落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語入門「寝床」:げに恐ろしきかは素人芸かな

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年初頭から、「寝床」という噺(はなし)を稽古しています。「寝床」は、下手な素人芸を指す言葉として使われるほど有名な落語です。

 

ある大店の旦那が、義太夫に大変に凝っている。自宅で義太夫の会を開催しては、貸している長屋の連中を集め、聴かせている。しかし、この旦那の義太夫が、とてつもなくひどい。今夜も義太夫の会なのだが、長屋の住民は、「風邪をひいた」「急に大量の仕事が入った」「早朝に出かける」など、いろいろと理由をつけては断ってくる。結局、誰も参加しないので、仕方なく旦那は、店の奉公人たちに聴かせると言い出す。ところが店の者も、病気やケガを口実に出席しようとしない。旦那はようやく、自分の義太夫をみんな聴きたくないことに気づき、大変なおかんむり。「長屋の連中や店の者は、すぐに出ていけ!」と宣言して、ふて寝をしてしまう。家を追い出されるよりは、義太夫を聴くほうが良いだろうと、みんな渋々やってきて、義太夫の会が始まるのだが……。

 

演者も多く、名演が多い「寝床」

 

「寝床」は、演者も多く、名演もたくさん残っています。この落語のおもしろさは、旦那の機嫌がころころと変わっていく様子です。会の当日、やる気満々で上機嫌の旦那が、みんなの欠席を知らされて不機嫌になっていき、ついには怒りが爆発。しかしまた、うまくおだてられて機嫌が回復していく。この様子を、八代目・桂文楽はみごとに演じました。

 

この落語の演じ方には、いくつかのパターンがあります。1つは、前述した「旦那の機嫌の変化」に重点を置く演じ方。もう1つは、旦那の義太夫のひどさを、会の参加者たちが口々に罵るというものです。五代目・古今亭志ん生は、義太夫のひどさの逸話として、以下のようなギャグを入れました。

 

義太夫のあまりのひどさに逃げ出した番頭を、義太夫を語りながら追いかける旦那。番頭は、蔵に逃げ込み、鍵をかけてしまう。すると旦那は、はしごを持ち出してきて、蔵の高いところにある窓から義太夫を語り込む。旦那の義太夫が、狭い蔵の中で渦を巻き、番頭は七転八倒の苦しみを味わう。

 

実に不条理というか、ぶっ飛んだギャグで、爆笑を誘いました。そのほか、八代目・橘家圓蔵は、ストローで耳に義太夫を注ぎ込むというギャグで、笑いをとっていました。

 

素人芸は、演じている者だけが気持ちよい世界

 

「寝床」が多く演じられるのは、聞き手が「こういう人、自分の周りにも確かにいる」と感じさせてくれるからでしょう。カラオケや楽器、芝居など、いわゆる素人芸は、ほとんどの場合、演じている本人だけが気持ち良く、見物している他人には面白くも何ともありません。

 

少し前までは、クラブやスナックにカラオケのステージが用意されていて、他の客のカラオケを聞かされることが、よくありました。酔っているせいもありますが、みなさんはっきり言って下手くそです。たまに上手な人もいるのですが、そういう方に限って、何回もしつこく出てきます。素人の歌というものは、少しうまくても、繰り返し聞けるものではありません。

 

と、ここまで書いてきて、「素人落語だって、まさにそうじゃないか!」と突っ込まれそうです。はい、そうなんです。演じている者は楽しく、聞く方はかなりの苦痛。マチュア落語も、まさに「寝床」の世界です。

 

しかも名人・上手が演ずる「寝床」を素人落語でやるなんて、ギャグの1つ1つが、ブーメランのように、わが身に襲いかかってきそうです。プロの落語家さんでも、序列や流派があり、誰でもできるという噺ではありません。

 

でも……いいんです! 素人だから。演じたいと思ったら、やってしまう。これが素人芸のいいところなんです(笑)。

 

げに恐ろしきは素人芸かな……。4月28日の発表会が楽しみです。

 

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八代目・桂文楽「寝床」

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