落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい

アマチュア落語家・太助が、落語の魅力を考えます。

立川談志:素人が近づくこともできない高き独立峰

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。立川談志追悼興行の情報を調べていたら、恐れ多くも、談志について書きたくなりました。

 

これまで、立川談志ほど、さまざまに評論された落語家はいないでしょう。評論家やお弟子さんによる書籍は、数多く刊行されています。談志自身も、落語論を何冊も書き上げています。

 

また、賛否や好き嫌いが、これほど分かれる落語家も珍しいと思います。「天才」と呼ばれながらも「傲慢」と評され、落語をこよなく愛しながらも「異端」「非常識」と言われました。

 

今回、太助は、「アマチュア落語家が立川談志を、お手本にまねができるか」という観点から考えてみたいと思います。

 

私たちは、落語の稽古をするとき、プロの落語家さんの音源を探してきて、それをまねして噺を覚えます。口調も最初は、できる限り似せるように指導されます。こうすることで、プロの持っているリズムの勉強になるからです。

 

落語を勉強するお手本として人気があるのは、何と言っても名人・古今亭志ん朝です。テンポが良くて、聞きやすく、明るく、楽しい。まさに落語の教科書、お手本としてはピッタリ。「あんな調子で、一度でいいから話せたらなあ」と誰もが憧れます(実際にやってみると、まったくできないのですが)。

 

しかし、同じ名人でも立川談志の名を挙げる人はいません。なぜでしょう? 

 

それは、素人には、ちょっと真似ができないからなのです。

 

談志のテンポやリズムにある「心地よくない」部分

 

素人に真似ができない理由として、以下のようなことが考えられます。

 

マクラやギャグに談志個人をネタにしたものが多い

談志は、自分にしかできない独自の落語を追及していく過程で、マクラやギャグに談志個人の体験、考え方を大量に入れるようになります。噺の途中で、自分の落語論を語り始めることさえあります。

 

落語のストーリーや落ち、人物像を独自に変えてしまっている

落語のストーリーや落ちが、現代では分かりづらい部分は変えてしまいます。また、登場人物の言動も独自の解釈で、大胆に変えてしまうことがあります。

 

同じ噺でも、談志の年齢によって演じ方が異なる

談志が演じた年代によって、同じ噺でも、内容から話し方まで、大きく異なる場合があります。年齢を重ねたり、演じ続ける過程で、解釈や考え方が変わるのでしょう。以前の自分の型を壊して、全く違うものを作っていきます。

 

噺のリズムが、きわめて個性的

柳家小三治師匠が、談志を天才と認めつつも「(二つ目の)小ゑんの頃が良かった」と語っています。30代前半までの談志はテンポが良くて、聞きやすい、いわゆる古典落語の名手でした。しかし談志は、その後、いわゆる「聞きやすさ」を放棄します。スタンダードなジャズから、フリージャズに移行したような感じでしょうか。

 

後年の談志のテンポやリズムには、ある意味、「心地よくない」部分が存在します。噺の途中で、突然、リズムを切って「自分語り」や「落語論」を始めるなどもそうです。気持ちよく聞いているリズムを、意図的に変えたりもします。

 

演劇には「異化効果」という手法があります。演劇の空間に、意図的に違和感のあるものを差し込み、異なる強い印象を与える手法です。日本では蜷川幸雄が、この異化効果をよく用いていました。時代劇のような衣装やセットで作られている空間に、渋谷の繁華街の光景をサッと入れたりします。

 

写真の世界でもそうです。美しい写真を撮ることのできるアマチュアは大勢います。しかし、美しいだけの写真というのは、さほど印象に残らないものです。プロのカメラマンは、美しい風景に、あえて汚れたものを入れ込んだりします。整然とした高層ビル群の光景に、あえて踏みつぶされたビール缶を混ぜ込んだりするのです。

 

談志の噺で「心地よくない」部分に出合うと、この異化効果を思い出します。

 

創り、壊し、再構築し、また壊す

 

落語家さんは、師匠に噺を学び、その型を踏襲し、自分のスタイルを作り上げ、作り上げたスタイルを長年かけて磨き上げていきます。

 

しかし、談志は、このようなかたちでの進化を拒否しました。例えば、得意な噺も、師匠である柳家小さんと「内容が同じ」であることに嫌気がさして演じなくなったものもあるそうです。

 

立川談志という人は、自分の落語のスタイルを創りあげ、それを壊して再構築し、また壊す、という苦闘を続けた落語家です。結果として、誰にも真似のできない『立川談志』を創りあげたのでしょう。

 

その姿勢は、ピカソにも通じるものがあると太助は思います。ピカソも、昨日の自分を今日には否定するかのように、自分のスタイルを変革し続けました。

 

だから、素人がまねをしようとしても、到底、無理なのです。それは、素人が足を踏み入れることもできない高い、高い独立峰なのですから。

 

ぜひ一度、立川談志をしっかりと聞いてみてください。

 

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落語で、男が「いい女」を演じることの難しさ

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こんにちは、太助です。いま太助は「夢の酒」という落語の稽古に励んでいます。

 

「夢の酒」は、うたた寝をしている若旦那を、妻のお花が起こすシーンから始まります。

 

「もう少しだったのに」と、起こされて機嫌が悪い若旦那。その理由を尋ねると、夢を見ていたのだという。夢の中で若旦那は、突然の雨に降られて、軒の深く出ている家で雨宿りをしている。すると、その家の女中さんが若旦那を知っていて、奥さんに声をかける。「あなたがいつも噂をしている、大黒屋の若旦那がいらっしゃいましたよ~」。出てきたのは、飛び切りの美人。嬉しそうに夢の話しをする若旦那と対照的に、妻のお花は、どんどん不機嫌になっていく……。

 

落語の世界で、「いい女」を追いかける男たちの情熱と行動力は、本当にすごいものがあります。想像や夢の中で、いい女に出会う噺としては、この「夢の酒」や「湯屋番」などがあります。

 

果たして、おじさんが「いい女」を演じられるのか?

 

さて問題は、この「いい女」を太助が演じなければならない、ということです。夢の酒で、この奥さんは、年の頃は25~26歳、中肉中背、色白で、目元に愛嬌のある美人と描かれます。こんな若旦那のセリフも出てきます。「ああいうのが、本当の美人っていうんだろうね」。……本当の美人ですよ。この夢の女以外にも、妻のお花、女中さんと3人も女性が登場します。

 

このような落語を演ずるのは、上品で清潔感があり、ほっそりしていて、少し色気のある「いい男」が最適でしょう。所作(しょさ:振る舞いやしぐさ)も、女性のように繊細な振る舞いができる落語家さん。加えて、声も高音が出せないと、女性3人の演じ分けが難しい噺です。

 

現役の落語家さんでは、柳家三三入船亭扇辰立川談修古今亭菊之丞、(やせていた頃の)春風亭小朝師匠などがピッタリきます。私の好きな入船亭扇遊師匠も手掛けています。

 

意識的に動作するからこそ、美しい所作が生まれる

 

男が女性を演じる芸能は、落語以外にも歌舞伎や大衆演劇などがあります。テレビでおなじみの梅沢富美男さんは、女役をとても魅力的に演じることで有名です。

 

男性が女性を演じるメリットの1つは、「意識的に動作しなければならない」ことでしょう。女性が無意識にしている動作や話し方を、観察し、細かく真似る必要があります。意識的に動作するからこそ、上手な方は、指先や背筋にまで神経が行き届き、美しい所作が生まれるのだと思います。

 

では、女性の落語家さんが、この噺をやれば良いかというと、そうでもありません。女性では逆に、色っぽさが生々しくなってしまうのです。

 

品のある男性が醸し出す(かもしだす)色気が、自然に感じられる程度がちょうど良いと思います。この色気が変に強調されると、「下品なオネエ」のようになってしまいますし、実に難しいところです。

 

では「なぜ、太っていて、色気もないお前が、この噺をやるのか?」と突っ込まれそうです。「夢の酒」の後半には、若旦那の父親が登場します。この親父さん、三度の食事よりも酒が好きという呑兵衛。お酒大好きの太助は、この親父さんがつぶやく「落ち」を、ぜひ一度、演じてみたいのです。「いい女」の部分は勘弁してやってください……。

 

こちらは「夢の酒」を練り上げて、完成させた名人、八代目・桂文楽の高座です。晩年の高座ですが、妻のお花の可愛らしいこと。本物をお楽しみください。

 

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落語の「ちょいと一杯ひっかける」は、酒飲みにとても便利な言葉

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。太助は、はっきり言って酒好きです。ちなみに落語教室に来る中高年のおじさんは、ほぼ間違いなく酒好きです(笑)。いま「夢の酒」という落語を稽古しています。これは男の願望が、夢の世界に現れるような噺ですが、「落ち」のひと言は、まさに酒飲みならではのつぶやき。もう、たまりません。

 

酒呑噺が上手な落語家さんを聴くと、本当に飲みたくなる

 

男の道楽は昔から「飲む・打つ・買う」、つまり「酒、博打、女」と言われます。落語には、酒を題材にした噺(はなし)がたくさんあり、酒呑噺(さけのみばなし)という一大ジャンルを作っています。

 

落語家さんは、それぞれ得意なジャンルを持っていますが、酒呑噺を得意とする方もいらっしゃいます。私は酒飲みなので、酒を飲む仕草には厳しいのですが、先代の柳家小さん師の酒呑噺はまさに絶品でした。「んぐ、んぐ、んぐ」と喉を鳴らして飲み、飲み終わると、スッ~と顔色が赤らみます。あれは本当に不思議でした。

 

酒呑噺が上手な落語家さんの一席を聴くと、お酒が飲みたくなります。芸の力というのは凄いな、と思います。

 

最近の若手の落語家さんには、酒呑噺のうまい人があまりいない、という印象があります。今の若い人は日本酒よりも、ビールやサワー、ハイボールなど炭酸系のアルコールを主に飲むようになったことが原因かもしれません。サワーやビールは、ジョッキのような大き目のグラスを、グイっと持ち上げるようにして飲みます。日本酒は小ぶりのグラスやおちょこで、口を近づけるようにして飲みます。この辺りが、仕草のリアリティに差を生むのではないかと考えています。

 

日本酒のおいしい季節になりました。酒がうまくなる酒呑噺を紹介します。

 

猫の災難

 

文無しの熊さん、隣りのおかみさんから、鯛の頭と尻尾だけをもらう。猫の病気見舞いに貰ったもので、身を食べさせた残りもの。ここに訪ねてきたのが兄貴分。真中にすり鉢がかぶせてある鯛を見て、「いい魚がある」と勘違いして、酒を買いに行ってしまった。困った熊は、酒を買って戻ってきた兄貴分に「猫が身だけ、持って行ってしまった」と嘘をつく。どうしても鯛が食べたくなった兄貴分は、今度は魚屋へ。その間に、酒の味見を始めた熊だが、飲みだすと止まらない。とうとう、買ってきた酒を飲みきってしまった熊は、また猫のせいに……。

 

親子酒

 

大酒飲みの親子が、「これではいけない」と禁酒の誓いを立てる。ところが父親は、息子の留守に「内緒で一本だけ」と飲むうちに、一本が二本、三本となり、ベロンベロンに。そこへ息子が帰って来たので、必死で酔っていない振りをする。実は息子のほうも出先で酒を勧められ、ひどく酔っぱらっている。酔っ払い親子の会話が楽しい噺です。

 

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替り目(かわりめ)

 

ベロベロに酔っぱらって帰って来た亭主。自分の家の前で車屋を拾ったりと大変な酩酊状態。そんなありさまにもかかわらず、女房に寝酒を出せ、ツマミを買ってこいと、わがまま放題。仕方なく、女房がおでんを買いに出かけると、亭主はそっとつぶやく。「出てけ、お多福!って言ってるけど、本当は感謝しているよ。いつもこんな酔っ払いの面倒をみてくれて、本当に有難うございますって、いつだって拝んでるんだから……」。実生活でも大変な呑兵衛で、貧乏暮らしを続けた古今亭志ん生の代表作の1つです。

 

この他にも、「居酒屋」「一人酒盛(ひとりさかもり)」「試し酒」「夢の酒」「寄合酒」など、酒をテーマにした噺はたくさんあります。

 

落語には、「ちょいと一杯ひっかける」というセリフが、よく登場します。太助はこの言葉が大好きです。仕事が終わったあとのスイッチオフに、何かやる前の景気づけに、うまいサカナが手に入ったタイミングでと、いつでも使える便利な言葉。ほんの少量を、短時間で、お金をかけずに「ひっかける」。日本の居酒屋文化を育んだ言葉ではないかと、ひそかに思っています。

お勧めの落語家:柳家三三~心地良いリズムで落語の世界へ誘う

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。先日、ある落語会に行きました。登場した落語家さんは、落語に「客いじり」や「くすぐり」を数多く入れてくるタイプの方でした。

 

客いじりとは、落語の途中で「そこのおばちゃん、笑ってるけど、あなたのことだよ!」のように、観客を使って笑わせようとする手法です。「くすぐり」も、笑いを取るために入れるギャグのようなものです。近頃は、落語の時代設定に関係なく、現代の固有名詞や風俗を入れるのが流行です。江戸時代の噺(はなし)なのに、「お前は、小池百合子か!」と入れたりします。

 

その落語会は爆笑の連続で、大変に盛り上がっていました。「とにかく笑いたいから、落語に行く」という方も多いですし、そのような方には満足できる会だったと思います。

 

その帰り道。太助の脳裏に、ある想いが、ふと浮かんだのです。

 

「ああ、柳家三三が聴きたいなぁ~」

 

リズムの安定感と心地よさが、落語の世界に誘ってくれる

 

三三と書いて「さんざ」です。以前は、マクラで「三三と書いて『さんざ』と読みますが、『みみちゃん』と覚えてくだされば結構です」と笑わせていました。しかし今は、著名な人気落語家となり、そのようなマクラは不要となりました。

 

柳家三三師匠の魅力は、何と言っても、落語のリズムの心地よさです。

 

落語はリズムとメロディーが大変に重要です。これによって、落語家の巧拙(こうせつ)が決まると言っても過言ではありません。音楽と非常によく似ているのですが、乱れることのない安定したリズムが刻まれることが、ベースとなります。

 

下手な素人バンドの演奏を思い浮かべてみてください。まずリズムが安定していません。早くなってしまったり、途切れてしまったりで乱れます。リズムが安定していないと、聴衆は心地よく聞くことができません。

 

落語も同じです。噺の途中でセリフを言い間違えたり、一瞬でも途切れたりすると、このリズムは壊れてしまします。噺家さんは各自のテンポで語りますが、名人・上手と呼ばれる人ほど、このリズムが安定していて心地よいのです。

 

現在、活躍している落語家さんの中で、この「リズムの安定感、心地よさ」で群を抜いているのは、間違いなく柳家三三師匠でしょう。

 

その印象は、例えば和太鼓の演奏で、「トン・トン・トン・トン」と刻まれるリズムのようです。心地よいだけでなく、古典落語の世界にとても合っています。

 

江戸の世界が、聞いている人の脳裏に広がっていく

 

三三師匠のもうひとつの魅力は、語りの聞きやすさです。テンポを重視しすぎるあまり、セリフがはっきりと聞き取れない落語家さんも多いのですが、三三師匠は、口調がはっきりとしていて、ひと言、ひと言が明瞭に聞き取れます。これは聴衆にとって、大変にありがたいことです。職人であろうが、小僧であろうが、登場人物にかかわりなく、すべてのセリフが実に明瞭です。

 

三三師匠は、高座ではニコリともしません。噺の途中で、客いじりや不必要なくすぐりも入れません。落語の世界を、心地よいリズムと語り口で展開していってくれます。

 

師匠である柳家小三治が言うところの「ギャグで笑わせるのではなく、落語本来の持っている面白さを引き出す」ことに、専心しているのでしょう。

 

落語を見たことがない初心者に、太助がまずお勧めする落語家は、柳家三三師匠です。長い噺でも、短い噺でも大丈夫。落語の世界に、心地よく入っていけるはずです。間違いありません。

 

柳家三三(やなぎや・さんざ)

1993年3月     柳家小三治に入門

 

受賞歴

北とぴあ若手落語競演会大賞

平成15年度 にっかん飛切落語会若手落語家大賞

平成16年度 花形演芸大賞銀賞

平成19年度 文化庁芸術祭新人賞

平成27年度(第66回)芸術選奨 文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)

 

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落語家は、メガネをかけてはいけないの? 

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。太助は日常的にメガネをかけています。ひどい近眼で、メガネとは長い、長い付き合い。メガネがないと日常生活はまったく営めません。

 

落語でも、メガネをかけたまま高座に上がっています。メガネを外すと不便ですし、客席の様子を見られないのは、とても残念なのです。「あの人は面白そうに笑ってくれている」とか、「あの人は退屈して、眠ってしまいそうだ」など、お客様の様子を見ながら話すのは、とても楽しいのです。

 

「メガネをかけて高座に上がって、いいのかな?」と、少し気になったことはあります。しかし、春風亭昇太師匠など、メガネをかけているプロの落語家さんもいますし、あまり深くは考えていませんでした。

 

しかし、先日、「千両みかん」という落語を稽古しているとき、指導していただいた師匠に「メガネを外したほうがよいのでは?」と指摘されました。

 

落語家がメガネをかけない、その理由は?

 

古典落語では時代設定の雰囲気を大切にするため、メガネ・腕時計・ピアスなどは極力付けないようにする」と教えていただきました。

 

聴衆の脳裏に、江戸時代の「時間」と「空気」を作り出すため、邪魔になるものは、できる限り除くわけですね。そういえば、メガネをかけて高座にあがる落語家さんは、ほとんど新作落語の方ばかりです(私の好きだった橘屋円蔵は例外のようです)。「新作の闘将」といわれる三遊亭円丈師も古典落語を語るときは、メガネを外します。

 

というわけで「千両みかん」の発表会では、メガネを外して初めて高座に上がったのですが、とても違和感があったのです。自分の顔に……。

 

外して気付いたのですが、メガネは顔の中で、とても大きな存在感があります。特に最近のメガネは、フレームのデザイン性に優れ、カラーのバリエーションも豊かです。

 

周囲の人間より、自分自身が、メガネをかけた顔にいちばん馴染みがあります。このため、外すと、大きな違和感を覚えるのでしょう。

 

また、メガネは七難を隠すではありませんが、確実に「老化現象」を隠してくれます。ご存知のように、目の周囲は、シワ、たるみ、クマ、シミなどが目立つ部分です。フレームの太いメガネは、これらを隠してくれます。メガネのレンズやフレームは硬質で光沢があるため、老化した肌のアクセントにもなります。

 

さらに太助の場合は髪がないため、メガネをかけないと、頭のてっぺんからアゴまでが、1つの大きな卵のようになってしまいます。メガネがあるからこそ、2分割され、丁度よいバランスを保っている気がするのです。

 

こんなことは今まで考えたこともなかったのですが、これも人前で高座に上がるという効用でしょう。

 

なぜシワを取り、メガネをかけ続けるのか

 

そういえば、中高年の芸能人が手術でシワを取り、ツルツルの顔になってテレビに登場し、びっくりすることがあります。あれは、耳の後ろを切開して顔の皮膚を引っ張り、シワを取るのだそうです。人によっては、頭蓋骨の輪郭が浮き出て、かえって不気味になってしまっている芸能人もいます。若々しくなったというより、痛々しさを感じることさえあります。

 

正直言って、高齢の芸能人にシワがあろうが、なかろうが、視聴者はほとんど気にも留めていないでしょう。若くて、きれいな人に目がいっているはずです。

 

ましてや素人の太助が、メガネをかけていようが、かけていまいが、誰も気にしていないし、気付いてさえいないはず。

 

それでも、なぜシワを取り、メガネをかけ、老化を隠そうとするのでしょうか?

 

それは、他人の目というより、自分の意識がそうさせるのでしょう。高座に上がることになったり、久しぶりにテレビに出ることになり、鏡を見て、自分にとって、どうしても許せない「何か」を見つけてしまったのでしょう。自意識のなせる業(わざ)なのです。

 

太助と芸能人を同列で考えること自体、失礼な話しですが、メガネをとった自分の写真を見て、そのような感想がわきました。

 

古典の世界観を守るか、老化を隠すか。とりあえず、しばらくはメガネを外して、高座に上がるつもりです(笑)。

太助セレクト落語 見逃したくない!11月のお勧め落語会(3)

こんにちは、太助です。2017年11月下旬の、太助お勧めの落語会をピックアップしました。ぜひ、参考にしてください! 年末、年始にかけて、落語会も活発に開催されます。人気のある演者が出演する落語会は、発売日に即完売なんてことも、よくあります。本当に、落語ブームなんですね。

 

《噺小屋in池袋》霜月の独り看板 第三夜 立川龍志「子別れ」通し

日時:11月20日(月) 開演:19:00

料金:3,600円

出演:立川龍志

場所東京芸術劇場シアターウェスト(池袋)

問い合せ:03-6909-4101

⇒軽妙ながら、噺の中へとすっと誘う、立川流きってのテクニシャン。CD「私家版 立川龍志」発売記念も兼ねての独演会。「子別れ」の通しをタップリ聞けますよ。

 

桂雀々芸歴40周年「桂はつらいよ 雀々奮闘篇」

 

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日時:11月21日(火) 開演:19:00

料金:3,500円

出演桂雀々桂春蝶桂宮治桂三四郎、鏡味味千代

場所:成城ホール

問い合せ:03-3482-1313

⇒このチラシを見たとき、桂宮治さんが、あまりにタコ社長に似ているので、吹きました。

 

COREDO落語会 昼の部

日時:11月25日(土) 開演:13:30

料金:5,000円

出演立川志らく三遊亭小遊三桃月庵白酒春風亭一之輔

場所日本橋三井ホール三越前

問い合せ:03-6263-0663

⇒人気落語家が一堂に会する日本橋三井ホールで開催される落語会。購入はお早めに!

 

成金で落語に王手!

日時:11月23日(木・祝) 開演:17:00

料金:2,000円

出演柳亭小痴楽、瀧川鯉八、春風亭昇々、神田松之丞

場所:成城ホール

問い合せ:03-3482-1313

⇒「成金」は、落語芸術協会二ツ目11人で編成された、噺家10人と講釈師1人のユニット。上昇気流に乗りつつある4人の元気な高座をぜひ! 金に成れるかな!?

 

秋の花街・浅草 日本の芸を楽しむ

日時:11月26日(日) 開演:13:00/16:30

料金:4,500円

出演

一部

お座敷踊り・芸者遊び 浅草芸者衆

幇間

 二部

講談 神田松之丞

落語 入船亭扇辰

場所:浅草見番

問い合せ:03-3270-4689

⇒浅草見番は、芸者衆と料亭の組合の稽古場です。この見番で行われるイベントは2部構成。一部は浅草芸妓連の踊りと幇間(ほうかん)のコミカルなお座敷芸。二部は入船亭扇辰師の落語と神田松之丞の講談です。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

噺家の魂が震えた名人芸の第1位は!? なんと!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。噺家の魂が震えた名人芸落語案内』(著者・噺家三十人衆、解説・六代目三遊亭円楽)という本を読みました。これは、円楽師がプロデュースする落語祭の出演者・30名に「自分が一番好きな落語」についてアンケートをとり、選ばれた落語について解説したものです。

 

アンケートに回答している落語家は、瀧川鯉昇桂雀々五街道雲助三遊亭兼好林家たい平立川談笑柳家花緑春風亭一之輔など、団体、東西、年齢を問わないメンバーで構成されています。

 

噺家の魂が震えた名人芸の第1位は!?

 

アンケートの集計結果のベスト3は、以下の落語でした。

 

1位:らくだ笑福亭松鶴金原亭馬生 ほか)

2位:鼠穴立川談志三遊亭圓生

3位:猫の災難、百年目(同数票)

 

以下、「火焔太鼓」「掛取り」「笠碁」「金明竹」「芝浜」「中村仲蔵」「野晒し」「花見の仇討」など、52演目が選ばれています。

 

1位が「らくだ」という結果には、驚きました。というのは、「らくだ」は、とても陰鬱で、はっきり言って楽しくない落語だからです。

 

(あらすじ)町内で嫌われている乱暴者・通称「らくだ」が、フグにあたって死んだ。たまたま尋ねた兄貴分が、死骸を前に葬式をどうするか困っていると、そこへ屑屋が通りかかる。呼び止められた屑屋は、こわもての兄貴分に脅かされながら、長屋の住人から、香典や酒、棺桶代わりの樽などを集め回るはめに。酒を出し渋る大家には、らくだの死骸を担いでいき、死体で「かんかんのう」という踊りを見せつけるなど、とんでもない脅し方で集めていく。

 

こうして香典や酒を揃えた屑屋は、兄貴分から酒を勧められ、渋々飲み始めるが、酔うほどに人格が変わっていく。しだいに形勢が逆転し、兄貴分に命令するほどに。二人は、らくだの頭を剃り、樽に詰め、担いで焼き場に向かうのだが、途中で樽の底が抜け、死骸を落としてしまう……。

 

自分の人生で出会った、良い演者の良い高座の記憶

 

解説をしている円楽師も、1位「らくだ」という結果には首をひねったようで、こう分析しています。

 

その演者のその噺を聞いた噺家が、ちょうど行き会った、そのタイミングが重要だと思います。(中略)演者がその全人生の中で、良い演者の良い高座に当たったとしか、分析のしようがない。(p.24)

 

落語家は、持ちネタを演じていても、出来のいいときもあれば、悪いときもある。その出来が最高レベルの瞬間に立ち会えた記憶が、「自分の人生で、行き会った名演」として印象に残っているのではないか、と語っています。なるほど……。

 

アンケートには、「この師匠の、この噺を聞いて、落語家になる決心をした」という回答もあります。落語家さんには、人生を決定づける噺があるのですね。

 

円楽師は、それ以外にも、選ばれた噺を、自分がいつか「演りたい噺」、「演者の個性の魅力」などに分類しています。「らくだ」のような暗くて長い噺も、逆に、いつか演じてみたいと思う落語家さんが多いのかもしれません。

 

三十人の落語家さんのアンケートを読んでいると、「なるほど、この人は、ここが原点なのか」とか「この落語家さんに傾倒していたのか」など、色々な発見がありました。そういう点では、とても興味深い本でした。

 

しかし、円楽師の自慢、自画自賛の多いこと、多いこと。「自分はこの師匠に可愛がられていた」「この落語のサゲ(落ち)は、自分はこんな風に工夫して変えている」「この噺は、(選ばれた師匠より)自分の師匠のほうがいい」「この噺は、誰それに教えてあげた」……。自分で自分の噺を選んでいるのも、この師匠だけ。

 

「(サゲを工夫して、変えて、カッコよくなったけれど)誰も教えてくれとは言わない……」(p.34)。きっと、「あのサゲは俺が教えてやったと」と、一生言われるからじゃないでしょうか(笑)。

 

噺家の魂が震えた名人芸落語案内』

著者・噺家三十人衆、解説・六代目三遊亭円楽

竹書房新書

 

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江戸という都市が持っていた、とてつもないエネルギーと欲望について

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。『江戸の経済事件簿』(赤坂治績・著)という本を読んでいたら興味深い記述があったので紹介します。

 

江戸時代の初期、農業の生産性の向上に合わせて、百姓の経済力が高まりました。必然的に消費も増加したため、商人・職人も潤って大商人も生まれました。また、この当時、豪商の妻女たちによる衣装比べが大流行しました。

 

将軍と衣装比べをした豪商の妻

 

江戸の大商人・石川六兵衛の妻は、江戸には衣装比べで自分に勝る女はいないと考え、文化の先進地である京に向かいます。「京の着倒れ」といわれるほど、京の人は着道楽。受けて立ったのは、京の豪商・那波屋十右衛門の女房。この勝負は、黒羽二重(はぶたえ)に南天の立木を染め付けた着物の石川の女房の「勝ち」となりました。着物の南天の実が、すべて珊瑚の珠(たま)が縫い付けてある豪華なものだったからです。

 

この勝利を収めた石川の女房、次なる勝負の相手と定めたのが、なんと将軍・徳川綱吉。こうなると、もう意味が分からない……。

 

これに綱吉は「身分をわきまえず、不埒(ふらち)千万」と激怒。結果、石川六兵衛夫妻は全財産没収されたうえ、江戸十里四方から追放となるのです(1681年)。

 

規制されても、禁止されてもオシャレを求める江戸庶民

 

江戸幕府は、この事件以前よりたびたび奢侈(贅沢)禁止令を出し、着物の材料や色などを規制していたそうです。

 

しかし、庶民はしたたかで、おとなしく幕府の命令に従っていなかった。華美を禁じる法令の抜け道を探し出し、それに抵触しない染色法を工夫したのである。 「江戸の経済事件簿」p.121

 

そこまでしても、派手で、豪華で、オシャレな着物を着たかったのです。江戸という都市がまだ新しく、庶民の経済力もどんどん上がり、そこにはすさまじいエネルギーが渦巻いていたのだと思います

 

ニューヨーク、東京、上海。都市の持つエネルギーを見に行く

 

この本を読んでいて、思い出したことがあります。私は20代のときに、追及したいテーマを持っていました。それは「都市は独自のエネルギーを持っている。世界中の都市のエネルギーを、自分の目で確かめに行く」というものでした。もう30年くらい前の話しですが(笑)。

 

いろいろな都市をまわっていたのですが、太助が当時、いちばん好きだった都市はニューヨークです。ミュージカルが好きだったこともあり、ニューヨークのブロードウェイやオフ・ブロードウェイで観劇するのが大きな楽しみでした。

 

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ニューヨーク・マンハッタン(イメージ写真)

 

ニューヨークには何回か行ったのですが、そこは、しだいに退屈な、エネルギーが感じられない都市に変わっていきました。たくさん居たホームレスが追い払われ、街がきれいになるのと反比例するかのように、退屈なボンヤリしたような都市になっていきました。

 

ニューヨークの魅力は、清濁併せ持つ混沌とした空気でした。ブロードウェイのきらびやかな劇場のすぐ先には、小汚いアダルト映画館が並んでいます。流行のファッションに身を包んだニューヨーカーの隣には、ホームレスがへたり込んでいます。輝くようなブランドショップが並ぶ通りに、小便臭い廃墟が灰色の口を開けています。華やかさと危険と退廃が隣りあう、ドキドキするような街でした。

 

しかし、浄化され、成熟し、しだいにくたびれた退屈な街に変貌していきました。東京も同じような過程をたどりました。

 

上海で見た、すさまじい都市のエネルギー

 

その頃、中国の上海にも足を運びました。今ではファッショナブルな観光地になっている南京東路も、古臭く汚い店が立ち並ぶ大きな商店街のようなものでした。たくさん店舗が並んでいますが、よく見ると物の数も種類も極めて少ないのです。規制もあったでしょうし、物自体が不足していたのだと思います。

 

ただ、集まっている人の数と、その人たちの放出するすさまじいエネルギーには、本当に圧倒されました。中国全土から観光客が集まっているのでしょう。みんな目をギラギラさせながら、同じ道を行ったり、来たりしています。

 

すごい勢いで、グルグルと歩き回る人たちを見ていて、私はなぜか『ちびくろ・さんぼ』という童話の1シーンを思い浮かべました。虎たちが互いの尾をくわえ、木の周りをグルグル回っているとバターになってしまうという、あのシーンです。

 

上海に集まった人たちは、すさまじいエネルギーでグルグルと巡り、何か全く別のものになってしまいそうでした。その時、太助は感じたのです。

 

「ニューヨークや東京は終わり、中国の時代が来るだろう」と。

 

初期の江戸には、すさまじいエネルギーと欲望が渦巻いて、あふれ出していたのだと思います。金に、物に。こうしたエネルギーを背景に、歌舞伎や落語の傑作が生まれていきます。落語の登場人物たちは、欲望、丸出しです。酒に博打、女、金。そして治世者である武士に対しても、「何するものぞ」という心意気があります。

 

将軍に衣装比べを仕掛けた豪商の女房も、抑えようのないエネルギーと反抗心を持っていたのかもしれません。

 

江戸という都市の持っていたエネルギーを考えさせてくれる1冊でした。

 

『江戸の経済事件簿 地獄の沙汰も金次第』

赤坂治績・著

集英社新書

 

落語をやって初めて分かった! 男着物の魅力と面白さ(2)

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こんにちはアマチュア落語家の太助です。落語を始めるようになって、必要になったのが着物です。

 

これまでの人生で、私は着物を着たことなど一度もありません。そこで着物販売をしている母親に頼んで、大変に高価な着物を作ってもらいました。ところが、季節が温かくなり、演目が変わったもので、少し薄手の着物が欲しくなり、2着目を購入することに。

 

このとき、着物屋さんを何件か歩いたことで、着物選びで、いくつかのことが分かりました。

 

・着物は、価格差がかなりある。素材も色々。

・実際に着てみると、全く似合わないものがある。笑点メンバーが着ているような単色で派手な着物もあったが、私には全然、似合わなかった。

 

容姿、肌の色合い、体格など人それぞれなので、着物の合う・合わないは、実際に着てみないと分からない。これが分かっただけでも、大きな発見でした。

 

ただ、配色を含めたコーディネートを考えることは、面倒なことではなく、むしろ楽しいものでした。私はファッションやオシャレに全く関心・興味のない人間ですが、オシャレが好きな人の気持ちが少し分かるような気がしました。

 

こうして、私の男着物放浪記が、始まったのでした。

 

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裏地のない単衣の着物を買わなくっちゃ!

 

春に2着目を購入したのですが、次の発表会は夏。私は「お菊の皿」という落語を演じるつもりでした。持っている着物は、どちらも袷(あわせ)と呼ばれる裏地が付いたものです。聞くところによると、夏は裏地のない薄手の単衣(ひとえ)が涼しくてよいとのこと。また、素材もポリエステルだったら、軽いし、洗濯もできるらしいのです。

 

太助は、ひどい汗かきなので、「単衣(ひとえ)の着物を買わなくっちゃ!」と思いました。それに幽霊の出てくる夏の噺なので、少し色の薄い着物が欲しくなったのです。

 

そこで前回、購入した和服の安売りの店へ再び行くことに。ここでポリエステル生地の薄い緑の着物と、それに合わせて紺色の帯を買いました。着物が11,000円、帯が3,500円くらいでした。

 

さて、これを着て発表会に参加したのですが、薄くて軽く、しかも洗えるので、本当に便利なのです。汗をかいても、シワになっても心配無用! 

 

ただし、着心地は全然違います。母親に作ってもらった高価な着物は、生地がしっかりしているためシワがよらず、着崩れしません。帯も締めていると、シュッシュッと気持ちよい音がして、キュッと締まります。

 

ポリエステルの着物は、着た感じがまさにテロテロなのです。着方が下手というのもあるのですが、帯を締めるとシワができてしまうし、背中もきれいに整いません。

 

「高い着物は、高いなりの価値があるのだな」と実感しました。

 

プロの落語家の和服も、人それぞれ

 

着物を着るようになってから、落語家さんの着物が気になるようになりました。当たり前ですが、前座さんは本当に安い着物です。お金もなく、下働きに追われる前座さんにとって、着物はまさに作業着という感じです。

 

真打の落語家さんでも、人によって、着ているものや、着こなしにかなりの差があることに気付きました。トップクラスの噺家でも、あきらかに安物で、着こなしもいまいちという人もいれば、本当に素敵な着物を「粋」に着こなしている方もいます。

 

太助が、着物も着こなしも素敵だな、と思う落語家さんは、入船亭扇遊金原亭馬生林家彦いち師匠です。

 

彦いち師匠が、銀鼠(ぎんねず)の着物に、ピンクの襟の襦袢を合わせた着こなしで登場したときは、その粋な佇まいに感服しました。

 

着物を着るようになって、人の着物に興味が湧くようになり、世界が1つ広がった気がします。ちなみに写真は、2017年8月の発表会での太助の着物姿です。夏なのでポリエステルの着物です。着こなしは、相変わらず下手ですが、ご勘弁ください。

 

このときの演題は「千両みかん」。動画もありますので、よろしければ素人落語をご笑覧ください。

 

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太助セレクト落語 見逃したくない!11月のお勧め落語会(2)

こんにちは、太助です。2017年11月中旬の、太助お勧めの落語会をピックアップしました。ぜひ、参考にしてください! 年末、年始にかけて、落語会も活発に開催されます。人気のある落語会は、来年のチケットも、今頃から発売開始されます。要チェックですよ!

 

湯島de落語「入船亭扇辰ひとり会」

日時:11月13日(月) 開演:18:45

料金:3,200円(前売り)

出演:入船亭扇辰(いりふねてい・せんたつ)

場所湯島天神参集殿

問い合せ:090-5785-3369

チケット予約:ぎやまん寄席
https://www.aikogiyaman.com/reservation.html

⇒持ちネタのレパートリーの広さと確かな技術。硬軟の両方を話せる落語家といえば入船亭扇辰師匠。湯島天神での独演会です。

 

なかの坐 こみち堂「第0回 柳亭こみち独演会」

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日時:11月15日(水) 開演:19:00

料金:3,000円

出演:柳亭こみち

場所なかの芸能小劇場

問い合せ:03-5216-9235

⇒女性落語家として真打昇進を果たした柳亭こみち師匠の独演会。女性落語家を聞いてみたいという女性も増えてきています。明るくて、サラリとした芸風のこみち師匠は、お勧めです。

 

談志まつり「立川談志七回忌特別公演」

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日時:11月20日(月) 開演:17:00

出演立川談四楼立川志らく立川談笑爆笑問題立川談慶立川キウイ立川談吉

 

日時:11月21日(火) 開演:12:00

出演立川志の輔、立川談修、立川龍志、立川ぜん馬、立川生志、立川左談次、立川平林、松元ヒロ

 

日時:11月21日(火) 開演:17:00

出演:立川里う馬、テツandトモ立川談春立川談之助、立川雲水、立川志遊、立川小談次

 

料金:4,500円

場所:よみうりホール(有楽町)

問い合せ:03-5785-0380

⇒毎年行われる立川談志追悼興行。立川一門が勢ぞろいします。

 

湯島de落語「柳家三三ひとり会」

日時:11月21日(火) 開演:18:45

料金:3,400円(前売り)

出演柳家三三

場所湯島天神参集殿

問い合せ:090-5785-3369

チケット予約:ぎやまん寄席
https://www.aikogiyaman.com/reservation.html

⇒落語が初めての人に、落語家をお勧めするなら、やっぱり柳家三三師匠。聞きやすい、分かりやすい、間違いなし。

 

*情報内容は、変更等の可能性があります。購入前に確認をお願いします。

 

落語の登場人物:与太郎はどこに消えたのか?

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語によく出てくる登場人物は、大体決まっています。長屋の八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、おかみさんと子供(金ぼう、亀という名が多い)、商家の大旦那、若旦那、番頭さん。廓噺(くるわばなし)の花魁や幇間。その中でも代表格は、何といっても与太郎でしょう。

 

落語には、長屋噺、人情噺、酒呑(さけのみ)噺などいろいろなジャンルがありますが、与太郎という分類があるほど、その数は多いのです(今回、調べて分かったのですが、人のよい甚兵衛さんが出てくる噺も、与太郎噺に分類されるようです)。

 

落語に登場する与太郎は、こんな人

 

1)与太郎は、少々頭のめぐりが悪いので、何をしても失敗ばかりしています。いつもボンヤリしていて、いろいろなことに焦らず、世渡りもうまくできません。

 

2)親や親戚のおじさん、長屋の連中など周囲の人間は、与太郎のあまりの呑気さや愚かさに、あきれたり、いら立ったりしています。

 

3)しかし与太郎には、子供がそのまま大人になったような純真さがあります。

 

4)また、頭は弱いのですが、職人としての腕は良かったり、ひとつのことに熱中するという部分では人を凌いだりすることもあります。

 

5)このため、「馬鹿だ」「愚図だ」と言われながらも、誰かが与太郎の世話を焼いたり、面倒をみたりします。例えば、しっかり者の女房や世話好きの親戚のおじさんが、あれこれと叱りつけたり、仕事の世話をします。

 

結局のところ、与太郎は長屋の連中など周囲の人間から、とても愛され、温かく見守られているのです。

 

与太郎の登場する代表的な落語

 

与太郎噺は数多くありますが、代表的なものをいくつか紹介しましょう。

 

かぼちゃ屋

 

二十歳になってもブラブラしている与太郎。八百屋の叔父さんの世話でカボチャの行商を始めることになった。元値を教えてもらい、天秤棒で担いで売り始めたのだが、どんな売り声を出せばよいのか、どこで売ればいいのか、さっぱり分からない。路地裏の長屋に入ってきて、おかしなことを言いながら売り歩いていると、気のいい江戸っ子の職人が面白がって、残らずカボチャを売ってくれる。上手にカボチャを売る職人と、そばでボンヤリしている与太郎の対比が面白い!

 

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道具屋

 

頭が弱く、定職を持たない与太郎に、伯父さんが副業の道具屋をやらしてみようと思い立つ。道端に雑貨を広げて売る、露天の道具屋だ。ただし、商うものは、火事場で拾ってきた錆びたノコギリや首の抜けるお雛さま、すぐに破けてしまう「もも引き」など、ガラクタばかり。与太郎と客のとんちんかんなやり取りが楽しい、与太郎噺の定番。

 

孝行糖(こうこうとう)

 

ボンヤリしているが親孝行な与太郎に、奉行所から報奨金が出た。長屋の連中も大喜び。しかし、与太郎が無駄遣いをしてはいけないので、みんなで金の有効な使い道をあれこれと考える。その結果、親孝行の「孝行糖」という飴を売らせることに決定。派手な衣装で鐘、太鼓を持った与太郎が、面白い口上で売り始めると、この飴が大人気に!

 

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錦の袈裟(にしきのけさ)

 

町内の男たちが、趣向を凝らして吉原に繰り込もうとアレコレ相談している。隣町の連中が吉原で、揃いの長襦袢でかっぽれを踊って大受けし、「こんな派手な真似はできねえだろう」と、自分たちを馬鹿にしたのだ。見返してやろうと、いろいろ案を出し合って、揃いの錦の褌(ふんどし)で繰り出そうということになった。与太郎は女房に泣きついて相談し、寺の和尚から錦の袈裟を借りて、褌代わりにし、一緒に繰り込むのだが……。与太郎にかみさんがいて、吉原で、もててしまうという珍しい噺。

 

愚図で、ボンヤリしていて、しかし、みんなから愛されている与太郎は、落語の重要な登場人物です。映画『男はつらいよ』は、登場人物やストーリーが落語の影響を受けていることは、よく知られています。主人公の寅さんは、おっちょこちょいで、惚れやすく、騒動を引き起こしてばかりいます。しかし、周囲から愛され、温かく見守られています。

 

自分の周囲で、「与太郎のような、ボンヤリしているけれど、みんなから愛されるキャラはいるかな?」と考えてみたのですが、ちょっと思い当りませんでした。

 

与太郎や寅さんのような「愛すべき馬鹿」は、どこへ行ってしまったのでしょうか? それとも、馬鹿を愛する人たちや社会が、なくなってしまったのでしょうか?

 

落語を聞くと覚える、ある種の懐かしさは、この辺りにあるのかもしれません。

 

与太郎噺をいろいろ聞いてみて、落語をお楽しみください!

 

参考文献:『落語ハンドブック』第3版 (三省堂

 

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無理やりにでも笑顔を作ってみよう~「笑う力」を身につけたい (1)

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こんにちは、太助です。この連載のタイトルは、「笑う力を身につけたい」です。落語を聞きに行くと、会場全体が笑いに包まれることがあります。落語家さんに観客を「笑わせる力」があり、観客に噺を楽しむ「笑う力」があって初めて、笑いが起こるのだと思います。観客がさめきっていて、斜に構えていたら、どんな演者でも笑わせることはできないでしょう。

 

なぜ、「笑う力」を身につけたいのか? 

 

いろいろなことを楽しみ、ワハハハと笑えるようになると、毎日が明るく、楽しくなります。明るく、楽しそうに生きている人には、人が寄ってきます。人が寄ってくると、仕事やチャンスも集まってきます。

 

しかし、いろいろなことを楽しみ、ワハハハと笑うことは、実は簡単ではありません。笑うための力が必要なのです。「笑う力」を身につける方法を、何回かに分けて、考えていきたいと思います。今回は第1回です。

 

無理やりにでも笑顔を作ってみよう

 

最初にお勧めしたいのは、まず笑顔を作ることです。別に面白いことがなくても、笑顔を作ってみてください。

 

1)笑顔を作るには、口を「アイウエオ」の「イ」の形にします。この時、口を横に開くことを意識します。この状態で「イー」と声に出してみてください。

 

2)次に、口を横に開いている状態で、口角(唇の合わさった部分、口の両端)を上に上げます。この時、意識的に歯を見せるようにしてください。

 

口を「イ」のかたちで横に開いて、口の両端を上げ、歯を見せる、です。笑顔になります。頬の筋肉が持ち上げられるので、目元も笑みを浮かべたようになります。

 

実際にやってみると分かるのですが、この表情を作るのは大変です。頬の筋肉を動かす必要があるからです。普段、あまり笑わない人は、頬の筋肉が固くなっているので、この表情をしていると、非常に疲れるはずです(ほとんどの方がそうだと思います)。そこで、笑顔を作るための練習が必要です。

 

3)毎日、数分間でもよいから時間を決め、この笑顔を作ってみる。

 

意識的にこの表情を作っていると、最初はぎごちないのですが、そのうち自然に笑顔を浮かべられるようになってきます。スーツを着なれていない新入社員が、毎日着ているうちに、自然に着こなせるようになるのと似ています。自分に、笑顔がなじんでくるのですね。

 

笑顔を作ることは、笑いへのスタートポジション

 

このようにして笑顔を作ることは、「笑う」ためのスタートポジションを作るようなものだと思います。徒競走で、「ヨーイ、ドン」の前に、走る構えをしますよね。あれと同じです。いつも笑顔にしていると、すぐに笑えるようになるのです。そして、しだいに笑顔が板につき、素敵な笑顔になってきます。

 

最初は、毎朝、洗顔後の1分間など、短時間で良いので始めましょう。それから、意識的に生活の中で、笑顔を浮かべるようにしてみてください。特に人と話すときは大切です。もちろん落語会に行くときもそうですよ。観客がニコニコしていると、落語家さんものってきます!

 

「あの人は、いつもニコニコしているね」と言われるようになったら、しめたもの。人が寄ってくるようになるのです。

 

笑顔を作ることは、自分の努力で身につけることができる「笑う力」です。ぜひ、試してみてください!

 

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頭にきて、ブチ切れそうなときにお勧めの落語って、あるんかい!!

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。毎日の生活で、頭にきて、切れそうになるときって、ありますよね? ネチネチと嫌味を繰り返す上司や、ワガママばかり言う旦那に、落語のように威勢よく啖呵を切りたくなるときって、ありませんか。

 

「てやんでい! うるせえな、こんちくしょう!! 黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって!」

 

でも、それをグッとこらえなくちゃいけないのが、人生の辛いところ。だったら、落語を聞いてスッキリしましょう。というわけで、頭にきて、ブチ切れそうなときにお勧めの落語を紹介します。

 

大工調べ

 

与太郎のところへ、仕事の知らせに来た大工の棟梁。しかし、与太郎は家賃を溜めてしまい、その抵当に道具箱を取られてしまったという。棟梁は自分の持ち合わせを渡し、与太郎に取り返しに行かせるのだが、余計にこじらせてしまう。仕方なく、棟梁が大家のところへ出向くのだが、意固地になった大家は道具箱を返そうとしない。我慢を重ねた棟梁が、ついに威勢のいい啖呵を切る。古今亭志ん朝の啖呵は、まさに絶品。聞くべし。

 

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たがや

 

今日は、花火が打ち上げられる両国の川開き。両国橋は見物客で大にぎわい。そこへ馬に乗った旗本の一行が通りかかる。花火見物で大混雑の橋の上を、「寄れいっ、寄れいっ!」とかき分けるように渡り始めた。そのとき反対から渡ってきたのが「たが屋」さん。当時の桶や樽は、青竹のたがで外側を締め、作られていた。たがを丸めて担いでいたのだが、押されて落とした拍子に、馬上の殿様に当たってしまったから大変なことに。何度もお詫びをするが、殿様は許さない。たが家の我慢も限界に。「斬れるもんなら、斬ってみろい!」

 

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三方一両損

 

左官職人の金太郎が財布を拾い、中の書付から大工・吉五郎のものだと分かったので、届けにいく。ところが吉五郎は、「俺の懐から出てった金はいらない。お前にくれてやる」と言って、受け取らない。金太郎も「そんな金は受け取れねえ」と言い合いになり、ついには大げんかに。宵越しの銭は持たないという職人たちの、威勢のよい啖呵の応酬が始まる。仲裁に入った大家にも、どさくさに紛れて啖呵をきるところが、なんとも可笑しい。

 

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かんにん袋

 

長屋住まいの大工の熊の夫婦は、年がら年中、喧嘩ばかりしている。見かねた出入りの旦那が「堪忍袋を作って、不満があったら、その袋の中に不満をぶちまけるようにしろ」と教えてくれる。そこで熊のおかみさんが堪忍袋を作り、二人とも不満があったらこの袋に怒鳴るようになった。すると、あら不思議。二人とも全く喧嘩をしなくなった。この噂を聞いた連中が、「自分にも堪忍袋を使わせろ」と押し寄せるのだが………。

 

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ストレスの多い毎日です。こんな堪忍袋があったら、とても便利なのですが。皆さん、笑いを忘れずに過ごしましょう。

 

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山本一力「落語小説集 芝浜」で、落語と小説の違いを味わう

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こんにちは、アマチュア落語家の太助です。落語関連の本を色々と紹介していますが、今回のお勧めは、山本一力(やまもと・いちりき)の「落語小説集 芝浜」です。

 

山本一力さんといえば、「あかね雲」で直木賞を受賞し、「損料屋喜八郎始末控え」や「ジョン・マン」シリーズなど、多くの作品を精力的に発表している時代小説の作家です。

 

落語の背景にある時代や登場人物の履歴が補足される

 

「落語小説集 芝浜」は、タイトルの通り、落語を題材に描いた短編集です。収録されている作品は、「芝浜」「井戸の茶碗」「百年目」「抜け雀」「中村仲蔵」の5編。

 

この小説の一番の大きな特徴は、落語の基本的なストーリー、基本的な登場人物、落ちには手を加えていないことです。

 

では、どの部分が創作かというと、時代設定、登場人物の履歴、舞台となる町や店の情報、各シーンの情景描写などが、大胆に加筆されています。

 

落語で時代設定となると、「江戸の時代の噺でございます」くらいの前振りで噺に入ってしまうことが、よくあります。ご存知のように江戸時代は、260年以上もの長きにわたります。この長い期間で、社会通念や風俗、習慣、流行などは変化していきました。特に変わったのが、商業の発達です。商人の台頭と貨幣経済の進展は、人々の生活や考え方にも大きな影響を与えました。

 

この小説では、各編にきっちりと時期が設定してあります。

 

「芝浜」は、腕はいいが酒に溺れて働かなくなった魚屋・勝治郎が、妻にせっつかれて、芝浜市場に仕入れに出かける早朝から、噺は始まります。この小説では、日時を嘉永4年の12月26日未明に設定しています。嘉永6年にはペリーが浦賀に来航していますので、欧米列強が本格的に日本への進出を始めた慌ただしい時期ですね。

 

勝治郎は魚屋といっても店を持っているわけではなく、天秤棒に魚を入れた盤台(はんだい)を下げて売り歩く、「担ぎ売り」です。当時、江戸で一番大きな市場は、日本橋魚河岸。なぜ勝治郎が日本橋ではなく、小さな芝浜の市場まで出かけていたのかについても、小説では説明されています。

 

日本橋には江戸の漁師のみならず、房州や相州からも納めにやってきた。旬の鮮魚なら、地元でさばく倍の値段で買い取ってくれるからだ。しかし、夜通し走ってきた漁船の魚は、穫れたてだと漁師が言っても、すでに半日以上の時が過ぎていた。(中略)

 

芝浜市場に納めるのは、近所の浜の漁師に限られていた。(中略)うまい魚は芝浜に限るという、通人も少なくなかった。 p.13 「芝浜」

 

 

名の通った老舗料亭や鮮魚屋から先に仕入れ日本橋よりも、芝浜市場のほうが、担ぎ売りながら、優れた魚の目利きである勝治郎にとっては、都合が良かったのですね。

 

このように、落語の背景にある情報をいろいろと補足してくれるので、理解が深まる部分が数多くあります。

 

そして山本一力の小説の魅力といえば、情景描写ですよね。

 

時間を間違えて、夜明け前に芝浜に来てしまった勝治郎は、浜で夜が明ける様子を見ています。かつて桂三木助(三代目)は、こんなふうに夜明けの空を表現しました。

 

「いやー、いい色だなあ。よく空色ってえと青い色のことをいうけれど、いや朝のこの日の出の時には空色ったって一色だけじゃねえや。五色の色だ。小判みてえな色をしているところがあると思うと、白っぽいところがあり、青っぽいところがあり、どす黒いところがあり……」

 

山本版「芝浜」では、こんな描写になります。

 

夜と朝とが入れ替わるとき、海と空は互いに色味を取り替えた。

暗かった空は海の蒼さをもらい、代わりに藍よりも深かった青を海面に下げ渡した。

東の彼方から昇る朝日は空と海のやり取りを了としたかのように、橙色に輝く光の帯を夜明けの海に流した。       p.17「芝浜」

 

 

このように時代背景、補足情報、情景などがきめ細かく描かれているので、ある意味、勉強にもなり、味わいも深まります。

 

落語と小説の違いを味わってみるのも面白い

 

しかし、太助は、この落語小説集にある違和感を覚えました。

 

どの登場人物もとても立派なのです。芝浜の魚屋は仕事もしていない飲んだくれですが、仕事に対しては信念と力量を持っているとても立派な人間です。善人ばかり出てくる「井戸の茶碗」や希代の名優「中村仲蔵」はもちろん、普段堅物ながら隠れて芸者遊びをしている「百年目」の番頭も立派な人。宿代を踏み倒して、雀の絵を描いて去っていく「抜け雀」の絵師も優れた人物。

 

登場人物が全員、極めて立派なのです。「ダメに見えても、実は立派」という人物ばかりです。

 

落語は、酒・女・博打が大好きで、真面目に働かない、いわばダメ人間のオンパレード。しかし、それを良しとして、楽しみます。

 

また、この小説には、ウルっとくる泣けるようなシーンはたくさんありますが、「笑い」はまったくありません。

 

いわゆる落語的な世界を期待して読むと、違和感を覚えるかもしれません。

 

当たり前のことですが、この本は、「落語」ではなく、山本一力の「小説」なのです。

 

そこを踏まえたうえで読めば、名作落語の時代や情景などへの理解が深まるだけでなく、落語と小説の違いを味わえるという意味でも面白い本だと思います。

 

「落語小説集 芝浜」

(著者)山本一力

小学館

落語初心者に、寄席をお勧めしない4つの理由

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こんにちは、太助です。落語を実際に見たことがない人から、「何か見たいので教えてほしい」と言われることがあります。これは結構、悩みます。

 

というのは、最初の印象でつまらなく感じると、落語全体が「つまらないもの」に思えてしまうからです。海外旅行も同様ですね。その国で出会った人が親切であれば「なんて親切な国だろう」と思えますし、冷たくされると「あの国は、冷たい国だ」という印象が残ってしまいます。ファーストインプレッションは、やはり重要です。

 

落語初心者の方に寄席に行くことを勧める人がいますが、太助はお勧めしません。今回は、この理由についてお話しします。

 

とても長い上演時間

 

寄席は昼と夜、1日2回上演されます。この各回の上演時間は、4時間から4時間半にもなります。プログラムは落語だけでなく、漫才や紙切りなども入りますが、およそ12人~18人の演者が登場します。とにかく長時間で、たくさんの演者が出てくるのです。

 

寄席は基本的に出入り自由です。いつ入場しても、途中で帰っても構いません(噺の途中で帰るのは失礼ですが)。昼の部が4時間半のプログラムであっても、最初から最後まで聞き続ける必要はないのです。

 

プロの噺であっても、映画と同じで2時間くらいが集中力の限界です。しかし初めての方は、最初から最後まで、一生懸命に聞き続けてしまいます。結果、終演後にとんでもなく疲れてしまうのです。

 

つまらない落語家さんも多い

 

プロでも、失礼ながら、つまらない落語家さんはたくさんいます。寄席は通常、月3回のプログラムが組まれ、興行が行われます。10日間ずつ異なるチームが上演しているのですが、日によっては、メンバーの大半が面白くないときもあります。

 

また、開演して最初の時間帯は、前座や経験の少ない落語家さんが多く登場します。当然、技術レベルも低く、なかなか笑えません。

 

4時間もの長時間、面白くない落語家の噺を延々と聞き続ける、というケースもあるのです。このような席に遭遇してしまうと、「落語って面白くない」と思ってしまうでしょう。

 

落語家の持ち時間が少なく、小噺が多い

 

 

寄席は出演者が多いのが特徴です。これは寄席の数が減ってしまったことにも関係があります(東京には現在、4か所)。落語家の数に比べて、働ける場所が少なすぎるのです。そこで、1人の持ち時間を短くしても、なるべく多くの落語家を高座に上げる傾向があります。

 

このため、1人の落語家の持ち時間は少なく、通常15分程度。興行の最後に出てくる主任(トリとも呼ばれる)で20分程度です。太助も落語を始めて分かったのですが、15分だと長い噺は不可能です。このため、短い小噺(こばなし)が中心になります。小噺は登場人物が少なく、場面転換もあまりない短い落語です。

 

長い噺は、登場人物や場面転換も多く、聞きごたえがあります(落語家の技量が必要ですが)。小噺にもおもしろい落語は多いのですが、そればかりが続くと飽きてしまします。

 

また、落語は、マクラ(導入部の話し)と本編で構成されます。しかし、持ち時間が少ないため、マクラをカットしたり、マクラだけ話して下りてしまう落語家さんもいます。人気者が出てきたと思ったら、楽屋噺を軽くして終わり、というケースもあり、ガッカリします。

 

それほど真剣に聞いていない客も多い

 

ホール落語の場合、観客はお目当ての落語家の噺を聴くために、前売り券を買い、足を運んでいます。観客は、期待を抱き、「楽しもう・笑おう」という姿勢で会場に集まっています。

 

対して寄席の観客は色々です。お目当ての落語家を見に来る人もいますが、暇つぶしに来ている人や観光バスのツアーで来ている人など様々です。

 

寄席はそもそも「落語鑑賞の場」というより、暇つぶしの場所として始まっているので、それで構わないのですが、やはり落語家さんの緊張感や「やる気」には差があると思います。

 

残念ながら明らかに手を抜いている落語家や、寄席ではストーリーが複雑な噺は全くしない落語家さんもいます。

 

まずはホール落語でお気に入りの落語家さんを見つけよう

 

もちろん寄席には、寄席の良さがあります。「落語を聞く!」と身構えず、緊張感のあまりない、ぬるーい空気に浸ることで、のんびりとした時間を過ごすことができます。それは、とても良いストレス解消になるかもしれません。また、数多くの演者が出るので、新たにお気に入りの落語家さんを見つけられる可能性もあります。

 

ただ、落語初心者の場合は、まずホール落語でお気に入りの落語家さんを何人か見つけて、その落語家さんの出る寄席のプログラムに行くかたちで、寄席デビューするのが間違いないと思います。

 

太助も「お勧め落語会」の記事をアップしているので、ぜひ参考にしてくださいね!