落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・おさむ家太助が、落語の魅力を考えます。

「徳川家康」山岡荘八:文明を改める哲学は生まれたのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。久しぶりに山岡荘八(著)徳川家康を読み返しています。この本を開く気になったのは、韓国の元大統領である朴槿恵(パク・クネ)が、拘置所で熱心に読んでいるというニュースを知ったからです(韓国版の書名『大望』)。

 

ご存じのように朴槿恵は、数奇な運命を歩んでいる人です。父親は元大統領の朴正熙であり、彼女の両親は凶弾に倒れました。その後、韓国初の女性大統領に昇りつめ、また大統領として初めて罷免されることになりました。韓国は歴史的に、倒れた権力者に対しては徹底的に叩きのめすので、裁判の結果はおそらく厳しいものになるでしょう。

 

父親は日本との国交を回復しましたが、彼女は一貫して反日の立場を取り続けました。現在、周りには誰もいなくなり、ひとり独房で、日本の国民文学ともいわれる『徳川家康』を開く。その運命の不思議さを思います。

 

彼女がなぜこの本を手に取り、何を見い出そうとしているのか。少し知りたくなったのです。

 

戦争と平和を描く壮大な叙事詩

 

徳川家康』は、太平洋戦争が終戦して間もない1950年から執筆が開始され、17年もの歳月をかけて書かれた歴史小説です。現在、山岡荘八歴史文庫(講談社)に収められていますが、全26巻の大長編です。第1巻のあとがきに、この長編小説の執筆動機とモチーフが書かれています。

 

終戦後、山岡の脳裏には、以下のような思いが浮かびます。

 

 戦いは終わったが、「平和」はまだその片鱗(へんりん)も地上に姿をあらわしていないというきわめて平凡な、しかし、きびしい事実だった。

 

 これは終戦ではなく、より惨憺たる次の展開への小休止ではあるまいか。文明の持つ性格からも、人々の頭脳を支配している哲学からも、現実にうごきつつある政治からも「平和」につながる何ものも発見できず、万人の希求とはおよそ正反対の血の匂いしか受け取れなかった。

徳川家康』第1巻 あとがきより

 

山岡荘八は、第二次大戦後の平和を、戦争と戦争のはざまの「小休止」ではないか、ととらえたのです。そして、「戦いのない世界を作るための条件は何か」を探るために書き上げたのが本著です。このために選んだ人物が、応仁の乱から続く、長い長い戦国の時代に終止符を打った徳川家康だったのです。

 

世界は知恵と哲学を手に入れたのか?

 

終戦から70年以上の歳月を経て、文明は恐ろしいほどに変化しました。その変化の象徴がITの発達でしょう。初期の大型コンピューターなみの能力を持ち、世界中とつながることができるスマートフォンを、誰でも気軽に持てる時代になりました。

 

誰もがさまざまな情報を、いつでもどこでも入手できるだけでなく、自分の意見や動画を簡単に世界中に発信できるようになりました。買物もネットで済ませられるだけでなく、リアルな貨幣さえも不要になりつつあります。

 

この変化は、確かに生活に「便利」をもたらしました。しかし、ネットは世界中の人間同士の「理解」や「共感」を深めているのでしょうか? わたしは逆に、憎しみや恨み、反感を深めていっているように思えます。一国の大統領が口にする罵詈雑言が、世界中にあっという間に広がります。それに対して、憎しみや反発の感情をむき出しにしたコメントが果てしなく連なります。

 

ネットは、人間のドロドロとした感情を解き放ってしまいました。嫉妬、不信、ねたみ、反発、憎しみ、優越感・劣等感……。パンドラの箱を開けてしまったのです。「負」の感情の連鎖には終わりがありません。

 

山岡荘八は、戦いのない世界を作るために、以下のように語っています。

 

 戦いのない世界を作るためにはまず文明が改められなくてはならず、文明が改められるには、その背景となるべき哲学の誕生がなければならない。新しい哲学によって人間革命がなしとげられ、その革命された人間によって社会や政治や経済が、改められたときにはじめて原子科学は「平和」な時代の人類の文化財に変わってゆく

徳川家康』第1巻 あとがきより

 

北朝鮮の核開発、EUの崩壊、トランプ大統領の暴言拡散、米中の危ういパワーバランス、テロの脅威拡大など、身の回りの出来事を眺めていると、現在が戦いの前の「小休止」にすぎないという感を抱きます。山岡が言うように、次の世界を考える新しい哲学が、今まさに必要なのでしょう。

 

年の瀬です。年末・年始は『徳川家康』という大きな山に登ってみようと思います。

 

徳川家康

山岡荘八(著)
山岡荘八歴史文庫

講談社