太助セレクト落語 2018年4月下旬のお勧め落語会
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年4月下旬のお勧めの落語会をピックアップしました。4月は、真打や二つ目の落語家さんの独演会もたくさん開催されています。応援もかねて、足を運んでみてください。懇親会があれば、落語家さんと仲良くなれますよ。
日時:4月20日(金) 開演:13:00
料金:2,000円
出演:立川志ら玉、立川談四楼、立川志らべ、立川談修、立川獅子丸、立川がじら
場所:お江戸日本橋亭
問い合せ:03-3245-1278
⇒落語立川流の一門会。登場する演者全員が、本当に全力投球。そこが立川流のいいところでもあり、疲れるところ。寄席とはちょっと違う落語会を、ぜひご覧あれ!
道楽亭寄席「柳亭こみちのネタおろし会 これやっていいですか」
日時:4月21日(土) 開演:14:00
料金:1,800円
出演:柳亭こみち
場所:道楽亭(新宿三丁目)
問い合せ:03-6457-8366
⇒キレのいい落語を聴かせてくれるこみち師匠。「女性版たけのこ」、他二席を楽しめます。
吉幸&左平治二人会(第7回)
日時:4月21日(土) 開演:18:00
料金:1,500円
出演:立川吉幸、立川左平治
場所:徳丸三凱亭(とくまるみよしてい)東武練馬駅
http://www.miyoshitei.net/index.html
⇒東武東上線の東武練馬駅にあるホールで行われる手作りの落語会。長く続けているだけにファンも多い二人会です。別途、懇親会もありますよ(2,000円)
世界でオンリー!ミュージカル落語 in まほろ座
日時:4月22日(日) 開演:12:30
料金:3,500円(要・別途1オーダー)
出演:三遊亭究斗
場所:まほろ座MACHIDA(町田)
問い合せ:042-732-3139
⇒見るからに落語家的な風貌なのに、歌い始めたら本格的ミュージカル。それもそのはずで、三遊亭究斗師匠は、劇団四季出身。落語とミュージカルが合体したミュージカル落語を体験してみてください。今回は「サウンド・オブ・ミュージック」です。
道楽亭出張寄席「白酒・二人会」まっぴらごめんねぇ Part.7
日時:4月24日(火) 開演:19:00
料金:3,500円
場所:深川江戸資料館(小ホール)
問い合せ:03-6457-8366
⇒深川江戸資料館で開催される二人会。資料館の江戸時代の深川の町を再現した展示は、本当に見事です。長屋や船宿など、落語好きならば必見! 見学のあとで、白酒、百栄師匠の落語を楽しみましょう!
*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。
第132回 江戸川落語会:柳家三三、春風亭一之輔 二人会
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年3月14日、江戸川落語会を観るために、総武線・新小岩駅にある「江戸川区総合文化センター」に足を運びました。
今回は、柳家三三、春風亭一之輔の二人会。しかも、この日はホワイトデーということで、副題は「男女にまつわる噺をテーマに二人が話す」とあります。
「落語に男女の噺はごまんとありますが、二人はなぜその噺を選んだのか?」そこを推測するのも楽しみの1つらしいのです。期待に胸をふくらませ、駅から15分以上かかる道のりを歩きました。
二人が選んだ男女にまつわる噺とは?
開口一番のあとに、柳家三三師匠の登場。春風亭一之輔が楽屋に入ったのが開演5分前で、「男女にまつわる噺」についてなんの打ち合わせもしていないとマクラで笑わせて、始めたのが「元犬」。え……!?
蔵前神社に迷い込んだ白犬が、人間に生まれ変わって、奉公に出るという落語。元は犬なので、着物の着方も分からないし、足をふいた雑巾の水も飲んでしまう。しかし、変り者が好きだという隠居のところで働くことになる……。
三三師匠の「元犬」は何回か生で聞いたことがあるのですが、やっぱりおもしろい。犬が帯を首に巻いて、喜んで遊んでいる様子などが、楽しく描かれます。しかし、この噺は女性は出てこないはず。どうするのかと思ってみていたところ、「うちにはお元という女中がいる。お元は女だよ」と念押しを……。どうやら、これで「男女にまつわる噺」の条件はクリアらしい。とってもユルいが、おもしろかったので良しとしましょう。
一之輔師匠が登場し、麻生財務大臣の悪口をひとしきり語って、笑わせてから、「お見立て」に。吉原の花魁・喜瀬川(きせがわ)は、客で田舎者の杢兵衛(もくべえ)大尽が嫌でたまらない。杢兵衛に会いたくないので、若い衆に「病気だから会えない」「入院したので、ここにはいない」など、いい加減なことを言って応対させるのだが、とうとう「死んでしまった」ことになる……。これは間違いなく男女にまつわる噺です。杢兵衛の生真面目だが、しつこい田舎者の雰囲気が上手に演じられ、笑いを誘っていました。
仲入りのあとには一之輔師匠が、再び高座へ。2席目は「寄合酒」。長屋の若い衆が、つまみを持ち寄って酒を飲もうということになる。しかし金がないので、乾物屋や魚屋からチョロまかしてきたりと大騒ぎ。一之輔師匠は、ぶっきらぼうな口調で、ときに大声でメリハリをつける話し方。元気のよい若い衆を登場させ、笑わせます。と、ここまで書いてきて、「寄合酒」には、女性が出てこないことに気づきました。条件をクリアしてないじゃん!
巡り巡って三三かな
トリは三三師匠で、演目は「不孝者(ふこうもの)」。道楽者の若旦那が、柳橋で芸者遊びをしている。怒った旦那が、下男になりすまして若旦那を迎えに行く。若旦那はもう少し遊びたくて、空き部屋に旦那をほうり込んでしまう。女中が、「若旦那の差入れだ」と酒と肴を持ってくる。物置のような部屋で文句を言いながら酒を飲んでいる旦那。すると、酔った芸者が間違えて入ってくる。それが昔馴染みの欣弥(きんや)という女。昔語りをするうちに、懐かしさと共に恋情が、少しずつ蘇ってくる……。
最後で、ようやく「男女にまつわる噺」を、じっくり聞くことができました。大変にめずらしい噺で、私も初めてです。物置部屋のような狭い座敷で、昔出会った男女が静かに昔語りをする。まさに、大人の落語です。落ち着きのある風貌と声を持つ三三師匠ならではの噺を、満喫しました。
帰り道。カミさんがポツリと「巡り、巡って三三だな」とつぶやきました。私もまったく同感でした。これまで、いろいろな落語家さんを観てきました。とにかく明るい人。大声を出す人。客いじりばかりしている人。古典落語に、スマホなど現代の風俗をいれる人。たくさんの落語家さんの芸風に触れてきました。
いろいろ観て、その結果、やはり柳家三三が聞きたくなるのです。あざとく笑いを取ろうという落語家が増える中、古典落語の世界をきちんと浮かび上がらせて、スッと酔わせてくれる。まさに大人の落語。
巡り、巡って三三です。
落語の登場人物:番頭さんは、日本の会社の屋台骨
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁(おいらん)や幇間。おなじみのメンバーですが、あなたの周りにも、きっと似たような人がいるはずです。ぜひ、探してみてください。今回紹介する登場人物は、「番頭さん」です。
子供時分から店に住み込み、働き続けてたどり着く最高位
番頭を辞書で引くと、
商家の使用人の最高職位の名称で,丁稚(でっち)、手代の上位にあって店の万事を預るもの。主人に代って手代以下の者を統率し,営業活動や家政についても権限を与えられていた。商家によっては番頭1人の場合と,複数制の場合とがあるが,後者の場合は,番頭のうちの上位者が支配人とされた。近代的企業組織の成立とともに消滅した。ブリタニカ国際大百科事典
と書かれています。番頭さんは、小僧の時代から店に住み込み、こつこつと働き続け、主人から信頼され、トップマネージャーにまで昇りつめた人なのです。主人の信頼が厚ければ、将来的には、「のれん分け」というかたちで、自分の店を持たせてもらうこともあります。
まるで実直を絵に描いたようですが、そこは人間。いろいろ遊んだり、たまには羽目を外したくもなります。落語に出てくる番頭さんは、仕事の能力もあるのですが、主人に隠れて、こっそり遊んでいる人も登場します。真面目で、小心者で、そのくせチャッカリしている。まさに日本のサラリーマンの典型のようです。主役の噺はあまり多くはありませんが、落語の重要なバイプレーヤーです。
番頭さんの出てくる噺を紹介しましょう。
千両みかん
真夏に、大店の若旦那が、ミカンがどうしても食べたくて、長く寝込んでしまう。うっかり者の番頭が、「買ってきてやる」と安請け合いをするのだが、現代と違って、江戸の頃。真夏にミカンなど、どこを探してもない。あちこち必死で探し回り、ようやく一軒の青物問屋で、たった1つのミカンを見つけるが、値段を聞くと「1つ千両」と言われる。あまりの高額に茫然とする番頭。汗だくでミカンを探しまわる番頭さんの様子が、コミカルに、少しせつなく描かれる。
柳家小三治「千両みかん」
百年目
ある大店の番頭。遊び一つしたことがない堅物で通っていて、店では、奉公人たちを、のべつガミガミと叱っている。ところがこの番頭、実は、遊びのほうもかなりの達者。菓子屋に預けた派手な着物に着替えては、芸者のところに入り浸っている。ちょうど季節は花見の頃。番頭さん、芸者や幇間を引き連れて、船で花見に繰り出すことになった。酒が入って大胆になり、扇子を縛り付けて顔を隠し、芸者衆や幇間と大騒ぎを繰り広げる。そこへ、番頭の主人である旦那が、馴染みの医者と二人で花見にやってくる。土手の上で、二人はバッタリ鉢合わせ。突然、目の前に現れた主人に、番頭は動転し、「お久しぶりでございます」と言い、逃げるように店に戻ると、そのまま寝込んでしまう……。
引越の夢
人材紹介をしてくれる口入屋(くちいれや)から、大店に美人の女中がやってくる。出迎えた番頭は女中に、「この店の給金は安いが、自分が帳面をいじくって、いろいろと便宜を図ってやる」と言う。しかし「自分は夜中に寝ぼける癖があり、間違ってお前さんの布団に入っていってしまうことがあるかもしれない」とほのめかす。さて番頭さん、まだ昼間なのに店を締めて、奉公人たちを無理やり寝かしつける。みんなが寝たら、忍んでいこうと企んでいるのだが、ついつい寝てしまう。夜中、目が醒めたのが、二番番頭。忍び込もうとするが、女中のいる中二階のはしごが外されている。仕方なく、台所の吊り戸棚にぶら下がり、登ろうとするのだが……。
優れた経営者の側には、優れた番頭あり
江戸時代の奉公人は、同じ1つ屋根の下で寝食を共にし、律儀に長年、勤め上げるのです。つまり人生の大部分を店で過ごします。まさに従来の日本企業の原型は、この奉公という仕組みにあったのだなと思います。新卒一括採用、終身雇用、愛社精神、社内旅行や運動会、社宅制度……。このような長期雇用を前提とする日本型の企業経営は、現在、否定されつつあります。
しかし、何もかも一律に否定すべきものではありません。長期雇用を前提とする愛社精神の醸成は、ストックオプションによるモチベーションの向上とは、まったく違う性質のものだからです。
本田宗一郎の名番頭、藤澤武夫氏などが有名ですが、かつては優れた起業家の隣には、優れた番頭の存在がありました。発想力や創造力に優れた起業家には、その具現化を支える、しっかりとした番頭が必要なのです。経営管理の知識を振り回すようなタイプではなく、一緒に汗をかいて、夢を売上に変える人間がいて、初めてビジネスは動き出します。
日本企業の衰退は、優れた番頭さんがいなくなったことにも一因があると、私は思っています。ともあれ、番頭さんの登場する落語を、お楽しみください!
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行徳落語名人会:林家彦いち、立川談笑、古今亭菊之丞、春風亭一之輔
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年3月9日、行徳落語名人会に足を運びました。出演は、林家彦いち、立川談笑、古今亭菊之丞、春風亭一之輔に加え、紙切りの林家二楽。はっきり言って、すごい豪華メンバーで、落語会を2回くらい開催できそうな陣容です。サブタイトルには「落語新時代」と書かれています。期待に胸をふくらませ、行徳文化ホールI&Iに向かいました。
行徳文化ホールI&Iは、東西線の行徳駅から徒歩10分程度のところにある、とてもオシャレな市民ホールです。2階席もあり、639名収容できるそうです。客席は列ごとに段差がつけられ、席も前列とずらしてあるので、抜群の見やすさです。前に背の高い人がいて舞台がよく見えず、楽しめなかった経験も多いので、このようなホールはうれしい限りです。
地元出身の菊之丞が、地元ネタで笑いをとる
前座の開口一番のあと登場したのは春風亭一之輔師匠。千葉県出身の一之輔師匠は、地元ネタのマクラで笑わせてから、演目は「長屋の花見」。お花見のシーズンによく演じられる、とてもポピュラーな噺です。大家に集められた長屋の住民たち。店賃(たなちん:家賃のこと)の催促だろうと思ったら、なんと大家から花見の誘い。酒やつまみ(卵焼きやかまぼこ)も用意したというから、一同、大喜び。しかしよく聞いてみれば、酒はお茶を薄めたもの、つまみは漬物。たくあんを卵焼きに、大根をかまぼこに見立ててくれという。意気消沈した一同が、しらけたムードで花見を始め、しぶしぶとお茶を飲み、漬物をかじる……。一之輔師匠の少しぶっきらぼうな口調が、がっかりしてやる気をなくした長屋の住民たちの雰囲気にピタリと合います。
マクラで「本日はこれが四席目」と語っていました。落語を演じるようになって分かったのですが、落語を一席話すと、かなり疲れます。一之輔師匠は人気者で引っ張りだこなのでしょうが、どうぞ、お体をご自愛ください。
続いては古今亭菊之丞師匠が、紫の着物で登場します。行徳周辺で暮らしたことのある菊之丞師は、ローカルネタで場内をわかせて、演目は「たいこ腹」。暇で仕方ない若旦那が、鍼(はり)治療を始めてみようと思いつく。道具を揃え、壁や猫に鍼をうってみるのだがおもしろくない。「やはり人間に打たなければ」と呼び出したのが、たいこ持ちの一八。嫌がる一八に、褒美の金をちらつかせながら、いい加減な鍼治療を始める。菊之丞師匠は、落語に出てくる若旦那のような顔立ち。若旦那と一八の「いい加減さのぶつかり合い」を上手に演じていました。
後半は、談笑、二楽、彦いち師匠で、場内は爆笑の渦に
仲入り(途中休憩)をはさんで、三席目は立川談笑師匠。今回の落語会が「落語新時代」と銘打たれているのは、落語協会のメンバー3名に、立川流の談笑師が入っているからでしょうか。談笑師匠は、体格がよく、袴も着けているので、高座に上がるとかなりの迫力があります。その魅力は、インテリジェンスを感じさせるマクラと、古典落語の大胆な改変でしょう。談笑師のネタは「金明竹(きんめいちく)」。骨董商のオジさんのところで、やっかいになっている与太郎。店番をしていると、上方の人間がやってきてオジさんへの言づてを頼まれるのだが、早口の上方語で、何を言っているのかわからない……。この噺は、上方語のスピードの速い言い立てがおもしろいのですが、談笑師はこれを田舎訛りに変えて演じました。これが実におもしろい。場内は大爆笑でした。
続いて林家二楽師匠。紙切りとは、その名の通り、紙をハサミで切り、形を作る伝統芸能です。ハサミを使って、さまざまな情景や動物などを見事に、作り上げていきます。紙切りは、切っている間を持たせるために、ずっと喋り続けています。つまり、紙切りの芸+話芸が必要なのです。今回は、観客から紙切りの「お題」をリクエストしたところ、「行徳の常夜灯」というのが出されました。見たこともない二楽師匠が、客の説明をもとに想像で切り抜いていきます。文句を言いながら悪戦苦闘する様子に、客は大喜び。しかし、実に見事な常夜灯ができ上りました。
トリは、林家彦いち師匠。しかし、登場したときはすでに午後8時45分。「9時から、(セットの)バラシが始まるんです」と言いながら、テンポよく、マクラから本編に入っていきます。彦いち師匠のネタは「熱血怪談部」。高校の怪談サークルの顧問になった熱血教師が、体育会系のノリで生徒たちに指導するという新作落語です。実際に空手や柔道の武道経験者で、アウトドア派の彦いち師匠。キビキビとした、メリハリのある芸で、場内をわかせます。彦いち師匠が作る落語は、落ちに独特のひねりがあり、笑ったあとに余韻が残ります。今回も大笑いさせて、スッと震えがくるような見事な落とし方でした。
今回の落語会は、実に豪勢なものでした。少し詰め込み過ぎの感もありましたが、主催者の意気込みが伝わってくる豪華な落語会で、大いに楽しませていただきました。
そういえば、誰かがマクラで言ってましたが、「行徳文化ホールI&I」のアイ・アンド・アイって、なんの略なのでしょうか? ご存じの方がいたら教えてくださいな。
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老人ホームの落語会に参加させていただきました!
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。先日、浅草にある老人ホームの落語会に参加させていただきました。この落語会は、同じ落語教室に通う方が、ホームに交渉して始めたもので、今回が2回目となります。
9階建てのとても立派な施設で、総ベッド数が161もある大きな特別養護老人ホームです。
私は初参加なのですが、初回の落語会は、なかなか大変だったそうです。参加意思や落語を聞いた経験のある・なしに関わらず集まってもらったため、途中で口喧嘩が始まったり、ヤジが飛んだり……。落語を楽しむという雰囲気ではなかったようです。
その経験を踏まえ、今回は、人数は少なくてもよいので、ショートステイの方を中心に、落語を聞きたいという意向のある方だけにお集りいただきました。開催場所も大きな部屋を使わずに、談話スペースで行われました。
お集りいただいたのは、約20名。3名の演者で30分~40分程度、落語をさせていただきました。
演目は
おさむ家太助「粗忽の釘」
おさむ家かいかい「寿限無」
おさむ家りん生「親の顔」
前回、いろいろ大変だったと聞いていたのですが、今回は、みなさん、かなり集中して聞いていただき、笑いも起こり、なごやかな雰囲気の中で終えることができました。最初から最後まで寝ている方もいましたが、それはそれで良いのだと思います。大勢の中で、のんびりとした時間を過ごされたのですから。
高齢の方に楽しんでもらえる落語とは?
老人ホームなどで、かなり高齢の方に聴いてもらう落語は、演じ方が違うのだなと感じます。
落語は基本的にストーリーがあります。場所や登場人物を想像してもらいながら、物語を理解し、ときに笑ってもらうというものです。しかし、高齢になると、噺(はなし)の展開や会話のスピードについていけない方が増えてきます。このため、場面転換や登場人物が少ない噺のほうが向いていますし、できる限りゆっくりと話したほうがよいでしょう。
私は、とても早口で演じるほうなので、今回は意識的にゆっくりと話してみました。しかし、あとで聞いたところ、やはり早かったようです。自分の持っているリズムを変えるのは、なかなか難しいものがあります。
浅草演芸ホールなどに行くと、身の周りの出来事や話題ばかり話して、本編の落語をまったく演じずに高座を降りてしまう落語家さんがいます。あるいは、客いじりばかりしている落語家さんもいます。私のようなマニア的・落語ファンは、「また、ネタをやらないのかい」と、まゆをひそめたりします。
しかし、あれも落語の1つのテクニックなのだな、と気づかされます。浅草演芸ホールは観客の大半が高齢者。観光バスツアーのコースにもなっているので、普段、落語をほとんど聞いていない方も大勢来ます。短時間で、複雑な物語を理解してもらい、笑いを引き出すのは困難です。
「将棋の藤井聡太くん、すごいですよね。あんな孫がいたら、うれしいですよね~」と話題を投げて、うん、うんと頷いてもらうほうが、手っ取り早く、確実です。つまり共感してもらうのですね。
老人ホームで落語をさせていただくと、噺を理解してもらい笑いを引き出すよりも、まず共感してもらい、頷いてもらうことが出発点であることに、改めて気づきます。落語の基本は、やはり観客とのコミュニケーションなんですね。
老人ホーム落語は、施設の方の準備や気配りが、とても大変だと思います。今回も、自力歩行の難しい方が大半だったので、談話室に集まるにも職員さんの介助が必要です。お集りのみなさんが、少しでも楽しい時間を過ごせていただけたなら、うれしい限りです。
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太助セレクト落語 2018年3月中・下旬のお勧め落語会
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年3月下旬のお勧めの落語会をピックアップしました。落語には花見の噺(はなし)や春の噺がたくさんあります。おだやかで、のんびりしたこの季節は、落語の世界にひたるにはピッタリ。ぜひ、寄席やホールに足を運んでください。
東京落語会
日時:3月16日(金) 開演:18:00
料金:2,470円
出演:
橘家円太郎「化物使い」
三遊亭円輔「長屋の花見」
春風亭柳橋「天災」
ほか
場所:ニッショーホール
問い合せ:03-3464-1124
⇒小三治師匠をはじめ、今回は落語協会、落語芸術協会の2つの団体からベテランが勢ぞろい。円熟の噺が聴けるかな? 当日券が50枚程度あり。
扇辰日和
日時:3月17日(土) 開演:13:45
料金:2,000円
出演:入船亭扇辰「明烏」ほか一席、三遊亭歌太郎、春風亭ぴっかり☆
場所:なかの芸能小劇場(中野)
⇒女性や若旦那の出てくる噺も、お得意な扇辰師匠。NHK新人落語大賞受賞、今年の注目株・歌太郎さんも登場しますよ。
寄席:鈴本演芸場
日時:下席(3月21日~30日)
開演:昼の部12:30~16:30
料金:2,800円
場所:鈴本演芸場
問い合せ:03-3834-5906
⇒人気者の喬太郎、彦いち、実力派のさん喬、一朝が並ぶ豪華なメンバー。混雑が予想されますので、少し早めに入場を!
黒門亭(2部)長講二題
日時:3月18日(日) 開演:14:30
料金:1,000円
出演:
林家正雀「梅若礼三郎」
場所:落語協会
問い合せ:03-3833-8563
⇒勉強会的に開催される落語協会の落語会。今回は長い噺をたっぷり聴けます。しかも1,000円! 席数が少ないので、当日はお早めに。
限界突破!「志の太郎・らく人・寸志 大ネタ挑戦三人会」
日時:3月19日(月) 開演:19:00
料金:2,000円
出演:
立川志の太郎:小間物屋政談
立川らく人:文七元結
立川寸志:崇徳院
場所:神田連雀亭
問い合せ:090-1045-5014
⇒立川流の二つ目さんによる大ネタ挑戦の落語会。毎回、熱のこもった高座が楽しめますよ!
*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします。
落語入門「寝床」:げに恐ろしきかは素人芸かな
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年初頭から、「寝床」という噺(はなし)を稽古しています。「寝床」は、下手な素人芸を指す言葉として使われるほど有名な落語です。
ある大店の旦那が、義太夫に大変に凝っている。自宅で義太夫の会を開催しては、貸している長屋の連中を集め、聴かせている。しかし、この旦那の義太夫が、とてつもなくひどい。今夜も義太夫の会なのだが、長屋の住民は、「風邪をひいた」「急に大量の仕事が入った」「早朝に出かける」など、いろいろと理由をつけては断ってくる。結局、誰も参加しないので、仕方なく旦那は、店の奉公人たちに聴かせると言い出す。ところが店の者も、病気やケガを口実に出席しようとしない。旦那はようやく、自分の義太夫をみんな聴きたくないことに気づき、大変なおかんむり。「長屋の連中や店の者は、すぐに出ていけ!」と宣言して、ふて寝をしてしまう。家を追い出されるよりは、義太夫を聴くほうが良いだろうと、みんな渋々やってきて、義太夫の会が始まるのだが……。
演者も多く、名演が多い「寝床」
「寝床」は、演者も多く、名演もたくさん残っています。この落語のおもしろさは、旦那の機嫌がころころと変わっていく様子です。会の当日、やる気満々で上機嫌の旦那が、みんなの欠席を知らされて不機嫌になっていき、ついには怒りが爆発。しかしまた、うまくおだてられて機嫌が回復していく。この様子を、八代目・桂文楽はみごとに演じました。
この落語の演じ方には、いくつかのパターンがあります。1つは、前述した「旦那の機嫌の変化」に重点を置く演じ方。もう1つは、旦那の義太夫のひどさを、会の参加者たちが口々に罵るというものです。五代目・古今亭志ん生は、義太夫のひどさの逸話として、以下のようなギャグを入れました。
義太夫のあまりのひどさに逃げ出した番頭を、義太夫を語りながら追いかける旦那。番頭は、蔵に逃げ込み、鍵をかけてしまう。すると旦那は、はしごを持ち出してきて、蔵の高いところにある窓から義太夫を語り込む。旦那の義太夫が、狭い蔵の中で渦を巻き、番頭は七転八倒の苦しみを味わう。
実に不条理というか、ぶっ飛んだギャグで、爆笑を誘いました。そのほか、八代目・橘家圓蔵は、ストローで耳に義太夫を注ぎ込むというギャグで、笑いをとっていました。
素人芸は、演じている者だけが気持ちよい世界
「寝床」が多く演じられるのは、聞き手が「こういう人、自分の周りにも確かにいる」と感じさせてくれるからでしょう。カラオケや楽器、芝居など、いわゆる素人芸は、ほとんどの場合、演じている本人だけが気持ち良く、見物している他人には面白くも何ともありません。
少し前までは、クラブやスナックにカラオケのステージが用意されていて、他の客のカラオケを聞かされることが、よくありました。酔っているせいもありますが、みなさんはっきり言って下手くそです。たまに上手な人もいるのですが、そういう方に限って、何回もしつこく出てきます。素人の歌というものは、少しうまくても、繰り返し聞けるものではありません。
と、ここまで書いてきて、「素人落語だって、まさにそうじゃないか!」と突っ込まれそうです。はい、そうなんです。演じている者は楽しく、聞く方はかなりの苦痛。アマチュア落語も、まさに「寝床」の世界です。
しかも名人・上手が演ずる「寝床」を素人落語でやるなんて、ギャグの1つ1つが、ブーメランのように、わが身に襲いかかってきそうです。プロの落語家さんでも、序列や流派があり、誰でもできるという噺ではありません。
でも……いいんです! 素人だから。演じたいと思ったら、やってしまう。これが素人芸のいいところなんです(笑)。
げに恐ろしきは素人芸かな……。4月28日の発表会が楽しみです。
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八代目・桂文楽「寝床」
dマガジン:雑誌読み放題サービスに見る「雑誌の終わり」
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。ネットの雑誌読み放題サービス「dマガジン」に加入してみました。dマガジンは、NTTドコモが提供するサービスで、「月額400円で200誌以上が読み放題」をうたい文句にしています。バックナンバーを含めると、なんと1500誌以上が読み放題になります。
2018年2月20日時点で、以下のような雑誌が読み放題となっています(一部を抜粋)
dマガジンで読める雑誌
総合週刊誌
週刊文春、週刊SPA!、女性セブン、週刊現代、週刊ポスト、週プレ、週刊女性、週刊新潮、女性自身、サンデー毎日、週刊朝日、AERA、ニューズウィーク日本版、FRIDAY、FLASH、他
女性ファッション
non-no、JJ、エル・ジャポン、Precious、ViVi、S cawaii!、フィガロジャポン、Ray、GINZA、FUDGE、25ans、Seventeen、VOGUE JAPAN、VERY、CLASSY.、LEE、HERS、Domani、他
男性ライフスタイル
DIME、BRUTUS、HotDog、Tarzan、Pen、男の隠れ家、Casa。、サライ、BE-PAL、一個人、日経トレンディ、他
女性ライフスタイル
ESSE、サンキュ!、日経ウーマン、ar、美的、Hanako、VoCE、CREA、家庭画報、すてきにハンドメイド、an・an、他
料理・暮らし・健康
レタスクラブ、きょうの料理、毎日が発見、クロワッサン、3分クッキング、日経ヘルス、日経おとなのOFF、きょうの健康、いぬのきもち、ねこのきもち、ひよこクラブ、たまごクラブ、オレンジページ、他
お出かけ・グルメ
週刊Tokyo Walker+、おとなの週末、東京カレンダー、dancyu、旅の手帳、散歩の達人、月刊山と渓谷、CREA、他
ビジネス・IT・国際
週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、ダイヤモンドZAi、日経PC21、日経Associe、SAPIO、日経マネー、エコノミスト、週刊アスキー、PRESIDENT、他
スポーツ
週刊パーゴルフ、ゴルフダイジェスト、週刊ベースボール、サッカーダイジェスト、Number、RUNNING、Mr.Bike BG、他
エンタメ・趣味
サイゾー、ファミ通、ダ・ヴィンチ、パチンコ読本、NHK 趣味の園芸、CAPA、日経エンタテインメント!、つり情報、鉄道ファン、つり人、ザ・テレビジョン、他
男性ファッション
メンズクラブ、LEON、GQ JAPAN、UOMO、他
こうして誌名を書き出すだけでも、大変な数になります。書店で見かける雑誌は、ほぼ網羅されていると言えるでしょう。しかも、1冊、400円~1000円の雑誌が、月額400円で読み放題なのですから驚きます。
誌面デザインがそのまま表示されるので、スマホで読む際、文字サイズはかなり小さくなります。しかし、気になる記事だけ拡大しながら読めば、あまりストレスなく読めるという印象です。タブレットならば快適に使えるでしょう。
1冊、数百円の雑誌を400円で読めるのですから、200誌で考えると1冊あたり2円で読める計算になります。雑誌を買ったり、持ち運ぶ手間もいらず、いつでも・どこでも読むことが可能。利用者にとっては、実にリーズナブルで便利なサービスといえます。
この読み放題サービスを使いながら、私は「雑誌は、いよいよ終わりを迎えたのだな」と感じました。
雑誌や新聞など有料メディアの終焉(しゅうえん)
雑誌はお金を払って読む、有料のメディアです。掲載されている情報を読む対価として、読者はお金を払います。新聞も有料メディアに入ります。これに対して、テレビ、ラジオは無料メディアです(NHKの受信料を除く)。
ネットが普及するまでは、自分が本当に欲しい情報には、対価を支払うのが一般的でした。このため、新聞や雑誌など有料メディアがビジネスとて成立していたのです。しかしネットの進展により、情報は無料化へと、一気に進んでいきました。
ネットで検索すれば、必要な情報は、いつでも無料で入手できる。現在、これが当たり前のことになりました。
新聞など従来の有料メディアは、なんとかネット上でも情報を有料化しようと試行錯誤を続けています。新聞や雑誌の記事は、編集者や記者が時間とお金をかけて、作り上げているものです。読者にお金を払ってもらわなければ、ビジネスとして継続していけません。しかし、この有料化の試みは、ほとんどうまくいきません。
なぜでしょうか?
答えはシンプルです。無料が当たり前のネット上において、情報の有料化は、利用者にメリットがないからです。特に10代、20代の人は、雑誌や新聞などをほとんど読まないので、情報にお金を払うという考え方さえありません。利用者にメリットのないものは、広まらないのです。
プロフェッショナルが作る「質の高い情報」の必要性
雑誌は、専門的な知識を持った編集者や記者、ライター、プロのカメラマンなど、プロフェッショナルな集団が作る「質の高い情報」が強みであり、それによって対価を得ています。
しかし、ネットの情報は、集団から個人、質から量へと移り変わっています。アマチュアが書いたブログや撮影した写真が、たくさんのフォロワー(読者)を集め、プロのメディア以上の影響力を持つようになりました。
私は、プロの作る情報の信頼性や質の高さを否定するつもりはありません。しかし、プロフェッショナルが、月1回の単位でまとめている読み物よりも、素人がその場で写真撮影してアップした情報のほうが価値が高くなっているのです。情報の価値は、質よりも「スピードと量」の時代に移行しているのです。
雑誌ビジネスの終わり
雑誌は、販売収入(雑誌自体の売上)と広告収入(雑誌に入る広告の売上)によって、ビジネスが成立しています。ご存じのように雑誌の販売部数は低下の一途をたどっていますので、販売収入も減る一方です。
雑誌の広告媒体としての価値は、セグメントにあります。女性誌の多くは年齢とライフスタイル、男性誌は趣味などでセグメントしています。例えば、女性誌の場合「30代後半の独身女性で、仕事を持っていて、おしゃれと美容に高い関心を持っている層」という具合にセグメントし、その読者層を一定数、囲い込んでいるということが媒体の価値となります。
この一定数というのは、販売部数になりますが、これが通常、非公開なのです。出版社が公表しているものは公称部数と呼ばれるもので、数が水増しされていることもあります。第三者機関により、印刷部数や実売数が公表されている雑誌もありますが、すべてではありません。また、雑誌は売れなければ返品されるので、印刷部数と実売数には、かなり差があります。つまり、ターゲットを囲い込んでいるといっても、実数が不明、あるいは不正確なのです。
また、費用を使って広告を出しても、その広告によってどのくらい商品が売れたかという効果が不明瞭です(通販型広告を除く)。費用対効果が厳しい現在、実数や効果が不明確であることは、広告メディアとして致命的な欠点となります。
近年、ネットでも媒体ごとにサイトを開設し、読者を囲い込もうとする動きがあります。読者減のカバーとネット世代の取り込みが目的ですが、ビジネス状況を改善することはできないでしょう。それは出版社が、ネットをあくまで紙媒体の補完物として位置付けているからです。
雑誌ビジネスに打つ手はあるのか?
今回、雑誌読み放題サービスに、多くの雑誌が雪崩をうつように参加を決めたことで、雑誌の情報価値や広告価値は、さらに下がりました。また、雑誌販売で収入をあげている書店や取次などへの影響も大きいでしょう。
私が指摘したような雑誌の問題点・課題は、昨日今日に生じたものではありません。雑誌ビジネスに関わる方なら、随分前から分かりきっていたことです。ただ、長い間、既得権益や内部の論理にとらわれ、手をこまねいていたのです。
では、雑誌ビジネスに展望はあるのでしょうか?
ペーパーメディアで、ごく一部のメディアが、ネットの時代での延命を実現しつつあります。こうした企業は、「紙メディアに将来的な展望はない。ネットビジネスを主業にする」と決断しています。そして、社長のトップダウンで、転業を図っています。
しかし、大半の出版社は、前述したようにあくまで主業は紙媒体で、ネットは補完物という位置づけです。社内では、編集部の権限が強く、経営陣も紙媒体の出身者が占めています。ですから、ネットの本質的な価値が分からず、利用者メリットのあるものが作れません。紙メディアとネットメディアはビジネス構造が根本的に違い、必要な人材も異なることに気がつきません。
雑誌を読む習慣がまったくなくなっていたのですが、dマガジンによって、久しぶりに多くの雑誌に目を通しました。しかし、残念ながら「どうしても読みたい」と思う記事には、ほとんど出合いませんでした。
現在、10代、20代にとって、マンガ以外の雑誌は、ほとんど必要ありません。dマガジンは、50代の私にとっても、雑誌は不要であることを再認識させてくれたサービスでした。
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おもしろそうに聞く~笑う力を身につけたい(2)
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。この連載のタイトルは、「笑う力を身につけたい」です。落語を聞きに行くと、会場全体が笑いに包まれることがあります。落語家さんに観客を「笑わせる力」があり、観客に噺を楽しむ「笑う力」があって、初めて大きな笑いが起こるのです。観客がさめきっていて、斜に構えていたら、どんな演者でも笑わせることはできないでしょう。
また、いろいろなことを楽しみ、ワハハハと笑えるようになると、毎日が明るく、楽しくなります。明るく、楽しそうに生きている人には、人が寄ってきます。人が寄ってくると、仕事やチャンスも集まってきます。ぜひ、笑う力を身につけていきましょう。
第1回では、「無理やりにでも笑顔を作ってみよう」と提案しました。まず笑顔を作る練習をする。笑顔を作ることは、「笑う」ためのスタートポジションに着くことです。
今回は、笑う力を身につけるために、「おもしろそうに聞く」ことを提案したいと思います。
おもしろそうに聞く力を身につける
阿川佐和子さんの著書『聞く力 心をひらく35のヒント』は、名インタビューアーが、「聞く極意」を伝えた本としてベストセラーになりました。書名にもあるように、35の聞くためのテクニックを解説したものです。
著者が長年培ってきたテクニックなので、それぞれ説得力があり、「なるほど」とうなずかせるのですが、中でも一番、納得感があったのが「楽しそうに聞く」という章でした。
私はこれまで、多くの企業トップとお会いしているのですが、優秀なビジネスパーソンは、間違いなく優れた「聞く力」を持っています。営業職でトップレベルにいる人は、話す力に長けていると思いがちですが、実は人の話しを「聞き出す力」に優れた方が多いのです。
人の話しを「聞き出す力」を持っている人は、以下のような共通する特徴を持っています。
・楽しそうに聞く
表情、態度、すべてにおいて、人の話しを楽しそうに聞きます。これと正反対なのが、他のことをやりながら聞いている人でしょう。近頃、特に多いのが、スマホをいじりながら聞く人です。話し手を見ないで、ほとんどスマホを見ているという人もいます。スマホでメモを取っている場合もあるのでしょうが、話し手に不快感を与える行動です。
・真面目に聞き、理解しようとしている
話し手の目を見ながら、真剣に聞いています。的確にうなずいたり、相づちを打ったりします。また、必要に応じてメモを取ります。「分かる、分かる」という感じで、うなずいてもらうことは、話し手にとって、とてもうれしいことです。真剣に聞いてくれていることを感じさせてくれます。
・心の底から、おもしろそうに聞く
最初に挙げた「楽しそうに聞く」よりも、1つ上のレベルとして挙げました。ニコニコしたり、笑いを交えたりして、人の話しをおもしろそうに、興味深く聞く人がいます。このような人に出会うと、「もっと、いろいろなことを伝えたい」という気持ちになります。また、付き合いが深まれば、「この人と何か一緒にやりたい」という気持ちが起こります(おもしろくもないのに笑う「愛想笑い」は、逆効果ですが)。
人の話しを、心の底からおもしろそうに聞く人のもとには、人が集まってきます。多くの情報が集まってきます。そして、一緒に何かやろうという計画がたくさん持ち込まれます。私は直接の面識はありませんが、糸井重里さんは、このようなタイプの方ではないかと思っています。
糸井重里さんは、社長として株式会社ほぼ日を上場企業にまで持っていきました。糸井さんの能力とは、一般的な経営スキルの高さというものより、人の話しをおもしろく聞くことができる能力にあるのではないかと推察しています。そこから、人や情報が集まり、相乗効果としてビジネスが大きく動いていったのではないでしょうか。
おもしろく話したり、流暢に話すことは苦手、という方はたくさんいます。しかし、おもしろそうに聞くことは、努力しだいで身につけられる能力だと思います。
みなさんも、ぜひ、おもしろそうに聞く力を身につけてくださいね。
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『聞く力―心をひらく35のヒント』
阿川佐和子(著)
文春新書
落語入門:東京の落語界は4つの団体に分かれている
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。寄席に足を運んでも、テレビで見かける立川志の輔師匠を見ることはできません。これは東京の落語界が4団体に分かれていることに関係があります。
現在、東京の落語界は、落語協会、落語芸術協会、落語立川流、円楽一門会の4団体に分かれています。今日は、この辺の事情を簡単にご説明しましょう。
落語業界は明治時代から、落語家の芸風などによって、いくつかの団体(流派)に分かれていました。戦後になると、古典落語中心の落語協会、新作派が多い芸術協会(現在、落語芸術協会)の2派体制に落ち着きました。しかし、昭和53年、三遊亭円生一門が、落語協会から離れて落語三遊協会を設立。円生の没後も円楽一門会として独立しています。昭和58年には立川談志一門が独立して落語立川流を設立。現在、この4団体が継続しています。
各団体の特徴と代表的な落語家
現在、東京の落語家は560名前後です。調べたところ、所属団体別では以下のような構成になっています(2017年 太助調べ)。
落語協会: 51%
落語芸術協会: 27%
落語立川流: 11%
円楽一門会: 11%
各団体の簡単な紹介と、代表的な落語家を紹介しましょう(落語家は現存の方のみ)。
落語協会
戦後、古典落語中心の流派として、八代・桂文楽、五代・古今亭志ん生、六代・三遊亭圓生、三代・古今亭志ん朝などの名人を輩出。現在、所属の落語家は280名前後で、全体の5割を占める最大の団体。古典だけでなく、新作落語中心の落語家も所属する。
代表的な落語家:柳家小三治、柳亭市馬、春風亭小朝、柳家さん喬、柳家権太楼、五街道雲助、柳家喬太郎、春風亭一之輔、柳家三三、桃月庵白酒、古今亭菊之丞、柳家花緑、林家彦いち
落語芸術協会
戦後、春風亭柳橋、柳家金語楼が設立。新作派の多い流派として、桂米丸、春風亭柳昇など人気者を生み出す。テレビへも積極的に進出。現在は、新作派だけでなく、古典落語中心の噺家も多い。
代表的な落語家:桂歌丸、三遊亭小遊三、昔昔亭桃太郎、瀧川鯉昇、春風亭昇太、桂文治
落語立川流
立川談志一門が独立して設立。談志を家元として、所属落語家は上納金をおさめる家元制をとっていた(談志の没後、廃止)。寄席に出演することができないため、ホール落語が活動の場となっている。
代表的な落語家:立川志の輔、立川談春、立川志らく、立川談笑、立川談四楼、立川談修、立川生志、立川こしら
円楽一門会
三遊亭円生一門が、落語協会から離れて設立。円生の没後も円楽一門会として活動を続ける。落語立川流と同じく寄席に出演することができないため、ホール落語が活動の場になる。
代表的な落語家:三遊亭鳳楽、三遊亭円楽、三遊亭好楽、三遊亭兼好
寄席に出られる団体と出られない団体
年中無休で、毎日落語を観ることができる寄席は、落語家にとって大切な仕事場です。東京には現在、新宿末廣亭、池袋演芸場、鈴本演芸場(上野)、浅草演芸ホールの4か所がありますが、出演できるのは、落語協会と落語芸術協会のみです(鈴本演芸場は落語協会のみ)。
落語立川流と円楽一門会は寄席に出られないため、ホール落語で観ることになります。ただし、現在では、団体の枠を超えた落語会も増えてきています。また、両団体とも定期的に一門会を開催しています。
長らく、落語家としての修行は、前座として、毎日寄席に通い、師匠や先輩の芸を見たり、出演することでした。しかし、寄席に出演できない落語立川流から、志の輔や談春などの人気落語家が生まれたことで、この考え方も少し変わりつつあります。
東京の落語会は、このように4団体に分かれているのですが、団体としての特色はそれほど明確ではありません。団体としての活動も、年1、2回のイベントを除けば、それほど積極的には行われていません。団体でくくるには、落語家さんの数が多すぎるのでしょうね。
以前にもお話ししましたが、落語初心者の方は、団体に関わらず、お気に入りの落語家さんを見つけて、自分の好きなタイプを見つけていくのが良いと思います。
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落語教育委員会 in 市川:柳家喬太郎、三遊亭歌武蔵、三遊亭兼好
こんにちは、アマチュア落語家のおさむ家太助です。2018年2月5日、市川市文化会館で開催された、落語教育委員会に足を運びました。
落語教育委員会は、柳家喬太郎、柳家喜多八、三遊亭歌武蔵、三人の落語会としてスタートしました。新作と古典を語れる人気者の喬太郎、元相撲取りの歌武蔵、古典の演者で玄人受けする喜多八という、少し毛色の変わった落語家の取り合わせで、当初から注目されました。また毎回、出演者三人によるコントも好評でした。
2016年、柳家喜多八師匠が亡くなり、会の存続が危ぶまれていましたが、三遊亭兼好師が新メンバーとして加わり、再開されました。
お約束のコントは、肩の力が抜けた「刑事殉職編」
会場は、総武線・本八幡駅から徒歩10分のところにある市川市文化会館。幕が開くと、お約束のコントで、今回は「刑事殉職編」。犯人役が歌武蔵、追いかける警官が兼好。設定は現代ですが、兼好は時代劇の岡っ引きのような恰好をしていて笑わせます。大柄な歌武蔵と小柄な兼好の取り合わせがコミカルです。犯人に撃たれて兼好が倒れると、同僚刑事の喬太郎が登場。「しっかりしろ」と助け起こすのですが、携帯が鳴り、呑気に日常会話を始めます。電話が終わると、慌てて兼好を助け起こすのですが、また電話が鳴り、のんびりと会話を始めます……。
コントが終わると、三遊亭歌武蔵師匠の登場です。元相撲取りの歌武蔵師は、高座に上がると「ただいまの協議について、ご説明します」というセリフから入ります。マクラは必ず相撲ネタ。自身の相撲体験談や相撲界の内幕話、噂話などを繰り広げます。昨年末より、日馬富士の引退騒動や行司の不行跡、貴乃花親方VS相撲協会など、相撲界は事件が目白押しですから、歌武蔵師匠も絶好調です。このまま相撲ネタで終わるのかと思ったほど舌も滑らかでしたが、古典落語の「後生鰻(ごしょううなぎ)」をしっかり聞かせてくれました。
仲入り(休憩)をはさんで登場したのは、柳家喬太郎師匠。「トリじゃないのは、気が楽でいいな~」と言いながら高座につきます。マクラでは、北朝鮮、恵方巻き、バレンタインデーなどをテーマに笑わせます。恵方巻きについて「なぜ、みんなが同じ方向を向いて、黙って、のり巻きを1本食べなきゃいけないんでしょうか? のり巻きは切って食べましょうよ!」と語ると、場内は大拍手!。みんなが、うまく言えないけれどモヤモヤと感じている身の回りの出来事を、スパッと切り取って、語ることのできる喬太郎師。この辺りのうまさが、当代一の人気落語家のゆえんでしょう。
バレンタインデーのマクラから、新作落語「白日の約束」に。バレンタインデーがテーマの短編ですが、時節にマッチしていて微笑ましい小噺でした。
落語教育委員会に新加入の三遊亭兼好は、いかに?
トリを務めるのは、落語教育委員会の新入生、三遊亭兼好師匠。渋い語り手だった喜多八師の印象が強いので、その後釜を務めるのは大変だと思いますが、兼好師の魅力は何といっても「明るさ、元気のよさ、声の大きさ」。「市川市文化会館が、なぜ市川駅ではなく本八幡駅にあるのか」というネタや、交番の標語に見る各地の泥棒観というネタで笑わせておいて、泥棒噺の「締め込み(しめこみ)」に入ります。
長屋に忍び込んだ泥棒が、風呂敷に着物を包もうとしたところで、主人が帰ってくる。泥棒は風呂敷包みはそのままに、台所の床下に慌ててもぐり込む。亭主は、この包みを見て、かみさんが間男と駆け落ちするつもりだと勘違いし、湯から帰ってきた女房と大喧嘩になる。亭主が煮えたぎったヤカンを投げつけたところで、泥棒は我慢ができず、床下から飛び出し、止めに入る……。まぬけな泥棒と、「夫婦の危機を救ってくれた」と泥棒に感謝する夫婦が登場する噺です。
今回、つくづく感じたのは、三遊亭兼好師匠には、やはり独特の華と艶があります。前職は魚河岸で働いていたので少しダミ声ですが、女性を演じても独特の艶っぽさがにじみ出ます。本編もセリフの細部まで手を加え、兼好流の「締め込み」に仕上がっていました。現在、トップクラスの人気があるのも納得できる高座でした。
落語教育委員会は、兼好師が参加して、また新しく楽しい会に生まれ変わったというのが、太助の感想です。
残念ながら、平日の月曜日、市川市で初めての開催という理由もあるのか、空席が目立ちました。兼好師も「隣の席が空いていたら、コートを遠慮なく置いてください。冬は空席ではなく、クロークと我々は呼んでいますから」と笑わせていましたが。
新メンバーで、新たな笑いの空間を生み出してくれることを期待します!
(参考図書)
落語教育委員会
東京書籍
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第33回ふなばし市民寄席:喬太郎、一之輔、白酒
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年1月30日、第33回「ふなばし市民寄席」に行ってきました。場所は船橋駅から歩いて7~8分のところにある船橋市民文化ホール。この落語会は、市民文化ホールの主催イベントです。各地には、地域にしっかりと根付いて、固定ファンを持ち、長年継続している落語会があります。ふなばし市民寄席も、毎回、チケットを入手するのが困難な、とても人気ある落語会です。
その人気の要因の1つは、何と言っても、毎回の豪華な出演者です。今回は、柳家喬太郎、春風亭一之輔、桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ)という、当代きっての人気落語家の3人会。満員の会場で、期待も高まります。
粗忽噺のお手本のような白酒の高座
前座に続いて、高座に上がったのは桃月庵白酒師匠。マクラでは、船橋駅前の「きららホール」と間違えて行ってしまったというエピソードで笑わせて、そこから粗忽者が主人公の噺「松曳き(まつひき)」に。
「松曳き」は、粗忽者(うっかり者)の殿様と家老の三太夫が主人公。屋敷の庭にある松を植え替えてよいかどうかを話している。二人とも、とんでもない粗忽者なので、固有名詞は出てこないし、会話がトンチンカン。植木屋を呼んで意見を聞くのだが、植木屋もおかしな敬語を使うので、ますます会話は混乱していく。そこに三太夫宛てに訃報が届くのだが……。
うっかり者が主人公の粗忽噺(そこつばなし)と呼ばれる落語です。このジャンルでは、「粗忽の釘」「粗忽の使者」「粗忽長屋」など、楽しい噺がいろいろあります。粗忽噺に出てくるうっかり者は、ちょっと常識からかけ離れたような人物たちです。松曳きの家老・三太夫も、屋敷の中を移動するのに「馬を引け」と言ったり、裃(かみしも)を着ているのに用意させようとしたりと、常軌を外れた粗忽者です。
粗忽噺は、実際に演じてみると、かなり難しいのです。並外れた粗忽者を、わざとらしくなく、自然に演じるには高い技量が必要です。「松曳き」は、白酒師の得意噺でもあり、二人の粗忽者で大笑いさせてくれました。
現代ギャグをふんだんに放り込んだ一之輔版「味噌蔵」
千葉県野田市出身の春風亭一之輔師匠は、東武野田線が「東武アーバンパークライン」に改名されたという地元ネタで笑わせておいて、演じたのは「味噌蔵」。
とてつもなくケチな味噌屋の主人。女房が妊娠しても、お金がかかるからと実家に帰してしまう。出産の知らせが届いたので、主人は実家へ泊りで出かけることに。奉公人たちは、またとないチャンスとばかりに、飲んで食べて、うっぷん晴らしを始める。奉公人たちが大騒ぎしているところに、泊まりの予定だった主人が帰ってきてしまう……。
一之輔師匠は、番頭が奉公人たちに食べたいものを聞くシーンに、ふんだんにギャグを入れ込んでいました。何しろ普段から、あまりに貧しい食生活なので、「食べたいもの」が惨めなものばかり。「アメリカンドッグを食べたあとの棒に付いたカリカリしたやつ」とか、わびしいものを連発し、笑いを取っていました。
マクラでも夢をネタにした喬太郎版「夢の酒」
トリは柳家喬太郎師匠。マクラは池袋の怪しいビデオ屋に自分が迷い込むという夢の話し。このマクラが結構長く、1つの噺になっています。そこから「夢の酒」へ。
「夢の酒」は、うたた寝をしている若旦那を、妻のお花が起こすシーンから始まります。起こされて機嫌が悪い若旦那。その理由を尋ねると、夢を見ていたのだという。夢の中で若旦那は、突然の雨に降られて、軒の深く出ている家で雨宿りをしている。すると、その家から出てきたのは、飛び切りの美人。嬉しそうに夢の話しをする若旦那と対照的に、妻のお花は、どんどん不機嫌になっていく……。
マクラも夢の噺で笑いを取り、本編「夢の酒」も夢がテーマ。2席聞いたような満足感がありました。
最高の演者と最低の観客
人気、実力ともに当代きっての3人ですから、それぞれ非常に高いレベルであり、内容的には、満足できる落語会でした。
ただ……。私の後ろに座っているオバさんが、とてつもない声を出して笑うのです。加えて、落語家が何か言うたびに、オウム返しのように同じことを大声で繰り返す。とにかくうるさくて、うるさくて、途中からまったく噺に集中できなくなりました。
落語会なのですから、笑うのは結構なことです。しかし、大勢の人と一緒に聴いているのですから、少しは配慮が必要ですよね。
というわけで、最高の演者と最低の観客に出会った船橋の落語会でした。
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お勧めの落語家:春風亭一之輔~新たな人物像を作り上げる腕力
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。「世の中で、落語家の写真集を買う人なんているのかしら?」と思っていたら、なんと!わが家にも1冊ありました。『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』。私がアマチュア落語を始めた影響で、すっかり落語好きになったカミさんが、いつの間にか購入していたのです。
春風亭一之輔は、現在、人気・実力ともに間違いなく3本の指に入る落語家さんです。その実力は、21人抜きの抜擢で真打昇進を果たしたことからも分かるように、折り紙つき。さまざまな落語会で引っ張りだこの人気者で、チケットを購入するのもひと苦労です。
人気落語家の1日の過密さと、大事にしているもの
『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』は、一之輔師匠の毎月初日を1年間に渡り記録した写真集です。1日の活動が分刻みで記録され、撮影されています。また、毎月のお題に合わせて、一之輔師がコラムを書き添えています。
この本が、春風亭一之輔という落語家を知るうえで、とても参考になるのです。人気落語家なので、当たり前なのですが、「本当に、分刻みのスケジュールで動いているのだなぁ」ということを実感させてくれます。
その過密なスケジュールにもかかわらず、子供に朝食を食べさせたり、幼稚園に連れて行ったりと、子供との時間をとても大切にしていることがよく分かります。子供への目配りや愛情が、「初天神」や「真田小僧」など、子供が登場する噺に生かされているのですね。
また、毎月の写真が、「よくぞここまで入り込んだ」というものばかり。自宅で子供を相手にしている様子や楽屋風景、移動の様子、喫茶店や電車の中で眠り込んでいる瞬間など、さまざまなプライベートな時間が切り取られています。
落語ファンにとってうれしいのは、楽屋の風景が数多く撮られていることでしょう。楽屋で他の落語家さんと談笑している柔和な表情が、高座に上がると一転します。一之輔の師匠である春風亭一朝師が楽屋入りしたときには、楽屋中にピーンと緊張感が走るのが、写真から伝わってきます。名札を付けて一列に正座している前座さんたちだけでなく、一之輔師も壁際に控えて、師匠を見守ります。落語家さんたちの息遣いが伝わるような写真が並びます。
登場人物を類型化せずに、大胆にディフォルメする手腕
高座を見たことのある方はご存知だと思いますが、一之輔師匠は、古い言葉でいえば「苦み走ったいい男」です。頭をツルツルにしていることもあり、必殺仕事人に出てきそうな風貌です。声はどちらかというと低めで、かなり声量もあり、いわゆるドスのきいた声も出せます。
愛想がよくてニコニコしているタイプの落語家とは、正反対のタイプでしょう。不愛想ではありませんが、客に媚びないクールな雰囲気を持っています。
一之輔落語の特徴は、「構図の逆転」にあると思います。古典落語には、基本的なストーリーや人物像など、長い年月で受け継がれてきたパターンがあります。特に人物像については、類型化されています。例えば、しっかりもので口が悪いおかみさんと、口では勝てない少しボンヤリした亭主というような基本キャラクターが作られています。
ところが一之輔師は、このパターンを大胆に崩していくことがあります。「初天神」は、頭の回転が速い息子に、父親がやりこめられ、祭りで団子や凧などを買わされてしまうという噺です。通常、この父親は、息子に頭ではかなわない、という設定で演じられます。しかし一之輔バージョンでは、父親もかなり知恵が働き、息子と丁々発止のやり取りを繰り広げます。型にはまった人物設定や力関係の構図を、大胆にひっくり返したり、変えることで新たな魅力を噺に吹き込みます。
また、登場人物のくせや服装、話し方をディフォルメすることで人物を際立たせたり、地声の大きさを生かして、緩急を変える手法も巧みです。
才能あふれる噺家さんであることは間違いありませんが、いまの芸風が確立するまでは、やはり色々と試行錯誤があったようです。
本書で、一之輔師は「稽古」というお題で、こう書いています。
落語は稽古しているはずなのに、ウケない。お客さんに満足してもらえない。そんなことがザラにある。
「それは稽古が足りないからだ!!」と言われ、「…ならこれでもか!」と稽古に没入する。繰り返し繰り返し。不安と戦いながら七転八倒する。
(中略)追い詰められた末に「ままよ!やるだけやってやれっ!!」と半ばヤケクソに喋ると、意外と反応が良い場合がある。「あー、そうか。これでよいのか……」と何となくコツが掴めた気になったりして。(p.30)
確かに二つ目のころは、いまより愛想がよくて、意図的に笑いを取りにいこうとしていて、それが風貌とミスマッチだったようにも思います。
一之輔師匠の落語を聞きこむと、噺のセリフすべてに、細やかに手が加えられていることが分かります。聞きなれた古典落語であっても、登場人物の新鮮さに驚くはずです。
春風亭一之輔、落語マニアだけでなく、落語初心者の方にも間違いなくお勧めできる噺家さんです!
『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』
被写体と文:春風亭一之輔
写真と記録:キッチンミノル
太助セレクト落語 2018年2月中旬のお勧め落語会
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年2月中旬のお勧めの落語会をピックアップしました。1月の新春興行の勢いが、まだまだ続いている2月の興行。落語の団体を超えた落語会も色々と開催されます。初顔合わせの落語会は、結構ヒートアップして、おもしろいですよ!
左祭「左甚五郎一代記」
日時:2月10日(土) 開演:18:30
料金:4,500円
出演:
神田松之丞:甚五郎出生~旅立ち
柳家三三:三井の大黒
柳家喬太郎:偽甚五郎
神田愛山:陽明門の間違い
問い合せ:03-5474-1929
⇒伝説の名工・左甚五郎が歩んだ波乱万丈かつ痛快無比な人生を生誕から末期まで、講談・浪曲・落語で一気に辿る試みです。
日時:2月13日(火) 開演:18:45
料金:3,500円
場所:銀座ブロッサム中央会館ホール
問い合せ:03-6909-4104
⇒2月の銀座で、芸風の違う喬太郎、文蔵、扇辰師の3人が顔合わせ。仕事帰りに行かなくちゃ!
白鳥プロデュースWoman’s勉強会
日時:2月15日(木) 開演:19:30
料金:2,000円
出演:柳亭こみち、林家ぼたん、林家つる子
場所:Koenji HACO
問い合せ:090-4249-0852
⇒新作落語の鬼才、三遊亭白鳥師は、女性落語家にも新作を書き下ろしたり、プロデュースをしています。女性落語家が古典落語の制約を離れて、どこまで遊んで、弾けるか、期待しています。
BXホール落語会「春風亭一朝独演会」
日時:2月20日(火) 開演:18:30
料金:3,000円
出演:春風亭一朝
場所:文化シャッターBXホール(春日)
問い合せ:050-3497-5500
⇒最近は「春風亭一之輔の師匠」としてクローズアップされることも多い一朝師匠。座っているだけで江戸の雰囲気を感じさせてくれる、いまや数少ない落語家さんです。
深川落語倶楽部
日時:2月20日(火) 開演:18:45
料金:3,000円
出演:
古今亭志ん輔:らくだ
柳家花緑:パテ久
春風亭一之輔:錦の袈裟
林家時蔵:しわいや
場所:深川江戸資料館 小劇場
問い合せ:03-3633-7961
⇒江戸の長屋などを再現した深川江戸資料館で開催される落語会。ここの長屋などは、本当にリアルにできているので必見です。そして、この豪華なメンバー。お勧めの落語会です。
*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします
落語の登場人物:若旦那は、大塚家具や大王製紙の跡取りと似ているの?
こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁(おいらん)や幇間。おなじみのメンバーですが、あなたの周りにも、きっと似たような人がいるはずです。ぜひ、探してみてください。今回紹介する登場人物は、「若旦那」です。
タンポポの綿毛のようにフワフワとしたお坊ちゃま
落語に登場する若旦那は、大店(おおだな:大きな商店)の跡取り息子。働くことは大嫌いで、女や芸事にうつつを抜かしています。店の金を持ち出しては、吉原の花魁に貢ぎ、父親にどんなに叱られても気にしない。挙句の果てには勘当され、店に出入りしていた職人の家などに転がり込む。見かねた周囲の人の勧めで、船頭や唐茄子(とうなす:カボチャ)売り、湯屋(銭湯)などの仕事に就くのですが、甘いことばかり考えていて、トンチンカンな言動を繰り返します。
「船徳」「唐茄子屋政談」「湯屋番」「明烏」「干物箱」「よかちょろ」「二階ぞめき」など、若旦那噺も落語の中では、一大ジャンルを作っています。落語の若旦那は、勘当されても、つらい仕事をしても、基本的に心を入れ替えません。いつでも甘いことを考えています。若旦那にとって大事なのは、「もてること」や「カッコいいこと」なのです。このタンポポの綿毛のようにフワフワとした生き様が、落語の世界では、とても楽しい世界を作るのです。
現実世界にも、落語のような若旦那はいるのかな?
現実の世界で、落語の若旦那のような人は、実際にいるのでしょうか? これまで、さまざまな企業のトップとお会いする機会があったのですが、一代で財を成したような剛腕な経営者の跡取りは、どちらかというと堅実で小粒なタイプが多いという印象があります。
色々と考えていて頭に浮かんだのが、大王製紙の跡取り息子です。社長、会長として在任中にギャンブルで106億円も失ったあげく、会社の金を流用して逮捕され、懲役4年の実刑判決を受けました。有名人や女性芸能人との華麗な交遊も随分、噂になりました。若旦那度はかなり高そうです。
あるいは大塚家具の社長になった長女はどうでしょうか? 創業者である父親と経営権を巡り、派手な親子喧嘩をしたあげく、父親を追い出し、社長の座に就きました。しかし、就任後2年間で約100億円の大損失を計上しそうです。落語の若旦那のように遊び惚けているわけではありません。むしろ若旦那とは正反対のタイプともいえるでしょう。しかし皮肉なことに、親の築いた大店を、娘が派手に傾かせているのです。
こうして書き出してみると、どちらのケースも、時間が経っていないせいもありますが、生生しくて、ネガティブなものばかりが目についてしまいます。芝居にはできるかもしれないけれど、落語には、とてもできそうにありません。
悲劇や堕落、欲望や対立など、日常世界で起こりうるドロドロしたものは、そのままでは「笑い」にはなりません。辛いものや悲しいものも含めて、すべてを「笑い」に変えてやろうという強い意志と、「笑い」に昇華させるための長い長い時間が必要なのです。
落語の世界の若旦那たちは、肩の力が抜け、みんなフワフワと呑気に生きています。ぜひ、そのいい加減さを楽しんでみてください!
道楽のあげく勘当された若旦那の徳さん。なじみの船宿に居候をしているのだが、「自分も船頭になりたい」と言い出した。そんな細い体では無理だと親方は忠告するのだが、聞き入れない。夏の盛りに、船宿の馴染み客が、「浅草まで船で行きたい」と、友人を連れてやってくる。ちょうど船頭が全員出払っていて、徳さんが船頭を務めることになるのだが……。
参考文献
『溶ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』
井川意高(著)
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