落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語の登場人物:番頭さんは、日本の会社の屋台骨

f:id:osamuya-tasuke:20180320142143j:plain

 

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁(おいらん)や幇間。おなじみのメンバーですが、あなたの周りにも、きっと似たような人がいるはずです。ぜひ、探してみてください。今回紹介する登場人物は、「番頭さん」です。

 

子供時分から店に住み込み、働き続けてたどり着く最高位

 

番頭を辞書で引くと、

商家の使用人の最高職位の名称で,丁稚(でっち)、手代の上位にあって店の万事を預るもの。主人に代って手代以下の者を統率し,営業活動や家政についても権限を与えられていた。商家によっては番頭1人の場合と,複数制の場合とがあるが,後者の場合は,番頭のうちの上位者が支配人とされた。近代的企業組織の成立とともに消滅した。ブリタニカ国際大百科事典

 

と書かれています。番頭さんは、小僧の時代から店に住み込み、こつこつと働き続け、主人から信頼され、トップマネージャーにまで昇りつめた人なのです。主人の信頼が厚ければ、将来的には、「のれん分け」というかたちで、自分の店を持たせてもらうこともあります。

 

まるで実直を絵に描いたようですが、そこは人間。いろいろ遊んだり、たまには羽目を外したくもなります。落語に出てくる番頭さんは、仕事の能力もあるのですが、主人に隠れて、こっそり遊んでいる人も登場します。真面目で、小心者で、そのくせチャッカリしている。まさに日本のサラリーマンの典型のようです。主役の噺はあまり多くはありませんが、落語の重要なバイプレーヤーです。

 

番頭さんの出てくる噺を紹介しましょう。

 

千両みかん

真夏に、大店の若旦那が、ミカンがどうしても食べたくて、長く寝込んでしまう。うっかり者の番頭が、「買ってきてやる」と安請け合いをするのだが、現代と違って、江戸の頃。真夏にミカンなど、どこを探してもない。あちこち必死で探し回り、ようやく一軒の青物問屋で、たった1つのミカンを見つけるが、値段を聞くと「1つ千両」と言われる。あまりの高額に茫然とする番頭。汗だくでミカンを探しまわる番頭さんの様子が、コミカルに、少しせつなく描かれる。

 

柳家小三治「千両みかん」

www.youtube.com

 

百年目

ある大店の番頭。遊び一つしたことがない堅物で通っていて、店では、奉公人たちを、のべつガミガミと叱っている。ところがこの番頭、実は、遊びのほうもかなりの達者。菓子屋に預けた派手な着物に着替えては、芸者のところに入り浸っている。ちょうど季節は花見の頃。番頭さん、芸者や幇間を引き連れて、船で花見に繰り出すことになった。酒が入って大胆になり、扇子を縛り付けて顔を隠し、芸者衆や幇間と大騒ぎを繰り広げる。そこへ、番頭の主人である旦那が、馴染みの医者と二人で花見にやってくる。土手の上で、二人はバッタリ鉢合わせ。突然、目の前に現れた主人に、番頭は動転し、「お久しぶりでございます」と言い、逃げるように店に戻ると、そのまま寝込んでしまう……。

 

引越の夢

人材紹介をしてくれる口入屋(くちいれや)から、大店に美人の女中がやってくる。出迎えた番頭は女中に、「この店の給金は安いが、自分が帳面をいじくって、いろいろと便宜を図ってやる」と言う。しかし「自分は夜中に寝ぼける癖があり、間違ってお前さんの布団に入っていってしまうことがあるかもしれない」とほのめかす。さて番頭さん、まだ昼間なのに店を締めて、奉公人たちを無理やり寝かしつける。みんなが寝たら、忍んでいこうと企んでいるのだが、ついつい寝てしまう。夜中、目が醒めたのが、二番番頭。忍び込もうとするが、女中のいる中二階のはしごが外されている。仕方なく、台所の吊り戸棚にぶら下がり、登ろうとするのだが……。

 

優れた経営者の側には、優れた番頭あり

 

江戸時代の奉公人は、同じ1つ屋根の下で寝食を共にし、律儀に長年、勤め上げるのです。つまり人生の大部分を店で過ごします。まさに従来の日本企業の原型は、この奉公という仕組みにあったのだなと思います。新卒一括採用、終身雇用、愛社精神、社内旅行や運動会、社宅制度……。このような長期雇用を前提とする日本型の企業経営は、現在、否定されつつあります。

 

しかし、何もかも一律に否定すべきものではありません。長期雇用を前提とする愛社精神の醸成は、ストックオプションによるモチベーションの向上とは、まったく違う性質のものだからです。

 

本田宗一郎の名番頭、藤澤武夫氏などが有名ですが、かつては優れた起業家の隣には、優れた番頭の存在がありました。発想力や創造力に優れた起業家には、その具現化を支える、しっかりとした番頭が必要なのです。経営管理の知識を振り回すようなタイプではなく、一緒に汗をかいて、夢を売上に変える人間がいて、初めてビジネスは動き出します。

 

日本企業の衰退は、優れた番頭さんがいなくなったことにも一因があると、私は思っています。ともあれ、番頭さんの登場する落語を、お楽しみください!

 

関連記事

osamuya-tasuke.hatenablog.com