落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語の登場人物:ご隠居は、なぜウンチクを語るのが好きなのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁や幇間。おなじみのメンバーですが、今回は「ご隠居さん」を紹介します。

 

落語におけるご隠居さんは、いろいろなことを知っている「物知り」という役回りです。その名の通り、現役を引退して、のんびりと暮らしています。八っつぁんや熊さんなど長屋の連中は、何か分からないことがあると、ご隠居に聞きにいきます。あるいは暇つぶしにご隠居の家に来て、いろいろなことを教わります。

 

落語にちょくちょく顔を出すご隠居ですが、2通りのタイプがいます。藤子不二雄になぞらえてAとBで説明しましょう。タイプAのご隠居は、本当に知識や人生経験が豊かで、訪ねてきた連中に、きちんとした見聞やアドバイスを与えます。問題なのはタイプBのご隠居で、この人は知識がないのに「知ったかぶり」をするのです。そして苦しまぎれに、滅茶苦茶なことを言い出します。

 

あれこれと質問してくる相手に、無茶苦茶な回答をする落語を、「根問(ねとい)もの」と呼ぶこともあります。ご隠居の「いい加減さ」や「アバウトさ」も、落語の大きな楽しみの1つです。ご隠居の登場する落語をいくつか紹介しましょう。

 

無茶苦茶なこじつけを連発するご隠居たち

 

千早振るちはやふる

 

八五郎の娘が友達と百人一首を楽しんでいて、その中の1枚の意味を尋ねてきた。それは『千早振る 神代(かみよ)もきかず 龍田川(たつたがわ) からくれないに 水くぐるとは』という在原業平の歌であった。さっぱり分からない八五郎は、ご隠居に尋ねに来るのだが、ご隠居も実は全く意味を知らない。龍田川という相撲取りが、千早という花魁に一目惚れをしたという、苦し紛れの解釈を話し始める……。

 

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茶の湯

 

息子に店を譲り、悠々自適の身になったご隠居。根岸に家を見つけ、小僧の定吉と暮らし始めたのだが、暇を持て余している。茶道具一式があったので茶道を始めることにしたのだが、実はこのご隠居、茶道のことはさっぱり分からない。お茶の「緑の粉」がどこで売っているのかも分からず、青黄粉(あおぎなこ)を使ったり、泡立たないので椋(むく)の皮を入れたりと、滅茶苦茶な茶の湯を始める。

 

つる

 

仕事が早く終わった八五郎が、ご隠居のところに来て、鳥の「つる」の名前の由来を尋ねる。由来など知らないご隠居が、オスが「ツ~」と飛んできて松の枝に止まり、その後、メスが「ル~」と飛んできて同じ松の枝に止まったから「つる」となったといい加減な回答をする。それを真に受けた八五郎が、友達にこの知識をひけらかしに行くのだが……。

 

バールのようなもの

 

立川志の輔師匠の創作落語です。新聞記事に『宝石店に泥棒が入った。犯人はシャッターをバールのようなもので、こじ開けて入った』と書かれていた。八五郎がご隠居に「このバールのようなものとは、バールなのか、それ以外のものなのか」と執拗に尋ねる噺。根問ものの傑作です。

 

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このような根問もの以外にも、ご隠居が登場する噺として「短命」「浮世根問」「やかん」「雑俳(ざっぱい)」「道灌(どうかん)」などがあります。

 

人はなぜウンチクを語るのが好きなのか?

 

ウンチクとは、「蓄えた深い学問や知識」をいいます。ご隠居は、自分のウンチクを無学な八五郎に聞かせられることが、とてもうれしいのです。

 

私たちの周りにも必ずいますよね、ウンチクを語ることが大好きな人が。特に男性に多いようです。歴史について、外国について、政治について、ワインについて、町の地形について、サッカー選手について……。語り始めると、熱くなって、止まりません。

 

あれは何なんでしょうか? 「いかに自分が博識か、自慢がしたいのだ」という人もいます。「女性の前でカッコつけたいのだ」という意見もあります。しかし太助は、ちょっと違うと思っています。

 

TBSで「マツコの知らない世界」という番組が放映されています。この番組には、毎日アイスを食べている人や日本中の駅弁を食べている人など、何かにはまっている人たちが登場します。このマニアたちが、「駅弁ベスト3」や「アイスベスト3」などを選んで、マツコ・デラックスに食べてもらったりします。

 

お勧めの品を食べるマツコを見つめるマニアたちの表情が、とても面白いのです。「私が選んだのだから間違いがないはず。しかし、選んだ品が評価されなかったら、どうしよう」という不安と期待が混ざった、実に複雑な表情を浮かべるのです。

 

そしてマツコが「これ本当に、すっごくおいしい!」と言ったときの、マニアたちのうれしそうなこと!

 

ウンチクを語るのは、「自分がこだわっている世界の楽しさ、素晴らしさを、何とか知ってもらいたい」という気持ちの表れでもあると思います(ただし、ほとんどの場合、聞くほうにとっては「ウザイ」だけなのですが)。

 

ご隠居たちのいろいろなウンチクを、ぜひ楽しんでみてください!

 

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