼んで、壁に絵を描いてもらうことにした。タンスや床の間、金庫、ラジオ、うたた寝する猫、なげしには槍まで描いてもらう。日が暮れて男がウトウトしていると、近眼の泥棒が忍び込んでくる。タンスからは高価そうな着物、金庫からは札束が見えているので、いただこうとするのだが手に引っかからない。そこで初めて、部屋中のものがすべて絵であることに気づく。しかし、せっかく忍び込んで、手ぶらで帰るのが悔しい泥棒は、盗んだふりを始める。部屋の主がその様子に気づき、泥棒と戦うふりを始める……。

 

十代目・桂文治

 

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いかがですか。落語に出てくる泥棒は、ちょっとマヌケで憎めない連中ばかり。そういえば昔、ドリフターズや映画「男はつらいよ」で演じられるコントは、泥棒ネタが多かったなと思い出しました。紹介した噺以外にも、「芋俵」「釜泥」「出来心」「転宅」「へっつい泥棒」「やかん泥」など、泥棒の出てくる落語はたくさんあります。ぜひ、楽しんでください。

 

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太助セレクト落語 2018年6月のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年6月のお勧めの落語会をピックアップしました。梅雨入りする6月は、アウトドアではなく、インドアの落語会を楽しむには打ってつけの季節!? この時期の落語会は、通好みの演者が多いのが特徴ですよ。

 

深川落語倶楽部

日時:6月8日(金) 開演:18:45

料金:3,000円

出演柳家花緑林家時蔵柳家喬太郎春風亭一之輔春風亭ぴっかり

場所:深川江戸資料館(清澄白河

問い合せ:03-3633-7961

⇒豪華なメンバーを、江戸の香りあふれる深川江戸資料館で楽しみましょう。時間があれば、ぜひ資料館も覗いてみてください。江戸時代の長屋がリアルに再現されていますよ。

 

三田落語会「大感謝祭」

日時:6月9日(土) 開演:12:30 / 17:00

料金:4,000円

出演

昼席12:30:柳家権太楼、瀧川鯉昇、入船亭扇辰、桃月庵白酒

夜席17:00:柳家さん喬春風亭一朝/露の新治/柳家三三

場所浜離宮朝日ホール築地市場

問い合せ:03-5114-7444

http://mita-rakugo.com/

⇒2018年2月末をもって休会となった三田落語会。「本格・本寸法の落語を楽しく演じて、楽しく聴く」をコンセプトに開催されてきた伝統ある落語会です。長年のご愛顧への感謝の気持ちを込めた落語会が開催されます。

 

白鳥・彦いちの新作ハイカラ通り

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日時:6月11日(月) 開演:19:00

料金:3,100円

出演三遊亭白鳥林家彦いち立川志ら乃古今亭志ん五、神田鯉栄(講談)

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

http://nigiwaiza.yafjp.org/perform/archives/15707

創作落語の落語会です。みなさんがよく耳にする古典落語も、最初はすべて新作落語。ここから後世に残る落語が生まれるかもしれません。それにしても横浜にぎわい座の企画は、いつもおもしろそうだなぁ~。

 

三三・左龍の会

日時:6月17日(火) 開演:19:00

料金:2,800円

出演柳家三三柳亭左龍

場所:内幸町ホール

問い合せ:0422-53-5817

⇒同門、同世代の柳家三三柳亭左龍師匠。いまや古典の名手となった二人が繰り広げる落語は必聴です。人気の落語会なので、一度は足を運んでみてください。

 

神楽坂落語まつり「毘沙門寄席」

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日時:6月23日(土) 開演:14:00 / 18:00

料金:3,000円

出演

昼席14:00:古今亭志ん五 真打昇進襲名披露」

古今亭文菊、古今亭志ん橋、桃月庵白酒古今亭志ん五

夜席18:00:柳亭こみち真打昇進披露」

橘家文蔵柳家燕路、柳家三三柳亭こみち

場所毘沙門天善國寺・書院

問い合せ:0120-240-540

http://www.kagurazaka-dento.com/

⇒神楽坂にある毘沙門天善國寺で開催される落語会。昼席、夜席ともに真打襲名披露公演。帰りは神楽坂でちょいと一杯引っかけたいですね。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

 

人生やビジネスに「運」ってあるのだろうか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。いま「宿屋の富」という落語を稽古しています。

 

文無しの貧乏人が、馬喰町(ばくろうちょう)のさびれた宿にやってくる。この男、家には奉公人が数百人いて、大名や商人に数万両貸していると大ぼらを吹きまくる。人のいい主人は、それをすっかり信じ込み、「自分のところは宿だけではやっていけないので、富くじを売っているが、一枚買ってくれないか」と頼み込む。結局、ほら吹き男は、なけなしの金で富札を買うことになり、一等の千両が当たったら主人に半分分けてやるという約束までしてしまう。ところが、一文無しになってしまった男が、富くじの発表を見ていると、なんと一等が当たってしまう……。

 

この噺の中で、男が富くじを見て「こんなもので千両が、本当に当たるのかね?」と疑問を投げると、宿の主人が「旦那のようにご運のよろしい方は、金(かね)が金を呼ぶと申しまして、必ず当たると申します」と慌てて答えるシーンがあります。結局、この男は千両当たったのですから、運がよかったということになるのでしょう。

 

私たちは日常生活で、ごく普通に、「運がいい」「運が悪い」あるいは「運が強い」という言葉を使います。この運って、いったい何でしょうか? もし運があるなら、それは自分でコントロールできるものなのでしょうか?

 

ビジネスの世界に、運ってあるのだろうか?

 

太助は大学院でビジネスを教えているのですが、この授業で毎年、生徒全員に以下の質問をします。

 

ビジネスの世界で時々、「あの経営者は、運が良かったんだ」「あの会社は運が悪かった」など、運という言葉を使うことがある。あなたはビジネスに運は存在すると思うか? もし運があるならば、それは自分でコントロールできるものか?

 

社会人や留学生を含む全員は、必ずと言ってよいほど「運はある」と答えます。ただし、コントロールできるかどうかについては、回答はさまざまです。「できない」という人もいれば、「情報に鋭敏になることで、リスク回避をするなど、ある程度のコントロールはできるようになる」という人もいます。

 

このテーマについては、私も長い間、考えていました。ビジネスが運で左右され、それが自分でコントロールできないとすれば、日々の努力やビジネスについて学ぶことに、意味があるのだろうか、と。

 

運ではなくて、縁があるという考え方

 

ところがある時、その疑問が、私の中で解消したのです。

 

知人に誘われたビアパーティーで、私の隣に座っていたのが仏教大学の総長で、いろいろと話しをしていました。その席で、「ビジネスに運は存在するのか?」という疑問について、尋ねてみたのです。

 

するとその方は、静かにこうおっしゃいました。

 

仏教では運という考え方ではなく、縁というもので考えます。『運がいい、運が悪い』ではなく、良い縁・悪い縁という考え方をするのです

 

そのとき私の中で、ストンと腑に落ちたのです。

 

運はあるかどうか分からないが、良い縁、悪い縁というものは、確かにある。

 

悪いことを考えている人間の周りには、同じように悪いことを考える人間が集まってきます。楽しいことをやろうとしている人の周りには、同じような人間が集まります。やる気のある人のもとには、やる気のある人たちが集まり、2倍、3倍のパワーが生まれます。ビジネスで成功している人や会社は、ある出会いや縁によってジャンプアップするケースが、とても多いのです。

 

私は現在、このように考えています。ビジネスに運があるかどうかは、よく分からない。しかし、人生やビジネスには縁が存在する。そして、その縁は自分しだいで良い縁、悪い縁を作り出していける、と。

 

みなさんは、どう思いますか? 人生やビジネスに運があると思いますか?

 

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落語の名作「芝浜」~よそう。また、夢になるといけねえ

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は落語の名作と呼ばれる「芝浜」を紹介します。「よそう。また、夢になるといけねえ」というオチのセリフは、とても有名です。『笑点』でもギャグで使われているので、みなさんも耳にしたことがあるかもしれませんね。

 

芝浜のあらすじ

 

1)魚屋の勝五郎(魚勝)は酒におぼれて、しばらく仕事をさぼっている。女房に尻を叩かれ、魚を仕入れに芝の河岸(かし)に来てみると、まだ早すぎて開いていない。仕方がないので芝の浜で一服していると、流れ着いた財布を見つける。開けてみると、なんと五十両もの大金が入っていた。勝五郎は長屋に戻り、仲間を集めて、大酒を飲み、ご馳走をふるまって、その日は寝てしまう。

 

2)翌朝、「酒代はどうするのか」と尋ねる女房に、勝五郎は昨日の大金の入った財布の話しをする。ところが女房は「大金って何の話しだい? 夢でも見たんじゃないか」という。どこを探しても財布は見つからない。「あれは夢だったのか」とあきらめ、それ以来、勝五郎は心を入れ替え、酒を断ち、仕事に打ち込むようになる。その結果、表通りに店を構え、人を使うまでになる。

 

3)三年後の大みそか。女房が勝五郎に、ぶつなり殴るなりしていいからと、財布を差し出し、いきさつを話し始める。財布の横領は死罪。このまま大金を手にしたら、亭主は本当にダメな人間になってしまう。困った女房は大家と相談のうえで、役所に届け、亭主には夢だと話すことにした。三年後、落とし主が不明で財布は下げ渡されたのである。

 

4)三年間、隠していたことを詫びる女房に、勝五郎は自分を立ち直らせてくれたと感謝する。女房は、勝五郎の労をねぎらって、久しぶりに酒でもつけようかと言う。勝五郎は喜んで、一度は盃に手をつけるが、それをおろしてひと言。

 

「よそう。また、夢になるといけねえ」

 

落語の成立

 

古典落語の祖と言われる三遊亭円朝が、「酔っ払い・芝浜・革財布」という客からのお題で作った三題噺ともいわれます。円朝以降、さまざまな落語家によって継承され、磨き抜かれた人情噺(にんじょうばなし)です。また、この落語をもとに、芝居も作られています。

 

三代目・桂三木助は、芝浜の情景描写に文芸的な色合いを付けて、高い評価を得ました。例えば、夜明け前の芝浜の光景を、三木助はこのように語ります。

 

「いやー、いい色だなあ。よく空色ってえと青い色のことをいうけれど、いや朝のこの日の出の時には空色ったって一色だけじゃねえや。五色の色だ。小判みてえな色をしているところがあると思うと、白っぽいところがあり、青っぽいところがあり、どす黒いところがあり……」

 

三木助以外にも、古今亭志ん生金原亭馬生三笑亭可楽古今亭志ん朝立川談志など名人・上手と呼ばれる落語家が、この噺を演じてきました。

 

ちなみに芝浜の舞台は、JR田町駅の西口から5分程度のところにある本芝公園の辺りだったようです。いまは埋め立てられていますが、昔は一帯が海岸で、雑魚場(ざこば)と呼ばれていたそうです。

 

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芝公園

 

好みの分かれる落語「芝浜」

 

名作と呼ばれる芝浜ですが、聞き手の好みの分かれる噺でもあります。女房の愛情と機転によって、飲んだくれの魚屋が立ち直るという人情噺ですが、「夫婦愛」+「ダメな男の再生」というテーマが古くさく通俗的で嫌いという人もいるようです。

 

また、落語家さんの中でも、芝浜の筋立てについて

・飲んだくれが、あんなに簡単に酒をやめられるのか?

・魚屋のような職人が、女房に嘘をつかれて、怒ったり、殴ったりしないのはおかしいのではないか?

と感じる方もいるようです。このため、落語家によってラストのシーンの演じ方などが少し異なります。

 

年末・年始の寒い時期に演じられることの多い作品です。芝浜の世界が好きか、嫌いか、ぜひ一度、ご自分で味わってみてください。

 

三代目 桂三木助「芝浜」

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太助セレクト落語 2018年5月中・下旬のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年5月中・下旬のお勧めの落語会をピックアップしました。5月は、連休もあるため人気落語家の独演会も数多く開催されます。独演会は、落語家さんが大技・小技を繰り出しますので、色々な魅力が発見できますよ。

 

この人を聞きたい「生志・兼好二人会」

日時:5月12日(土) 開演:18:00

料金:3,000円

出演:立川生志、三遊亭兼好

場所中村学園フェニックスホール(清澄白河

問い合せ:090-2761-9769

http://rakugokai.jp/form/

⇒明るい芸風の立川生志、三遊亭兼好の落語会。この二人は、どんな共演者ともマッチできる柔軟さが魅力。生志師匠は、そろそろマクラの談志ネタを封印してはいかがかしら!?

 

 

さつまもん 立ったり座ったりの夕べ

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日時:5月14日(月) 開演:19:00

料金:3,000円

出演林家彦いち桃月庵白酒、松元ヒロ

場所:成城ホール

問い合せ:03-3482-1313

⇒空手、野球、マラソンの道を極めるはずの三人が新作落語古典落語、漫談で楽しませてくれます。にぎやかで楽しい時間を過ごしください。

 

J亭スピンオフ「白酒、三三大手町二人会」

日時:5月17日(木) 開演:19:00

料金:3,800円

出演桃月庵白酒柳家三三

場所:日経ホール(大手町)

問い合せ:03-5216-9235

⇒昨年休止したJTホールでの「J亭落語会」に代わってスタートしたJ亭スピンオフ企画「白酒・三三・一之輔(隔月替わり)大手町二人会」。三三師匠は、珍しいネタを披露することもありますよ。

 

落語で知る江戸っ子の楽しみ

日時:5月29日(火) 開演:13:00

料金:3,800円

出演柳家三三

場所:朝日カルチャーセンター(新宿)

問い合せ:03-3344-1941

https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/65c0b408-2642-5c93-60e6-5a509a36a100

⇒主催コメント「落語の世界に繰り広げられる江戸庶民の習慣や風習をまじえ、今も昔も変わらない人の生きる姿を笑いをとおして先人に学び、落語の魅力が、ますます深く身近に感じられるシリーズ講座です。」

 

 

たちかわ笑ホール寄席

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日時:6月8日(金) 開演:19:00

料金:2,500円

出演柳亭市馬三遊亭白鳥、台所おさん、らく兵

場所:たましんRISURUホール(西国立)

問い合せ:042-526-1311

http://www.tachikawa-chiikibunka.or.jp/a12-20180608/

⇒このメンバーの組み合わせは、何なんだ!? ノリ始めたら止まらなくなりそうな、ちょっと異色のコラボです!

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。

映画『幕末太陽傳』:なにもかも振り捨てて、佐平治は走る、走る

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は落語に関連する映画として『幕末太陽傳』を紹介します。1957年公開された映画で、主演はフランキー堺、監督は川島雄三。落語の「居残り佐平治」をもとにして作られた映画で、その他、いろいろな落語が組み込まれています。落語を楽しめる映画というだけでなく、日本映画の大傑作であるこの作品を紹介しましょう。

 

さまざまな落語を組み合わせた映画

 

落語の「居残り佐平治」は、主人公の佐平治が、仲間を集めて品川の遊郭に繰り出すところから始まります。

 

金がないからと二の足を踏む仲間たちに、「自分に任せろ」と安心させる佐平治。飲んで騒いで豪遊するのだが、実は佐平治は一文無し。それを知った店の者は血相を変えるのだが、佐平治は居残りをして、働いて返すという。こうして「居残りさん(イノさん)」として働き始めるのだが、客扱いがうまく、機転が利くので、すっかり店の人気者になってしまう。客から「たいこ持ちではなくて、居残りを呼べ」と声がかかるほど。すっかり客をとられて、商売あがったりになった店の若い衆たちが、主人に追い出すように談判する。ほうっておけなくなった旦那が「勘定はいいから帰れ」と言うと、佐平治は「悪事を重ねてきているから、もう少しかくまってくれ」と語りだす。人のいい主人は、とうとう金三十両と着物まで与え、追い出すことになる……。

 

この落語をベースに、女郎のおそめが貸本屋の金蔵と心中しようとする「品川心中」、女郎が客にたくさん起請文(夫婦になる約束をした証拠の文)を書いてトラブルになる「三枚起請(さんまいきしょう)」、田舎者の客に会いたくない女郎が、自分が死んだことにしてしまう「お見立て」、博打で金を失った大工の父親のために娘が女郎になる決心をする「文七元結」など、さまざまな落語がエピソード的に組み込まれています。

 

さらに、攘夷志士たち(石原裕次郎小林旭など)の異人館焼き討ちなどのサブストーリーが挿入されているにぎやかな映画です。

 

フランキー堺が魅せる、粋な佐平治像

 

この映画の最大の魅力は、何といっても主演のフランキー堺の名演です。私は「居残り佐平治」と聞くと、フランキー堺の佐平治が頭に浮かびます。軽妙で、リズミカルな動作。セリフまわしの小気味よさと、粋(いき)な所作。宴会で佐平治が、和太鼓のバチをドラムのスティックのようにクルクル回すシーンが登場しますが、ジャズドラマーでもあるフランキー堺ならではの妙技です。あるいは羽織を空中に放り上げて、そのまま着るシーンも、実にカッコいい。

 

また、石原裕次郎小林旭などの大スターが脇役にまわって、実にのびのびと演技をしています(スターの扱いに関して、映画会社と監督でもめたようですが)。腹の底から楽しそうに笑う石原裕次郎を見ると、この人は天性のスターなのだなと実感します。

 

幕末太陽傳』で、私には、いつまでも心に残るシーンがあります。店の看板である花魁のおそめとこはる(左幸子南田洋子)は、機転が利いて頼りになる佐平治に惚れてしまい、取り合いになります。店を出ていくという佐平治に、「布団部屋で待っているので、どちらか一人を連れて行っておくれ」とつめよります。夜明け前、佐平治が布団部屋に立ち寄ると、二人の花魁はもたれ合い寝てしまっています。その寝顔を見て、佐平治は静かに障子を閉め、店を出ていきます。

 

この障子を閉めるときの佐平治の表情が、とても印象深いのです。せつなく、悲しく、優しい、何ともいえない表情です。そこに留まれば、温かい空間と時間が待っているのに、それを断ち切るようにゆっくりと障子を閉めます。佐平治は流れ者であり、病を抱えているため、彼女たちを幸せにはできないからでしょう。

 

このシーンを見ると、「ああ、ハードボイルドだなぁ」と思います。そして二人の女優の美しいこと。男をだます手練手管を身につけた女郎の、内に秘めている純情が垣間見えるような瞬間が、実に素敵に表現されます。

 

幕末太陽傳』は、基本的に楽しく明るい映画ですが、佐平治には一貫して、死の影が付きまとっています。これは、川島雄三監督が不治の病に侵されていて、いつも死を意識していたからでしょう。このあたりは、藤本義一の「生きいそぎの記」を読んでいただければと思います。

 

ラストのシーンで、佐平治は、すさまじいスピードで走っていきます。走って、走って、走りぬきます。死の病を振り払い、幕末から新しい時代へ向かうかのように。

 

映画は、演劇と同じく総合芸術です。脚本、監督、俳優、カメラ、照明、音楽など、さまざまな才能と技術が集まって作り上げられるものです。それらの結集した力が、ときに、とてつもない最高の瞬間を生み出すことがあります。『幕末太陽傳』は、そうした僥倖のような瞬間に出合える映画です。

 

人生で必ずや見ておきたい、お勧めの映画です。

 

幕末太陽傳 デジタル修復版 DVD プレミアム・エディション』

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『徳川家康』山岡荘八を読み終えて:現代の「戦争と平和」を考える

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。昨年12月より、山岡荘八(著)『徳川家康』を読み始め、3月末に、ようやく読了しました。

 

この本を開く気になったのは、韓国の元大統領である朴槿恵(パク・クネ)が、拘置所で熱心に読んでいるというニュースを知って、興味を持ったからです。

 

山岡荘八は、第二次大戦後の平和を、戦争と戦争のはざまの「小休止」ではないか、ととらえました。そして、「戦いのない世界を作るための条件は何か」を探るために書き上げたのが本著です。

 

戦いのない世界を作るためにはまず文明が改められなくてはならず、文明が改められるには、その背景となるべき哲学の誕生がなければならない。新しい哲学によって人間革命がなしとげられ、その革命された人間によって社会や政治や経済が、改められたときにはじめて原子科学は「平和」な時代の人類の文化財に変わってゆく

 

徳川家康』第1巻 あとがきより

 

 戦いのない世界を作るための哲学を、年頭にもう一度考えてみたくなり、読み始めました。1冊500ページ以上ある文庫本で全26巻。まさに大作であり、読み終えるまでに約3か月かかりました。

 

戦いの時代を終わらせるための条件とは?

 

読み進めるのが大変だったかというと、そんなことはありません。なにしろおもしろいのです。国民文学といわれる『宮本武蔵吉川英治(著)や『竜馬がゆく司馬遼太郎(著)なども同様ですが、多くの層から支持される小説は、やはり群を抜くおもしろさがあります。読み始めたら、ページをめくる手が止まりません。「桶狭間の戦い」や「関ケ原の合戦」など、史実として結果を知っていても、おもしろいのです。

 

20代で読んだときには、さまざまな合戦の展開にハラハラ、ドキドキしながら一気読みしたのを覚えています。30年経って読み直し、改めて『徳川家康』という小説の優れた点に気付きました。この小説は、徳川家康の一代記というより、同時代に生きた人々の群像劇です。例えば、政略の道具とされる女性たちが多数登場することも、本書の特徴です。彼女たちが、自分の生涯の意味を考えるという部分にも、かなりのページが割かれ、それぞれの「戦いと人生の意味」が問われます。

 

本書で家康は、さまざまな戦乱を生き抜きながら、人間として、あるいは覇者としての成長を遂げていきます。家康の守るべきものは、「自分」から「家」、「家」から「領土」、最終的には「国家」へと広がります。日本という国全体の幸福を考えたとき、国内での戦いを終息させ、泰平の世を作り出すことの重要性に気づいていくのです。

 

豊臣家を滅亡させた大阪夏の陣、冬の陣も、泰平を希求する心から生まれた「やむを得ない戦い」として描かれます。こうした山岡史観に違和感を覚える方もいるかもしれません。

 

しかし、戦いの時代を終わらせるためには、それぞれの領土の利害・対立を超越する意識が必要だったことに間違いはないでしょう。

 

山岡荘八は、巻末で「世界の平和は訪れるのか」というテーマについて、一抹の希望を述べ、筆を置いています。

 

まだ家康の欲したような「泰平―」は、今日の世界には根づいていない。依然として、人間の頭上から戦乱をなくするためには、どのような努力をなすべきかというテーマは重苦しく残っている。しかし(中略)世界の叡智と云われる人々は、地球を打って一丸とした法による支配の世界国家、世界連邦をつくるべきだと唱えだしている。(中略)この小説を契機にして、いよいよ家康の構想した「戦のない世界(当時の日本)」が、いろいろと世界の照明をあてられることになればうれしい。

(第26巻 あとがき)昭和42年

 

 

残念ながら世界は、現在、地球を一丸とするような考え方や行動から逆行しています。世界一の強国であるアメリカは、トランプ大統領により、自国主義へと舵を切り始めました。自国を守ろうという考えで、物理的、経済的な壁を築こうとしています。イギリスのEU脱退、米中経済戦争、ロシアの強国復活への願望など、それぞれの国が、自国のためと称して高い高い壁を作り始めています。

 

本書では、戦いが延々と繰り返されます。非常に興味深いのは、ほとんどの争いが、不信感から生まれた小さな疑念から始まることです。

 

――相手は、自分を殺そうとしているのではないか? 滅ぼされる前に、家を守るために、戦おう。

 

北朝鮮情勢などは、まさにこの心理構造ですよね。根強い不信感が根底にあります。そして、いつの時代でも戦いは、領土を守り、家族を守り、平和を守るためという名目で始まります。

 

山岡荘八が巻頭で述べたように、現在は、戦いと戦いの間の「小休止」の時期にすぎないのでしょうか?

 

徳川家康』は、日本の戦国時代を通して、改めて現代の「戦争と平和」を考えさせてくれる好著でした。繰り返しますが、読み始めたらページをめくる手が止まらなくなるような、おもしろさのある本です。世界情勢への不安が高まっている今こそ、お勧めしたい一冊です。

 

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浅草演芸ホール余一会:喬太郎、彦いち、白鳥、みんな適当に乗りまくる!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年3月31日(土)、浅草演芸ホールの余一会「満開!若手落語会」に足を運びました。

 

寄席では、ひと月を3期に分けてプログラムが組まれています。1日から10日が上席(かみせき)、11日から20日が中席(なかせき)、21日から30日が下席(しもせき)と呼ばれます。プログラムは、上席を落語協会、中席を落語芸術協会というように、この2つの団体が交互に出演するという構成がほとんどです(上野鈴本演芸場落語協会のみ)。

 

しかし、31日のある月は、その日だけの特別興行が行われるのです。これが余一会(よいちかい)です。独演会や二人会なども多いのですが、大変におもしろい興行に出合えることがあります。浅草演芸ホールがこの時期、開催する「満開!若手落語会」も、その1つです。

 

前売り券を購入し、さらに整理券を入手する

 

出演者は、ハッキリ言って若手ではありません(高座でもみなさん、同じことを言っていました)。しかし間違いなく、現在の一線級が勢ぞろいする興行です。毎回、立ち見が出るほどの人気落語会なので、今年は前売券を買うことにしました。

 

寄席は通常、当日券のみで自由席ですが、余一会など特別興行の場合は、前売券が販売されることもあります。この「満開!若手落語会」も前売券が発売され、当日、整理券が配布されて、その順番で入場します。当日券もありますが、入場は、前売券の客のあとになります。

 

前日に前売券を購入。当日は9:00より整理券配布とのことなので、10:00には窓口に駆けつけました。しかし、整理券番号は60番! 「みんな、早くから来ているな~。千葉県民にはちょっと大変だよな」と思いつつ、開場の17:00を待ちます。開場15分前から整理券順に並ぶのですが、予想通り大変な混雑です。2日間で3回、足を運んだ努力のかいあって、なんとか前方の良い席に座ることができました。

 

この日のメンバーと演目です。

 

春風亭ぴっかり☆ 「表彰状」

三遊亭天どん 「反対車」

入船亭扇辰 「一眼国(いちがんこく)」

翁家社中太神楽

林家彦いち 「つばさ」

 

仲入り

 

三遊亭白鳥 「人間椅子

柳家三三 「加賀の千代」

林家二楽紙切り

柳家喬太郎 「極道のつる」

 

今年は春風亭一之輔師匠が出演せず、天どん師匠が入りましたが、「笑いを取ろう」という気合はすごいものがありました。人力車が盛んな時代、おかしな車夫が登場する噺「反対車」で、この日の登場する演者を車でひきまくり、大受けしていました。

 

次に登場した扇辰師は、場の雰囲気を落ち着かせるかのように抑えた声で「一眼国」を聴かせます。

 

仲入り前は、林家彦いち師匠で創作落語の「つばさ」。現在の世界のすぐ隣にパラレルワールドがあり、そこでは全員がつばさを持っている。師匠も、その世界では、空を飛んで寄席の移動をしているという噺。彦いち師匠の創作落語には、「私」視点で、少し不思議な世界に入り込むというものがあります。夏目漱石の「夢十夜」を思い出させるような奇妙な味わいの作品です。その発想力、筋立て、オチの付け方、観客の盛り上げ方など、いつもながらにすばらしい高座でした。

 

演者も観客も肩の力が抜けた心地よい空間

 

仲入りの休憩後は、三遊亭白鳥師匠が登場。演目は、江戸川乱歩の同名小説からイメージして創作した「人間椅子」。マクラでクイズも出されて、観客はおおいに盛り上ります。要所要所で、ギャグや客いじりを入れて、観客をわかせます。

 

さて、太助お待ちかね柳家三三師匠の登場です。なんと、マクラを一切話さずに「加賀の千代」に入ります。大みそかに、ご隠居さんに借金に行く長屋の甚兵衛さん。女房にせっつかれ、手土産まで持たされて、いやいや足を運ぶのだが……。他の演者がマクラで盛り上げ、遊んでいるのをしり目に、あえて古典落語だけで聴かせます。いわゆる差別化ですね。堪能しました。

 

二楽師匠が軽妙なトーク紙切り芸で盛り上げて、トリの柳家喬太郎師匠の登場です。なんとこの日は独演会も含めて、3席目とのこと。「はっきり言って、疲れてるんだよね」と言いながら、高座で寝転がったり、「みんなで飲みに行く?」などと誘ったりします。そのたびに観客は大喜び。この日の演目は「極道のつる」。極道の親分が、与太郎のような子分に落語の「つる」を教える噺。疲れたと言いながら、すごいテンションで演じていました。

 

今年も「満開!若手落語会」は、とても満足できる内容でした。寄席落語の持っている良い意味での「いい加減さ」と、粒ぞろいの演者同士の競争意識が相まって、すばらしい空間ができあがりました。

 

加えて、寄席の良さは、観ながら飲食ができること。太助も日本酒を売店で購入し、一杯やりながら、豪華な顔ぶれの落語を楽しませていただきました。2日間で、3回も浅草演芸ホールに足を運んだだけの価値は十二分にありました。

 

来年もまた見に行きます!

 

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