落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語の名作「品川心中」:あたしもそのうち行きますから。さよなら、失礼~

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。今回は落語の名作「品川心中」を紹介します。かつては店のナンバーワンだった女郎・お染が、金の工面ができないために心中を決意します。その相手に選ばれたのが、頼りにならない男、金蔵。映画「幕末太陽傳」でも、サブストーリーとして登場する傑作落語です。

 

品川心中のあらすじ

 

上段

 

1)品川宿白木屋で長年、板頭(いたがしら:遊郭の最上位の遊女)を務めてきたお染。寄る年波には勝てず客が減り、紋日(もんび:五節句など、江戸時代の遊郭で特に定めた日)に必要な金の工面ができない。

 

勝気なお染めは、思い切って死のうと思うが、一人で死んだのでは、金に困って死んだと言われて悔しい。「いっそ心中にしよう」と決め、相手に選んだのが貸本屋の金蔵。「金蔵はひとり者で、ポォ~としてて、居ても居なくても同じような人だから」というのが選んだ理由。

 

2)相談ごとがあるからと手紙を書くと、金蔵、喜んで品川へ飛んで来た。「四十両の金ができず、死ななければならない」というお染。金を持っていない金蔵に、お染は「一緒に死んでくれ」と頼み込み、なんとか説き伏せる。その夜は至れり尽くせりのもてなしで、金蔵も心中を決意する。

 

3)翌朝、金蔵は家の物を道具屋に売り払い、長年、世話になった親分の家へ、別れの挨拶に行く。行く先を尋ねる親分に、金蔵は「西の方へ」と答える。「いつ帰ってくるんだ」という質問には、「お盆の十三日」。とんちんかんなやりとりをし、金蔵は立ち去る。

 

4)夕暮れ時、首を長くして待っているお染のもとへ金蔵が現れる。金蔵は「今夜はお別れだから、うんと飲んで食って騒ごう」と言い、大酒飲んで寝てしまう。夜中、お染は金蔵を揺り起し、店の裏庭から海岸の桟橋へと連れ出す。海に飛び込む決心がつかずガタガタ震えている金蔵を、お染は思い切って突き落とす。

 

もんどり打って海へ落ちた金蔵に続いてお染が飛び込もうとすると、駆けつけてきた若い衆がそれを押さえ、「番町の旦那が金持って来て、待ってんだよ」。これを聞いたお染、海に向かって手を合わせ「お金ができたっていうから、あたしもいろいろとやる事があるの。ごめんね、金さん。ひと足先に行ってておくれ。あたしもそのうち行きますから。さよなら、失礼~」と店に戻ってしまう。

 

5)泳げない金蔵は、おぼれながらも必死の思いで杭につかまり立ち上がると、品川の海は遠浅で膝までの深さしかない。ざんばら髪で、頭に海藻、顔は傷だらけ。濡れてドロドロになった白装束で這い上がり、親分の家にたどり着き、戸を叩く。親分の家では、ちょうど博打の真っ最中。手入れが入ったと大あわてする若い衆。梁に駆け上がったり、かまどに頭をつっこんだり、台所の漬物のツボに落ちたりと大騒ぎ。

 

戸を開けると白い着物のお化けのような金蔵が立っている。疲れた金蔵は、その夜は親分のところで寝てしまう。

 

下段

 

6)翌朝、顛末を聞いた親分は、お染に仕返しをしてやろうという。段取りを打合せ、金蔵は閉店間際の白木屋に青い顔で現れる。幽霊かと驚いたお染に、陰気な声で縁起の悪いことをブツブツ言い、気分が悪いから寝かせてくれと、奥の間に引きこもる。

 

7)そこへ親分と、金蔵の弟になりすました子分が現れる。死体で見つかった金蔵の体からお染との起請文(きしょうもん:江戸時代に男女間の愛情が変わらないことを誓って書いた文書)が出てきたという。お染は「そんなおどかしは通じない、金さんは部屋で寝ている」とせせら笑う。お染が金蔵の寝ている部屋に案内すると、布団はも抜けの殻で、中には「大食院好色信士」の位牌がひとつ。

 

さすがのお染も青くなり、一部始終を打ち明ける。親分は「金蔵は恨んでお前を取り殺す。せめて髪でも切って謝って、供養しろ」とせまる。お染が恐ろしさのあまり、根元からぷっつり髪を切り、さらに回向料として五両出したところで、金蔵が登場。「頭の毛まで切っちまうとはひどいじゃあないか」と怒るお染に、親分は言う。

 

「お染、お前があんまり客を釣るから、比丘(びく・魚籠)にされたんだ」

 

滅多に演じられることのない下段

 

品川は東海道の起点として栄えた町です。宿場町には遊郭がつきもので、江戸の北にある吉原が「北国」、品川は「南」と呼ばれました。

 

「品川心中」は廓噺(くるわばなし)の大ネタで、古今亭志ん生古今亭志ん朝三遊亭圓生立川談志などの名人が手掛けています。ただし後編はストーリーが陰気で、落語のオチも分かりづらいため、滅多に演じられることがありません。オチは尼さんの比丘尼(びくに)と、魚釣りに使う魚籠(びく)という音の似たものによる地口(じぐち)オチというものですが、残念ながら現代の人にはピンとこないオチです。

 

上段の金蔵が親分の家に現れ、若い衆がドタバタと逃げ隠れるシーンで終わることが多いようです。

 

この噺のあらすじだけ書き出すと、主人公のお染はとてもプライドが高く、身勝手で、酷薄な女郎のように思えます。それを、チャッカリしているけれど、どこか憎めない魅力ある女性として演じるには、名人・上手の手腕が必要です。

 

太助は昔、五代目・古今亭志ん生の「品川心中」上段をカセットテープで聴いたとき、笑わせて笑わせて、ストーンと落とすオチに感服した覚えがあります。「落とし噺」と言われる意味を、初めて体感できた噺でした。

 

腹の座った女郎・お染と小心者の金蔵の対比がおもしろい「品川心中」。ぜひ一度、味わってみてください。

 

古今亭志ん朝「品川心中」

www.youtube.com

 

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