落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

忖度(そんたく)と禁演落語:権力への過剰すぎる配慮

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2017年、「忖度(そんたく)」という言葉が広まり「2017ユーキャン新語・流行語大賞」にも選定されました。この言葉の本来的な意味は「他人の気持ちをおしはかる、推察する」というもので、特に否定的なニュアンスはありません。しかし、流行語になった忖度は、「権力者である安倍首相の意向を、役人などが推察し、その意にかなうように物事を推し進めた」ことを表す言葉として使われました。

 

落語界にもある忖度の歴史

 

落語の歴史にも、この忖度が働いた事件があります。それが禁演落語の選定と上演自粛です。

 

禁演落語とは、昭和16年(1941年)10月、戦時下にふさわしくないとして、落語家が上演を自粛した落語のことです。このとき選ばれた噺は53編で、自粛の証しとして、浅草の本法寺に「はなし塚」を建て、葬りました。

 

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53編は、以下の噺です。五人回し、品川心中(下)、三枚起請、突き落し、ひねりや、辰巳の辻占、子別れ(上)、居残り佐平次木乃伊取り、磯の鮑、文違い、茶汲み、よかちょろ、廓大学、明烏、搗屋無間(つきやむげん)、坊主の遊び、白銅、あわもち、二階ぞめき、高尾、錦の袈裟、お見立て、付き馬、山崎屋、三人片輪、とんちき、三助の遊び、万歳の遊び、六尺棒、首ったけ、目ぐすり、親子茶屋、宮戸川悋気の独楽、権助提灯、一つ穴、星野屋、三人息子、紙入れ、つづら間男、庖丁、不動坊、つるつる、引越しの夢、にせ金、氏子中、白木屋、疝気の虫、蛙茶番、駒長、おはらい、後生うなぎ

 

ネタの内容から、女郎買いもの、酒のみもの、泥棒もの、間男もの、不道徳もの、残酷ものなどが対象になったそうです。

 

しかし、この中には、「品川心中」「子別れ」「居残り佐平治」「明烏」など、名作、大作と呼ばれる噺が入っています。なぜ、これを選んだのかよく分からないという噺も、いくつかあります。

 

権力に対する過剰なまでの配慮

 

この禁演落語の出来事には、2つの特徴が見受けられます。1つは、落語の選定を、落語家自身が行ったということ。なんらかの判断基準が示されていたわけではなく、自主的に「時局に不適切であろう」という基準を定め、噺を選定しました。そして、上演禁止されたのではなく、自主的に規制しました。つまり権力の意向を「忖度」したのです。もう1つの特徴は、その規制範囲が、広範で過剰とも思える点です。

 

そこには、2017年に発覚した森友・加計学園問題における「忖度」と、ある部分、通底するものを感じます。それは権力者に対する過剰なまでの配慮です。

 

戦時下で落語そのものを演じられなくなるという危機的状況と、政治家と役人の癒着を同一で語ることはできません。しかし、権力に対する恐怖、保身からくる忖度の過剰さには、似たものを感じるのです。

 

ちなみに戦後、GHQの統制下でも新たに禁演落語が選定されたそうです。このときは仇討や復讐が含まれるものなどを中心に選んだそうですが、やはり、なぜ選んだのかよく分からない噺も含まれています。

 

太助が次回、演じたいと思っている「寝床」という噺は、この2回目の禁演落語に選定されています。義太夫好きだが下手くそな旦那が、店子や店のものに、ひどい義太夫を強引に聞かすという噺です。一体、どの部分を問題視したのか、よく分かりません。これも過剰なる忖度といえそうです。

 

はなし塚に名作を葬ってしまったのは、落語界にとっては悲しくも辛い歴史です。権力や世評に対して過剰なる忖度が生まれるとき、私たちは何かを1つずつ葬っているのかもしれません。

 

ともあれ、名作「寝床」をお楽しみください!

 

参考文献

『禁煙落語』小島貞二・編著

ちくま文庫

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古今亭志ん朝「寝床」

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