落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

落語で、男が「いい女」を演じることの難しさ

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こんにちは、太助です。いま太助は「夢の酒」という落語の稽古に励んでいます。

 

「夢の酒」は、うたた寝をしている若旦那を、妻のお花が起こすシーンから始まります。

 

「もう少しだったのに」と、起こされて機嫌が悪い若旦那。その理由を尋ねると、夢を見ていたのだという。夢の中で若旦那は、突然の雨に降られて、軒の深く出ている家で雨宿りをしている。すると、その家の女中さんが若旦那を知っていて、奥さんに声をかける。「あなたがいつも噂をしている、大黒屋の若旦那がいらっしゃいましたよ~」。出てきたのは、飛び切りの美人。嬉しそうに夢の話しをする若旦那と対照的に、妻のお花は、どんどん不機嫌になっていく……。

 

落語の世界で、「いい女」を追いかける男たちの情熱と行動力は、本当にすごいものがあります。想像や夢の中で、いい女に出会う噺としては、この「夢の酒」や「湯屋番」などがあります。

 

果たして、おじさんが「いい女」を演じられるのか?

 

さて問題は、この「いい女」を太助が演じなければならない、ということです。夢の酒で、この奥さんは、年の頃は25~26歳、中肉中背、色白で、目元に愛嬌のある美人と描かれます。こんな若旦那のセリフも出てきます。「ああいうのが、本当の美人っていうんだろうね」。……本当の美人ですよ。この夢の女以外にも、妻のお花、女中さんと3人も女性が登場します。

 

このような落語を演ずるのは、上品で清潔感があり、ほっそりしていて、少し色気のある「いい男」が最適でしょう。所作(しょさ:振る舞いやしぐさ)も、女性のように繊細な振る舞いができる落語家さん。加えて、声も高音が出せないと、女性3人の演じ分けが難しい噺です。

 

現役の落語家さんでは、柳家三三入船亭扇辰立川談修古今亭菊之丞、(やせていた頃の)春風亭小朝師匠などがピッタリきます。私の好きな入船亭扇遊師匠も手掛けています。

 

意識的に動作するからこそ、美しい所作が生まれる

 

男が女性を演じる芸能は、落語以外にも歌舞伎や大衆演劇などがあります。テレビでおなじみの梅沢富美男さんは、女役をとても魅力的に演じることで有名です。

 

男性が女性を演じるメリットの1つは、「意識的に動作しなければならない」ことでしょう。女性が無意識にしている動作や話し方を、観察し、細かく真似る必要があります。意識的に動作するからこそ、上手な方は、指先や背筋にまで神経が行き届き、美しい所作が生まれるのだと思います。

 

では、女性の落語家さんが、この噺をやれば良いかというと、そうでもありません。女性では逆に、色っぽさが生々しくなってしまうのです。

 

品のある男性が醸し出す(かもしだす)色気が、自然に感じられる程度がちょうど良いと思います。この色気が変に強調されると、「下品なオネエ」のようになってしまいますし、実に難しいところです。

 

では「なぜ、太っていて、色気もないお前が、この噺をやるのか?」と突っ込まれそうです。「夢の酒」の後半には、若旦那の父親が登場します。この親父さん、三度の食事よりも酒が好きという呑兵衛。お酒大好きの太助は、この親父さんがつぶやく「落ち」を、ぜひ一度、演じてみたいのです。「いい女」の部分は勘弁してやってください……。

 

こちらは「夢の酒」を練り上げて、完成させた名人、八代目・桂文楽の高座です。晩年の高座ですが、妻のお花の可愛らしいこと。本物をお楽しみください。

 

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