落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

ビートたけし『やっぱ志ん生だな!』:たけしが認める落語家の最高傑作・志ん生

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。『やっぱ志ん生だな!』は、ビートたけしが敬愛する古今亭志ん生(ここんてい・しんしょう)のすばらしさについて語りつくした本です。

 

志ん生さんに勝っている落語家っていまだに見たことがないんだよ。芸人全般を見渡したって、皆無なんじゃないか。(中略)「時代とともに人間は進化する」と言われるけど、それって人間が進化しているというよりは、時代ごとに天才が現れて、世の中を便利にしているだけじゃないかと思う。(中略)志ん生さんの芸にもそういうところがあると思う。いきなりポッと出て、何かを変えてしまった人なんだよな。(p.4)

 

たけしは以前から、古今亭志ん生を敬愛し、志ん生のような芸人になりたいと語っています。

 

昭和の名人と称される志ん生は1890年神田の生まれ。五代目・古今亭志ん生を襲名するまでに、講釈師への転向も含め、16回もの改名をします。1956年「お直し」で芸術祭賞受賞。十代目・金原亭馬生、三代目・古今亭志ん朝の父。1961年、脳出血で倒れるも翌年復帰して、1968年まで高座を務めます。

 

 

志ん生のすばらしさについて、たけしはいくつかの魅力を述べています。

 

(1)発想力

 

たけしは、志ん生飛びぬけた発想力について語っています。発想や展開が「ぶっ飛んでいる」だけでなく、想像力をかき立てるようなうまさがあると言います。志ん生のこんな小噺を例に挙げています。

 

「でっかいナスの夢を見たよ」

「どんくらい?」

「とにかくでかい。家とかそんなもんじゃない」

「町内くらいか」

「いや、もっと大きい」

「ええっ? そんなにかい」

「もう暗闇にヘタをつけたような」(p.26)

 

 

聞き手の想像力の幅を広げ、空間が見えてくる卓越した力量を備えているのですね。

 

(2)心地よいテンポと間

 

最近の落語家さんの話すテンポは、どんどん速くなっています。現在の落語家に比べて、志ん生のテンポはとてもゆっくりしています。しかし、この独特のテンポと「間」が、何とも言えない心地よさを生み出していると指摘します。

 

志ん生はイベントの高座で倒れて、その後復帰するのですが、復帰後は活舌(かつぜつ)も悪くなり、テンポもかなり遅くなります。しかし、その高座さえも「晩年にスピードは落ちるが、間が研ぎ澄まされてくる」と賞賛します。

 

確かに、近頃の若手の落語家さんの中には、あまりに語りのスピードが速すぎて、観客を置いてきぼりにしているような人もいます。志ん生のゆったりとしたテンポや、「あ~」とか「う~」とか言ってる独特の間は、ぬるい風呂にのんびり使っているような独特の心地よさがありますね。

 

(3)つねに新しいことを試していく

 

志ん生は「晩年に至っても、まだ新しいことを試そうとしていた」とたけしは指摘します。晩年になって、何をやっても許されるような立場になっても、新しいマクラを作ったり、サゲを変えたりしている志ん生について

 

志ん生さんは人間国宝みたいな扱われ方をされるのがイヤだったんだろうね。

常に自分は現役だというふうに言い聞かせているから、新しい小噺なんかもバンバンつくっていた。(p.132)

 

 

これは、とてもいい言葉ですね。国宝として有難がられ、手を合わせられるよりも、最後まで芸人として笑わせ、笑われたかったのですね。

 

ビートたけし志ん生の勝負

 

ビートたけしは、芸人として「志ん生のような境地」を理想としていることがよく分かる著書です。晩年の志ん生のように、何を言っているかよく分からなくても、出てくるだけでおもしろい芸人。体が悪かろうが、頭がボケてこようが舞台に立ち続ける芸人。そこに至るために、たけしは落語にも挑戦し、ライブも続けると言います。

 

私は志ん生を、落語界の「フリージャズの天才」としてとらえています。落語のストーリーの大枠だけ踏襲し、内部は好きなように遊び、独自の世界を作っていきます。志ん生の分身のように思える登場人物たちは、楽しげにはじけ、動き回ります。しかし、これも売れなかった長い時間の中で、型を学び、作り、壊し、再構築する努力の継続があったからこそ行きついた境地なのだと思います。

 

「たけしは出てくるだけで、なんか面白いな」といわれるところまで、行きつけるか。それが、たけしと志ん生の残された勝負なのだそうです。志ん生への敬愛と、「笑わせる芸人」であり続けたいたけしの心意気があふれ出している一冊でした。

 

志ん生ファンの太助も同じことを言わせてもらいます。

 

「やっぱ志ん生だよ!」 ぜひ、聴いてみてください!

 

 古今亭志ん生「富久」

www.youtube.com

 

『やっぱ志ん生だな!』

ビートたけし(著)

フィルムアート社

 

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