落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

dマガジン:雑誌読み放題サービスに見る「雑誌の終わり」

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。ネットの雑誌読み放題サービス「dマガジン」に加入してみました。dマガジンは、NTTドコモが提供するサービスで、「月額400円で200誌以上が読み放題」をうたい文句にしています。バックナンバーを含めると、なんと1500誌以上が読み放題になります。

 

2018年2月20日時点で、以下のような雑誌が読み放題となっています(一部を抜粋)

 

dマガジンで読める雑誌

 

総合週刊誌

週刊文春、週刊SPA!、女性セブン、週刊現代週刊ポスト、週プレ、週刊女性週刊新潮、女性自身、サンデー毎日週刊朝日AERAニューズウィーク日本版、FRIDAY、FLASH、他

 

女性ファッション

non-no、JJ、エル・ジャポン、Precious、ViVi、S cawaii!フィガロジャポン、Ray、GINZA、FUDGE、25ansSeventeen、VOGUE JAPAN、VERY、CLASSY.、LEE、HERS、Domani、他

 

男性ライフスタイル

DIMEBRUTUS、HotDog、Tarzan、Pen、男の隠れ家、Casa。、サライBE-PAL、一個人、日経トレンディ、他

 

女性ライフスタイル

ESSE、サンキュ!、日経ウーマン、ar、美的、Hanako、VoCECREA家庭画報、すてきにハンドメイド、an・an、他

 

料理・暮らし・健康

レタスクラブきょうの料理、毎日が発見、クロワッサン、3分クッキング、日経ヘルス、日経おとなのOFF、きょうの健康、いぬのきもち、ねこのきもち、ひよこクラブ、たまごクラブ、オレンジページ、他

 

お出かけ・グルメ

週刊Tokyo Walker+、おとなの週末、東京カレンダー、dancyu、旅の手帳、散歩の達人、月刊山と渓谷CREA、他

 

ビジネス・IT・国際

週刊ダイヤモンド週刊東洋経済ダイヤモンドZAi日経PC21、日経Associe、SAPIO、日経マネー、エコノミスト週刊アスキー、PRESIDENT、他

 

スポーツ

週刊パーゴルフ、ゴルフダイジェスト、週刊ベースボールサッカーダイジェスト、Number、RUNNING、Mr.Bike BG、他

 

エンタメ・趣味

サイゾーファミ通ダ・ヴィンチ、パチンコ読本、NHK 趣味の園芸、CAPA、日経エンタテインメント!、つり情報、鉄道ファン、つり人、ザ・テレビジョン、他

 

男性ファッション

メンズクラブ、LEON、GQ JAPAN、UOMO、他

 

こうして誌名を書き出すだけでも、大変な数になります。書店で見かける雑誌は、ほぼ網羅されていると言えるでしょう。しかも、1冊、400円~1000円の雑誌が、月額400円で読み放題なのですから驚きます。

 

誌面デザインがそのまま表示されるので、スマホで読む際、文字サイズはかなり小さくなります。しかし、気になる記事だけ拡大しながら読めば、あまりストレスなく読めるという印象です。タブレットならば快適に使えるでしょう。

 

1冊、数百円の雑誌を400円で読めるのですから、200誌で考えると1冊あたり2円で読める計算になります。雑誌を買ったり、持ち運ぶ手間もいらず、いつでも・どこでも読むことが可能。利用者にとっては、実にリーズナブルで便利なサービスといえます。

 

この読み放題サービスを使いながら、私は「雑誌は、いよいよ終わりを迎えたのだな」と感じました。

 

雑誌や新聞など有料メディアの終焉(しゅうえん)

 

雑誌はお金を払って読む、有料のメディアです。掲載されている情報を読む対価として、読者はお金を払います。新聞も有料メディアに入ります。これに対して、テレビ、ラジオは無料メディアです(NHKの受信料を除く)。

 

ネットが普及するまでは、自分が本当に欲しい情報には、対価を支払うのが一般的でした。このため、新聞や雑誌など有料メディアがビジネスとて成立していたのです。しかしネットの進展により、情報は無料化へと、一気に進んでいきました。

 

ネットで検索すれば、必要な情報は、いつでも無料で入手できる。現在、これが当たり前のことになりました。

 

新聞など従来の有料メディアは、なんとかネット上でも情報を有料化しようと試行錯誤を続けています。新聞や雑誌の記事は、編集者や記者が時間とお金をかけて、作り上げているものです。読者にお金を払ってもらわなければ、ビジネスとして継続していけません。しかし、この有料化の試みは、ほとんどうまくいきません。

 

なぜでしょうか? 

 

答えはシンプルです。無料が当たり前のネット上において、情報の有料化は、利用者にメリットがないからです。特に10代、20代の人は、雑誌や新聞などをほとんど読まないので、情報にお金を払うという考え方さえありません。利用者にメリットのないものは、広まらないのです。

 

プロフェッショナルが作る「質の高い情報」の必要性

 

雑誌は、専門的な知識を持った編集者や記者、ライター、プロのカメラマンなど、プロフェッショナルな集団が作る「質の高い情報」が強みであり、それによって対価を得ています。

 

しかし、ネットの情報は、集団から個人、質から量へと移り変わっています。アマチュアが書いたブログや撮影した写真が、たくさんのフォロワー(読者)を集め、プロのメディア以上の影響力を持つようになりました。

 

私は、プロの作る情報の信頼性や質の高さを否定するつもりはありません。しかし、プロフェッショナルが、月1回の単位でまとめている読み物よりも、素人がその場で写真撮影してアップした情報のほうが価値が高くなっているのです。情報の価値は、質よりも「スピードと量」の時代に移行しているのです

 

雑誌ビジネスの終わり

 

雑誌は、販売収入(雑誌自体の売上)と広告収入(雑誌に入る広告の売上)によって、ビジネスが成立しています。ご存じのように雑誌の販売部数は低下の一途をたどっていますので、販売収入も減る一方です。

 

雑誌の広告媒体としての価値は、セグメントにあります。女性誌の多くは年齢とライフスタイル、男性誌は趣味などでセグメントしています。例えば、女性誌の場合「30代後半の独身女性で、仕事を持っていて、おしゃれと美容に高い関心を持っている層」という具合にセグメントし、その読者層を一定数、囲い込んでいるということが媒体の価値となります。

 

この一定数というのは、販売部数になりますが、これが通常、非公開なのです。出版社が公表しているものは公称部数と呼ばれるもので、数が水増しされていることもあります。第三者機関により、印刷部数や実売数が公表されている雑誌もありますが、すべてではありません。また、雑誌は売れなければ返品されるので、印刷部数と実売数には、かなり差があります。つまり、ターゲットを囲い込んでいるといっても、実数が不明、あるいは不正確なのです。

 

また、費用を使って広告を出しても、その広告によってどのくらい商品が売れたかという効果が不明瞭です(通販型広告を除く)。費用対効果が厳しい現在、実数や効果が不明確であることは、広告メディアとして致命的な欠点となります。

 

近年、ネットでも媒体ごとにサイトを開設し、読者を囲い込もうとする動きがあります。読者減のカバーとネット世代の取り込みが目的ですが、ビジネス状況を改善することはできないでしょう。それは出版社が、ネットをあくまで紙媒体の補完物として位置付けているからです。

 

雑誌ビジネスに打つ手はあるのか?

 

今回、雑誌読み放題サービスに、多くの雑誌が雪崩をうつように参加を決めたことで、雑誌の情報価値や広告価値は、さらに下がりました。また、雑誌販売で収入をあげている書店や取次などへの影響も大きいでしょう。

 

私が指摘したような雑誌の問題点・課題は、昨日今日に生じたものではありません。雑誌ビジネスに関わる方なら、随分前から分かりきっていたことです。ただ、長い間、既得権益や内部の論理にとらわれ、手をこまねいていたのです。

 

では、雑誌ビジネスに展望はあるのでしょうか? 

 

ペーパーメディアで、ごく一部のメディアが、ネットの時代での延命を実現しつつあります。こうした企業は、「紙メディアに将来的な展望はない。ネットビジネスを主業にする」と決断しています。そして、社長のトップダウンで、転業を図っています。

 

しかし、大半の出版社は、前述したようにあくまで主業は紙媒体で、ネットは補完物という位置づけです。社内では、編集部の権限が強く、経営陣も紙媒体の出身者が占めています。ですから、ネットの本質的な価値が分からず、利用者メリットのあるものが作れません。紙メディアとネットメディアはビジネス構造が根本的に違い、必要な人材も異なることに気がつきません。

 

雑誌を読む習慣がまったくなくなっていたのですが、dマガジンによって、久しぶりに多くの雑誌に目を通しました。しかし、残念ながら「どうしても読みたい」と思う記事には、ほとんど出合いませんでした。

 

現在、10代、20代にとって、マンガ以外の雑誌は、ほとんど必要ありません。dマガジンは、50代の私にとっても、雑誌は不要であることを再認識させてくれたサービスでした。

 

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おもしろそうに聞く~笑う力を身につけたい(2)

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。この連載のタイトルは、「笑う力を身につけたい」です。落語を聞きに行くと、会場全体が笑いに包まれることがあります。落語家さんに観客を「笑わせる力」があり、観客に噺を楽しむ「笑う力」があって、初めて大きな笑いが起こるのです。観客がさめきっていて、斜に構えていたら、どんな演者でも笑わせることはできないでしょう。

 

また、いろいろなことを楽しみ、ワハハハと笑えるようになると、毎日が明るく、楽しくなります。明るく、楽しそうに生きている人には、人が寄ってきます。人が寄ってくると、仕事やチャンスも集まってきます。ぜひ、笑う力を身につけていきましょう。

 

第1回では、「無理やりにでも笑顔を作ってみよう」と提案しました。まず笑顔を作る練習をする。笑顔を作ることは、「笑う」ためのスタートポジションに着くことです。

 

今回は、笑う力を身につけるために、「おもしろそうに聞く」ことを提案したいと思います。

 

おもしろそうに聞く力を身につける

 

阿川佐和子さんの著書『聞く力 心をひらく35のヒント』は、名インタビューアーが、「聞く極意」を伝えた本としてベストセラーになりました。書名にもあるように、35の聞くためのテクニックを解説したものです。

 

著者が長年培ってきたテクニックなので、それぞれ説得力があり、「なるほど」とうなずかせるのですが、中でも一番、納得感があったのが「楽しそうに聞く」という章でした。

 

私はこれまで、多くの企業トップとお会いしているのですが、優秀なビジネスパーソンは、間違いなく優れた「聞く力」を持っています。営業職でトップレベルにいる人は、話す力に長けていると思いがちですが、実は人の話しを「聞き出す力」に優れた方が多いのです。

 

人の話しを「聞き出す力」を持っている人は、以下のような共通する特徴を持っています。

 

・楽しそうに聞く

 

表情、態度、すべてにおいて、人の話しを楽しそうに聞きます。これと正反対なのが、他のことをやりながら聞いている人でしょう。近頃、特に多いのが、スマホをいじりながら聞く人です。話し手を見ないで、ほとんどスマホを見ているという人もいます。スマホでメモを取っている場合もあるのでしょうが、話し手に不快感を与える行動です。

 

・真面目に聞き、理解しようとしている

 

話し手の目を見ながら、真剣に聞いています。的確にうなずいたり、相づちを打ったりします。また、必要に応じてメモを取ります。「分かる、分かる」という感じで、うなずいてもらうことは、話し手にとって、とてもうれしいことです。真剣に聞いてくれていることを感じさせてくれます。

 

・心の底から、おもしろそうに聞く

最初に挙げた「楽しそうに聞く」よりも、1つ上のレベルとして挙げました。ニコニコしたり、笑いを交えたりして、人の話しをおもしろそうに、興味深く聞く人がいます。このような人に出会うと、「もっと、いろいろなことを伝えたい」という気持ちになります。また、付き合いが深まれば、「この人と何か一緒にやりたい」という気持ちが起こります(おもしろくもないのに笑う「愛想笑い」は、逆効果ですが)。

 

人の話しを、心の底からおもしろそうに聞く人のもとには、人が集まってきます。多くの情報が集まってきます。そして、一緒に何かやろうという計画がたくさん持ち込まれます。私は直接の面識はありませんが、糸井重里さんは、このようなタイプの方ではないかと思っています。

 

糸井重里さんは、社長として株式会社ほぼ日を上場企業にまで持っていきました。糸井さんの能力とは、一般的な経営スキルの高さというものより、人の話しをおもしろく聞くことができる能力にあるのではないかと推察しています。そこから、人や情報が集まり、相乗効果としてビジネスが大きく動いていったのではないでしょうか。

 

おもしろく話したり、流暢に話すことは苦手、という方はたくさんいます。しかし、おもしろそうに聞くことは、努力しだいで身につけられる能力だと思います。

 

みなさんも、ぜひ、おもしろそうに聞く力を身につけてくださいね。

 

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『聞く力―心をひらく35のヒント』

阿川佐和子(著)

文春新書

 

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落語入門:東京の落語界は4つの団体に分かれている

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。寄席に足を運んでも、テレビで見かける立川志の輔師匠を見ることはできません。これは東京の落語界が4団体に分かれていることに関係があります。

 

現在、東京の落語界は、落語協会落語芸術協会落語立川流円楽一門会の4団体に分かれています。今日は、この辺の事情を簡単にご説明しましょう。

 

落語業界は明治時代から、落語家の芸風などによって、いくつかの団体(流派)に分かれていました。戦後になると、古典落語中心の落語協会、新作派が多い芸術協会(現在、落語芸術協会の2派体制に落ち着きました。しかし、昭和53年、三遊亭円生一門が、落語協会から離れて落語三遊協会を設立。円生の没後も円楽一門会として独立しています。昭和58年には立川談志一門が独立して落語立川流を設立。現在、この4団体が継続しています。

 

各団体の特徴と代表的な落語家

 

現在、東京の落語家は560名前後です。調べたところ、所属団体別では以下のような構成になっています(2017年 太助調べ)。

 

落語協会:    51%

落語芸術協会: 27%

落語立川流   11%

円楽一門会   11%

 

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各団体の簡単な紹介と、代表的な落語家を紹介しましょう(落語家は現存の方のみ)。

 

落語協会

 

戦後、古典落語中心の流派として、八代・桂文楽、五代・古今亭志ん生、六代・三遊亭圓生、三代・古今亭志ん朝などの名人を輩出。現在、所属の落語家は280名前後で、全体の5割を占める最大の団体。古典だけでなく、新作落語中心の落語家も所属する。

 

代表的な落語家柳家小三治柳亭市馬春風亭小朝柳家さん喬柳家権太楼、五街道雲助柳家喬太郎春風亭一之輔柳家三三桃月庵白酒古今亭菊之丞柳家花緑林家彦いち

 

落語芸術協会

 

戦後、春風亭柳橋柳家金語楼が設立。新作派の多い流派として、桂米丸春風亭柳昇など人気者を生み出す。テレビへも積極的に進出。現在は、新作派だけでなく、古典落語中心の噺家も多い。

 

代表的な落語家桂歌丸三遊亭小遊三昔昔亭桃太郎瀧川鯉昇春風亭昇太桂文治

 

落語立川流

 

立川談志一門が独立して設立。談志を家元として、所属落語家は上納金をおさめる家元制をとっていた(談志の没後、廃止)。寄席に出演することができないため、ホール落語が活動の場となっている。

 

代表的な落語家立川志の輔立川談春立川志らく立川談笑立川談四楼立川談修、立川生志、立川こしら

 

円楽一門会

 

三遊亭円生一門が、落語協会から離れて設立。円生の没後も円楽一門会として活動を続ける。落語立川流と同じく寄席に出演することができないため、ホール落語が活動の場になる。

 

代表的な落語家三遊亭鳳楽三遊亭円楽三遊亭好楽三遊亭兼好

 

寄席に出られる団体と出られない団体

 

年中無休で、毎日落語を観ることができる寄席は、落語家にとって大切な仕事場です。東京には現在、新宿末廣亭池袋演芸場鈴本演芸場(上野)、浅草演芸ホールの4か所がありますが、出演できるのは、落語協会落語芸術協会のみです(鈴本演芸場落語協会のみ)。

 

落語立川流円楽一門会は寄席に出られないため、ホール落語で観ることになります。ただし、現在では、団体の枠を超えた落語会も増えてきています。また、両団体とも定期的に一門会を開催しています。

 

長らく、落語家としての修行は、前座として、毎日寄席に通い、師匠や先輩の芸を見たり、出演することでした。しかし、寄席に出演できない落語立川流から、志の輔談春などの人気落語家が生まれたことで、この考え方も少し変わりつつあります。

 

東京の落語会は、このように4団体に分かれているのですが、団体としての特色はそれほど明確ではありません。団体としての活動も、年1、2回のイベントを除けば、それほど積極的には行われていません。団体でくくるには、落語家さんの数が多すぎるのでしょうね。

 

以前にもお話ししましたが、落語初心者の方は、団体に関わらず、お気に入りの落語家さんを見つけて、自分の好きなタイプを見つけていくのが良いと思います。

 

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落語教育委員会 in 市川:柳家喬太郎、三遊亭歌武蔵、三遊亭兼好

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こんにちは、アマチュア落語家のおさむ家太助です。2018年2月5日、市川市文化会館で開催された、落語教育委員会に足を運びました。

 

落語教育委員会は、柳家喬太郎柳家喜多八三遊亭歌武蔵、三人の落語会としてスタートしました。新作と古典を語れる人気者の喬太郎、元相撲取りの歌武蔵、古典の演者で玄人受けする喜多八という、少し毛色の変わった落語家の取り合わせで、当初から注目されました。また毎回、出演者三人によるコントも好評でした。

 

2016年、柳家喜多八師匠が亡くなり、会の存続が危ぶまれていましたが、三遊亭兼好師が新メンバーとして加わり、再開されました。

 

お約束のコントは、肩の力が抜けた「刑事殉職編」

 

会場は、総武線本八幡駅から徒歩10分のところにある市川市文化会館。幕が開くと、お約束のコントで、今回は「刑事殉職編」。犯人役が歌武蔵、追いかける警官が兼好。設定は現代ですが、兼好は時代劇の岡っ引きのような恰好をしていて笑わせます。大柄な歌武蔵と小柄な兼好の取り合わせがコミカルです。犯人に撃たれて兼好が倒れると、同僚刑事の喬太郎が登場。「しっかりしろ」と助け起こすのですが、携帯が鳴り、呑気に日常会話を始めます。電話が終わると、慌てて兼好を助け起こすのですが、また電話が鳴り、のんびりと会話を始めます……。

 

コントが終わると、三遊亭歌武蔵師匠の登場です。元相撲取りの歌武蔵師は、高座に上がると「ただいまの協議について、ご説明します」というセリフから入ります。マクラは必ず相撲ネタ。自身の相撲体験談や相撲界の内幕話、噂話などを繰り広げます。昨年末より、日馬富士の引退騒動や行司の不行跡、貴乃花親方VS相撲協会など、相撲界は事件が目白押しですから、歌武蔵師匠も絶好調です。このまま相撲ネタで終わるのかと思ったほど舌も滑らかでしたが、古典落語の「後生鰻(ごしょううなぎ)」をしっかり聞かせてくれました。

 

仲入り(休憩)をはさんで登場したのは、柳家喬太郎師匠。「トリじゃないのは、気が楽でいいな~」と言いながら高座につきます。マクラでは、北朝鮮恵方巻き、バレンタインデーなどをテーマに笑わせます。恵方巻きについて「なぜ、みんなが同じ方向を向いて、黙って、のり巻きを1本食べなきゃいけないんでしょうか? のり巻きは切って食べましょうよ!」と語ると、場内は大拍手!。みんなが、うまく言えないけれどモヤモヤと感じている身の回りの出来事を、スパッと切り取って、語ることのできる喬太郎師。この辺りのうまさが、当代一の人気落語家のゆえんでしょう。

 

バレンタインデーのマクラから、新作落語「白日の約束」に。バレンタインデーがテーマの短編ですが、時節にマッチしていて微笑ましい小噺でした。

 

落語教育委員会に新加入の三遊亭兼好は、いかに?

 

トリを務めるのは、落語教育委員会の新入生、三遊亭兼好師匠。渋い語り手だった喜多八師の印象が強いので、その後釜を務めるのは大変だと思いますが、兼好師の魅力は何といっても「明るさ、元気のよさ、声の大きさ」。市川市文化会館が、なぜ市川駅ではなく本八幡駅にあるのか」というネタや、交番の標語に見る各地の泥棒観というネタで笑わせておいて、泥棒噺の「締め込み(しめこみ)」に入ります。

 

長屋に忍び込んだ泥棒が、風呂敷に着物を包もうとしたところで、主人が帰ってくる。泥棒は風呂敷包みはそのままに、台所の床下に慌ててもぐり込む。亭主は、この包みを見て、かみさんが間男と駆け落ちするつもりだと勘違いし、湯から帰ってきた女房と大喧嘩になる。亭主が煮えたぎったヤカンを投げつけたところで、泥棒は我慢ができず、床下から飛び出し、止めに入る……。まぬけな泥棒と、「夫婦の危機を救ってくれた」と泥棒に感謝する夫婦が登場する噺です。

 

今回、つくづく感じたのは、三遊亭兼好師匠には、やはり独特の華と艶があります。前職は魚河岸で働いていたので少しダミ声ですが、女性を演じても独特の艶っぽさがにじみ出ます。本編もセリフの細部まで手を加え、兼好流の「締め込み」に仕上がっていました。現在、トップクラスの人気があるのも納得できる高座でした。

 

落語教育委員会は、兼好師が参加して、また新しく楽しい会に生まれ変わったというのが、太助の感想です。

 

残念ながら、平日の月曜日、市川市で初めての開催という理由もあるのか、空席が目立ちました。兼好師も「隣の席が空いていたら、コートを遠慮なく置いてください。冬は空席ではなく、クロークと我々は呼んでいますから」と笑わせていましたが。

 

新メンバーで、新たな笑いの空間を生み出してくれることを期待します!

 

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(参考図書)

落語教育委員会

柳家喜多八(著)、三遊亭歌武蔵(著)、柳家喬太郎(著)

東京書籍

 

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第33回ふなばし市民寄席:喬太郎、一之輔、白酒

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年1月30日、第33回「ふなばし市民寄席」に行ってきました。場所は船橋駅から歩いて7~8分のところにある船橋市民文化ホール。この落語会は、市民文化ホールの主催イベントです。各地には、地域にしっかりと根付いて、固定ファンを持ち、長年継続している落語会があります。ふなばし市民寄席も、毎回、チケットを入手するのが困難な、とても人気ある落語会です。

 

その人気の要因の1つは、何と言っても、毎回の豪華な出演者です。今回は、柳家喬太郎春風亭一之輔桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ)という、当代きっての人気落語家の3人会。満員の会場で、期待も高まります。

 

粗忽噺のお手本のような白酒の高座

 

前座に続いて、高座に上がったのは桃月庵白酒師匠。マクラでは、船橋駅前の「きららホール」と間違えて行ってしまったというエピソードで笑わせて、そこから粗忽者が主人公の噺「松曳き(まつひき)」に。

 

「松曳き」は、粗忽者(うっかり者)の殿様と家老の三太夫が主人公。屋敷の庭にある松を植え替えてよいかどうかを話している。二人とも、とんでもない粗忽者なので、固有名詞は出てこないし、会話がトンチンカン。植木屋を呼んで意見を聞くのだが、植木屋もおかしな敬語を使うので、ますます会話は混乱していく。そこに三太夫宛てに訃報が届くのだが……。

 

うっかり者が主人公の粗忽噺(そこつばなし)と呼ばれる落語です。このジャンルでは、「粗忽の釘」「粗忽の使者」「粗忽長屋」など、楽しい噺がいろいろあります。粗忽噺に出てくるうっかり者は、ちょっと常識からかけ離れたような人物たちです。松曳きの家老・三太夫も、屋敷の中を移動するのに「馬を引け」と言ったり、裃(かみしも)を着ているのに用意させようとしたりと、常軌を外れた粗忽者です。

 

粗忽噺は、実際に演じてみると、かなり難しいのです。並外れた粗忽者を、わざとらしくなく、自然に演じるには高い技量が必要です。「松曳き」は、白酒師の得意噺でもあり、二人の粗忽者で大笑いさせてくれました。

 

現代ギャグをふんだんに放り込んだ一之輔版「味噌蔵」

 

千葉県野田市出身の春風亭一之輔師匠は、東武野田線が「東武アーバンパークライン」に改名されたという地元ネタで笑わせておいて、演じたのは「味噌蔵」。

 

とてつもなくケチな味噌屋の主人。女房が妊娠しても、お金がかかるからと実家に帰してしまう。出産の知らせが届いたので、主人は実家へ泊りで出かけることに。奉公人たちは、またとないチャンスとばかりに、飲んで食べて、うっぷん晴らしを始める。奉公人たちが大騒ぎしているところに、泊まりの予定だった主人が帰ってきてしまう……。

 

一之輔師匠は、番頭が奉公人たちに食べたいものを聞くシーンに、ふんだんにギャグを入れ込んでいました。何しろ普段から、あまりに貧しい食生活なので、「食べたいもの」が惨めなものばかり。「アメリカンドッグを食べたあとの棒に付いたカリカリしたやつ」とか、わびしいものを連発し、笑いを取っていました。

 

マクラでも夢をネタにした喬太郎版「夢の酒」

 

トリは柳家喬太郎師匠。マクラは池袋の怪しいビデオ屋に自分が迷い込むという夢の話し。このマクラが結構長く、1つの噺になっています。そこから「夢の酒」へ。

 

「夢の酒」は、うたた寝をしている若旦那を、妻のお花が起こすシーンから始まります。起こされて機嫌が悪い若旦那。その理由を尋ねると、夢を見ていたのだという。夢の中で若旦那は、突然の雨に降られて、軒の深く出ている家で雨宿りをしている。すると、その家から出てきたのは、飛び切りの美人。嬉しそうに夢の話しをする若旦那と対照的に、妻のお花は、どんどん不機嫌になっていく……。

 

マクラも夢の噺で笑いを取り、本編「夢の酒」も夢がテーマ。2席聞いたような満足感がありました。

 

最高の演者と最低の観客

 

人気、実力ともに当代きっての3人ですから、それぞれ非常に高いレベルであり、内容的には、満足できる落語会でした。

 

ただ……。私の後ろに座っているオバさんが、とてつもない声を出して笑うのです。加えて、落語家が何か言うたびに、オウム返しのように同じことを大声で繰り返す。とにかくうるさくて、うるさくて、途中からまったく噺に集中できなくなりました。

 

落語会なのですから、笑うのは結構なことです。しかし、大勢の人と一緒に聴いているのですから、少しは配慮が必要ですよね。

 

というわけで、最高の演者と最低の観客に出会った船橋の落語会でした。

 

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お勧めの落語家:春風亭一之輔~新たな人物像を作り上げる腕力

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。「世の中で、落語家の写真集を買う人なんているのかしら?」と思っていたら、なんと!わが家にも1冊ありました。春風亭一之輔の、いちのいちのいち』。私がアマチュア落語を始めた影響で、すっかり落語好きになったカミさんが、いつの間にか購入していたのです。

 

春風亭一之輔は、現在、人気・実力ともに間違いなく3本の指に入る落語家さんです。その実力は、21人抜きの抜擢で真打昇進を果たしたことからも分かるように、折り紙つき。さまざまな落語会で引っ張りだこの人気者で、チケットを購入するのもひと苦労です。

 

人気落語家の1日の過密さと、大事にしているもの

 

春風亭一之輔の、いちのいちのいち』は、一之輔師匠の毎月初日を1年間に渡り記録した写真集です。1日の活動が分刻みで記録され、撮影されています。また、毎月のお題に合わせて、一之輔師がコラムを書き添えています。

 

この本が、春風亭一之輔という落語家を知るうえで、とても参考になるのです。人気落語家なので、当たり前なのですが、「本当に、分刻みのスケジュールで動いているのだなぁ」ということを実感させてくれます。

 

その過密なスケジュールにもかかわらず、子供に朝食を食べさせたり、幼稚園に連れて行ったりと、子供との時間をとても大切にしていることがよく分かります。子供への目配りや愛情が、「初天神」や「真田小僧」など、子供が登場する噺に生かされているのですね。

 

また、毎月の写真が、「よくぞここまで入り込んだ」というものばかり。自宅で子供を相手にしている様子や楽屋風景、移動の様子、喫茶店や電車の中で眠り込んでいる瞬間など、さまざまなプライベートな時間が切り取られています。

 

落語ファンにとってうれしいのは、楽屋の風景が数多く撮られていることでしょう。楽屋で他の落語家さんと談笑している柔和な表情が、高座に上がると一転します。一之輔の師匠である春風亭一朝師が楽屋入りしたときには、楽屋中にピーンと緊張感が走るのが、写真から伝わってきます。名札を付けて一列に正座している前座さんたちだけでなく、一之輔師も壁際に控えて、師匠を見守ります。落語家さんたちの息遣いが伝わるような写真が並びます。

 

登場人物を類型化せずに、大胆にディフォルメする手腕

 

高座を見たことのある方はご存知だと思いますが、一之輔師匠は、古い言葉でいえば「苦み走ったいい男」です。頭をツルツルにしていることもあり、必殺仕事人に出てきそうな風貌です。声はどちらかというと低めで、かなり声量もあり、いわゆるドスのきいた声も出せます。

 

愛想がよくてニコニコしているタイプの落語家とは、正反対のタイプでしょう。不愛想ではありませんが、客に媚びないクールな雰囲気を持っています。

 

一之輔落語の特徴は、「構図の逆転」にあると思います。古典落語には、基本的なストーリーや人物像など、長い年月で受け継がれてきたパターンがあります。特に人物像については、類型化されています。例えば、しっかりもので口が悪いおかみさんと、口では勝てない少しボンヤリした亭主というような基本キャラクターが作られています。

 

ところが一之輔師は、このパターンを大胆に崩していくことがあります。「初天神」は、頭の回転が速い息子に、父親がやりこめられ、祭りで団子や凧などを買わされてしまうという噺です。通常、この父親は、息子に頭ではかなわない、という設定で演じられます。しかし一之輔バージョンでは、父親もかなり知恵が働き、息子と丁々発止のやり取りを繰り広げます。型にはまった人物設定や力関係の構図を、大胆にひっくり返したり、変えることで新たな魅力を噺に吹き込みます。

 

また、登場人物のくせや服装、話し方をディフォルメすることで人物を際立たせたり、地声の大きさを生かして、緩急を変える手法も巧みです。

 

才能あふれる噺家さんであることは間違いありませんが、いまの芸風が確立するまでは、やはり色々と試行錯誤があったようです。

 

本書で、一之輔師は「稽古」というお題で、こう書いています。

 

  

落語は稽古しているはずなのに、ウケない。お客さんに満足してもらえない。そんなことがザラにある。

 「それは稽古が足りないからだ!!」と言われ、「…ならこれでもか!」と稽古に没入する。繰り返し繰り返し。不安と戦いながら七転八倒する。

(中略)追い詰められた末に「ままよ!やるだけやってやれっ!!」と半ばヤケクソに喋ると、意外と反応が良い場合がある。「あー、そうか。これでよいのか……」と何となくコツが掴めた気になったりして。(p.30)

 

 

確かに二つ目のころは、いまより愛想がよくて、意図的に笑いを取りにいこうとしていて、それが風貌とミスマッチだったようにも思います。

 

一之輔師匠の落語を聞きこむと、噺のセリフすべてに、細やかに手が加えられていることが分かります。聞きなれた古典落語であっても、登場人物の新鮮さに驚くはずです。

 

春風亭一之輔、落語マニアだけでなく、落語初心者の方にも間違いなくお勧めできる噺家さんです!

 

www.ichinosuke-en.com

 

春風亭一之輔の、いちのいちのいち』

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被写体と文:春風亭一之輔

写真と記録:キッチンミノル

小学館

 

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太助セレクト落語 2018年2月中旬のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年2月中旬のお勧めの落語会をピックアップしました。1月の新春興行の勢いが、まだまだ続いている2月の興行。落語の団体を超えた落語会も色々と開催されます。初顔合わせの落語会は、結構ヒートアップして、おもしろいですよ!

 

左祭「左甚五郎一代記」

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日時:2月10日(土) 開演:18:30

料金:4,500円

出演
神田松之丞:甚五郎出生~旅立ち

柳家三三:三井の大黒

玉川奈々福掛川宿

柳家喬太郎:偽甚五郎

神田愛山:陽明門の間違い

場所イイノホール(霞が関)

問い合せ:03-5474-1929

⇒伝説の名工・左甚五郎が歩んだ波乱万丈かつ痛快無比な人生を生誕から末期まで、講談・浪曲・落語で一気に辿る試みです。

 

噺小屋スペシャル!「如月の三枚看板 喬太郎+文蔵+扇辰」

日時:2月13日(火) 開演:18:45

料金:3,500円

出演柳家喬太郎橘家文蔵、入船亭扇辰

場所銀座ブロッサム中央会館ホール

問い合せ:03-6909-4104

⇒2月の銀座で、芸風の違う喬太郎、文蔵、扇辰師の3人が顔合わせ。仕事帰りに行かなくちゃ!

 

白鳥プロデュースWoman’s勉強会

日時:2月15日(木) 開演:19:30

料金:2,000円

出演柳亭こみち、林家ぼたん、林家つる子

場所:Koenji HACO

問い合せ:090-4249-0852

新作落語の鬼才、三遊亭白鳥師は、女性落語家にも新作を書き下ろしたり、プロデュースをしています。女性落語家が古典落語の制約を離れて、どこまで遊んで、弾けるか、期待しています。

 

BXホール落語会「春風亭一朝独演会」

日時:2月20日(火) 開演:18:30

料金:3,000円

出演春風亭一朝

場所:文化シャッターBXホール(春日)

問い合せ:050-3497-5500

⇒最近は「春風亭一之輔の師匠」としてクローズアップされることも多い一朝師匠。座っているだけで江戸の雰囲気を感じさせてくれる、いまや数少ない落語家さんです。

 

深川落語倶楽部

日時:2月20日(火) 開演:18:45

料金:3,000円

出演

古今亭志ん輔:らくだ

柳家花緑:パテ久

春風亭一之輔:錦の袈裟

林家時蔵:しわいや

春風亭ぴっかり☆:ガマの油

場所:深川江戸資料館 小劇場

問い合せ:03-3633-7961

⇒江戸の長屋などを再現した深川江戸資料館で開催される落語会。ここの長屋などは、本当にリアルにできているので必見です。そして、この豪華なメンバー。お勧めの落語会です。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。問い合せの番号は、お間違えないようにお願いします

落語の登場人物:若旦那は、大塚家具や大王製紙の跡取りと似ているの?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供。商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁(おいらん)や幇間。おなじみのメンバーですが、あなたの周りにも、きっと似たような人がいるはずです。ぜひ、探してみてください。今回紹介する登場人物は、「若旦那」です。

 

タンポポの綿毛のようにフワフワとしたお坊ちゃま

 

落語に登場する若旦那は、大店(おおだな:大きな商店)の跡取り息子。働くことは大嫌いで、女や芸事にうつつを抜かしています。店の金を持ち出しては、吉原の花魁に貢ぎ、父親にどんなに叱られても気にしない。挙句の果てには勘当され、店に出入りしていた職人の家などに転がり込む。見かねた周囲の人の勧めで、船頭や唐茄子(とうなす:カボチャ)売り、湯屋(銭湯)などの仕事に就くのですが、甘いことばかり考えていて、トンチンカンな言動を繰り返します。

 

船徳」「唐茄子屋政談」「湯屋番」「明烏」「干物箱」「よかちょろ」「二階ぞめき」など、若旦那噺も落語の中では、一大ジャンルを作っています。落語の若旦那は、勘当されても、つらい仕事をしても、基本的に心を入れ替えません。いつでも甘いことを考えています。若旦那にとって大事なのは、「もてること」や「カッコいいこと」なのです。このタンポポの綿毛のようにフワフワとした生き様が、落語の世界では、とても楽しい世界を作るのです。

 

現実世界にも、落語のような若旦那はいるのかな?

 

現実の世界で、落語の若旦那のような人は、実際にいるのでしょうか? これまで、さまざまな企業のトップとお会いする機会があったのですが、一代で財を成したような剛腕な経営者の跡取りは、どちらかというと堅実で小粒なタイプが多いという印象があります。

 

色々と考えていて頭に浮かんだのが、大王製紙の跡取り息子です。社長、会長として在任中にギャンブルで106億円も失ったあげく、会社の金を流用して逮捕され、懲役4年の実刑判決を受けました。有名人や女性芸能人との華麗な交遊も随分、噂になりました。若旦那度はかなり高そうです。

 

あるいは大塚家具の社長になった長女はどうでしょうか? 創業者である父親と経営権を巡り、派手な親子喧嘩をしたあげく、父親を追い出し、社長の座に就きました。しかし、就任後2年間で約100億円の大損失を計上しそうです。落語の若旦那のように遊び惚けているわけではありません。むしろ若旦那とは正反対のタイプともいえるでしょう。しかし皮肉なことに、親の築いた大店を、娘が派手に傾かせているのです。

 

こうして書き出してみると、どちらのケースも、時間が経っていないせいもありますが、生生しくて、ネガティブなものばかりが目についてしまいます。芝居にはできるかもしれないけれど、落語には、とてもできそうにありません。

 

悲劇や堕落、欲望や対立など、日常世界で起こりうるドロドロしたものは、そのままでは「笑い」にはなりません。辛いものや悲しいものも含めて、すべてを「笑い」に変えてやろうという強い意志と、「笑い」に昇華させるための長い長い時間が必要なのです。

 

落語の世界の若旦那たちは、肩の力が抜け、みんなフワフワと呑気に生きています。ぜひ、そのいい加減さを楽しんでみてください!

 

船徳

 道楽のあげく勘当された若旦那の徳さん。なじみの船宿に居候をしているのだが、「自分も船頭になりたい」と言い出した。そんな細い体では無理だと親方は忠告するのだが、聞き入れない。夏の盛りに、船宿の馴染み客が、「浅草まで船で行きたい」と、友人を連れてやってくる。ちょうど船頭が全員出払っていて、徳さんが船頭を務めることになるのだが……。

 

船徳古今亭志ん朝

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参考文献

『溶ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』

井川意高(著)

双葉社

 

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忖度(そんたく)と禁演落語:権力への過剰すぎる配慮

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2017年、「忖度(そんたく)」という言葉が広まり「2017ユーキャン新語・流行語大賞」にも選定されました。この言葉の本来的な意味は「他人の気持ちをおしはかる、推察する」というもので、特に否定的なニュアンスはありません。しかし、流行語になった忖度は、「権力者である安倍首相の意向を、役人などが推察し、その意にかなうように物事を推し進めた」ことを表す言葉として使われました。

 

落語界にもある忖度の歴史

 

落語の歴史にも、この忖度が働いた事件があります。それが禁演落語の選定と上演自粛です。

 

禁演落語とは、昭和16年(1941年)10月、戦時下にふさわしくないとして、落語家が上演を自粛した落語のことです。このとき選ばれた噺は53編で、自粛の証しとして、浅草の本法寺に「はなし塚」を建て、葬りました。

 

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53編は、以下の噺です。五人回し、品川心中(下)、三枚起請、突き落し、ひねりや、辰巳の辻占、子別れ(上)、居残り佐平次木乃伊取り、磯の鮑、文違い、茶汲み、よかちょろ、廓大学、明烏、搗屋無間(つきやむげん)、坊主の遊び、白銅、あわもち、二階ぞめき、高尾、錦の袈裟、お見立て、付き馬、山崎屋、三人片輪、とんちき、三助の遊び、万歳の遊び、六尺棒、首ったけ、目ぐすり、親子茶屋、宮戸川悋気の独楽、権助提灯、一つ穴、星野屋、三人息子、紙入れ、つづら間男、庖丁、不動坊、つるつる、引越しの夢、にせ金、氏子中、白木屋、疝気の虫、蛙茶番、駒長、おはらい、後生うなぎ

 

ネタの内容から、女郎買いもの、酒のみもの、泥棒もの、間男もの、不道徳もの、残酷ものなどが対象になったそうです。

 

しかし、この中には、「品川心中」「子別れ」「居残り佐平治」「明烏」など、名作、大作と呼ばれる噺が入っています。なぜ、これを選んだのかよく分からないという噺も、いくつかあります。

 

権力に対する過剰なまでの配慮

 

この禁演落語の出来事には、2つの特徴が見受けられます。1つは、落語の選定を、落語家自身が行ったということ。なんらかの判断基準が示されていたわけではなく、自主的に「時局に不適切であろう」という基準を定め、噺を選定しました。そして、上演禁止されたのではなく、自主的に規制しました。つまり権力の意向を「忖度」したのです。もう1つの特徴は、その規制範囲が、広範で過剰とも思える点です。

 

そこには、2017年に発覚した森友・加計学園問題における「忖度」と、ある部分、通底するものを感じます。それは権力者に対する過剰なまでの配慮です。

 

戦時下で落語そのものを演じられなくなるという危機的状況と、政治家と役人の癒着を同一で語ることはできません。しかし、権力に対する恐怖、保身からくる忖度の過剰さには、似たものを感じるのです。

 

ちなみに戦後、GHQの統制下でも新たに禁演落語が選定されたそうです。このときは仇討や復讐が含まれるものなどを中心に選んだそうですが、やはり、なぜ選んだのかよく分からない噺も含まれています。

 

太助が次回、演じたいと思っている「寝床」という噺は、この2回目の禁演落語に選定されています。義太夫好きだが下手くそな旦那が、店子や店のものに、ひどい義太夫を強引に聞かすという噺です。一体、どの部分を問題視したのか、よく分かりません。これも過剰なる忖度といえそうです。

 

はなし塚に名作を葬ってしまったのは、落語界にとっては悲しくも辛い歴史です。権力や世評に対して過剰なる忖度が生まれるとき、私たちは何かを1つずつ葬っているのかもしれません。

 

ともあれ、名作「寝床」をお楽しみください!

 

参考文献

『禁煙落語』小島貞二・編著

ちくま文庫

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古今亭志ん朝「寝床」

www.youtube.com

 

落語 THE MOVIEに見た柳家喬太郎のすごみ

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語教室で、1人の持ち時間は15分と決められています。これは厳密に守られていて、指導いただく師匠が、稽古の際もタイムチェックをし、オーバーしていれば指摘されます。

 

このため、演じたい噺(はなし)を決める際には、15分で収まるかどうかを、まず考えます。

 

落語の噺の長さを尺(しゃく)と呼びます。この尺は、短い噺で10分から15分、中編で25分から40分、長編で40分から1時間程度でしょうか。寄席で1人の落語家の持ち時間は15分から20分、ホール落語では一般的に20分から40分程度です。

 

持ち時間15分は、寄席でのプロ落語家さんの持ち時間と同じですから、素人には十分すぎる時間といえます。「子ほめ」「つる」「道灌」「転失気」など、前座噺と呼ばれる、登場人物の少ない噺は15分あれば十分です。

 

問題は、25分程度の時間が必要な、中編の落語を演じたい場合です。この場合は、台本作りの段階で噺を短くする作業が必要になります。「尺を詰める」と言うそうですが、この作業がとても大変なのです。

 

落語の噺を短くする2つの方法

 

噺を短くするには2つの方法があります。1つ目は、ストーリーには手を加えずに、噺全体から少しずつセリフを削っていく方法。もう1つは、全体の構成から、いくつかのシーンを削ってしまう方法です。

 

このシーンを削る方法は『落語家はなぜ噺を忘れないのか』(柳家花緑・著)に詳しく書かれていますので、要約して引用します。ここで例として挙げられている噺は「初天神」です。これを花緑師は9つのシーンに区切ります。

 

1.家の中/家族の会話

初天神に行く父親に、息子の金坊が「連れて行ってくれ」とせがむ。何も買わないことを条件に出かけることに。

 

2.道中/歩き出し

父親が金坊に「言うことを聞くように」と念押しをする。

 

3.道中/人力車との遭遇

親子連れが乗った人力車と遭遇し、金坊が「同じ親子なのに、あっちは人力、こっちは歩き」と皮肉る。

 

4.道中/よいとこらせっ!

父親と母親に手を引かれた子供が通る。両親が子供の手を引っ張り上げると、子供の足が宙に浮く。その様子が楽しそうで「自分もやってほしい」と言う金坊。父親が持ち上げると、金坊ははしゃぐ。それを見て父親も喜ぶと、金坊が「無邪気だね~~」。

 

5.道中/おねだり開始

縁日の雑踏に入ると、金坊がおねだりを始める。

 

6.お店/水菓子屋

果物を打っている屋台でおねだりをする金坊。父親は「約束を守らなきゃダメだ」と断る。

 

7.お店/飴玉屋

飴玉をねだる金坊。根負けした父親が1つだけ買い与える。飴玉をなめながら歩く金坊だが、父親に水たまりを注意された拍子に飲み込んでします。怒る金坊。

 

8.お店/団子屋

団子をねだる金坊。結局、1本買うことになるが、蜜の団子を買うか、あんこにするかでひと騒動。蜜の団子を買うことになるが、父親は金坊が蜜を着物に付けてしまうからと、ペロペロとなめてしまう。

 

9.お店/凧屋

金坊は凧屋でおねだり。父親はまた買うはめに。「今、あげだい」という金坊と原っぱに行くが、父親が凧あげに夢中になってしまう。金坊は「お父っつぁんなんか、連れてくるんじゃなかった」

 

本書によれば、初天神は場面がきっちり変わるので、いくつかのシーンをバッサリ抜いてしまえば、時間を調整できるそうです。花緑師は、1.「家の中」から3.「人力車との遭遇」まで演じて、8「団子屋」にいって、サゲてしまうこともあるそうです。

 

落語 THE MOVIEに見た柳家喬太郎のすごみ

 

しかし、実際に尺を詰める作業をしてみると、難しい部分が多々あります。古典落語は、長い年月の中で、多くの演者によって練り上げられているため、無駄なシーンやセリフがあまり無いのです。シーン1があるから、シーン2で笑いがとれるように構成されていたり、後半の伏線が隠されていたりします。

 

プロの落語家が、どのように噺を短くするか分かるのが、NHKで放映されている「超入門!落語 THE MOVIE」です。この番組は、古典落語の演目を映像化しているのですが、落語家の喋りに合わせて、俳優がいわゆる「口パク」で登場人物を演じます。

 

通常、30分の放送時間で、2本のネタが演じられるので、1本あたり15分程度の尺になっています。この短い時間にもかかわらず、「育代餅」や「妾馬」など、30分くらいかかる噺が取り上げられることがあります。

 

『落語家はなぜ噺を忘れないのか』の中で、花緑師は以下のように述べています。

 

尺を縮めるためには咀嚼力が必要です。ただ噺を短くするだけなら容易にできるんです。あらすじをザッとしゃべればいいのですから。(p.97)

 

短い尺に噺をまとめながらも、古典落語の面白さを損なわず、俳優が合わせられるように一言一句、明瞭に話すには、落語家さんにも相当な力量が必要です。このため毎回、口跡のよい、実力ある落語家さんが登場します。

 

先日、この落語 THE MOVIEで、柳家喬太郎師匠が「井戸の茶碗」という落語を演じました。この放送を見て、太助は驚きました。

 

この落語は、「正直清兵衛(せいべえ)」とあだ名のあるクズ屋が主人公。長屋住まいの貧乏浪人から引き取った仏像を、細川家の侍に売ったところ、中から五十両の金が出てくる。侍は「自分が買ったのは仏像なので、金は売り主に返せ」と言う。売った浪人は、「売ったものだから自分のものではない」と金を受け取らない。両者の間で、清兵衛さんが右往左往するという落語。この噺の特徴は、登場人物が全員、正直で善人揃いなこと。

 

ところが喬太郎バージョンでは、清兵衛さんが不正直なのです! 金を持ち主に返してくれという侍に、こっそりと貰ってしまうことを勧めます。

 

侍が「なぜ、お前が正直清兵衛だか、さっぱり分からんな」と言うと、清兵衛は「自分の欲望に正直な清兵衛なんでございます」と答えます。

 

他の落語家さんは、超入門のコンセプトのもと、噺の基本的なストーリー、人物設定には手を付けないので、この大胆な改変には、ビックリしました。

 

そして、短編に縮めてあるにもかかわらず、とんでもなく面白い「井戸の茶碗」に仕上がっていたのです。他の演者が、落語初心者にストーリーや設定を伝えようとしているのに対して、喬太郎師は「落語の面白さ」そのものを伝えようとしたのでしょう。

 

そして、そこには紛れもなく、高座でみる喬太郎ワールドが出現していたのです。尺を縮めることでさえ大変なのに、たった20分で独自の世界を作り出してしまう。柳家喬太郎という落語家の凄みを、目の当たりにしたような気がしました。

 

超入門!落語 THE MOVIE(高座映像)井戸の茶碗

超入門!落語 THE MOVIE

 

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柳家小三治に会いたくて。会いにいく~第131回:江戸川落語会

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。柳家小三治師匠が出演すると聞いて、12月16日に開催された江戸川落語会に足を運びました。江戸川区在住だった橘屋圓蔵師匠が尽力して始まった落語会で、今回で第131回を迎えます。

 

会場は、小岩駅から歩いて15分ほどの江戸川区総合文化センター・小ホール。毎回、落語家さんの誰かが、駅からの遠さをマクラで語ります。暑い時期には確かに「ちょっと遠いな」と思いますが、このホールは天井も高く、音の響きも良いので気に入っています。

 

このセンターには、レストランが入っていて、開演まで食事をしながら待っていられるのも魅力のひとつです。この日も席は、江戸川落語会の常連さんたちで埋まっています。小三治師匠の長年のファンの方達でしょう。70代くらいの方が多いようです。

 

雪の降る光景が目に浮かぶ扇辰師の「雪とん」

 

今回の出演は、柳家小八、入船亭扇辰、柳家小三治師匠です。

 

柳家小八は、2017年3月に真打昇進して「ろべえ」から小八に改名しました。師匠は、2016年惜しまれながら亡くなった柳家喜多八です。本日の演目は「だくだく」。柳家喜多八の芸風を引き継ごうとしているのでしょう。マクラはけだるそうに話して、本編に入るとがぜん語り口が熱くなり、声も張り上げていきます。喜多八師のメリハリには、まだ及びませんが、芸風として確立できれば面白いかもしれません。

 

入船亭扇辰師匠の演目は、寒い季節のピッタリの「雪とん」。

 

船宿で、縁のある田舎者の若旦那を泊めている。この若旦那、町で評判の美人・お糸に惚れてしまい、体を壊してしまう。「酒の一杯も酌み交わせれば、それで満足して帰る」と訴える若旦那。船宿の女将は仕方なく、お糸の女中に小遣いを与え、夜中に忍ばせる手はずを整える。その晩は、あいにくの大雪。若旦那は道に迷ってしまい、そこら中の木戸を叩きまわるが、どこも開けてくれない。ちょうど同じ時刻に、役者顔負けのいい男が通りかかる。この男、「お祭り佐七」と呼ばれる人気者。下駄に雪が挟まったので、トントンと雪を落としたところ、合図と思った女中に連れ込まれてしまう。佐七が、あまりにもいい男だったのでお糸は、その晩、泊めることに……。

 

女性を演じたら抜群の扇辰師匠。田舎者の若旦那に手を焼く女将や小遣いの欲しい女中、お嬢さまのお糸など、実に達者に演じ分けます。降り積もる雪の情景描写も抜群。あまり聴くことのできない珍しい噺を、たっぷり堪能できました。

 

「頑張れ、頑張れ!」と念じながら小三治師匠を見守る

 

トリは、観客全員がお待ちかね柳家小三治師匠です。割れんばかりの大きな拍手が、期待の大きさを感じさせてくれます。

 

小三治師匠といえばマクラの面白さでも、よく知られています。今回は、安倍首相への不満など、「世の中、これでいいのか」という切り口で語り始めます。

 

しかし残念ながら、固有名詞が出てこなかったり、途中で話しがつまったりで、いろいろな話題が出るものの、中途で終わってしまいます。「ちょっと、この話しはやめておきましょう」「なんだか今日は、頭が熱くなりすぎているから、ここでやめときましょう」と言って、頭を抱えること数回。その度に、心の中で「小三治、頑張れ!」と祈るようにして聞いていました。観客全員が、同じような気持ちだったのではないでしょうか。

 

「太鼓が鳴ったら、高座を降りる合図ですから」と言い、マクラを話し続けること50分。「今日はマクラで終わりかな。まあ、いいか」と思ったところでドンと太鼓の音。

 

と、ここから小三治師、噺を始めたのです。ネタは「宗論」。宗派の違う親子の食い違いが面白い、この噺を、結構なスピードで語り始めます。息子を叱る親父の口調に往年の滑舌のよさはなく、途中、少しつまってしまうことが数回。

 

しかし、観客はよく笑っていました。マクラの時間も含めて、温かく、大きな笑いが何回も、何回も起こりました。

 

名人・古今亭志ん生は、晩年、高座にあがっても何を話しているのか聞き取れない状態だったそうです。しかし、高座に登場するだけで大きな拍手で迎えられ、観客はとても楽しんでいたそうです。

 

この日の会場も、同じ空気を醸し出していました。集まった観客は、私も含めて、落語を聞きに来たというより、小三治師匠に会いたくて、会いにきたのです。

 

それは、それでいいのだと思います。

 

小三治師匠に会いたいという観客がいる限り、まだまだ高座に上がっていただければと思い、帰路につきました。

 

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太助セレクト落語 2018年1月下旬から2月初旬のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年1月中旬から下旬のお勧めの落語会をピックアップしました。1月は、新春興行の楽しさがタップリと楽しめる時期です。夢の組み合わせの落語会も目白押し。チケットはお早めに!

 

ふなばし市民寄席「喬太郎・白酒・一之輔三人会~春の気になる三人会」

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日時:1月30日(火) 開演:18:30

料金:3,600円

出演柳家喬太郎桃月庵白酒春風亭一之輔

場所船橋市民文化ホール

問い合せ:03-5785-0380

船橋市周辺の方の熱い支持を得ている「ふなばし市民寄席」。新春は人気落語家、喬太郎・白酒・一之輔師匠のそろい踏みです!

 

落語教育委員会

日時:2月5日(月) 開演:19:00

料金:3,600円

出演柳家喬太郎、三遊亭歌武蔵、三遊亭兼好

場所市川市文化会館

問い合せ:043-224-1710

落語教育委員会 | てこなどっとねっと 公益財団法人市川市文化振興財団

⇒新メンバーの兼好師匠が加入した落語教育委員会。コントあり、漫談あり、落語ありの楽しい公演です。

 

風間杜夫の落語会

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日時:2月8日(木) 開演:19:00

料金:3,100円

出演風間杜夫柳家喬太郎、白戸知也(津軽三味線

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

http://nigiwaiza.yafjp.org/perform/archives/14771

⇒プロの落語家顔負けの技術で魅せる役者・風間杜夫。つかこうへい作品に出演していた頃の輝きが、垣間見られます。

 

柳亭市馬春風亭昇太二人会

日時:2月9日(金) 開演:15:00

料金:3,000円

出演柳亭市馬春風亭昇太

場所:いちょうホール(八王子)

問い合せ:042-621-3001

www.hachiojibunka.or.jp

⇒市馬、昇太師の二人会! 二人が弾けたら、とんでもない世界が広がりそう。期待大の二人会です。

 

かめあり亭第33弾「新作落語の会~今は新作!いつかは古典」

日時:2月10日(土) 開演:14:00

料金:3.800円

出演柳家喬太郎三遊亭白鳥林家彦いち

場所:かめありリリオホール

問い合せ:03-5680-3333

⇒このメンバーならば間違いなく、新作落語も安心して楽しめます。新作落語をあまり聴いていない初心者にもお勧めの落語会です。

 

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

「徳川家康」山岡荘八:文明を改める哲学は生まれたのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。久しぶりに山岡荘八(著)徳川家康を読み返しています。この本を開く気になったのは、韓国の元大統領である朴槿恵(パク・クネ)が、拘置所で熱心に読んでいるというニュースを知ったからです(韓国版の書名『大望』)。

 

ご存じのように朴槿恵は、数奇な運命を歩んでいる人です。父親は元大統領の朴正熙であり、彼女の両親は凶弾に倒れました。その後、韓国初の女性大統領に昇りつめ、また大統領として初めて罷免されることになりました。韓国は歴史的に、倒れた権力者に対しては徹底的に叩きのめすので、裁判の結果はおそらく厳しいものになるでしょう。

 

父親は日本との国交を回復しましたが、彼女は一貫して反日の立場を取り続けました。現在、周りには誰もいなくなり、ひとり独房で、日本の国民文学ともいわれる『徳川家康』を開く。その運命の不思議さを思います。

 

彼女がなぜこの本を手に取り、何を見い出そうとしているのか。少し知りたくなったのです。

 

戦争と平和を描く壮大な叙事詩

 

徳川家康』は、太平洋戦争が終戦して間もない1950年から執筆が開始され、17年もの歳月をかけて書かれた歴史小説です。現在、山岡荘八歴史文庫(講談社)に収められていますが、全26巻の大長編です。第1巻のあとがきに、この長編小説の執筆動機とモチーフが書かれています。

 

終戦後、山岡の脳裏には、以下のような思いが浮かびます。

 

 戦いは終わったが、「平和」はまだその片鱗(へんりん)も地上に姿をあらわしていないというきわめて平凡な、しかし、きびしい事実だった。

 

 これは終戦ではなく、より惨憺たる次の展開への小休止ではあるまいか。文明の持つ性格からも、人々の頭脳を支配している哲学からも、現実にうごきつつある政治からも「平和」につながる何ものも発見できず、万人の希求とはおよそ正反対の血の匂いしか受け取れなかった。

徳川家康』第1巻 あとがきより

 

山岡荘八は、第二次大戦後の平和を、戦争と戦争のはざまの「小休止」ではないか、ととらえたのです。そして、「戦いのない世界を作るための条件は何か」を探るために書き上げたのが本著です。このために選んだ人物が、応仁の乱から続く、長い長い戦国の時代に終止符を打った徳川家康だったのです。

 

世界は知恵と哲学を手に入れたのか?

 

終戦から70年以上の歳月を経て、文明は恐ろしいほどに変化しました。その変化の象徴がITの発達でしょう。初期の大型コンピューターなみの能力を持ち、世界中とつながることができるスマートフォンを、誰でも気軽に持てる時代になりました。

 

誰もがさまざまな情報を、いつでもどこでも入手できるだけでなく、自分の意見や動画を簡単に世界中に発信できるようになりました。買物もネットで済ませられるだけでなく、リアルな貨幣さえも不要になりつつあります。

 

この変化は、確かに生活に「便利」をもたらしました。しかし、ネットは世界中の人間同士の「理解」や「共感」を深めているのでしょうか? わたしは逆に、憎しみや恨み、反感を深めていっているように思えます。一国の大統領が口にする罵詈雑言が、世界中にあっという間に広がります。それに対して、憎しみや反発の感情をむき出しにしたコメントが果てしなく連なります。

 

ネットは、人間のドロドロとした感情を解き放ってしまいました。嫉妬、不信、ねたみ、反発、憎しみ、優越感・劣等感……。パンドラの箱を開けてしまったのです。「負」の感情の連鎖には終わりがありません。

 

山岡荘八は、戦いのない世界を作るために、以下のように語っています。

 

 戦いのない世界を作るためにはまず文明が改められなくてはならず、文明が改められるには、その背景となるべき哲学の誕生がなければならない。新しい哲学によって人間革命がなしとげられ、その革命された人間によって社会や政治や経済が、改められたときにはじめて原子科学は「平和」な時代の人類の文化財に変わってゆく

徳川家康』第1巻 あとがきより

 

北朝鮮の核開発、EUの崩壊、トランプ大統領の暴言拡散、米中の危ういパワーバランス、テロの脅威拡大など、身の回りの出来事を眺めていると、現在が戦いの前の「小休止」にすぎないという感を抱きます。山岡が言うように、次の世界を考える新しい哲学が、今まさに必要なのでしょう。

 

年の瀬です。年末・年始は『徳川家康』という大きな山に登ってみようと思います。

 

徳川家康

山岡荘八(著)
山岡荘八歴史文庫

講談社

落語家にとって歯は命! 太助の歯医者放浪記(1)

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。年の瀬が迫り、一年を振り返る時期になりました。今年もいろいろありましたが、年間を通じて悩まされたのが「歯」についてでした。

 

長い、長い歯医者放浪記の始まり

 

2017年の1月から、歯が急激に悪くなり、全体的に弱体化してきました。特に金属を被せてあった奥歯2本が、歯周病の悪化でグラグラしてきて、歯茎の腫れや痛みがひどく、通院を開始。そして1年が終わろうとしている現在、まだ歯医者通いが続いているのです……。

 

この間、歯医者を変えること4回(知人からは「歯医者放浪記」と呼ばれています)。長年通っていた歯医者の施術(被せたものが、すぐ取れる)と、機材の古さに疑問を抱き転院。次の医院は、機材は新しいがきちんと症状を説明してくれないので転院。3度目の病院では、初めから治療などする気はなく、すぐに抜歯されてしまう。1本抜かれたところで、納得がいかず転院。現在、4軒目の歯医者さんに通っています。

 

とにかく歯に悩み続けた1年でした。今回、よく分かったのは、歯が悪いと落語がうまく喋れないのです。歯茎が腫れているのはもちろん、仮の被せものがあっても上手に話せません。舌が今までと同じように、うまく動かないのです。

 

滑舌(かつぜつ)」という言葉があります。セリフや台本を滑らかに発声することで、「あの役者は滑舌が良い・悪い」などと使われます。

 

つくづく感じたのは、セリフの流暢(りゅうちょう)さは、滑舌という言葉の通り、「舌の動かし方にあるのだなあ」ということです。口の中の状態が少し変わるだけでも、滑舌はうまくいかなくなるのです。

 

また、歯に隙間ができてしまったりすると、そこから息が漏れてしまい、きれいに発声できません。このことも、歯を1本抜かれて実感しました。

 

落語家にとって歯は命!

 

話芸である落語はリズムとテンポがとても重要ですから、歯が悪くなり、滑舌が悪くなるのは大きなダメージになります。特に、「言い立て」と呼ばれ、長いセリフをテンポよく、スピーディーに聞かせる噺などでは致命傷です(「大工調べ」「金明竹」など)。

 

落語家さんもご高齢になると、やむを得ず入れ歯を使う方も現れます。しかし、本当に滑舌が変わってしまう方がいます。「入れ歯前・入れ歯後」といわれることもあるそうです。

 

名人と呼ばれた八代目・桂文楽、人気者だった五代目・三遊亭圓楽師匠なども、入れ歯が合わず、大変に苦労されたそうです。

 

昨日まで流暢に話せていたセリフが、思うように話すことのできない悔しさ、もどかしさは、大変なものであったと推察します。

 

現在、まったく口がまわらなくなってしまった黒柳徹子さん。昔、機関銃のように、ポンポンとテンポよく話せた記憶だけが、本人には残っているのでしょう。しかし、頭の回転に、口が全く追いついていきません。寂しさを通り越して、痛々しさやみじめさを感じます。

 

「楽しさ」や「笑い」を生み出すエンターテイナーが、視聴者に痛々しさを感じさせるようになったら、きっぱりと舞台を降りるべきだと思います。

 

今年、私が歯医者を転々とした大きな原因は、医者によって言うことが異なるためでした。「治る」という方、「治らないから、すぐ抜歯する」という方、きちんと説明してくれない方。どの歯医者さんを信じてよいか分からずに、フラフラと転院を繰り返していました。早く治して、落語をきちんと稽古したいという焦りもあったように思います。

 

太助の歯医者放浪記は、年が明けても続きそうです(涙)。

 

歯が悪くなれば、流暢に話せないだけでなく、口臭も生じますし、何を食べても美味しくありません。悪くなるまで気づかずに、ほったらかしにするのが人間の常ですが、皆さん「歯」には、十分気をつけてくださいね!

 

五代目・三遊亭圓楽「短命」

www.youtube.com

 

 

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太助セレクト落語 2018年1月初旬のお勧め落語会

こんにちは、アマチュア落語家の太助です。2018年1月上旬から中旬のお勧めの落語会をピックアップしました。年明けは、新春興行で落語会が最も活気づく時期です。新春興行で独演会も多く開催されます。お気に入りの落語家さんをたっぷり楽しめるチャンスですよ!

 

第3回 二人三客の会

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日時:1月11日(木) 開演:19:00

料金:3,100円

出演:入船亭扇遊、瀧川鯉昇橘家文蔵(ゲスト)、伊藤夢葉(奇術)

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

⇒年明けは、扇遊、鯉昇師匠の肩の凝らない落語で、心から笑ってリラックスしてください。

 

柳家三三独演会「横浜三三づくし 豚ざんまい」

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日時:1月12日(金) 開演:19:00

料金:3,100円

出演柳家三三

場所横浜にぎわい座

問い合せ:045-231-2515

三遊亭白鳥作「任侠流れの豚次伝」10か月連続通し口演。第9話「人生鳴門劇場」。豚次の旅もいよいよ最終章へ!

 

特撰落語名人会

日時:1月13日(土) 開演:12:30

料金:S席3,600円、A席3,000円

出演柳家さん喬柳家権太楼、古今亭菊之丞桃月庵白酒

場所鎌倉芸術館

問い合せ:03-6240-1052

⇒さん喬、権太郎、両師匠のそろい踏みを見たいという方は、2018年も多そうですね。まだご覧になっていない方は、一度はぜひ!

http://www.kamakura-arts.jp/calendar/2018/01/028429.html

 

グリーンホール八起寄席

日時:1月15日(月) 開演:18:30

料金:1,500円 他

出演:立川談修、三遊亭兼好、瀧川鯉橋、古今亭文菊

場所相模女子大学グリーンホール

問い合せ:042-749-2200

⇒このメンバーで、この価格! 新春のお年玉かしら。お近くの方はぜひ足を運んでください。

 

隅田川馬石の会 特別編「お富与三郎全段通し」

日時:1月20日(土)、27日(土)、2月3日(土)、10日(土)、17日(土)

開演:14:00

料金:2,700円

出演隅田川馬石

場所:食堂ピッコロ(日本橋

問い合せ:03-3281-0299

日本橋にある小さな食堂ピッコロで土日に開催されている落語会。歌舞伎の演目としても知られる「お富与三郎」を馬石師匠が5回で全段を語ります。滅多に聞くことのできない長編落語。期待大です!

 

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