落語家は、YouTubeに高座の動画をアップすべきなのか?(2)
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。以前、落語家はYouTubeに高座の動画をアップすべきか? というテーマを考えてみました。今日は、その続編になります。
(前回の記事)
第1回では、「売れる」という要素を以下の5つに分解してみました。
売れる=知名度×実力×評判×新規客×固定客
1)知名度(見たこと、聞いたことがある)
2)落語家としての話芸の実力
3)評判(面白かった、感動した、お客が入っていた、など)
4)新規客をつかむ
5)固定客(ファン、常連さん、リピーター)を増やす
落語のメインターゲットである中高年層に知ってもらうには、テレビへの露出が一番良いのですが、テレビで落語家が登場できる枠は限られています。そこで、
自分の高座の動画を、YouTubeに戦略的にアップしていくこと
を提案しました。
ネットおよび動画の活用です。なぜネットを活用すべきなのか? それは、メディアの利用時間において、ネットはテレビに次ぐものになっているからです。下のグラフは、主なメディアの1日の平均利用時間を示したものです(総務省「平成29年版 情報通信白書」より抜粋)。
平日の全世代でも、テレビ(リアルタイム)視聴に次いでインターネット利用の時間が長く、毎年、増加傾向にあります。
10代、20代では、すでにネットの利用時間が、テレビの視聴時間を大きく上回っています。
知名度を上げたり、新規客を獲得していくためには、ネットをメディアとして活用することが大切なことがお分かりいただけると思います。
さらに、ネットは「口コミの拡散効果」に優れています。特に若い世代は、「おもしろい」と思ったことを、SNS(LINEやInstagramなど)を利用して、友人に(あるいは不特定多数の人に)その場で伝えます。この友人が、また自分の周囲に伝える、というように、情報がスピーディーかつ広範囲に広まります。
落語会で観てもらい、固定客が「面白かった」と言って、次回に知人を連れてきてくれるという、リアルな評判の広げ方では、地域も限定されてしまいます。しかし、ネットであれば、日本全国で、自分の芸を見てもらうことが可能なのです。
ネットで動画を公開するメリットとデメリット
では、落語家が、ネットで動画や音源を公開するデメリットは何でしょうか? 太助の推測も交えて、以下のようなものがあると思います。
1)ネットで満足してしまい、実際の高座に足を運ばなくなる
2)CDやDVDの売上が下がる
3)不評、悪評が広がる可能性がある
4)芸やギャグを同業者に盗まれる可能性がある
2)は、音楽業界では長らく議論されているテーマです。違法に楽曲をネットに公開されることで、CDの売上が減ってしまうという問題です。難しい課題なのですが、現在、考え方が少しずつ変わってきています。積極的に楽曲をネットに公開することで、コンサートに来る観客を増やす、という戦略を採るミュージシャンが増えているのです。
ネットで知名度を上げ、実際のコンサートに足を運んでもらうという方法ですね。日本のONE OK ROCK(ワンオクロック)というバンドは、この手法で世界各地に進出しています。
現在、柳家喬太郎、立川志の輔など、トップクラスの人気を誇る落語家さんの動画は、数多くアップされています。志の輔師匠は、「日本で最もチケットの取れない落語家の一人」と言われていますから、地方の方も含めて、動画や音声で視聴できることは、大変に嬉しいことです。ネットで視聴してみると、さすがに面白く、ぜひ「高座に行きたいな」という気持ちにさせてくれます。
3)についてですが、動画にはコメントが付けられるので、好評、不評が書き込まれるのは仕方ないですかねぇ。しかし、それはリアルな高座でも同じではないでしょうか(笑)。
4)は、太助の推測です。プロの世界では、他人のギャグは盗まない、という不問律があると聞いたことがありますが。どうなんでしょうか? ネットで先に広めたほうが、本家になりそうな気もしますが。
いろいろと書いてきましたが、結論としては、次世代を取り込むという意味においても、落語家さんは積極的にネットを活用すべきだと思います。立川談志師匠は、テレビの黎明期に、「笑点」などの企画をガンガン発案して、メディアとして上手に活用していました。これだけの数の落語家さんがいながら、現在、戦略的にネットを活用しようとしている方は、ほとんど見当たりません。実に、もったいない気がします。
さて明日は、落語教室の発表会。太助、頑張ってきます!